見積もりを取ってみたら、想像していたより高い金額が書かれていた。かといって、自分でやろうとすると「戸籍って何通集めればいいのか」「途中で分からなくなって放置してしまわないか」が不安で、結局どちらにも踏み出せないまま時間だけが過ぎている——。相続手続きを前にして、こうした状態にある方は少なくありません。
実は、自分でできるかどうかの見極めには、はっきりとした目安があります。それが「戸籍の通数」と「相続人のパターン」です。この記事では、その境目を数字で示したうえで、自分で進める場合の実際の手順、つまずきやすいポイント、そして専門家の力を借りたほうがよいケースを、行政書士監修のもと中立的な立場で解説します。
📋 30秒でわかる結論
- 相続人が配偶者と子だけで、戸籍が10通程度に収まるなら、自分で完了できる可能性が高い
- 兄弟姉妹が相続人になる、または代襲相続が発生している場合は、戸籍が20〜50通規模に増え、負担が一段重くなる
- 2024年4月から相続登記は義務化されており、正当な理由なく放置すると過料の対象になり得る(詳細は本文で)
- 迷ったら、まず本文の判定表とセルフチェックで自分の状況を確認するのが近道
不安の正体は、たいてい「情報がないこと」そのものです。戸籍が何通必要になるのか分からないまま役所に通うのは心細いものですし、逆に「専門家に頼んだら実際は自分でもできる作業だった」と後から知るのも、費用の面で心残りが残ります。だから、この記事では「戸籍の通数」という具体的な物差しを使って、自分でできる範囲と、専門家に任せたほうがよい範囲を、できるだけ数字で線引きしていきます。
戸籍の通数で分かる、自分でできる/できないの境目
相続手続きの負担は、遺産の金額そのものよりも「戸籍を何通集めなければならないか」に大きく左右されます。戸籍の通数は、被相続人の家族構成や本籍地の移動履歴によって決まり、パターンによっては数通で済むこともあれば、数十通に及ぶこともあります。
特に負担が重くなるのは、兄弟姉妹が相続人になるケースです。この場合、被相続人自身の戸籍に加えて、被相続人の父・母それぞれの出生から死亡までの戸籍もすべて必要になります。行政書士事務所などの実務解説では、このパターンで戸籍が50通近くにのぼることもあると紹介されており、通数の桁が一段変わる点は覚えておいて損はありません。
自分で相続手続きを進める場合の実際の流れ
戸籍の通数が少なく、自分で進められそうだと分かったら、次は実際の手順です。相続手続きは大きく分けて次の5ステップで進みます。全体像を先につかんでおくと、途中で迷いにくくなります。
戸籍の収集
被相続人の出生から死亡までの戸籍一式(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本)と、相続人全員の現在の戸籍を集める
相続人の確定
集めた戸籍から、誰が法定相続人にあたるかを確定する。前婚の子・認知した子・養子などの見落としに注意
相続財産の調査
不動産・預貯金・証券などをリストアップし、誰が何を相続するかを話し合う土台を作る
遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意内容を書面にする。相続人全員の実印での押印と印鑑証明書の添付が前提になる
名義変更の手続き
法務局へ相続登記を申請する、または、とりあえずの措置として相続人申告登記を行う(違いは次章で解説)
相続手続き全体でやるべきことをもれなく確認したい方は、相続でやることチェックリストもあわせてご覧ください。銀行口座の解約や税務署への申告など、戸籍・登記以外の手続きも含めた全体像を確認できます。
相続登記の義務化と相続人申告登記を正しく理解する
自分で手続きを進めるうえで、必ず押さえておきたいのが2024年4月1日に始まった相続登記の申請義務化です。「知らずに放置していた」という状態を避けるために、期限と過料の仕組みを正確に理解しておきましょう。
⚠️ 相続登記の期限を必ず確認してください
相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になり得ます。義務化の施行日(2024年4月1日)より前に発生した相続についても、2027年3月31日までに申請が必要です。ただし、いきなり過料が科されるわけではありません。登記官が未了を把握した場合は、まず相当の期間を定めて申請を促す催告が行われ、それでも正当な理由なく応じない場合に、管轄の地方裁判所へ通知される、という段階を踏みます。
「相続人が多くてすぐには決まらない」「遺産分割の話し合いに時間がかかりそう」という場合の受け皿として用意されているのが相続人申告登記です。正式な相続登記とは別物で、あくまで「とりあえずの措置」である点を理解して使う必要があります。
相続人申告登記だけをして安心してしまうと、遺産分割が成立した後の対応を忘れがちです。遺産分割協議がまとまったら、そこから改めて3年以内に、本来の相続登記を申請する義務が発生します。義務化への対応そのものを先送りにするとどうなるかは、相続手続きをしなかったらどうなるかで放置のリスクを具体的に整理していますので、あわせてご確認ください。
自分で進めるときにつまずきやすい5つのポイント
戸籍の通数が少なく、書類の準備自体は自分でできそうな場合でも、実務上つまずきやすいポイントがいくつかあります。あらかじめ知っておくだけで、役所や金融機関の窓口で書類を突き返される回数を減らせます。
- 不動産の「地番」と住所を混同する:遺産分割協議書には登記事項証明書の記載と完全に一致する形で不動産を特定する必要があります。日常使っている住所(住居表示)をそのまま書くと、法務局や金融機関で受理されないことがあります。
- 預貯金を「〇〇銀行の預金」とだけ書いてしまう:金融機関名・支店名・預金種別・口座番号まで特定して記載しないと、銀行の窓口で書類を突き返されることがあります。ゆうちょ銀行は記号番号での特定が必要です。
- 実印ではなく認印で押してしまう:遺産分割協議書は相続人全員の実印での押印と印鑑証明書の添付が前提です。認印では金融機関にも法務局にも受理されません。
- 相続人の見落とし:前婚の子・認知した子・養子などは、戸籍を出生までさかのぼって初めて判明することがあります。ここが漏れると、遺産分割協議そのものがやり直しになりかねません。
- 兄弟姉妹の戸籍が広域交付で取れない:2024年3月に始まった戸籍の広域交付制度は、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属であれば最寄りの市区町村窓口でまとめて請求できて便利ですが、兄弟姉妹は請求資格者に含まれません。兄弟姉妹が相続人になるケースでは、これまでどおり本籍地の市区町村に個別に請求する手間が残ります(郵送や代理人請求もできないため、窓口へ本人が出向く必要があります)。
ご自身で戸籍を集め始めたところ、被相続人に離婚歴があり、前婚の間に子がいたことが戸籍謄本で判明した、というケースは珍しくありません。この場合、その子も法定相続人にあたるため、連絡を取って遺産分割協議に加わってもらう必要が生じます。「戸籍の通数が少なそうだから」と自分で進めていても、途中でこうした事実が見つかることがある、という点は知っておくとよいでしょう。
こんな方は、専門家に依頼しなくても大丈夫です
当サイトは特定の専門家への依頼を前提にした案内は行っていません。相続人が配偶者と子だけで対立がなく、戸籍の通数がおおむね10通程度に収まり、不動産も1件程度でシンプルな場合は、専門家に依頼しなくても、ご自身で戸籍収集から相続登記まで完了できるケースが多くあります。費用をかけて依頼する前に、まずはご自身でどこまで進められそうか、上の判定表と次のセルフチェックで確認してみてください。無理にご相談いただく必要はありません。
セルフチェック:自分でできるかどうかを5つの質問で確認
当てはまるものにチェックを入れてみてください
結果の読み方(当てはまった数)
戸籍の通数も少なく、対立もなければ、ご自身で戸籍収集から相続登記まで完了できるケースが多くあります。無理にご相談いただく必要はありません。まずは本文の手順に沿って進めてみてください。
ご自身で進められる部分と、専門家に任せた方がよい部分が混在しています。判定表と照らし合わせて、当てはまる論点だけを確認するのも一つの方法です。
戸籍の通数も相続人の状況も複雑になりやすい組み合わせです。焦って全部を専門家に任せる前に、まずはご自身でどこまで進められるかを本文の判定表で確認し、判断に迷う部分だけを整理してみることをおすすめします。
よくある質問
Q1. 専門家に依頼すると、費用はどれくらいかかりますか?
戸籍収集や相続人調査を行政書士・司法書士に依頼する場合は2万〜5万円程度、遺産分割協議書の作成は3万〜10万円程度、相続登記は司法書士報酬6万〜10万円程度+登録免許税が一般的な目安です(事務所や地域により異なります)。全部を依頼するか自分でやるかの二択ではなく、戸籍収集だけ自分で行い、登記だけを依頼するといった部分的な依頼の仕方もできます。
Q2. まだ何も手をつけていませんが、今から動いても遅くないですか?
相続登記の期限は、不動産の取得を知った日から3年以内です。今日から動き始めれば、多くの場合はまだ十分に間に合います。ただし、義務化の施行日(2024年4月1日)より前に発生した相続は2027年3月31日が期限になりますので、該当する方は早めに着手することをおすすめします。
Q3. 自分でやってみて、途中で難しいと感じたら専門家に頼めますか?
はい、途中からの依頼も可能です。戸籍収集までは自分で済ませ、遺産分割協議書の作成や相続登記の部分だけを専門家に依頼する、という進め方もよく行われています。「最初から全部頼むか、最後まで全部自分でやるか」で悩む必要はありません。
Q4. 相続人申告登記さえしておけば、手続きは終わりですか?
いいえ。相続人申告登記は登録免許税ゼロで手軽に行える一方、不動産の売却や担保設定はできません。遺産分割が成立した後は、改めて3年以内に本来の相続登記を申請する義務が発生します。あくまで「とりあえずの措置」であることを踏まえて利用してください。
Q5. 相続人同士で意見が分かれていても、自分で進められますか?
戸籍収集や書類作成そのものは自分でも進められますが、遺産分割の話し合いがまとまらない場合は、専門家(弁護士等)の関与が必要になることがあります。対立の度合いが気になる方は、無料のもめる相続リスク診断でご自身の状況を先に整理しておくのも一つの方法です(登録不要・3分程度)。
まとめ|まずは戸籍の通数で自分の状況を確認する
相続手続きを自分でできるかどうかは、遺産の金額よりも「戸籍の通数」と「相続人のパターン」で見極めるのが実務的です。配偶者と子だけのシンプルな相続なら自分で完了できる可能性が高く、兄弟姉妹が相続人になる、または代襲相続が発生している場合は、戸籍の負担が一段重くなります。あわせて、2024年4月から相続登記が義務化されている点も忘れずに押さえておきましょう。近隣の相談先を具体的に知りたい方は、愛知県の相続相談先マップで市区町村ごとの窓口を確認できます。
本記事は提携行政書士監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載情報は作成時点の公開情報に基づきます。最新の受付状況・料金は各事務所・機関にご確認ください。なお、提携事業者をご紹介する場合、当社が紹介料を受け取ることがあります。