父が亡くなり、母と子どもたちで遺産の分け方を話し合っている。「母に全部」が自然に思える一方で、「次の相続で税金が増える」と聞いて迷う。そんなご家族は少なくありません。
この記事では、先に亡くなった親の相続(一次相続)の分け方で、残った親の相続(二次相続)の税金がどう変わるかを整理します。国税庁の速算表を使った一般例で比べ、残った親の暮らしとの兼ね合いと、分ける前に確かめることをまとめました。数字は2026年10月時点の国税庁の公開情報で確認しています。個別の税額の計算はしていません。
先に結論:二次相続まで通して、暮らしと税を両方見る
この記事の結論
- 分け方で合計の税金が変わる:残った親に多く渡すと一次相続の税は軽くなりますが、二次相続で重くなることがあります。2回分の合計で比べます。
- 「全部を親に」が一番少ないとは限らない:下の一般例では、親に4分の1を渡す形が合計で最も少なく、全部を渡す形の半分以下でした。
- 決め手は数字だけではない:残った親の生活費・住まい・介護のお金を先に確保し、その上で税を比べます。分ける前に税理士に試算を頼むのが確実です。
なぜ分け方で二次相続の税金が変わるのか
理由は3つです。一つ目は、一次相続で残った親が受け取った分が、親自身の財産に上乗せされることです。その合計が、二次相続で子どもに渡ります。
二つ目は、配偶者の税額軽減が二次相続では使えないことです。この軽減は、配偶者が受け取った分のうち、1億6千万円か法定相続分のどちらか多い額までは税がかからない仕組みです(国税庁タックスアンサーNo.4158)。使える条件や申告の流れは配偶者の税額軽減とはにまとめています。二次相続では亡くなる親に配偶者がいないため、使う人がいません。
三つ目は、相続人が1人減って基礎控除が小さくなることです。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(同No.4152)。子2人の家なら、一次相続は4,800万円、二次相続は4,200万円になります。相続税は財産が多いほど税率が上がるので、二次相続にまとめて渡るほど高い税率がかかりやすくなります。
二次相続の全体像は、二次相続とは?親の一人が亡くなったら確かめる5つにまとめています。この記事では「一次相続をどう分けるか」に絞ります。
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国税庁の速算表で比べる一般例:5通りの分け方
ここからは、仕組みをつかむための一般例です。ご家庭の税額を示すものではありません。前提は次のとおりです。
- 家族:父が先に亡くなり、相続人は母と子2人。母が亡くなったときの相続人は子2人。
- 財産:父の財産は1億円(借入や葬式費用を引いた後の額)。母自身の財産は2,000万円。
- 使う制度:一次相続で配偶者の税額軽減だけを使います。自宅の土地の特例、生命保険の非課税枠、生前の贈与、相次相続控除などは考えません。
- その他:母が受け取った財産は、母が亡くなるまで増えも減りもしないものとします。税率は2026年10月時点の速算表です。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」(速算表)、No.4152「相続税の計算」、No.4158「配偶者の税額の軽減」(2026年10月時点で確認)。
計算の流れ(検算用)
- 一次相続の税の総額:1億円−基礎控除4,800万円=5,200万円。法定相続分で分けたと仮定し、母2,600万円、子は各1,300万円。速算表で母2,600万円×15%−50万円=340万円、子は各1,300万円×15%−50万円=145万円。合計630万円です。
- 実際の取り分で割り振る:630万円を、実際に受け取る割合で各人に割り振ります。母の分は配偶者の税額軽減でゼロになるので、残りを子が納めます。母が2分の1なら、630万円×2分の1=315万円です。
- 二次相続の税:母が2分の1を受け取った例では、2,000万円+5,000万円=7,000万円。基礎控除4,200万円を引いて2,800万円。子は各1,400万円で、1,400万円×15%−50万円=160万円。2人で320万円です。
この例では、母が全部を受け取ると一次相続の税はゼロになります。ただ、二次相続の財産が1億2,000万円にふくらみ、子1人あたりの額に20%の税率がかかる部分が出ます。結果として、2回の合計は最も多くなりました。
一方、母が何も受け取らない形も、合計は最少ではありません。基礎控除を一次相続でしか使い切れず、配偶者の軽減も使わないためです。最も少なかったのは4分の1の形でした。ただし、どこが最少になるかは、財産の額、残った親自身の財産、子の人数で大きく変わります。この例の割合をそのまま当てはめることはできません。
相続税がかかるかどうかの目安は、相続税はいくらから?基礎控除の早見表と目安の出し方で先に確かめておくと、この表の見方がつかみやすくなります。
数字だけで決めない:残った親の暮らしとの兼ね合い
表だけを見ると「親に渡す分は少ないほうがいい」と感じるかもしれません。けれども、残った親がこれから何年、どう暮らすかが先です。考えておきたいのは次の点です。
- 生活費:年金だけで毎月の暮らしが回るか。足りない分を何年分、手元に置くか。
- 住まい:今の家に住み続けるか。修繕や建て替え、住み替えの予定はあるか。
- 介護や施設のお金:将来、施設に入る場合の費用を親自身のお金でまかなえるか。
- 親の気持ち:子に多く渡すことで、親が肩身の狭い思いをしないか。お金の自由を持っていたいか。
また、残った親が受け取った財産は、暮らしの中で少しずつ使われます。使った分は二次相続の財産から減ります。上の例は「増えも減りもしない」前提なので、実際には二次相続の税がもっと小さくなる家もあります。反対に、預金を株や投資信託に移した場合は、値上がりで増えることも、値下がりで元本を割ることもあります。
税を少なくするために親の手元を薄くしすぎると、親の暮らしが不安定になります。「親が安心して暮らせる額」を先に決め、残りの分け方で税を比べる。この順番が、家族の話し合いでも納得を得やすい進め方です。お金の置き場所の考え方は、老後のお金の置き場所|使う・増やす・残すで選ぶで整理しています。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
分ける前に確かめること:手順とチェックリスト
- 亡くなった親の財産を一覧にする。預金、株や投資信託、自宅などの不動産、借入を書き出します。
- 残った親自身の財産も一覧にする。二次相続の財産は「親自身の分+受け取る分」なので、両方が要ります。
- 残った親の暮らしに要るお金を見積もる。年金額、毎月の支出、住まいと介護の予定から、手元に置く額の目安を決めます。
- 自宅を誰が継ぐかを考える。自宅の土地の特例は、配偶者が取得するなら取得する人の要件はありません。子が取得するなら、同居して申告期限まで住み続けるなどの要件があります(国税庁タックスアンサーNo.4124)。二次相続で誰が継ぐかまで見ておきます。
- 税理士に、分け方を何通りか試算してもらう。一次相続と二次相続の合計で比べてもらいます。特例の使い方で結果が変わるため、ここは個別の計算が必要です。
- 家族で話し合い、遺産分割協議書にする。実家を一人が継いで他の相続人にお金を払う形なら、代償分割の遺産分割協議書の書き方も参考になります。
試算を頼む前にそろえるものチェックリスト
- □ 亡くなった親の預金の残高証明書、または通帳のコピー
- □ 証券会社の取引残高報告書
- □ 固定資産税の課税明細書(自宅や土地がある場合)
- □ 借入やローンの残高がわかる書類
- □ 残った親自身の通帳・証券・不動産の資料
- □ 残った親の年金額がわかる書類(年金額改定通知書など)
- □ 遺言書の有無と、ある場合はその写し
- □ 家族構成がわかる戸籍謄本、または法定相続情報一覧図
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、通帳や書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
期限と、過ぎたらどうなるか
二次相続まで考える時間はあっても、一次相続の期限は動きません。主な期限は次のとおりです。
なお、配偶者の税額軽減で税がゼロになる場合でも、軽減を受けるには申告書の提出が必要です(国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」)。期限の数え方は相続税の申告期限10か月の数え方で詳しく扱っています。
損しやすい点
- 一次相続の税だけを見て「全部を親に」と決める。その場の税はゼロでも、二次相続で合計が増えることがあります。
- 税だけを見て、親の手元を薄くしすぎる。生活費や介護のお金が足りなくなると、子が援助することになります。
- あとで分け直せばいいと考える。一度まとまった分割をやり直して財産を移すと、配偶者の税額軽減でいう「分割」に当たらないとされ、贈与として扱われるおそれもあります(国税庁 相続税法基本通達19の2-8)。分ける前に決めることが大切です。
- 自宅の継ぎ手を考えずに分ける。二次相続で子が自宅を取得するとき、土地の特例の要件を満たさないと評価が下がらず、税が重くなることがあります。
- 一般例の割合をそのまま使う。財産の額や家族の人数が違えば、最も少なくなる割合も変わります。
今日できる一歩
- 1枚の紙を縦に2つに分け、左に亡くなった親の財産、右に残った親自身の財産を、大まかな金額で書き出してみましょう。合計が4,200万円(子2人の場合の二次相続の基礎控除)を超えるかどうかが、最初の目安になります。
よくある質問
法定相続分どおりに分ければ安心ですか?
法定相続分は、話し合いがまとまらないときの目安です。必ずその割合で分ける決まりはありません(国税庁タックスアンサーNo.4132)。上の一般例でも、法定相続分の形が税の合計で最少とは限りませんでした。暮らしと税の両方から考えます。
二次相続の税を考えて、親の取り分を減らすのは親に失礼になりませんか?
先に「親が安心して暮らせる額」を一緒に決めておくと、取り分を減らす話にはなりにくくなります。親の生活を守ったうえで、残りをどう分けるかを相談する流れにすると、親も子も話しやすくなります。
一次相続から短い期間で残った親も亡くなったら、税はどうなりますか?
10年以内に相続が続き、一次相続で残った親に相続税がかかっていた場合は、「相次相続控除」で二次相続の税から一定額を差し引けます。差し引ける額は、経過した年数1年ごとに10%ずつ減ります(国税庁タックスアンサーNo.4168)。一次相続で親の税がゼロだった場合は対象になりません。
親が受け取った預金を使えば、二次相続の税は減りますか?
生活費や医療・介護に使った分は、二次相続の財産から減ります。ただし、税を減らす目的で子や孫にお金を渡すと、贈与税や相続税の別の決まりが関係します。渡し方を考えるときは、税理士や税務署に確かめてから進めます。
遺産分割がもう終わっている場合、できることはありますか?
一次相続の分け方は戻せませんが、二次相続の形はこれからの準備で変わります。残った親の財産の一覧づくり、自宅の継ぎ手の相談、遺言の準備などです。どれも、残った親が自分で判断できるうちに進めるものです。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4168「相次相続控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開情報をもとにした一般的な整理です。一般例は記事内の前提による計算で、実際の税額を示すものではありません。特例が使えるかどうか、どの分け方が合うかは、財産の内容やご家族の状況で変わります。分ける前に、税理士や税務署にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
