夫の四十九日が過ぎたころ、市役所の年金の窓口で「寡婦年金と死亡一時金、どちらにしますか」と聞かれる。机の上には、自営業だった夫の年金手帳と、聞き慣れない名前の請求書が2枚。言葉の違いがわからず、ペンが止まってしまう方は少なくありません。
この2つは、夫が自営業などで国民年金に入っていた家族のための制度です。違いを表にまとめ、どちらを選ぶかの考え方と、期限・必要書類を順番に整理しました(2026年10月時点)。
先に結論:受け取れるのはどちらか一方
この記事の結論
- どちらか一方:両方の条件を満たしていても、受け取れるのはどちらか1つです。
- いくら:寡婦年金は妻が60〜65歳の間、夫の基礎年金額の4分の3を毎年。死亡一時金は12万〜32万円を1回です。
- いつまで:死亡一時金は亡くなった日の翌日から2年、寡婦年金は5年で時効です。窓口は市区町村役場か年金事務所です。
寡婦年金と死亡一時金の違い:条件の早見表
どちらも、亡くなった方の「国民年金の第1号被保険者」の期間が元になります。第1号とは、自営業・農業・フリーランスなどで、自分で国民年金の保険料を納めていた人のことです。会社員だった期間(厚生年金)は数に入りません。
対象になる人・ならない人
よくある場面に当てはめると、次のようになります。最終的な判断は年金事務所で記録を見てもらって確かめてください。
夫が65歳を過ぎて年金を受け取っていた場合は、どちらも出ません。この場合は、亡くなった月までの受け取っていない年金(未支給年金)の請求を確かめます。手順は未支給年金の請求方法にまとめています。
金額はいくら?死亡一時金の表と寡婦年金の目安
死亡一時金は納めた月数で6段階
死亡一時金は、第1号として保険料を納めた月数で決まります。一部だけ免除された月は、納めた割合に応じて数えます(4分の3納付なら4分の3か月分など)。全額免除の月は数に入りません。
寡婦年金は「夫の基礎年金の4分の3」
寡婦年金の年額は、夫の第1号の期間だけで老齢基礎年金を計算し、その4分の3です。2026年度の老齢基礎年金の満額は年847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)で、満額は40年(480か月)納めた場合の額です。
この計算式に当てはめた目安です(すべて納付済みの場合の試算。実際の額は年金事務所で確認してください)。
- 第1号で20年(240か月)納付:年 約31.8万円
- 第1号で30年(360か月)納付:年 約47.7万円
- 第1号で40年(480か月)納付:年 約63.5万円
月に直すと、20年で約2万6千円、30年で約4万円、40年で約5万3千円です。年金は偶数月に、前の2か月分がまとめて振り込まれます。保険料の免除を受けた月がある場合は、その分だけ額が少なく計算されます。
60歳から65歳まで5年間受け取れれば、合計は約159万〜318万円です。1回きりの死亡一時金(最大32万円)より大きくなることが多いと言えます。ただし、受け取れる期間が短いと逆転します。次の章で考え方を整理します。
両方当てはまるとき、どちらを選ぶかの考え方
寡婦年金と死亡一時金の両方を受けられる妻は、自分でどちらか一方を選びます。選ぶときは、次の4つを順に確かめると整理しやすくなります。
- 寡婦年金を受け取れる月数:寡婦年金は65歳で終わります。夫が亡くなったとき64歳なら、受け取れるのは1年に届きません。年額を月割りにして、65歳までの月数を掛けてみます。
- 死亡一時金の額と比べる:たとえば夫が30年納めていれば、寡婦年金は月あたり約4万円、死亡一時金は27万円です。65歳までの残りがおよそ6か月以下なら、死亡一時金のほうが多くなります。
- 自分が受け取るほかの年金:妻がほかの年金を受け取っている場合、寡婦年金とは選択になります。60〜64歳で受け取る「特別支給の老齢厚生年金」や遺族厚生年金のほうが多ければ、寡婦年金は実際には上乗せになりません。その場合は死亡一時金を選ぶ考え方もあります。
- 年金を早めにもらう予定:自分の老齢基礎年金を65歳より前に繰り上げて受け取ると、その日以後、寡婦年金は出ません。受給中でも権利がなくなります。繰上げを考えているなら、先に寡婦年金への影響を聞いておきます。
迷ったら、年金事務所で「寡婦年金と死亡一時金、両方の見込み額を出してください」と頼むのが確実です。ご自身の年金の額も並べて見せてもらえます。
夫に会社員の期間もあった場合は、遺族厚生年金が出ることがあります。60代の妻が受け取る遺族厚生年金の目安は、遺族年金で妻はいくら?夫が亡くなったときの年金の計算と手続きで整理しています。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
手続きの順番と必要書類
請求先はどちらも同じです。住所地の市区町村役場(国民年金の窓口)、または年金事務所・街角の年金相談センターに出します。
- 夫の基礎年金番号がわかるもの(年金手帳・基礎年金番号通知書など)を探す。
- 年金事務所で夫の第1号の期間を確かめ、両方の見込み額を聞く(来所は予約がおすすめです)。
- どちらにするか決め、請求書を窓口でもらう。
- 下のチェックリストで書類をそろえ、窓口に出す。
- 審査のあと、結果の通知が届き、指定の口座に振り込まれる。
必要書類チェックリスト
どちらにも必要なもの
- □ 請求書(寡婦年金は「年金請求書(国民年金寡婦年金)」、死亡一時金は「国民年金死亡一時金請求書」)
- □ 戸籍謄本(記載事項証明書)。死亡一時金は法定相続情報一覧図の写しでも可。マイナンバーの記入で省略できる場合あり
- □ 世帯全員の住民票の写し(マイナンバーの記入で省略可)
- □ 亡くなった方の住民票の除票(世帯全員の住民票に含まれていれば不要)
- □ 受取口座の通帳かキャッシュカード(請求する人の名義。公金受取口座を使う場合などは不要)
寡婦年金だけで必要なもの
- □ 請求する妻の収入がわかる書類(所得証明書、課税・非課税証明書、源泉徴収票など。マイナンバーの記入で省略可)
死亡一時金だけで必要なもの
- □ 亡くなった方の基礎年金番号がわかる書類(出せないときは理由書)
戸籍や住民票は、亡くなった日以降に取ったものが必要です。寡婦年金では、出す日から6か月以内のものとされています。交通事故など第三者が原因の場合は、事故の状況届などが加わるので、年金事務所に確かめてください。
期限(時効)と、過ぎたらどうなるか
- 死亡一時金:亡くなった日の翌日から2年。2年を過ぎると、時効で請求できなくなります。
- 寡婦年金:5年。年金を受ける権利は、発生から5年で時効になります。5年より前の分は、原則として受け取れなくなります。
寡婦年金は65歳までの給付なので、気づくのが遅れるほど、さかのぼって受け取れる月が減っていきます。やむを得ない事情で請求できなかった場合は、扱いが変わることもあります。気づいた時点で年金事務所に相談してください。
2年の期限は、四十九日や葬儀費用の精算などに追われているうちに過ぎやすい長さです。健康保険から出る葬祭費・埋葬料も、期限は2年です。あわせて葬祭費・埋葬料の申請方法も確かめておくと、同じ窓口で済むことがあります。
損をしやすい5つの点
- 妻が60歳前でも、死亡一時金の2年は進む:寡婦年金は60歳からです。57歳で夫を亡くすと、60歳になる前に死亡一時金の期限が来ます。どちらにするかは、2年のうちに決めておきます。
- 繰上げ受給で寡婦年金がなくなる:自分の老齢基礎年金を早めにもらい始めると、寡婦年金は出なくなります。請求の前に必ず確かめてください。
- 65歳以上の妻は寡婦年金の対象外:寡婦年金は60〜65歳の給付です。夫を亡くしたとき65歳を過ぎていれば、死亡一時金だけが対象になります。
- 寡婦年金の額だけで決めてしまう:60〜64歳でほかの年金を受け取っていると、寡婦年金とは選択です。自分の年金の額と並べて比べます。
- 付加保険料の上乗せを見落とす:夫が付加保険料(月400円の上乗せ保険料)を36か月以上納めていれば、死亡一時金に8,500円が加わります。窓口で記録を確かめてもらいます。
今日できる一歩
- 夫の年金手帳か基礎年金番号通知書を探して、1か所にまとめる。
- 夫が亡くなった日から2年後の日付を、カレンダーに書き込む。
- 年金事務所に予約を入れ、寡婦年金と死亡一時金の両方の見込み額を聞く。
よくある質問
寡婦年金と死亡一時金は、両方もらえますか?
もらえません。両方の条件を満たすときは、受け取る人がどちらか一方を選びます。選ばなかったほうは支給されません。
夫は年金をもらう前の63歳で亡くなりました。私は61歳です。
夫の第1号の期間が10年以上、婚姻期間が10年以上で、生計を維持されていれば、寡婦年金の対象になりえます。65歳まで約4年あるので、多くの場合は寡婦年金のほうが合計額は大きくなります。ご自身のほかの年金との比べ方は年金事務所で確かめてください。
籍を入れていない夫婦でも寡婦年金は受けられますか?
事実上の婚姻関係(内縁)も含まれます。ただし、10年以上続いていたことや生計維持を確かめられる書類が必要になります。くわしくは内縁の妻・夫は遺族年金をもらえる?をご覧ください。
死亡一時金は、妻以外の家族も受け取れますか?
受け取れます。亡くなった方と生計を同じくしていた遺族のうち、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順で、いちばん先の人が受け取ります。たとえば独身の方が亡くなり、生計を同じくしていた遺族が兄弟姉妹だけなら、その方が受け取ります。
妻の収入が多いと、寡婦年金は受けられませんか?
寡婦年金には、夫に生計を維持されていたという条件があります。日本年金機構の案内では、原則として妻の年収が850万円未満であることが目安です。退職などで、おおむね5年以内に850万円未満になる事情があれば認められることもあります。
参考にした公的情報
- 日本年金機構「寡婦年金」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/sonota-kyufu/1go-dokuji/20140422-02.html - 日本年金機構「死亡一時金」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/sonota-kyufu/1go-dokuji/20140422-01.html - 日本年金機構「寡婦年金を受けるとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/sonota-kyufu/20140422.html - 日本年金機構「死亡一時金を受けるとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/sonota-kyufu/20140708.html - 日本年金機構「年金の時効」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/shikyu/20140421-01.html - 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-3.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。金額の試算は目安で、実際の額は年金記録によって変わります。手続きは申請先の最新の案内でご確認ください。
手続きが落ち着いたら:残ったお父さま・お母さまのこと
片方の親が亡くなった後は、残った親の相続(二次相続)で税金のかかり方や分け方が変わります。預金の置き場所、認知症への備え、遺言、受取人の名義など、元気なうちに確かめておきたい5つをまとめました。
二次相続で確かめる5つを見る
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
