親の借金が分かり、相続放棄をしたい。自分で書類をそろえる自信がないので司法書士に頼みたいけれど、いくらかかるのか、誰が払うのか、どこまでやってもらえるのかが分からない。そんな方に向けた記事です。
相続放棄を司法書士に頼む費用は、事務所ごとに決まる「報酬」と、誰が出しても同じようにかかる「実費」の2つに分かれます。実費は、収入印紙800円(1人につき)、連絡用の郵便切手、戸籍の取り寄せ代などです。この記事では、費用の内訳、家族の人数で変わる部分、費用を誰がどのお金で払うか、司法書士に頼める範囲と本人に残る作業、法テラスの書類作成援助、見積もりで確かめる質問を、2026年10月時点の裁判所と法テラスの案内をもとに整理します。
先に結論:費用は「報酬+実費」。払うのは放棄する本人で、故人の預金は使いません
この記事の結論
- 報酬:司法書士の報酬は事務所ごとに決めています。全国で決まった額はないので、同じ条件で見積もりを取って比べます。
- 実費:収入印紙800円(放棄する人1人につき)、連絡用の郵便切手(名古屋家庭裁判所は550円分)、戸籍や住民票の手数料、郵送料です。自分で出しても司法書士に頼んでも同じようにかかります。
- 払い方と範囲:費用は放棄する本人が自分のお金で払います。亡くなった方の預金から払うと、遺産を使ったとみなされるおそれがあります。司法書士が作るのは書類で、家庭裁判所からの照会書に答えるのは本人です。
司法書士と弁護士のどちらに頼むかで迷っている方は、相続登記・相続放棄は司法書士と弁護士どっち?に手続き別の早見表があります。愛知県内の事務所が公開している料金の例も、そこにまとめています。この記事は「司法書士に頼むとき、費用の中身をどう見て、どう払うか」に絞ります。
費用の内訳|報酬と実費を分けて見る
見積もりを見るときは、報酬と実費を分けて考えると比べやすくなります。実費は家庭裁判所や市区町村が決める額なので、事務所によって大きくは変わりません。差が出るのは報酬の部分です。
実費のうち、いちばん読みにくいのが戸籍の通数です。子が放棄するなら亡くなった方の死亡が書かれた戸籍で足りますが、兄弟姉妹が放棄するなら、出生から死亡までのすべての戸籍が要ります(裁判所の案内)。立場ごとの書類は相続放棄を郵送でする手順の表で確かめられます。
自分でするか、司法書士に頼むかの分かれ目
相続放棄は自分でも申し立てられます。その場合にかかるのは、上の表の実費だけです。報酬を払ってでも頼む価値が出やすいのは、次のような場面です。
- 集める戸籍が多い:兄弟姉妹や甥・姪が放棄するときは、出生から死亡までの戸籍を何か所からも取り寄せることがあります。
- 3か月を過ぎている:借金を後から知った事情などを、書面で筋道立てて説明する必要があります。
- 平日に動けない、本籍地が遠い:戸籍の請求や家庭裁判所との連絡に時間を割けないときです。
逆に、子が放棄して必要な戸籍が少なく、期限にも余裕があるなら、自分で申し立てやすい手続きです。自分で進めるときの判定表と段取りは相続放棄を自分でする手順にまとめています。迷うときは、まず見積もりを取り、実費との差額を見て決めると納得しやすくなります。
家族の人数で費用はどう変わる?
相続放棄は、放棄する人が1人ずつ申し立てる手続きです。家族で同じ方について放棄するときは、人数分かかるものと、まとめれば1回ですむものがあります。
たとえば子2人が同時に放棄するなら、収入印紙は800円×2人で1,600円です。亡くなった方の戸籍など共通の書類は1通ですみます。報酬を人数でどう数えるかは事務所で違うので、見積もりのときに「家族2人で頼むといくらか」と聞いてください。兄弟姉妹が放棄するときの書類と分担は、兄弟の相続放棄の必要書類にまとめています。
費用は誰が払う?亡くなった方の預金から払わない理由
司法書士への報酬と実費は、放棄する本人が自分のお金で払います。ここで気をつけたいのが、亡くなった方の口座から払ってしまうことです。
亡くなった方の預金を引き出して使うと、相続を受け入れたとみなされることがあります(民法の単純承認の決まり)。相続放棄のための費用であっても、遺産から払えば「遺産を使った」と見られるおそれがあります。放棄を考えている間は、亡くなった方の口座には手をつけず、自分の財布から払うのが確実です。どんな行為が問題になるかは相続放棄できないケースにまとめています。
- 家族で立て替えるとき:誰がいくら出したかを、メモや振込の記録で残しておきます。あとでお金の話がこじれるのを防げます。
- 領収書は必ずもらう:報酬と実費が分かれた領収書をもらい、相続の書類と一緒に保管します。
- 手元にお金がないとき:下で説明する法テラスの書類作成援助で、費用を立て替えてもらえる場合があります。
司法書士に頼める範囲と、本人がすること
司法書士に頼めるのは、家庭裁判所に出す書類の作成が中心です。代理人として家庭裁判所とやり取りしたり、債権者と交渉したりするのは弁護士の仕事です。法テラスの案内でも、書類作成の援助を受けた後の裁判手続きは本人が行うとされています。
債権者とすでにもめている、3か月を大きく過ぎていて事情の説明が難しい、といった場合は、はじめから弁護士に相談した方が早いことがあります。「放棄の理由」欄や照会書の書き方は相続放棄の理由の書き方で例文を紹介しています。
費用を抑えたいとき|法テラスの書類作成援助
収入や資産が一定以下の方は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を使えることがあります。相続放棄の書類を司法書士や弁護士に作ってもらう費用を、法テラスが立て替える「書類作成援助」です。
援助を受けるには審査があります。利用の流れは法テラスの案内で確かめられます。3か月の期限が近いときは、申し込みの段階で期限がいつかをはっきり伝えてください。
期限から逆算:いつまでに頼めばよいか
相続放棄は、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に申し立てます。見積もりを比べているうちに期限が近づくのが、いちばん避けたい形です。
財産や借金を調べきれず、3か月で決められないときは、期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます。伸長の申立てを頼む場合の料金も、見積もりで聞いておきます。期限の考え方は相続放棄の期限3か月はいつから?で説明しています。
見積もりで確かめる7つの質問
司法書士の報酬は事務所ごとに決まるので、総額だけ見ても比べられません。次の7つを聞くと、同じ条件で比べられます。
- 報酬に何が含まれますか。申述書の作成だけか、戸籍の取り寄せも含むか。
- 家族で頼むと、いくらになりますか。人数ごとの料金か、まとめた料金か。
- 実費は別ですか、込みですか。収入印紙、切手、戸籍代、郵送料の扱い。
- 照会書が届いたとき、どこまで手伝ってもらえますか。書き方の助言が報酬に含まれるか。
- 3か月を過ぎている場合、追加の料金はかかりますか。事情を説明する書類が要るときの扱い。
- 期間の伸長を頼むと、いくらですか。調べが間に合わないときに備えて。
- 支払いはいつですか。依頼時か、申述後か、受理後か。分割に応じるか。
この7つをメモにして、2〜3か所に同じように聞きます。答えが書面でもらえる事務所の方が、あとで食い違いが起きにくくなります。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
今日できる一歩
亡くなった方の住民票除票を取り、自分の立場(子・親・兄弟姉妹)と放棄する家族の人数を紙に書く。その紙を見ながら、上の7つの質問で2か所に見積もりを頼みます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相続放棄を司法書士に頼むと、費用はいくらですか
事務所ごとに決まる報酬に、収入印紙800円(1人につき)、連絡用の郵便切手、戸籍代などの実費が加わります。報酬は全国で決まった額がないので、同じ条件で見積もりを比べてください。
相続放棄の費用は、亡くなった親の預金から払ってもいいですか
避けてください。亡くなった方の預金を使うと、相続を受け入れたとみなされることがあります。放棄する本人が自分のお金で払います。
兄弟2人で放棄します。費用は2倍になりますか
収入印紙は1人800円なので2人で1,600円です。亡くなった方の戸籍など共通の書類は、同時に出せば1通で足ります(裁判所の案内)。報酬の数え方は事務所ごとに違うので、見積もりで確かめます。
司法書士に頼めば、家庭裁判所とのやり取りは全部任せられますか
司法書士に頼めるのは書類の作成が中心です。家庭裁判所からの照会書には本人が答えます。代理人として任せたいときや、債権者ともめているときは弁護士に相談します。
お金がなくても相続放棄を頼めますか
収入と資産が基準以下なら、法テラスの書類作成援助で費用を立て替えてもらえる場合があります。返済は月5,000円〜10,000円程度の分割です(法テラス「民事法律扶助のしおり」)。
自分で相続放棄をすると、いくらかかりますか
実費だけで済みます。収入印紙800円、連絡用の郵便切手(名古屋家庭裁判所は550円分)、戸籍などの手数料、郵送料です。手順は相続放棄を郵送でする手順の記事にまとめています。
参考にした公的情報
- 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 名古屋家庭裁判所「相続放棄の申述」案内資料
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/04kajibu/05/02souzokuhouki.pdf - 名古屋家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年4月1日~)」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/R8.4yuubinkitteoyobiyonoukinichiran.pdf - 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/souzoku4/index.html - 法テラス「民事法律扶助のしおり」
https://www.houterasu.or.jp/uploaded/attachment/7483.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。司法書士・弁護士の報酬は事務所ごとに異なります。郵便切手の額や戸籍の手数料は、家庭裁判所・市区町村ごとに異なり、変わることがあります。法テラスの基準は改定されることがあるため、利用の前に法テラスでご確認ください。期限が迫っている場合や事情が複雑な場合は、司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
