親の証券口座に、株や投資信託が残っていた。相続税の計算ではいくらと数えるのか、売ったら税金はかかるのか。証券会社の案内も税務署の説明も、別々の場所に書かれていて迷いやすいところです。
この記事では、相続した株・投資信託の「相続税での値段の付け方」と「売るときの税金」を、2026年10月時点の国税庁の案内をもとに順番に整理します。名義を変える手続きそのものは、証券会社ごとの記事で扱っています。
先に結論:評価は「4つの価格」、売るときは親の買値を引き継ぐ
この記事の結論
- 相続税の評価:上場株は「亡くなった日の終値」と「3か月分の月平均」の4つを比べ、いちばん低い価格を使えます。投資信託は基準価額がもとになります。
- 売るときの税金:もうけの計算に使う買値(取得費)は、親が買ったときの値段を引き継ぎます。相続したときの値段ではありません。
- 相続税を払った人:亡くなってから約3年10か月以内に売れば、払った相続税の一部を買値に足せる特例があります。使うには確定申告が必要です。
自分に関係があるか:対象になる人・ならない人の早見表
株や投資信託を相続しても、全員が同じ手続きをするわけではありません。相続税がかかるか、売るかどうかで、気にすることが変わります。
相続税がかかるかどうかの目安は、相続税はいくらから?基礎控除の早見表で確かめられます。
相続税ではいくらと数えるか:上場株・投資信託の評価方法
上場株は「4つの価格」のうち、いちばん低いもの
証券取引所で売買されている株(上場株)は、亡くなった日の終値が基本です。ただし、次の3つの月平均のほうが低ければ、その低い価格を使えます。たまたま亡くなった日に株価が高くても、平均で均せる仕組みです。
相続税の評価額は、選んだ1株の価格に株数を掛けて出します。上の例で1,000株を持っていたなら、1,100円×1,000株=110万円です。4つの価格は銘柄ごとに比べるため、銘柄によって使う月が違うこともあります。
計算には国税庁の「上場株式の評価明細書」を使えます。証券会社に「亡くなった日現在の残高証明書」を頼むと、評価に使う価格を載せてくれる場合もあります。載る内容は会社ごとに違います。
投資信託は「その日に解約したら受け取れる額」
一般的な投資信託は、亡くなった日に解約したと仮定して受け取れる額で評価します。基準価額(1口あたりの値段)に口数を掛け、解約時の税金相当額や信託財産留保額(解約時に差し引かれるお金)、解約手数料を調整して出します。
MMFなど毎日決算をする型は、まだ受け取っていない分配金も足して計算します。取引所に上場している投資信託は、上場株と同じ「4つの価格」の方法で評価します。
上場していない会社の株(家業の会社の株など)は、まったく別の計算方法です。会社の規模や持ち株の割合で方法が変わるため、税理士に相談するのが現実的です。
売るときの税金:親の買値の引き継ぎと取得費加算の特例
もうけの計算は「売った額-親の買値-手数料」
相続した株を売ると、もうけ(譲渡益)に所得税と住民税がかかります。ここで使う買値(取得費)は、相続したときの株価ではありません。親が買ったときの値段と手数料を、そのまま引き継ぎます。
たとえば親が昔100万円で買い、相続後に300万円で売れば、もうけは約200万円です。相続税の評価額が300万円近くでも、買値は100万円のままです。親の買値が分からないときは、売った額の5%を買値とみなすこともできます。ただし、そうすると税金が大きくなりがちです。
親の口座で買値が記録されていても、相続人の口座へ移す方法によっては記録が引き継がれないことがあります。移す先を特定口座にするか、記録がどう移るかは、手続きの前に証券会社へ確認してください。名義変更の流れは野村證券の相続手続きなどの記事で、例として紹介しています。会社を問わない全体の流れは、証券口座の相続手続きにまとめています。
相続税を払った人は「取得費加算の特例」が使えることがある
相続税を払った人が、決められた期間内に相続した株を売ると、払った相続税の一部を買値に足せます。買値が増える分、もうけが減り、売るときの税金が軽くなります。
- 使える人:相続や遺贈で財産を取得し、その人に相続税がかかっていること。
- 期間:亡くなった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(亡くなってから約3年10か月)。
- 足せる額:その人の相続税額×(売った株の相続税評価額÷その人が相続した財産の課税価格の合計など)。売ったもうけが上限です。
- 手続き:確定申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などを付けて出す。
仮の数字で見てみます。ある相続人の相続税が300万円、その人の課税価格の合計が1億円、売った株の評価額が2,000万円なら、足せる額は300万円×2,000万円÷1億円=60万円です。実際の分母には贈与された財産なども入るため、正確な額は税理士か税務署で確かめてください。
手順と必要書類チェックリスト
- 口座と中身を確かめる。取引報告書や郵便物から証券会社を探し、相続人であることを示して残高を照会します。
- 亡くなった日現在の残高証明書を頼む。株数・口数と、評価に使う価格の手がかりになります。銀行預金の分は残高証明書の取り方で整理しています。
- 相続税がかかるか目安を出す。上場株は4つの価格、投資信託は基準価額で評価し、ほかの財産と合計します。
- 親の買値の資料を集める。取引報告書、証券会社の記録(顧客勘定元帳)、親の通帳やメモなどです。
- 誰が何を受け取るか決めて名義を移す。遺産分割協議のあと、相続人の口座へ移します。
- 売るかどうかを決める。売った年の翌年に、確定申告が要るかを口座の種類と特例の有無で確かめます。
- □ 亡くなった日現在の残高証明書(証券会社ごと)
- □ 取引残高報告書・取引報告書(親あての郵便物や電子交付)
- □ 親の買値が分かる資料(取引報告書、顧客勘定元帳の写し、通帳・メモ)
- □ 戸籍謄本一式または法定相続情報一覧図の写し
- □ 遺産分割協議書または遺言書
- □ 相続人の印鑑証明書と、相続人名義の証券口座
- □ 相続税を払った場合は、相続税の申告書の控え(取得費加算の計算に使う)
- □ 売ったあとの年間取引報告書(確定申告に使う)
証券会社が10年分の取引記録を保存していることは国税庁の資料にも書かれています。それより古い分は、親の通帳や名義書換の記録から買った時期を調べ、その時期の株価で計算する方法もあります。戸籍の束の代わりには法定相続情報一覧図が使える場面が多く、何社も回るときに便利です。
期限と、過ぎたらどうなるか
相続税の期限の数え方や、遅れたときの扱いは相続税の申告期限10か月の数え方で詳しく整理しています。取得費加算の特例を使い忘れたまま申告した場合は、早めに税務署か税理士に相談してください。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
損しやすい点
- 「相続時の株価が買値」と思い込む。買値は親のものを引き継ぎます。昔から持っている株ほど、もうけが大きく出やすくなります。
- 買値の資料を探さず5%で計算する。手軽ですが、実際の買値より低いと税金が増えます。証券会社の記録が残っているうちに確かめましょう。
- 源泉徴収ありの口座だから申告不要と決めつける。取得費加算の特例は、確定申告をしないと使えません。
- 約3年10か月の期間を過ぎてから売る。同じ株でも、期間を過ぎると特例の対象外です。
- 値動きのリスクを忘れる。相続税は亡くなった時点の評価で決まり、その後に株価が下がっても相続税は変わりません。持ち続けるか売るかにかかわらず、株や投資信託は値下がりして元本を割ることがあり、外国の資産を含むものは為替でも値が動きます。
今日できる一歩
- 親あての証券会社の郵便物(取引残高報告書・取引報告書)を1か所に集め、捨てずに保管する。
よくある質問
Q. 相続税がかからない場合、評価の計算は不要ですか?
相続税の申告が要らなければ、税務署に出すための計算はしなくてかまいません。ただ、遺産を分ける話し合いでは、だいたいの金額が分かると決めやすくなります。
Q. 相続した株を売らずに持ち続けたら、税金はかかりますか?
売るまでは、もうけへの税金はかかりません。配当金を受け取ったときは、配当に対する税金が差し引かれるのが一般的です。
Q. 取得費加算の特例は、相続税を払っていない相続人も使えますか?
使えません。特例の条件は、その財産を取得した人に相続税がかかっていることです。同じ家族でも、相続税を払った人と払っていない人で扱いが分かれます。
Q. 親の買値がどうしても分かりません。
まず証券会社に、過去の取引記録が残っていないか聞きます。見つからなければ、売った額の5%を買値とする方法が認められています。どちらが妥当かは税理士に相談すると安心です。
Q. 売って損が出たら、ほかの利益と相殺できますか?
上場株などの損は、確定申告で同じ年の上場株などのもうけや配当と相殺でき、残りは翌年以後3年間繰り越せます。親のNISA口座の中で出た損は対象外です。
参考にした公的情報
- 国税庁 No.4632 上場株式の評価
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4632.htm - 国税庁 No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4644.htm - 国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1464.htm - 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm - 国税庁 No.1476 特定口座制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1476.htm - 国税庁 上場株式等の取得価額の確認方法(PDF)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/kabushiki_shutoku.pdf
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理です。特定の銘柄・投資信託・金融機関を勧めるものではなく、将来の値上がりや利回りを示すものでもありません。株式や投資信託は値動きにより元本を下回ることがあります。税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は、税務署または税理士にご確認ください。当社は相続手続きや税務申告の代行は行っていません。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
