「通帳を見せてもらえない」「実家の名義がどうなっているか分からない」。相続の話し合いでこうした状態が続くと、隠されているのではという疑いが出てきます。逆に、親の口座からお金を出していた側が、身に覚えのないまま疑われることもあります。
この記事では、どこからが法律上の問題になり、どこまでは説明すれば済む話なのかを線引きし、疑ったとき・疑われたときの調べ方と残し方を整理します。
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疑われない形で、次の代に渡しておきたい
ご家族の人数と、だいたいの財産額を選ぶだけです。家族の間で揉める芽がどこにあるか、手当ての順番で見えます。
先に結論:どこからが「違法」になるのか
これは「アウト」
相続税の申告で財産を故意に隠す
本税に加えて重加算税35〜40%+延滞税。悪質なら刑事罰の対象。
遺言書を隠す・捨てる・書き換える
民法891条の相続欠格。相続権そのものを失います。
他の相続人に黙って預金を引き出して使う
不当利得の返還や損害賠償を求められることがあります。
これは違法ではない(説明は要る)
生前に贈与を受けていた
違法ではありません。ただし特別受益として持ち戻しの対象になることがあります。
親の口座から生活費や入院費を出していた
使い道を説明できれば問題になりません。領収書と出金メモを残しておきます。
財産の全体を把握できていない
「隠した」ことにはなりません。残高証明書や名寄帳で後から確認できます。
重加算税の割合は過少申告に代えて35%、無申告に代えて40%(2026年8月時点)。個別の課税判断は税務署・税理士にご確認ください。
境目は「わざと隠したか」と「説明できるか」の2点です。把握していなかっただけなら後から申告をやり直せます。反対に、遺言書に手を付けた場合は相続権を失うところまで一気に進みます。まずは自分の行為がどちらに当たるかを上の表で確かめてください。
財産隠しが「罪」になる仕組み
「財産隠し」という名前の罪はありません。責任が生じるのは、次の3つの入口のどれかに当てはまったときです。
- 税務の入口/相続税の申告で財産を意図的に除外した。仮装・隠蔽と判断されると重加算税が上乗せされ、悪質な場合は相続税法違反として刑事責任を問われます。
- 遺言書の入口/遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した。民法891条の相続欠格にあたり、その人は相続人ではなくなります。
- 使い込みの入口/他の相続人に無断で預金を引き出して自分のために使った。不当利得の返還や損害賠償の対象になります。
⚠️ 一番重いのは遺言書に手を付けること
税務の問題はお金で精算できますが、遺言書の隠匿は相続権そのものを失う結果につながります。見つけた遺言書は、封がしてあれば開けずに、家庭裁判所の検認(法務局の保管制度を使った自筆証書遺言と公正証書遺言は検認不要)へ進めてください。
よくある「隠し方」の代表例
疑いが持ち上がる場面は、だいたい次の3つに集まります。いずれも、相続人の間で財産の一覧が共有されていないときに起きます。
財産隠しの代表的な手口
銀行口座の未申告
遺産である預金口座の存在を申告しない
不動産の隠匿
相続財産である不動産の存在を隠す
保険契約を伝えない
受取人だけが知っている契約を他の相続人に伝えない
▶ いずれも、次の章の方法で相続人が単独で調べられます。
隠されているかも、と思ったときの調べ方
相続人は、他の相続人の同意がなくても単独で財産を調べられます。「見せてくれない」で止まる必要はありません。調べる先は財産の種類ごとに決まっています。
預貯金
各金融機関に残高証明書と取引履歴を請求。相続人1人でも請求できます。
不動産
市区町村の資産税担当で名寄帳を取得。その市区町村内の所有不動産が一覧で出ます。
生命保険
生命保険協会の契約照会制度で、加盟各社への契約の有無をまとめて照会できます。
名寄帳の手数料は市区町村により異なります。生命保険契約照会制度の利用料は1件3,000円(2026年8月時点)。
それでも出てこない、または使い込みが疑われる場合は、家庭裁判所の遺産分割調停の中で開示を求めるのが次の一手です。調停では裁判所が資料の提出を促すため、当事者だけで押し問答を続けるより早く進みます。
今日の一歩:残高証明書と名寄帳を請求する
預貯金(金融機関へ)
窓口は口座のある支店、または相続手続きの専用受付センターです。持ち物は、亡くなった方が亡くなったことと自分が相続人であることが分かる戸籍(または法定相続情報一覧図)/ご自身の本人確認書類/実印と印鑑証明書。細かい書式は金融機関ごとに違うため、行く前に電話で確認してください。
窓口では、「相続人として、被相続人◯◯名義の残高証明書と、死亡日から遡った取引履歴を請求します」と伝えます。取引履歴は期間を指定して請求します。何年分まで遡れるかは金融機関により異なりますが、10年程度としているところが多くあります。
断られたときの次の一手:「他の相続人全員の同意が必要」と言われることがあります。残高証明書と取引履歴の開示は、共同相続人の1人からでも請求できるのが原則です。支店の判断で止まっている様子なら、相続手続きの担当部署へ取り次いでもらってください。
不動産(市区町村へ)
窓口は市区町村の資産税課(固定資産税課など、名称は自治体により異なります)。持ち物は預貯金と同じ組み合わせです。名寄帳で分かるのはその市区町村内にある不動産だけなので、実家以外に土地を持っていそうな心当たりがあれば、その市区町村にも請求します。郵送で請求できる自治体が多く、手数料は自治体により異なります。
生命保険(生命保険協会へ)
契約照会制度を使うと、加盟している各社に契約の有無をまとめて照会できます。オンラインまたは郵送で申請でき、利用料は1件3,000円です(2026年8月時点)。分かるのは契約の有無で、保険金額までは出ません。
先に来る期限
調べること自体に期限はありませんが、遺留分の侵害額請求は「相続の開始と侵害を知った時から1年」、相続税の申告は10か月です。調べ終わってから考えるのでは間に合わないことがあります。期限が近い場合は、調べながら並行して手を打つ形になります。
自分が疑われないためにやっておくこと
- 親の口座から出金したら、日付・金額・使い道をメモし、領収書を一緒に保管する。
- 財産目録は一覧で作り、他の相続人にも同じものを渡す。「見せていない」が疑いの出発点になります。
- 申告後に漏れが見つかったら、税務署の指摘を待たずに修正申告する。自主的な修正なら加算税は軽くなります。
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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
