孫にまとまったお金を残したい。そう考えたときに最初に知っておくべきことは、孫は原則として相続人ではないという点です。子が健在であれば、祖父母の財産は子に渡り、孫には渡りません。何もしなければ、孫に直接残す道はないということになります。
この記事は、孫に資金を残したいと考えている祖父母の方に向けたものです。使える方法は、生前贈与・遺言・生命保険・養子縁組の4つ。どれを選ぶかで、税金も、他の相続人との関係も変わります。相続税の「2割加算」と、生前贈与の「7年加算」という2つの分かれ目を軸に整理します。制度の期限も2026年9月時点で確認しています。
先に結論:4つの方法と、税金の分かれ目
相続前7年の加算 なし(※)
一度に渡せる額 年110万円まで
相続前7年の加算 対象になる
一度に渡せる額 上限なし
500万円×法定相続人の非課税枠 使えない
受け取りの速さ 早い
基礎控除 +600万円
立場 相続人になる
ざっくり言えば、時間があるなら生前贈与、時間がないなら遺言か保険です。生前贈与は税負担がいちばん軽いかわりに年110万円ずつしか動かせません。遺言と保険は一度に大きな額を渡せるかわりに、相続税が2割増しになります。以下、順に見ていきます。
方法1:生前贈与——孫だけが「7年加算」の外に出られる
2024年(令和6年)1月以後の贈与から、亡くなる前の一定期間の贈与を相続財産に加算する期間が、3年から7年へ段階的に延長されています。子への贈与は、この加算にかかりやすくなりました。
ところが、加算されるのは「相続や遺贈で財産を取得した人」への贈与に限られます。孫は原則として相続人ではないので、祖父母が亡くなる前月に贈与を受けていても、その分は相続財産に戻りません。ここが孫への贈与の最大の利点です。
渡し方の作法は、子への贈与とまったく同じです。孫名義の口座に振り込み、通帳と印鑑は孫(未成年なら親権者)が管理し、毎年贈与契約書を残す。この3点が抜けると「名義預金」として、結局は祖父母の財産に戻されます。手順は生前贈与のやり方|110万円の非課税を正しく使う手順で詳しく書いています。
学費や生活費は、110万円とは別に渡せる
祖父母と孫は扶養義務のある間柄なので、教育費や生活費にあてるために渡したお金で通常必要と認められるものには、贈与税がかかりません。110万円の枠とは別です。塾代、学費、下宿の家賃などが該当します。
条件は「必要な都度、直接それに充てること」。1年分の学費をまとめて渡し、孫がそれを預金のまま置いていたり投資にまわしたりすると、その部分は贈与税の対象になります。学校へ直接振り込む、その月の分をその月に渡す、という形が確実です。
方法2:一括贈与の特例——教育資金は2026年3月で終わりました
「孫に1,500万円まで非課税で教育資金を渡せる」と紹介されてきた教育資金の一括贈与ですが、この制度は令和8年(2026年)3月31日をもって、適用期限が延長されずに終了しました。同日までに拠出された資金は引き続き非課税の扱いを受けられますが、これから新しく契約を結ぶことはできません。
教育資金の一括贈与が使えなくなった今、孫の学費を助ける方法は「必要な都度、直接払う」に戻りました。手間はかかりますが、上限も期限もなく、使い残しの問題も起きません。
方法3:遺言で孫に遺贈する——確実だが相続税は2割増し
遺言書に「孫の○○に金○○万円を遺贈する」と書けば、相続人でない孫にも財産を渡せます。金額に上限はなく、生前に動かす必要もありません。
気をつける点は2つです。ひとつは相続税の2割加算。配偶者と一親等の血族(子・父母)以外の人が相続や遺贈で財産を取得すると、その人の相続税額が2割増しになります。孫は一親等ではないので、この対象です。
もうひとつは遺留分です。孫への遺贈が大きすぎると、子(孫の親やそのきょうだい)の遺留分を侵害し、遺留分侵害額請求を受けることがあります。相続後に孫が請求される立場になり、家族の関係が壊れることもあります。遺言を作る前に、遺留分の目安を確認しておいてください。
また、孫が遺贈を受けると、その孫への過去の生前贈与も7年加算の対象に変わります。「毎年110万円ずつ贈与しつつ、遺言でも残す」という組み合わせは、贈与の効果を打ち消すことがあります。どちらかに寄せるほうが、結果として税負担が軽くなる場合があります。
方法4:生命保険の受取人を孫にする——渡す速さと引き換えに枠を失う
生命保険の死亡保険金は、遺産分割を待たずに受取人へ支払われます。受取人を孫にしておけば、孫に確実に、早く現金が渡ります。そこだけを見れば有力な方法です。
ただし、税金の面では不利になります。死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠がありますが、この枠を使えるのは相続人が受け取った場合だけです。相続人でない孫が受け取ると、非課税枠はまったく使えず、受け取った額の全部が相続税の対象になります。そのうえで2割加算もかかります。
孫を受取人にしている契約が、いつ・どんな意図で結ばれたものか分からなくなっているご家庭は少なくありません。受取人の指定は契約後に変更できます。保険の受取人の見直しもあわせて確認しておくと、意図と実態のずれを防げます。
養子縁組をすると、何が変わるか
孫と養子縁組をすれば、孫は法律上の子になり、相続人になります。財産は遺言がなくても孫に渡り、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)も増えます。
- 基礎控除に数えられる養子の数には上限があります。実の子がいる場合は1人まで、実の子がいない場合は2人までです。3人の孫と養子縁組しても、基礎控除が増えるのは1人分(600万円)です。
- 孫養子には2割加算がかかります。養子は一親等の法定血族になりますが、孫が養子になった場合は例外として2割加算の対象です。ただし、子がすでに亡くなっていて孫が代襲相続人でもある場合は、加算されません。
- 他の相続人の取り分が減ります。孫が相続人に加わる分、子の法定相続分は下がります。事前に説明しないまま縁組すると、相続のときに強い反発が出ます。
養子縁組は税金だけで決める話ではありません。戸籍が変わり、扶養や姓の扱いにも影響します。節税だけを目的にする前に、家族全員に説明できる理由があるかを考えてください。
子が先に亡くなっている場合(代襲相続)
孫の親(あなたの子)がすでに亡くなっている場合、孫は代襲相続人として、亡くなった親の相続分をそのまま引き継ぎます。この場合の孫は、遺言も養子縁組もなしに相続人です。
代襲相続人となった孫には2割加算がかかりません。死亡保険金の非課税枠も使えます。税の面では、通常の子と同じ扱いです。ただし相続人である以上、生前贈与は7年加算の対象になります。孫が代襲相続人になっているご家庭では、「孫への贈与は加算されない」という一般的な説明はあてはまりません。
どれを選ぶか——順序で考える
1番目の「そもそも相続税がかかるか」は、相続税・生前対策かんたん診断(無料・登録不要・1分)で目安を出せます。かからないと分かれば、この記事の税の話の多くは不要になります。
よくある質問
孫が未成年でも贈与できますか。
できます。未成年の孫には親権者が法定代理人として受諾し、贈与契約書にも親権者が署名します。口座は孫名義で作り、通帳と印鑑は親権者が管理します。祖父母が通帳を持ったままにすると、名義預金と見られます。孫が成人したら、通帳と印鑑を本人に渡してください。
孫は何人いても、それぞれに110万円ずつ渡せますか。
渡せます。110万円はもらう人ごとの枠なので、孫が3人いれば年間330万円を無税で動かせます。ただし1人の孫が祖父と祖母の両方から110万円ずつもらうと、その孫は年220万円もらったことになり、110万円分に贈与税がかかります。
教育資金の一括贈与をすでに契約しています。どうなりますか。
2026年3月31日までに拠出した資金は、これまでどおり使えます。終了したのは新規の契約です。気をつけるのは使い残しで、孫が30歳になった時点や、契約中に祖父母が亡くなった時点で残っている額には課税されます。残高と孫の年齢を、契約している金融機関で確認しておいてください。
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本記事の制度・数値は2026年9月時点のもので、国税庁タックスアンサー(No.4114/No.4157/No.4161/No.4170/No.4508/No.4510/No.4511)および財務省「令和8年度税制改正の大綱」を確認して作成しています。税制は改正されることがあり、同じ方法でも家族の構成や財産の内訳によって結論が変わります。実際の判断にあたっては、税理士など専門家にご確認ください。