相続をめぐる詐欺は、見知らぬ他人だけが仕掛けてくるものではありません。「手続きを代行する」と名乗る業者、突然現れた自称相続人、内容を確かめないまま署名を求められる書類。どれも、こちらが急かされて確認をとばした瞬間に成立します。
この記事では、まず立ち止まるべきサインを3つ挙げ、そのうえで身を守るために押さえておく5つの法律知識を整理します。
先に結論:この3つが出たら、いったん止まる
急かされる
「今日中に」「あなただけに」。期限を切るのは、調べる時間を奪うためです。
その場で署名を求められる
遺産分割協議書・委任状・白紙の書類。持ち帰って中身を読んでからで足ります。
先にお金を求められる
「手続き費用の前払い」「登録料」。振込を求められた時点で立ち止まります。
判断に迷ったら、署名の前にここへ
188
消費者ホットライン。近くの消費生活センターにつながります。
#9110
警察相談専用電話。被害届の前の相談窓口です。
いずれも相談料はかかりませんが、通話料は利用者負担です(2026年8月時点)。
相続を狙う詐欺の共通点は、書類に署名させるか、お金を振り込ませるかのどちらかです。どちらも「持ち帰って調べる」で止められます。以下、手口の型と、押さえておくべき5つの法律知識を確認してください。
相続詐欺を防ぐ5つの法律知識(全体像)
遺言書の作成と管理
3種類の遺言書の特徴を理解し、信頼できる方法で保管する
法定相続人の確認
戸籍謄本を取り寄せて正確な相続人を確認する
遺産分割協議の注意点
相続人全員で協議し、協議書に全員の署名・押印を残す
相続登記は3年以内
名義を移さないままだと、外から権利関係が見えない状態が続く
調べる時間を確保する
持ち帰る・戸籍で照合する・第三者に見せる。この3つで止まる
相続詐欺の代表的な手口
⚠️ 相続詐欺の代表的な4つの手口
遺言書偽造
署名の偽造や内容の書き換えで、自分に有利な内容に改ざんする
相続人のなりすまし
他人の戸籍を不正に入手し、相続人と偽って財産を奪う
遺産分割協議での不正
嘘の情報の提供や重要な情報の隠蔽で、有利な条件を引き出す
財産管理を巡る詐欺
財産管理を任された者が権限を悪用し、財産を不正に流用する
1. 遺言書は偽造されにくい形で残す
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。書き換えや隠匿を防ぐという観点では、この3つは同じではありません。
- 自筆証書遺言:被相続人が自分で全て書く遺言書。作成が簡単ですが、偽造されやすい点がデメリットです。
- 公正証書遺言:公証人の前で作成する遺言書。偽造が難しく、法的に強力です。
- 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま公証人の証明を受ける遺言書。保管が難しく、手続きが複雑です。
公正証書遺言(偽造リスクが低い)
✓ 公証人の前で作成するため偽造が難しい
✓ 法的に強力
✓ 原本が公証役場に残るため、手元の紛失で失われない
自筆証書遺言(偽造リスクに注意)
✕ 作成は簡単だが偽造されやすい
✕ 家庭内保管では死後に発見されないおそれ
どこに置くかで、書き換えのリスクが変わる
自筆で書いた遺言書は、法務局の自筆証書遺言書保管制度(申請1件3,900円・2026年8月時点)に預けられます。原本を法務局が保管するので、家の中で書き換えられたり捨てられたりする余地がなくなり、家庭裁判所の検認も不要になります。公正証書遺言は原本が公証役場に残るため、同じく手を加えられません。手元の引き出しに置いたままにするのが、いちばん形が変わりやすい状態です。
2. 相続人は戸籍で確認する
配偶者は常に相続人になります。それ以外は順番が決まっていて、第1順位が子(子が先に亡くなっていれば孫へ代襲)、子がいなければ第2順位の父母など直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹です。上の順位の人が1人でもいれば、下の順位の人は相続人になりません。「両親も兄弟も全員が相続人」ではない点が、名乗り出てきた人を見分けるときの手がかりになります。
確かめる方法は1つです。亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)を市区町村から取り寄せ、そこに記載された人だけを相続人として扱います。相手の言い分ではなく戸籍で照合すれば、なりすましはここで止まります。
3. 遺産分割協議書は全員の署名・押印で成立する
遺産分割協議は、相続人全員で分け方を決める話し合いです。1人でも欠けた協議は無効になります。裏を返せば、あなたの署名がない協議書で財産を動かすことはできません。その場で署名を求められても、持ち帰って中身を読んでから決めて構いません。
署名する前に見るのは、財産の一覧が全部載っているか、自分の取り分が具体的な金額や物で書かれているか、「その他一切の財産は◯◯が取得する」という一文が入っていないか、の3点です。最後の一文は、まだ見つかっていない預金や不動産までまとめて相手のものにする書き方です。
4. 相続登記は3年以内(2024年から義務)
不動産を相続したら、名義を自分に移す相続登記をします。相続登記は2024年4月1日から義務になりました。不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由がない場合に10万円以下の過料の対象になります(2026年8月時点)。期限の問題だけでなく、登記名義が亡くなった方のままだと権利関係が外から見えず、第三者につけ込まれる余地が残ります。
⚠️ 相続登記の放置は不正取得のリスクを高める
相続登記を怠ると不動産の相続権が曖昧になり、第三者に不正取得を狙われるリスクが高まります。登記の遅れが不動産売却の遅れや資金繰りへの影響につながった事例もあるため、相続登記は速やかに行いましょう。
5. 急かされたときは、調べる時間を確保する
相手が期限を切ってくる場面では、こちらが調べる時間を確保するだけで話は止まります。書類を持ち帰り、戸籍と登記事項証明書を取り寄せ、内容を第三者に見てもらう。この3つを挟めば、たいていは相手のほうが降ります。
相談先を選ぶときは、事務所名で検索して所在地と代表者名が確認できるか、依頼前に費用の見積書を書面で出してくれるかを見てください。すでに支払ってしまった、署名してしまったという段階なら、消費者ホットライン188と警察相談専用電話#9110が最初の窓口になります。
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