父が亡くなり、実家で母が一人暮らしになった。通帳やキャッシュカードは母が持っていて、暗証番号を知っているのは母だけ。「もしものとき、子どもがお金を出せるようにしておいた方がいいのでは」と考える方は少なくありません。
ただ、親の預金はあくまで親のものです。家族が暗証番号を聞いて引き出す方法には、思わぬリスクがあります。この記事では、通帳・カード・暗証番号の扱い、金融機関の代理人のしくみ、詐欺への備えを、2026年10月時点の公的な情報をもとに整理します。
先に結論:本人名義のまま、本人の意思で動かすのが基本です
この記事の結論
- 暗証番号は聞かない:家族が暗証番号を聞いて引き出すと、盗難の補償が受けられない、きょうだいに疑われるなどの問題が起きやすくなります。
- 手伝うなら正式な方法で:親が元気なうちなら、金融機関の代理人カードや代理人の届け出が使える場合があります。条件は金融機関ごとに違います。
- 詐欺への備えは「渡さない・教えない・話さない」:電話や訪問で警察官や銀行員を名乗り、暗証番号を聞いたりカードを預かろうとしたりするのは、詐欺の手口です。電話の設定も一緒に見直します。
残った親のお金と、その先の相続(二次相続)の全体像は、親の一人が亡くなったら確かめる5つにまとめています。この記事は、日々のお金の管理に絞ります。
家族が手伝える方法の早見表
「家族がお金を出す」といっても、方法によって使える場面が違います。大きく分けると、親が自分で判断できるうちに使う方法と、判断が難しくなってから使う方法があります。
認知症になる前に家族で話し合っておきたいことは、親のお金の管理|認知症になる前に決めたい5つでも取り上げています。
通帳・カード・暗証番号で、家族がしてはいけないこと
親を思っての行動でも、あとで困る形になることがあります。ここでは一般的なリスクを挙げます。
暗証番号を聞いて、親のカードで引き出す
キャッシュカードの規定では、暗証番号は他人に知られないよう管理することが求められています。たとえば三菱UFJ銀行の規定は、カードが盗まれた場合の補償について、配偶者・二親等内の親族・同居の親族などによる払戻しを、補償しない場合の一つに挙げています(銀行が善意・無過失であることなどが条件)。暗証番号を他人に知らせることも、預金者の重い過失として補償が受けられない典型例とされてきました。
つまり、家族の間で番号を共有していると、いざ被害にあったときに守られにくくなります。
親の預金を、子どもの口座へ移しておく
「凍結される前に移しておこう」と考える方もいます。ただ、名義を変えたお金は、形の上では子どものお金になります。贈与とみなされて税金の問題になったり、亡くなった後に「誰のお金か」で争いになったりします。税金の扱いは個別に変わるため、税務署や税理士に確かめてください。
記録を残さずに、親のお金を使う
親のために正しく使っていても、領収書がないと説明できません。相続のとき、きょうだいから「使い込み」を疑われるもとになります。親のお金を動かしたら、日付・金額・使いみちを書き、領収書を残します。
通帳やカードを、人に貸す・譲る
警察庁は、通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡すことは犯罪だと注意を呼びかけています。「口座を貸してくれたらお礼をする」といった誘いは、親にも子にも断ってもらいます。
金融機関の代理人のしくみと、全国銀行協会の考え方
金融機関には、本人に代わって家族が取引できるしくみを用意しているところがあります。代表的なのが「代理人カード」です。本人のカードとは別に、代理人用のカードと暗証番号を作ります。例として、公式に案内されている内容を挙げます(どちらかを勧めるものではありません)。
- ゆうちょ銀行:総合口座1つにつき、本人カードと代理人カードの2枚まで。代理人カードは預金者1人につき1枚まで。窓口で申し込みます(公式FAQ)。
- 三菱UFJ銀行:キャッシュカード規定で、代理人は「本人と生計をともにする親族1名に限ります」としています。本人が代理人の氏名と暗証を届け出ます。
このように、誰が代理人になれるか、何ができるかは金融機関で違います。別に暮らす子どもが代理人になれない場合もあります。申し込みは親本人が行うのが基本で、親の口座がある金融機関の窓口で確かめます。
親の判断が難しくなったときの扱い
全国銀行協会は2021年2月に「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しました。要点は次のとおりです。
- 本人の判断が難しくなったときは、成年後見制度の利用を求めるのが基本。
- 後見を使っていない(使えない)場合に、親族からの払出しに応じるのは「極めて限定的な対応」。
- 応じるのは、本人の医療費の支払いなど、本人の利益に合うことが明らかな場合に限る、という考え方。
- 会員の銀行に一律の対応を求めるものではない。
「家族なら必ず引き出せる」わけではありません。請求書や領収書など、親のための支払いだとわかる書類を求められることがあります。後見の手続きの流れは成年後見の申立ての手順で整理しています。親が認知症になったとき、口座がどの段階で止まるのかは認知症で銀行口座はどうなる?にまとめています。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
詐欺への備え:電話の設定と相談先
一人暮らしになると、電話や訪問に一人で対応する場面が増えます。政府広報オンラインは、「暗証番号を教えて」「キャッシュカードを預かる、交換する」など、電話でお金やカードの話が出たら全て詐欺だと呼びかけています。全国銀行協会も、協会の職員がカードのことで電話をかけたり、訪問してカードを預かったりすることはないと案内しています。
警察庁が挙げる手口には、口座が犯罪に使われていると告げてカードを渡させる「預貯金詐欺」、隙をみてカードを盗む「キャッシュカード詐欺盗」、警察官を名乗る「ニセ警察詐欺」、ATMで送金させる「還付金詐欺」などがあります。最近の手口は高齢者を狙う詐欺の手口2026にまとめています。
このほか、番号表示・非通知拒否のサービスや、自動で録音・警告する防犯機能付きの電話も、警察庁が対策として挙げています。犯人と話をしないことが一番の備えです。愛知県内の金融機関には、70歳以上などでATMの振込に制限をかけるところもあります。くわしくは70歳以上のATM振込・引き出し制限をご覧ください。
家族で決める手順と、持ち物チェックリスト
親が元気なうちに、次の順で進めるとまとまりやすくなります。決めるのは親本人で、子どもは手伝う立場です。
- 口座の一覧を作る。金融機関名・支店・使いみち(年金の受取り、公共料金の引落しなど)を書き出します。暗証番号は書きません。
- 口座を整理するか話す。使っていない口座は、親が元気なうちに解約しておくと、管理も相続の手続きも軽くなります。
- 保管場所を決める。通帳・カード・届出印を別々の場所に置くか、家族の誰が場所を知っておくかを決めます。
- 代理のしくみを確かめる。親と一緒に金融機関に問い合わせ、代理人カードや代理人の届け出の条件を聞きます。
- 電話の設定を見直す。番号表示・非通知拒否、国際電話の受付停止、留守番電話の設定を確認します。
- 記録のルールを決める。家族が親のお金を扱ったら、ノートに日付・金額・使いみちを書き、領収書を貼ります。きょうだいにも共有します。
代理人カードなどを問い合わせるときの持ち物チェックリスト
- □ 親本人の通帳またはキャッシュカード
- □ 届出印(口座を作ったときの印鑑)
- □ 親本人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- □ 代理人になる家族の本人確認書類
- □ 家族関係や同居がわかる書類(求められた場合)
- □ 親本人が行けないときの委任状(金融機関の様式があるか事前に確認)
必要なものは金融機関で違います。出かける前に電話で確かめると二度手間になりません。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、通帳や書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
期限と、遅れたときに困ること・損しやすい点
お金の管理の準備に、法律で決まった期限はありません。ただ、実際には「親が自分で判断できるうちに」が事実上の期限です。代理人カードの申込みや代理人の届け出は、親本人の意思で行う手続きです。判断が難しくなってからは、新しく始めにくくなります。その後は、後見の手続きや、金融機関の例外的な扱いに頼ることになります。
カードの盗難に気づいたら、すぐに金融機関へ連絡します。三菱UFJ銀行の規定の例では、補償の対象は通知した日の30日前の日以降の払戻しで、盗まれた日から2年を過ぎて通知した場合は補償の規定が使えません。
- 代理人カードは「元気なうち用」。親の判断が難しくなった後の扱いは金融機関に確かめておきます。認知症対策の決め手にはなりません。
- 口座が多いほど管理が大変。年金の受取り口座と引落し口座をまとめると、家族も把握しやすくなります。
- 暗証番号のメモをカードと一緒に置くと、盗まれたときに補償で不利になることがあります。
- きょうだいへの説明が後回しになると、相続のときにもめるもとになります。誰が何を手伝っているかを共有します。
- まとまったお金の引き出しや送金を急かされたら、親が一人で決めずに家族へ連絡するよう約束しておきます。
判断能力に不安がある方の日々のお金の出し入れを、社会福祉協議会が手伝う「日常生活自立支援事業」というしくみもあります。家族が遠方の場合の選択肢の一つで、利用料や条件は地域の社会福祉協議会に確かめます。
今日できる一歩
親に電話をして、「銀行や警察を名乗る電話でカードや暗証番号の話が出たら、切ってから私に電話して」と一言伝える。あわせて、通帳がある金融機関の名前だけを紙に書き出してもらう(暗証番号は書かない)。
よくある質問
親から暗証番号を教えられました。どうすればいいですか
メモに残さず、使わないのが無難です。親の代わりに出し入れが必要なら、代理人カードなど金融機関の正式な方法を一緒に確かめます。親に暗証番号を変えてもらう方法もあります。
離れて暮らす子どもでも代理人カードを作れますか
金融機関によります。三菱UFJ銀行のように「本人と生計をともにする親族1名」に限る例もあります。親の口座がある金融機関に、親と一緒に問い合わせてください。
親が入院し、医療費を親の口座から払いたいです
親が自分で判断できるなら、親の意思で手続きするのが基本です。判断が難しい場合、全国銀行協会の考え方では、医療費など親のためと明らかな支払いに限って、親族の依頼に応じることが考えられるとしています。請求書を持って金融機関に相談します。対応は金融機関ごとに違います。
親の通帳を子どもが預かっておいてもいいですか
親が納得していれば、保管を手伝うこと自体はよくあります。ただ、預かった後に親のお金を動かすなら、記録と領収書を残します。きょうだいにも預かっていることを伝えておくと、あとの誤解を防げます。
詐欺の電話かどうか、その場で見分けられません
見分けようとせず、電話を切るのが安全です。電話でお金・カード・暗証番号の話が出たら詐欺と考える、と決めておきます。迷ったら#9110か、家族に電話します。
参考にした公的情報
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月18日)
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/ - 警察庁「SOS47 手口一覧と今日からできる対策」
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/case/ - 政府広報オンライン「電話でお金の話は詐欺!親子のコミュニケーションで注意喚起を!」
https://www.gov-online.go.jp/article/202102/entry-10899.html - 消費者庁「消費者ホットライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/ - ゆうちょ銀行 よくあるご質問(代理人カード)
https://faq.jp-bank.japanpost.jp/faq_detail.html?id=11201 - 三菱UFJ銀行「キャッシュカード規定」
https://www.bk.mufg.jp/regulation/cashcard_ms.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関・金融機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。代理人のしくみや必要書類、補償の条件は金融機関ごとに異なります。実際の手続きは取引先の金融機関でご確認ください。金融機関名は例として挙げたもので、特定の金融機関を勧めるものではありません。医療や介護についての判断は、医師や地域包括支援センターなどにご相談ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
