四十九日を終えた夜、居間のテーブルに妻の年金の通知書と、自分の通知書を並べてみる。「妻の年金は止まる。自分に何か出るのだろうか」。妻を亡くした夫や、残された父を気づかう子どもから、よく出てくる疑問です。
遺族年金は、妻が亡くなったときも夫が受け取れる場合があります。ただ、夫には妻と違う年齢の条件があり、65歳以上は自分の年金との調整もあります。数字は2026年10月時点で、日本年金機構と厚生労働省の公表内容を確かめたものです。
先に結論:夫の遺族年金は「年齢」と「自分の厚生年金」で決まる
この記事の結論
- 誰が:子が成人している夫が受け取れるのは主に「遺族厚生年金」です。妻が亡くなったとき55歳以上であることが条件で、受け取りは60歳からです。
- いくら:基本は妻の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3です。65歳以上は自分の老齢厚生年金が先に払われ、遺族厚生年金は差額だけ。夫の厚生年金が妻より多いと、ゼロになることもあります。
- どこへ・いつまで:請求先は年金事務所か街角の年金相談センターです。受け取る権利は原則5年で時効になります。
妻が亡くなったとき、夫が受け取れる年金は?年齢別の早見表
遺族年金には2種類あります。国民年金から出る「遺族基礎年金」と、厚生年金から出る「遺族厚生年金」です。
遺族基礎年金は「子のある配偶者」が対象です。ここでいう子は、18歳になった年度の3月末までの子(障害がある場合は20歳未満)です。子が成人している60〜80代の夫は、多くの場合、遺族厚生年金だけが対象になります。
遺族厚生年金には、夫にだけ年齢の条件があります。妻が亡くなったときに55歳以上であること。そして、受け取り始めるのは60歳からです。ただし、遺族基礎年金をあわせて受け取れる夫は、55〜59歳でも受け取れます。
このほかに「生計を維持されていた」ことが条件です。暮らしを共にしていて、夫の年収が原則850万円未満であることを指します。年収が850万円以上でも、おおむね5年以内に850万円未満になると認められる事情(退職など)があれば対象になります。
亡くなった妻の側の条件
遺族厚生年金は、亡くなった妻が次のどれかに当てはまるときに出ます。
- 厚生年金に入っている間に亡くなった
- 厚生年金に入っている間に初診日がある病気やけがで、初診日から5年以内に亡くなった
- 1級・2級の障害厚生年金を受け取っていた
- 老齢厚生年金を受け取っていた(受ける権利があった)
- 老齢厚生年金を受け取る資格を満たしていた
年金暮らしだった妻の場合は、4か5に当たるのが一般的です。ここで見落としやすいのが、4と5は「加入期間などの合計が25年以上」の人に限られる点です。妻が年金を受け取っていても、合計が25年に届いていなければ遺族厚生年金は出ません。
遺族厚生年金はいくら?計算の考え方と2026年度の額
遺族厚生年金の額は「妻の老齢厚生年金の報酬比例部分×4分の3」が基本です。報酬比例部分とは、働いていたときの給与と加入した月数で決まる、厚生年金の中心の部分です。
妻が厚生年金に入っている間に亡くなった場合など(前の章の1〜3)は、加入期間が300月(25年)に満たなくても300月あるものとして計算します。一方、年金暮らしだった妻(4・5)は、実際の加入期間で計算します。結婚や出産で早めに退職した妻だと、額は小さくなりがちです。
計算の例です。妻の報酬比例部分が年60万円なら、60万円×4分の3=年45万円(月3万7,500円)が遺族厚生年金の基本の額です。ただし、65歳以上の夫は次の章の調整が入ります。
妻の報酬比例部分は、妻あてに届いていた「年金額改定通知書」で見当がつきます。ほかの加算が含まれることもあるので、正確な額は年金事務所で確かめてください。
年齢別の受け取り方:65歳以上は「自分の年金が先、遺族年金は差額」
65歳以上の夫
65歳以上の夫は、自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を一緒に受け取れます。自分の老齢厚生年金もある場合は、2段階で考えます。
- 遺族厚生年金の額を決める:「①妻の報酬比例部分の4分の3」と「②妻の報酬比例部分の2分の1+自分の老齢厚生年金の2分の1」を比べ、高いほうにします。
- 自分の年金を先に払う:自分の老齢厚生年金は全額支払われます。遺族厚生年金は、自分の老齢厚生年金に当たる額が止まり、差額だけが支払われます。
妻の報酬比例部分を年60万円として、夫の厚生年金の額ごとに当てはめると次のようになります。
この計算に当てはめると、差額が出るのは「夫自身の老齢厚生年金が、妻の報酬比例部分より少ない」ときに限られます。長く会社員だった夫は、妻より厚生年金が多いことがよくあります。その場合、遺族厚生年金は全額止まり、世帯の年金は夫の分だけになります。
60〜64歳の夫
60歳以上なら、遺族厚生年金はすぐに受け取れます。ただし65歳になるまでは「1人1年金」が原則です。自分の老齢年金を繰上げ(早めに受け取ること)で受け取っている場合は、遺族厚生年金とどちらか一方を選びます。高いほうを選び、「年金受給選択申出書」を出します。
55〜59歳の夫
受け取る権利はありますが、支払いは60歳からです。子がいて遺族基礎年金を受け取れる間は、遺族厚生年金もあわせて受け取れます。55歳未満だった場合、今の制度では夫は遺族厚生年金の対象になりません。
妻だけにある加算は、夫にはつかない
夫を亡くした妻には「中高齢寡婦加算」「経過的寡婦加算」「寡婦年金」があります。どれも妻が対象で、夫にはありません。妻の場合と同じ額を思い浮かべていると、見込みが大きくずれます。妻が亡くなった場合の整理は、遺族年金で妻はいくら?夫が亡くなったときの年金の計算と手続きにまとめています。
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2028年4月からの遺族厚生年金の見直し:60歳以上の夫は今までどおり
2025年(令和7年)6月に成立した年金制度改正法で、遺族厚生年金の見直しが決まりました。施行は2028年(令和10年)4月1日です。法律で決まった内容のうち、夫に関わる点は次のとおりです。
- 60歳未満の夫も対象に:男女差をなくすため、18歳年度末までの子がいない60歳未満の夫は、妻が亡くなったとき、新たに原則5年間の有期の給付を受けられるようになります(若い世代の妻も、同じく5年間の給付になります)。
- 5年間は額が増える:有期給付加算が上乗せされ、今の額の約1.3倍になります。障害のある人や収入が十分でない人は、5年後も所得に応じて受け取り続けられる仕組み(継続給付)があります。
- 60歳以降の人と、すでに受け取っている人は今までどおり:厚生労働省は、60歳以降に受け取る権利が生まれる人、すでに受け取っている人は見直しの影響を受けないとしています。
- 子の加算の引き上げ:遺族基礎年金などの子の加算は、何人目かにかかわらず1人あたり年281,700円(2024年度の価格)に引き上げられます。
60歳以上で妻を亡くした夫、65歳以上の夫は、遺族厚生年金の受け取り方そのものは変わりません。前の章の「4分の3」や「差額」の仕組みも、そのままです。
もう1つ、繰下げ(受け取り開始を遅らせて増やすこと)のルールも変わります。今は、66歳までに遺族年金を受ける権利があると、原則として老齢年金を繰り下げられません。改正後は、昭和38年4月2日以降生まれなどの条件を満たす人は繰り下げられるようになります。詳しくは年金の繰下げは得かもご覧ください。
請求の手順と必要書類、期限は原則5年
遺族厚生年金は、待っていても自動では始まりません。夫が請求書を出して、初めて支払いが決まります。
- 窓口に予約の電話をする:お近くの年金事務所か「街角の年金相談センター」です。「妻が亡くなったので遺族年金を請求したい」と伝え、持ち物を聞いておきます。
- 書類をそろえる:下のチェックリストを使います。戸籍と住民票は、妻が亡くなった日以降に発行され、提出日から6か月以内のものです。
- 年金請求書を出す:「年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)」を窓口で出します。
- 自分の年金と選ぶ必要があれば届け出る:65歳前で、自分も年金を受け取っている場合は「年金受給選択申出書」を出します。
- 届いた決定の通知で額を確かめる:65歳以上の方は、自分の老齢厚生年金との差額になっているかを見ます。
- □ 年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)
- □ 戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し
- □ 世帯全員の住民票の写し
- □ 妻の住民票の除票(世帯全員の住民票に含まれていれば不要)
- □ 夫の収入が分かる書類(所得証明書、課税・非課税証明書、源泉徴収票など)
- □ 死亡診断書(死体検案書)のコピー、または死亡届の記載事項証明書
- □ 夫名義の受取口座の通帳など(公金受取口座を使う場合などは不要)
- □ 子がいる場合は、子の収入が分かる書類や在学証明書など
請求書にマイナンバーを書くと、戸籍(請求者が配偶者か子の場合)、住民票、収入の書類は省略できます。交通事故など第三者の行為で亡くなった場合は、別の書類も要ります。
妻が年金を受け取っていた場合は、亡くなった月までの払い残しを「未支給年金」として請求できます。遺族年金とは別の手続きです。詳しくは未支給年金の請求方法をご覧ください。
期限は5年。過ぎたらどうなる?
年金を受け取る権利は、権利が生まれてから5年たつと時効で消えます(国民年金法・厚生年金保険法)。遺族年金なら、妻が亡くなった日の翌日が起点です。
5年を過ぎると、原則として受け取れなくなります。やむを得ない事情で請求できなかった場合は、理由を書面で申し立てる仕組みがあります。また、毎回の支払い分にも5年の時効があり、請求が遅れるほど、さかのぼって受け取れない月が出てきます。
夫が損しやすい5つの点
- 「妻の年金の4分の3が足される」と思い込む:65歳以上は自分の厚生年金が先に払われ、遺族厚生年金は差額です。家計の見込みは、自分の年金額を基準に立てるほうが確かです。
- ゼロだと決めつけて請求しない:妻のほうが厚生年金が多かった場合は、差額が出ます。記録を合わせて計算しないと分かりません。
- 妻の加入期間の合計を確かめない:年金暮らしだった妻は、合計25年以上が条件です。年金事務所で記録を確かめてもらうと確実です。
- 60〜64歳で選び方を確かめない:繰上げで自分の年金を受け取っている場合、遺族厚生年金のほうが高いこともあります。どちらが高いか、窓口で並べてもらいましょう。
- 年金以外のお金を請求し忘れる:未支給年金のほか、健康保険の葬祭費・埋葬料も請求しないと受け取れません(葬祭費・埋葬料の申請方法)。
今日できる一歩
- 妻と自分の「年金額改定通知書」を探し、厚生年金の額にしるしをつけて並べる。
- 妻の年金証書など、基礎年金番号が分かる書類を1か所にまとめる。
- 年金事務所に予約の電話を入れ、遺族年金の請求と持ち物を確かめる。
よくある質問
妻はずっと専業主婦でした。遺族年金は出ますか?
妻に厚生年金に入っていた期間がなければ、遺族厚生年金は出ません。18歳年度末までの子がいれば、遺族基礎年金の対象になりえます。妻が会社員だった期間が短くてもある場合は、年金事務所で記録を確かめてください。
遺族年金に税金はかかりますか?
国民年金法・厚生年金保険法にもとづく遺族年金には、原則として所得税も相続税もかかりません(国税庁)。一方、妻の未支給年金を受け取った場合は、受け取った人の一時所得になります。個別の判断は税務署や税理士にご確認ください。
2028年の見直しで、受け取り中の遺族年金は減りますか?
厚生労働省は、すでに遺族厚生年金を受け取っている人は見直しの影響を受けないとしています。60歳以降に受け取る権利が生まれる人も、今までどおりです。
妻に国民年金の期間しかない場合は、何も出ませんか?
自営業などで国民年金の保険料を36月以上納めていた妻が、老齢基礎年金を受け取らずに亡くなった場合は、「死亡一時金」が出ることがあります。額は納めた月数に応じて12万〜32万円です。遺族基礎年金を受け取れる人がいるときは出ません。請求先は市区町村の窓口で、期限は2年です。
参考にした公的情報
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html - 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」(PDF)
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-3.pdf - 日本年金機構「遺族厚生年金を受けられるとき」(請求の手続き)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/izoku/seikyu/20140617-02.html - 日本年金機構「年金の時効」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/shikyu/20140421-01.html - 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html - 国税庁「No.1605 遺族の方に支給される公的年金等」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1605.htm
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。受け取れる年金の種類や額は、夫と妻それぞれの加入記録、生年月日、家族の状況で変わります。表の計算例は仕組みを説明するための仮の数字です。手続きは年金事務所など申請先の最新の案内でご確認ください。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
