銀行や法務局で「相続人全員が分かる戸籍をそろえてください」と言われた。親の昔の結婚や、会ったことのない兄弟がいるかもしれない。どこまで調べれば終わりなのか、自分でできるのか、頼むならいくらかかるのか。相続人調査で多い迷いはこの三つです。
相続人調査は、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人を全員確かめる作業です。家族だけでもできます。この記事では、家族の形ごとに集める戸籍の範囲、広域交付で取れる戸籍と取れない戸籍、自分でやる場合の実費の計算例、頼む場合の費用の見方、知らない相続人が見つかったときの次の一歩を、2026年10月時点の法令と役所の案内で整理します。
先に結論:相続人調査は「戸籍で相続人を全員確かめる」作業です
この記事の結論
- やること:亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集め、子・親・兄弟姉妹など相続人になる人を全員確かめます。子がいない場合は、親や兄弟姉妹の戸籍まで範囲が広がります。
- 自分でやる費用:戸籍の手数料(戸籍謄本450円、除籍・改製原戸籍750円)と郵送料です。子が相続人なら数千円、兄弟姉妹が相続人なら1万円前後になることもあります。
- 頼む場合:司法書士・行政書士・弁護士などに頼めます。報酬は事務所ごとに違うため、何通まで含むか、実費は別かを見積りで比べます。相続人どうしで争いがある場合の交渉や代理は弁護士の仕事です。
- 知らない相続人が見つかったら:その人も相続人です。戸籍の附票で住所を確かめ、手紙で事情を伝えます。返事がないときは家庭裁判所の手続きを使います。
戸籍の種類やさかのぼり方そのものは除籍謄本・改製原戸籍の取り方で詳しく説明しています。この記事は「相続人を確定するまでに、何を、どこまで、いくらで」に絞ります。
相続人調査の手順(5ステップ)
相続人は民法で決まっています。配偶者はいつも相続人です(民法890条)。そのほかは、子(亡くなった子の子を含む)、子がいなければ親など、親もいなければ兄弟姉妹(亡くなった兄弟姉妹の子を含む)の順です(民法887条・889条)。戸籍でこの順番を一つずつ確かめていきます。
- 亡くなった方の最後の本籍を確かめる。本籍の記載がある住民票の除票で分かります。分からないときの調べ方は亡くなった親の本籍地がわからない時の調べ方にまとめています。
- 死亡の記載がある戸籍から、出生までさかのぼる。結婚・転籍・戸籍の様式の変更のたびに新しい戸籍ができます。前の戸籍の本籍地は、今の戸籍に書かれています。
- 戸籍から相続人の候補を書き出す。子の欄だけでなく、身分事項欄の「認知」「養子縁組」「離婚」も確かめます。新しい戸籍を作るとき、すでに籍を抜けた人は書き移されません。今の戸籍だけでは前の結婚の子が分からないのはこのためです。
- 相続人の今の戸籍を取る。相続人が生きていることの確認です。先に亡くなった相続人がいれば、その人の出生から死亡までの戸籍と、その子の戸籍も要ります(代襲相続)。
- 相続関係を1枚にまとめる。法務局で法定相続情報一覧図の写しを無料で受け取ると、銀行や登記で戸籍の束を何度も出さずに済みます。取り方は法定相続情報一覧図の取り方と使い方、図の書き方は法定相続情報一覧図の作り方で説明しています。
古い手書きの戸籍は読みにくいことがあります。窓口で「出生から死亡までそろっているか」を見てもらえる役所もあります。欄ごとの見方は戸籍謄本の読み方を参考にしてください。
どこまで戸籍を集めるか:家族の形別の判定表
相続人調査で一番手間が変わるのは、誰が相続人になるかです。子がいれば亡くなった方の戸籍が中心です。子も親もいないと、親の戸籍までさかのぼることになり、通数が一気に増えます。自分の家がどれに当たるかを先に確かめてください。
兄弟姉妹が相続人になる場合の順位と割合は兄弟が相続人になる場合、甥・姪がどこまで相続人になるかは代襲相続とはで説明しています。
広域交付で取れる戸籍・取れない戸籍:誰が請求するかで変わります
2024年3月1日から、本籍地でない市区町村の窓口でも戸籍をまとめて請求できるようになりました(広域交付)。ただし、請求できるのは本人・配偶者・父母や祖父母(直系尊属)・子や孫(直系卑属)の戸籍に限られます。郵送や代理人による請求はできず、窓口で顔写真付きの本人確認書類を見せます(法務省)。相続人調査では、誰が請求するかで使える範囲が変わります。
兄弟姉妹が相続人のときは、「親の戸籍は窓口でまとめて、亡くなった兄弟姉妹が結婚後に作った戸籍と、ほかの兄弟姉妹・甥・姪の戸籍は本籍地へ郵送で」と分けると進めやすくなります。愛知・岐阜の役所の郵送先は愛知県の戸籍謄本の郵送請求先一覧と岐阜県の戸籍謄本の郵送請求先一覧にまとめています。兄弟の相続放棄で同じ戸籍を集めるときの注意は兄弟の相続放棄の必要書類も参考になります。
相続人調査を自分でやる場合の実費:通数の例で計算します
戸籍の手数料は、戸籍謄本(全部事項証明書)が1通450円、除籍謄本と改製原戸籍謄本が1通750円です(名古屋市の手数料表。全国の多くの市区町村で同じ額です)。必要な通数は家ごとに違うため、下の表は仮の通数で計算した例です。自分の家に当てはめるときの目安にしてください。
例2のように子も親もいない人の相続では、親の戸籍までさかのぼるため、例1の2倍以上の通数になりました。郵送で集めるなら、1か所に頼んで届いた戸籍を見て次の役所に頼む、の繰り返しになり、日数もかかります。期限のある手続き(下の「期限から逆算した段取り」)があるときは、早めに着手してください。
費用は誰が払う?
戸籍代や郵送料を誰が負担するかは、法律で決まっていません。代表して集める人が立て替え、遺産を分けるときに精算する形を相続人どうしで決めておくと、あとでもめにくくなります。立て替えた分は、領収書や小為替の控えを封筒にまとめて残しておきます。
頼む場合の費用の考え方:司法書士・行政書士・弁護士の範囲
戸籍集めは、弁護士・司法書士・行政書士などの資格者が、受けた仕事のために本人に代わって請求できます(戸籍法10条の2)。頼み先によって、戸籍集めの後に続けて頼める仕事が違います。相続人調査だけを切り出して比べるより、その後に何をするかで選ぶほうが二度手間になりません。
報酬は、各事務所が自分の料金表で決めています。国が定めた一律の額はありません。見積りを比べるときは、次の4点をそろえて見ると違いが分かります。
- 何通まで含むか。上限を超えたときの1通ごとの追加料金があるか。
- 戸籍代・郵送料などの実費が別か。報酬と実費を分けて書いてもらいます。
- どこまでが成果物か。戸籍を集めるだけか、相続関係説明図や法定相続情報一覧図の写しまで受け取れるか。
- 相続人が増えたときの扱い。兄弟姉妹の相続や、知らない相続人が見つかって範囲が広がったときに追加があるか。
戸籍の通数で自分でできるかを見極めたいときは、相続手続きは自分でできる?戸籍の通数でわかる判定表も参考にしてください。
知らない相続人が見つかったときの次の一歩
相続人調査で、親の前の結婚の子、認知していた子、養子、会ったことのない異父・異母の兄弟姉妹が見つかることがあります。驚くのは自然なことです。ただ、その人も法律上の相続人です。遺産の分け方は相続人全員の合意で決めるため(民法907条)、その人を外して話し合いを進めることはできません。
そのうえで、次の順で進めます。
- 住所を確かめる。その人の本籍地の役所で戸籍の附票を取ると、住所の移り変わりが分かります。相続手続きのためであることを請求書に書きます。附票は広域交付では取れないので、本籍地へ請求します。
- 手紙で事情を伝える。いきなり書類や印鑑を求めず、亡くなったこと、相続人であること、財産の概要、こちらの連絡先を伝えます。返事の期限は余裕をもって書きます。文例は絶縁した兄弟と遺産相続の手紙の例が参考になります。
- 返事がない・話がまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停。収入印紙1,200円(亡くなった方1人につき)と連絡用の郵便切手で申し立てられます。費用の内訳は遺産分割調停の費用で説明しています。
- 住所を出たまま行方が分からないときは、不在者財産管理人。家庭裁判所が選んだ管理人が、裁判所の許可を得て、その人に代わって遺産分割に加わります。申立ては相続人などの利害関係人ができ、収入印紙800円と郵便切手が要ります。管理の費用として予納金を求められることがあります(裁判所)。
知らない相続人とのやり取りは、気持ちの面でも負担が大きくなりがちです。相手と条件を交渉したり、代理で話を進めてもらったりするのは弁護士の仕事です。一方で「この相続人にまず何を送るか」「家族の中で誰が窓口になるか」が決めきれない段階なら、30分の無料相談で、集めた戸籍を見ながら順番を一緒に整理できます。当社が相手方と連絡や交渉をすることはありません。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
期限から逆算した段取り:相続人が決まらないと進まない手続き
相続人調査そのものに期限はありません。ただ、期限のある手続きの多くは、相続人が分からないと進められません。次の期限から逆算して始めてください。
今日できる一歩
紙に、亡くなった方を真ん中にして、配偶者・子・父母・兄弟姉妹を知っている範囲で書き出してください。そのうえで、上の判定表のどの行に当たるかに印をつけます。あわせて、亡くなった方の住民票の除票(本籍の記載あり)を1通取ると、最初に請求する役所が決まります。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相続人調査は自分でできますか
できます。相続人である子や配偶者なら、亡くなった方の戸籍を窓口や郵送で請求できます。この記事の例1(子が相続人)では6通でした。兄弟姉妹が相続人のときや、古い戸籍が読みにくいときは、専門家に頼むのも一つの方法です。
相続人調査の費用はいくらですか
自分でやる場合は、戸籍の手数料(戸籍謄本450円、除籍・改製原戸籍750円)と郵送料などの実費です。この記事の計算例では、子が相続人の家で3,600円、兄弟姉妹が相続人の家で9,750円でした。専門家に頼む場合の報酬は事務所ごとに違うため、何通まで含むか、実費が別かを見積りで確かめてください。
相続人調査は司法書士に頼めますか
頼めます。司法書士は、相続登記や家庭裁判所に出す書類を作るために、戸籍を代わりに集められます。不動産の名義変更まで続けて頼みたいときに向いています。相続人どうしで争いがあり、交渉や調停の代理が必要なときは弁護士に相談してください。
兄弟姉妹が相続人のとき、広域交付だけで戸籍はそろいますか
そろわないことが多いです。兄弟姉妹が請求する場合、自分の父母の戸籍は広域交付で取れますが、亡くなった兄弟姉妹が結婚などで親の戸籍を出た後の戸籍や、ほかの兄弟姉妹・甥・姪の戸籍は広域交付では取れません。本籍地の役所へ郵送などで請求します。
相続放棄をした人がいると、調べる範囲は変わりますか
変わります。相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。子が全員放棄すれば親、親もいなければ兄弟姉妹が相続人になるため、その人たちの戸籍が必要になります。放棄したかどうかは、家庭裁判所の受理通知書などで確かめます。
集めた戸籍は、銀行ごとに出し直す必要がありますか
戸籍の束は、原本を返してもらって使い回せる窓口もあります。法務局で法定相続情報一覧図の写しを受け取れば、無料で必要な通数をもらえ、戸籍の束の代わりに使えます。提出先が多いときは先に作っておくと手間が減ります。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(第887条、第889条、第890条、第900条、第907条、第915条、第939条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - e-Gov法令検索「戸籍法」(第10条の2)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224 - 法務省「戸籍証明書等の広域交付について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html - 中央区「戸籍証明書等の広域交付」
https://www.city.chuo.lg.jp/kurashi/touroku/koseki/kouikikouhu.html - 横浜市「戸籍証明書等の広域交付」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/shoumei/kosekikouiki.html - 名古屋市「戸籍電算化(コンピュータ化)」(証明書の手数料)
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/todokede/1007816/1007820.html - 法務局「「法定相続情報証明制度」について」「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html - 裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html - 裁判所「不在者財産管理人選任」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。戸籍の手数料や郵送の方法は市区町村ごとに異なり、変わることがあります。計算例の通数は仮のものです。相続人の範囲の判断に迷う場合は司法書士・弁護士に、相続人どうしの交渉が必要な場合は弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
