入院していた親が亡くなり、しばらくして病院から請求書が届きました。この医療費は、亡くなった親の分として申告するのか。それとも自分の分になるのか。迷う場面です。
答えは「いつ払ったか」と「誰が払ったか」で分かれます。この記事では、2026年10月時点の国税庁の案内をもとに、その分かれ方を表で整理します。税額の計算はしません。
先に結論:亡くなる日の前か後かで、控除を使う人が変わります
この記事の結論
- 亡くなる日までに本人が払った分は、本人の「準確定申告」で医療費控除に入れます。
- 亡くなった後に相続人が払った分は、準確定申告には入れられません。治療を受けた時に生計を一にしていた相続人なら、その人の医療費控除の対象です。
- 控除の対象は実際に払った年の分です。未払いのまま年をまたいだ分は、払った年の分になります。
準確定申告とは、亡くなった人のその年の所得税を、相続人が代わりに申告する手続きです。期限や書類の全体像は準確定申告が必要な人と4か月の期限にまとめています。この記事は「医療費の分け方」に絞ります。
早見表:この医療費は誰の控除になるか
まず、よくある場面を4つに分けて表にしました。迷ったら、領収書の日付と、払った人の名前を見ます。
死亡前に払った分と、死亡後に払った分の違い
亡くなる日までに本人が払った分
入院費や薬代を、亡くなる日までに本人が払っていれば、本人の準確定申告で医療費控除に入れます。国税庁は、準確定申告の医療費控除を「死亡の日までに被相続人が支払った医療費」としています(No.2022)。
入れられるのは、医療費の領収書や通知書で確かめられるものです。対象になる費用の範囲は、ふつうの医療費控除と同じです。介護の費用やおむつ代がどこまで入るかは、介護費用・おむつ代と医療費控除の記事で整理しています。
亡くなった後に相続人が払った分
亡くなった後に払った入院費は、親の準確定申告には入れられません。国税庁は、死亡後に払った医療費は「たとえ相続財産で支払われた場合であっても、被相続人が支払ったことにはならない」としています。
一方で、払った相続人の医療費控除になる道があります。国税庁の質疑応答事例では、次の考え方が示されています。
- 見るのは、請求のもとになった治療を受けた時の状況です。
- その時に、親と払った相続人が生計を一にしていたなら、相続人の医療費控除の対象です。
- 控除の要件は、自分か、生計を一にする家族のために払った医療費であることです(No.1120)。
生計を一にしていたかどうかは、事情によって変わります。判断に迷うときは、税務署か国税相談専用ダイヤルで確かめてください。
年をまたぐ場合の考え方
医療費控除は、1月1日から12月31日までに「支払った」医療費が対象です。未払いの医療費は、現実に払った年の分になります(No.1120)。
準確定申告と相続税の関係
準確定申告に入れるのは「死亡日まで」の分だけ
準確定申告は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に、亡くなった人の死亡当時の納税地の税務署へ出します(No.2022)。ここに入れる医療費は、死亡日までに本人が払った分です。
つまり、一つの支払いは、本人の準確定申告か、払った相続人の申告のどちらかに入ります。領収書を整理するときは、亡くなった日を境に分けておくと迷いません。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
戻ってくるお金は、差し引いて数える
医療費控除の計算では、高額療養費や家族療養費など、あとで戻るお金を差し引きます(No.1120)。亡くなった後に高額療養費が払い戻されることもあるため、通知書は医療費の領収書と一緒に保管します。請求の流れは高額療養費の申請方法にあります。
相続税では、別の見方をします
相続税は、所得税の医療費控除とは別の税金です。国税庁は、亡くなった時に現に存在した借入金や未払金などで、確実と認められるものを、遺産総額から差し引けると案内しています(No.4126)。
亡くなった時点で払っていなかった病院代が、この「未払金」にあたる場合があります。あたるかどうかは、個別の事情で決まります。国税庁の案内で、医療費だけを取り上げた説明は確認できませんでした。税務署か税理士にご確認ください。
相続税の申告が要るかどうかの確かめ方は相続でまとまったお金を受け取ったら、申告が必要な場合の期限は相続税の申告期限10か月の数え方で整理しています。
手順と必要書類チェックリスト
- 領収書と請求書を、支払った日で分ける。亡くなった日の前と後で、封筒を2つにします。
- 死亡後に払った分は、治療を受けた時の状況を確かめる。その時、親と生計を一にしていたかをメモします。
- 本人の分は、準確定申告で医療費控除に入れる。医療費控除の明細書を作り、申告書に添付します。
- 相続人の分は、自分の確定申告で医療費控除に入れる。払った年の分として、払った年の翌年に申告します。
- 戻るお金を差し引く。高額療養費などの支給額を確認し、計算に反映します。
そろえるもののチェックリスト
- □ 亡くなる日までの病院・薬局の領収書
- □ 亡くなった後に払った分の領収書や請求書(払った日と払った人が分かるもの)
- □ 振込の控えや通帳の記録(誰の口座から払ったかの確認用)
- □ 医療保険者から届いた医療費通知(あれば、明細書の記載を簡略にできます)
- □ 高額療養費などの支給決定通知
- □ 準確定申告に使う付表など(書類の一覧はこちら)
- □ 親と生計を一にしていたかを整理したメモ
医療費控除の明細書の内容を確かめるため、確定申告期限から5年を経過する日までの間、領収書の提示や提出を求められる場合があります。医療費通知を添付したものは除かれます(No.1120)。領収書は、申告のあとも保管します。
期限と、過ぎたらどうなるか
相続人自身の申告で、医療費控除により所得税が戻るのは、すでに源泉徴収などで納めた所得税がある場合です(No.2030)。年金から引かれた所得税がある方などが、これにあたります。
期限を過ぎた場合の扱いも、国税庁が案内しています。確定申告を忘れたときは、気づいた時点でできるだけ早く申告します。期限後の申告として扱われ、内容によっては納める税金のほかに無申告加算税がかかります(No.2024)。還付申告は、5年の間であれば、確定申告の期間とは関係なく出せます。
準確定申告の4か月を過ぎてから戻る税金に気づいた場合の扱いは、国税庁の準確定申告の案内では確認できませんでした。気づいた時点で、税務署に問い合わせてください。
読者が損しやすい点
- 死亡後の入院費を、親の準確定申告に入れてしまう。親の預金から払っても、入れられません。
- 「亡くなった親の分は、自分の控除にならない」と思い込む。治療を受けた時に生計を一にしていれば、払った相続人の控除になります。
- 支払いの年を取り違える。請求が届いた年ではなく、払った年で数えます。
- 戻るお金を差し引き忘れる。高額療養費などの支給は、計算に反映します。
- 領収書を早く捨てる。確認のため、申告期限から5年は求められることがあります。
今日できる一歩
手元の医療費の領収書と請求書を、「亡くなった日の前に払った分」と「亡くなった後に払った分」の2つの封筒に分けて、それぞれ支払った日の順に並べておく。
よくある質問
亡くなった後に払った入院費は、親の準確定申告に入れられますか
入れられません。準確定申告の医療費控除は、死亡の日までに本人が払った分が対象です。死亡後に払った分は、払った相続人の側で考えます。
親の預金から払った場合も、同じですか
同じです。国税庁は、死亡後の支払いは相続財産で払った場合でも、被相続人が払ったことにはならないとしています。準確定申告に入れることはできません。
別居していた親の入院費を払いました。自分の控除になりますか
治療を受けた時に、親と生計を一にしていたかどうかが分かれ目です。別居でも生計を一にしている場合はあります。事情によって変わるため、税務署か国税相談専用ダイヤルで確認してください。
きょうだいで入院費を分けて払いました。どう考えますか
医療費控除は、払った人の申告で使う仕組みです。誰がいくら払ったかが分かる記録を、それぞれ持っておきます。生計を一にしていたかどうかも、払った人ごとに見ます。
亡くなった後に、高額療養費の払い戻しが届きました
高額療養費は、医療費の計算で差し引く対象です(No.1120)。受け取る人や手続きは高額療養費の申請方法で確認できます。医療費控除の細かい計算は、医療費控除のやり方も参考にしてください。
準確定申告の医療費控除は、いくらから使えますか
計算のしかたは、ふつうの医療費控除と同じです。亡くなる日までに本人が払った医療費から、保険金などで戻る分を引き、さらに10万円を引いた額が控除の対象です。その年の総所得金額等が200万円未満なら、10万円の代わりに総所得金額等の5%を引きます。準確定申告では、1月1日から亡くなった日までの所得で考えます。控除できる額は最高200万円です(国税庁No.1120・No.2022、2026年10月時点)。
参考にした公的情報
- 国税庁 質疑応答事例「死亡した父親の医療費」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/57.htm - 国税庁 タックスアンサー「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm - 国税庁 タックスアンサー「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm - 国税庁 タックスアンサー「No.2030 還付申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm - 国税庁 タックスアンサー「No.2024 確定申告を忘れたとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2024.htm - 国税庁 タックスアンサー「No.4126 相続財産から控除できる債務」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開情報をもとにした一般的な整理です。医療費控除の対象になるか、誰の申告に入れるかは、家族の状況や支払いの時期で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
