信託銀行の窓口で「遺言信託」のパンフレットを渡された。担当者からは「手数料は財産額の1〜2%程度です」と説明されたが、家に帰って読み返すと、「基本手数料」「保管料」「執行報酬」と項目が並び、結局トータルでいくらになるのか、いまひとつつかめない――。そんな状態のまま、契約するかどうか迷っている方は少なくありません。
⏱ 30秒でわかる結論
- 信託銀行の「遺言信託」は、①契約時の基本手数料(30万円台〜110万円程度)、②年間保管料(5千円台〜6,600円程度)、③遺言執行時の執行報酬(最低30万円台〜165万円程度+遺産額に応じた料率加算)という3階建ての手数料構造です
- 大手信託銀行5社を比較すると、遺産3,000万〜1億円のケースで総額の目安はおおむね190万円台〜300万円程度になります(銀行・プランにより差があります)
- 公正証書遺言+士業(行政書士・司法書士等)による遺言執行を組み合わせた場合、執行報酬の相場は遺産額の1〜3%程度+公証人手数料が目安で、低めに収まるケースもありますが、料率次第では信託銀行の総額に近づくこともあります
- どちらが向いているかは、財産の内容や相続人関係、求める安心感によって変わります。本記事で総額を並べて比較できるようにしました
「手数料が高そう」という漠然とした不安の正体は、実は金額の大きさそのものより、基本手数料・保管料・執行報酬という3つの項目がどう積み上がって、最終的に何十万・何百万円になるのかが見えないことにあります。だから、この記事では、主要な信託銀行5社の手数料を公式サイトの一次情報から並べ、遺産3,000万・5,000万・1億円のケースで総額がいくらになるかを具体的に計算し、公正証書遺言+士業執行という選択肢とあわせて比較できるようにしました。
信託銀行の「遺言信託」手数料はいくら?主要5社の料率を比較
「遺言信託」は法律上の商品名ではなく、信託銀行各行が独自に提供する「遺言書の保管+遺言執行の引受」サービスの呼び名です。多くの銀行が、①契約時の基本手数料、②毎年の保管料、③実際に遺言を執行する際の執行報酬、という3段階の手数料体系を採用しています。以下は、2026年7月時点で各行の公式サイト(手数料ページ)に掲載されている内容を確認したものです。
次に、実際に遺言を執行する段階でかかる「執行報酬」です。多くの銀行が、財産の種類に応じた料率制と、最低金額の両方を設定しています。
各行に共通する傾向として、グループ会社の預金・有価証券など「提携資産」には低い料率(0.22〜0.33%程度)を設定し、それ以外の不動産などの「その他財産」には相対的に高い料率(1%台〜2%台)を設定する二段構えになっています。実際の負担額は、財産の内訳によって大きく変わります。掲載した数字は変更される場合があるため、契約前に必ず最新の手数料表を各行に確認してください。
生前の財産管理として、信託銀行の商品ではなく家族間で契約する「家族信託」と比較検討したい方は、家族信託の費用相場はいくら?愛知県内の目安と内訳もあわせてご覧ください。
遺産3,000万・5,000万・1億円では総額いくら?シミュレーション
手数料の構造がわかったところで、実際の金額をシミュレーションしてみます。信託銀行側は、公式サイトの情報が整理しやすい三菱UFJ信託銀行の「100万円プラン」を例に計算しています(他行の料率は前掲の比較表をご覧ください)。士業側は、遺言執行者報酬の相場(遺産額の1〜3%程度)、公証人手数料、遺言書作成のサポートを専門家に依頼する場合の実費(7万〜15万円程度)を合計した目安です。
信託銀行側は三菱UFJ信託銀行「100万円プラン」の料率で計算した一例で、年間保管料(数千円程度)は含んでいません。士業側は執行報酬を遺産額の1〜3%として幅を持たせ、公証人手数料(2025年10月改定後の金額)と、遺言書作成サポートを依頼する場合の実費(自分で下書きすれば不要)を合計しています。料率次第では、士業依頼の総額が信託銀行の総額に近づく、またはケースによっては上回ることもあります。金額の大小だけでなく、対応してくれる業務の範囲やサポート体制も含めて比較することが大切です。
相続手続き全体の流れをあらためて確認したい方は、相続でやることチェックリストもご覧ください。
公正証書遺言+士業(行政書士・司法書士等)による遺言執行の内訳
信託銀行を使わない場合、費用は大きく「①公正証書遺言の作成費用」と「②遺言執行者への報酬」の2つに分かれます。①はさらに、公証役場に支払う公証人手数料(全国一律の法定額)と、遺言書の文案作成を専門家に依頼する場合のサポート費用に分かれます。
公証人手数料は、目的財産の価額に応じて日本公証人連合会が定める金額です。2025年10月の政令改正で見直しが行われており、目安は以下のとおりです(遺産額1億円以下の場合、遺言加算13,000円が別途加算されます)。
遺言執行者への報酬は、法律で定められた金額はなく、依頼先が自由に設定できます。一般的には「遺産額の1〜3%程度」を目安とする事務所が多く、たとえば「遺産300万円超3,000万円以下は1%+30万円、3,000万円超3億円以下は0.5%+54万円」といった逓減型の報酬体系を採用する事務所や、遺産総額に応じた定額報酬(1,000万円未満で25万円程度など)を設定する事務所もあります。遺言書の文案作成を専門家に依頼する場合のサポート費用の相場は、司法書士・行政書士でおおむね7万円〜15万円程度です(ご自身で下書きを用意すれば不要です)。数字はあくまで一般的な目安であり、事務所により大きく異なるため、契約前に必ず個別の見積りを確認してください。
公正証書遺言の費用の内訳をさらに詳しく知りたい方は公正証書遺言の費用・手数料はいくら?財産額別の目安と追加費用の落とし穴を、遺言執行者を誰にすべきか迷っている方は遺言執行者は誰にする?専門家に頼むメリット・デメリットと選び方をご覧ください。
「遺言信託」という商品の仕組み — 銀行はどこまで引き受けるのか
信託銀行が引き受けるのは、遺言書の保管と、亡くなった後の遺言執行という「役割」です。ただし、実際に不動産の名義変更(相続登記)を行う業務は、法律上、司法書士・弁護士の独占業務とされており、銀行自身が直接行うことはできません。したがって、遺言信託を契約した場合も、登記など一部の実務は提携する司法書士へ別途委託されるのが一般的です。相続人間で意見の対立が生じた場合は、弁護士へ引き継がれることもあります。
つまり「銀行に頼めば、相続に関する手続きがすべて一括で完結する」というよりは、銀行が窓口として長期間にわたる保管・進行管理の役割を担い、実務の一部を専門家に振り分ける仕組みだと理解しておくと、実態に近いイメージが持てます。この役割分担そのものが良い・悪いという話ではなく、「誰が、どこまでを引き受けてくれるサービスなのか」を契約前に確認しておくことが大切です。
遺言と資産全体の対策をあわせて検討したい方は、公正証書遺言を作る前に知っておきたい4つの盲点|遺留分・代償金・納税もご覧ください。
遺言信託を検討されている方からのご相談で多いのは、「銀行の担当者に勧められるまま契約を進めていたが、想定より執行報酬が高くなりそうで不安になった」というケースです。契約時に示される料率表は、財産の一部が「提携資産(その銀行に預けている預金等)」かどうかで大きく変わります。契約前に、ご自身の財産構成にあてはめてシミュレーションしてもらうことを強くおすすめします。
一方で、次のような状況では、信託銀行への遺言執行の依頼(または士業への執行依頼)自体が、必ずしも必要ない場合もあります。
- 相続人が少なく関係が良好で、遺言の内容もシンプル(特定の相続人に多く残す、相続人以外に渡すといった複雑な事情がない)
- 遺産の大半が預貯金で、不動産や自社株など手続きが煩雑になりやすい財産が少ない
- 手続きを取りまとめられる家族(配偶者や子など)が身近にいる
このような場合は、自筆証書遺言書保管制度(法務局)の利用や、遺言執行者を家族に指定する形でも十分に対応できることがあります。無理に大きな手数料をかける必要はありません。該当が少ない方は、ご相談いただかなくても、ご自身で手続きを進められる可能性が高い状況です。
30秒セルフチェック:信託銀行と士業、どちらの検討が向いている?
次のうち、当てはまるものはいくつありますか。数えてから、下の「結果の読み方」をご覧ください。
結果の読み方(当てはまった数)
無理に大きな手数料をかける必要はありません。自筆証書遺言書保管制度や、公証役場への直接相談も選択肢になります。
信託銀行・士業のどちらが向いているか、無料の生前対策診断でご自身の状況を整理してみましょう。
まずは診断で状況を整理したうえで、信託銀行・士業それぞれに見積りを取って比較することをおすすめします。
状況を整理したい方は、この記事の中盤でご案内している相続税・生前対策かんたん診断もあわせてご活用ください。
※目安を示すものです。該当が少ない方は、無理にご相談いただく必要はありません。
よくある質問
Q1. 手数料が高いから、遺言信託はやめておいた方がいいですか?
一概には言えません。銀行が窓口として長期間にわたり保管・進行管理を担う安心感を評価する方にとっては、相応の対価と言えます。一方で、費用を抑えたい場合は、公正証書遺言+士業への執行依頼という選択肢も含めて比較検討することをおすすめします。金額だけでなく、対応してくれる業務の範囲や相談のしやすさも含めて判断してください。
Q2. まだ元気なので、今すぐ決める必要はないのでは?
遺言信託・公正証書遺言のいずれも、判断能力があるうちにしか契約・作成ができません。急いで結論を出す必要はありませんが、「まだ早い」と先延ばしにしているうちに、判断能力に関わる問題が生じてしまうケースもあります。情報収集や手数料の比較だけでも、早めに始めておくと安心です。
Q3. 家族に「お金の話」を切り出しにくいのですが。
多くの方が同じように感じています。まずはご自身で無料の生前対策診断を使って、財産状況や必要な対策の方向性を整理しておくと、家族に相談する際の材料になり、話を切り出しやすくなります。
Q4. 信託銀行に依頼すれば、相続手続きはすべて一括で終わりますか?
遺言の保管・執行の引受は行いますが、不動産の相続登記は司法書士・弁護士の独占業務のため、銀行自身では完結できず、提携先の専門家に別途委託されるのが一般的です。「すべて一括」というより、銀行が窓口・進行管理を担う仕組みだと理解しておくと実態に近いです。
Q5. 士業に遺言執行を依頼した場合、報酬は必ず遺産額の1〜3%ですか?
あくまで目安であり、事務所や財産構成によって異なります。定額制を採用する事務所もあれば、財産額に応じた逓減型の料率を設定する事務所もあります。契約前に必ず見積りを確認してください。
まとめ|金額だけでなく「誰が、どこまで引き受けるか」で比較を
信託銀行の「遺言信託」は、基本手数料・保管料・執行報酬の3階建てで、遺産3,000万〜1億円のケースではおおむね190万円台〜300万円程度が目安になります。公正証書遺言+士業執行では、執行報酬の相場(遺産額の1〜3%程度)と公証人手数料をあわせて考える必要があり、金額の幅は信託銀行より広くなります。どちらが向いているかは、財産の内容や相続人関係、そして「誰に、どこまで任せたいか」という安心感の求め方によって変わります。まずはご自身の財産状況を整理し、複数の選択肢を並べて比較することから始めてみてください。
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本記事は司法書士 今井裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載している信託銀行各社の手数料は2026年7月時点で各行公式サイト等にて確認した内容ですが、料率・金額は予告なく変更される場合があります。公証人手数料は2025年10月の政令改正後の金額を掲載していますが、こちらも最新情報を日本公証人連合会・最寄りの公証役場にご確認ください。士業への依頼費用は事務所により異なるため、必ず個別に見積りを取得してください。