四十九日を終え、ようやく少し落ち着いたころ。父が遺した口座の手続きのために立ち寄った銀行の窓口で、行員の方から一冊のパンフレットを渡されました。「相続手続きおまかせパック」「遺産整理業務」――聞き慣れない言葉とともに、見積り欄には「最低〇〇万円」の文字。銀行に頼めば安心だろうと思っていたのに、想像していた額とはケタが違い、パンフレットを手にしたまま、しばらく動けませんでした。
⏱ この記事の結論(30秒まとめ)
- 主要な銀行・信託銀行の「遺産整理業務」は、財産額にかかわらずかかる最低手数料が110万円前後という設定がほとんどです(一部の地方銀行では、提携する信託会社経由でこれより低い設定もあります)。
- 遺産総額が数千万円台の一般的な相続では、料率計算よりこの最低手数料がそのまま適用されるケースが大半です。
- パックに含まれるのは主に「財産調査・分割協議書作成支援・解約手続きの代行」まで。不動産の名義変更(登記)・相続税申告・トラブル時の交渉は別料金で、司法書士・税理士・弁護士への報酬が別途かかります。
- 士業へ個別に頼んだ場合の報酬は、公開料金では相続登記5万〜7万円台、相続税申告25万円前後(遺産5,000万円台)、預貯金の解約代行は定額型で18万〜22万円が中心です(本文に内訳の表を載せています)。
- 相続人がまとまっていて手続きが単純な場合は、パックを使わなくても窓口の通常手続きだけで完結できることがあります。
「銀行に頼めば、あとは全部お任せできる」と思っていたのに、パンフレットを読み込むほど、そう単純な話ではないと気づきます。本当に引っかかっているのは金額の大きさそのものより、「このお金を払えば、本当に全部が終わるのか」がパンフレットだけでは分からないことではないでしょうか。不動産の名義変更は?相続税の申告は?もし家族の意見が割れたら、追加で費用がかかるのでは?――だから、この記事では、主要な銀行・信託銀行の遺産整理業務の手数料を実際の公式手数料ページから確認したうえで、パックに「含まれるもの」と「含まれないもの」を分解し、自分で手続きした場合や専門家へ個別依頼した場合との違いまで整理しました。
銀行・信託銀行の遺産整理業務手数料を比較する
主要な銀行・信託銀行の公式サイトの手数料ページを確認したところ、サービス名や料率の刻み方は行によって異なるものの、共通する特徴が見えてきました。
大手信託銀行3行と主要な地方銀行では、最低手数料はほぼ横並びで110万円前後です。料率は遺産総額が大きくなるほど段階的に下がる仕組みですが、預貯金や自宅を中心とした数千万円規模の「ごく一般的な相続」では、料率計算よりもこの最低手数料がそのまま適用されるケースがほとんどです。実際、遺産総額5,000万円のケースで銀行への手数料を110万円として試算した例は、相続手続きの代行は銀行に任せてはいけない!その理由を経験者がわかりやすく解説でも紹介しています。一方で、三十三銀行のように提携する信託会社によって最低手数料が66万円台からと、他行よりやや低く設定されている例もあります。三十三銀行の窓口手続き自体の詳しい流れは三十三銀行の相続手続き完全ガイドで解説しています。
なお、三井住友銀行や三菱UFJ銀行など「銀行」の窓口で遺産整理業務の案内を受けた場合も、実際の業務は系列の信託銀行(三井住友信託銀行・三菱UFJ信託銀行など)が引き継ぐのが一般的です。窓口の担当者が変わっても、手数料体系は信託銀行のものが適用されると考えておきましょう。
「おまかせパック」の中身を分解する―含まれるもの・含まれないもの
手数料の大きさに目が行きがちですが、実務上さらに重要なのは「その金額で、どこまでの作業を代行してもらえるのか」です。各行の手数料ページを確認すると、含まれる業務と含まれない業務の線引きは、どの銀行でもほぼ共通していました。
○ パックに含まれるもの
✓ 相続人・相続財産の調査(戸籍収集、財産目録の作成)
✓ 遺産分割協議書の作成支援
✓ 預貯金の解約・払い戻し手続きの代行
✓ 有価証券の名義書換・移管手続き
✓ 各金融機関への書類提出・進捗管理の窓口対応
✕ 含まれないもの(別料金)
✕ 不動産の相続登記(名義変更)→司法書士報酬が別途
✕ 相続税の申告→税理士報酬が別途
✕ 相続人間で意見が割れた場合の交渉・調停対応→弁護士報酬が別途
✕ 登録免許税・戸籍謄本や残高証明書の発行手数料などの実費
✕ 不動産の鑑定費用・売却時の仲介手数料
つまり銀行の遺産整理業務は「相続手続きの司令塔」として窓口を一本化してくれるサービスであり、専門家の仕事そのものを肩代わりするわけではありません。不動産や相続税申告がからむ相続では、パックの手数料に加えて司法書士・税理士への報酬が別途発生する点は、契約前に必ず確認しておきたいポイントです。司法書士へ依頼する場合の報酬の考え方は近くの司法書士に依頼するのは待って!本当に損しない選び方と比較ポイント、税理士報酬の相場は相続税理士報酬相場:最新データで見る報酬の相場と節約方法5選で詳しく解説しています。
自分で手続きした場合や、専門家への個別依頼と比較する
相続手続きの進め方は、大きく分けて「銀行のパックに任せる」「司法書士・税理士など専門家に個別に依頼する」「相続人自身がすべて行う」の3通りがあります。遺産総額5,000万円・不動産1件というよくあるケースで、費用の目安と特徴を並べてみます。
「士業に個別依頼すると結局いくらか」が分からないと比較になりません。愛知県・岐阜県の事務所が自社サイトで公開している料金表を、当社で項目ごとに集計しました。
愛知県・岐阜県の司法書士16事務所、愛知県内の税理士6事務所、名古屋市・一宮市の弁護士4事務所の公開料金をもとに当社が集計(2026年9月時点・税込/税別は事務所により異なる)。事務所ごとに条件が違うため、必ず書面の見積もりで確認してください。
上の表はすべて専門家に支払う報酬です。これとは別に、登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)、戸籍謄本450円/通、除籍謄本・改製原戸籍750円/通という法定額の実費がかかります。ここは銀行のパックを使っても、士業に個別依頼しても、自分で手続きしても同額です。
金額が上に振れる条件は、専門家報酬でも銀行の手数料でも共通しています。不動産の数(1件増えるごとに5万〜6万円)、相続人の人数、解約する金融機関の数、土地の評価の難しさ(私道・共有地・田畑が混ざると税理士側の加算対象)、そして申告期限まで3か月を切っているか(10%前後の加算を設けている事務所があります)。ご自身の相続がどこに当てはまるかを数えてから、パックの手数料と並べてみてください。
先述の相続手続きの代行は銀行に任せてはいけない!その理由を経験者がわかりやすく解説では、遺産総額5,000万円・不動産1件のケースで、銀行の遺産整理業務(手数料110万円)に、司法書士・税理士への個別報酬(公開料金では相続登記5万〜7万円台、相続税申告25万円前後)、登録免許税(約12万円)、公的書類取得費(約1万円)を積み上げた試算を紹介しています。専門家報酬の具体的な金額は、依頼先の見積もりでご確認ください。銀行のパックを使わず司法書士・税理士へ直接依頼した場合、この試算では銀行への110万円分がかからない計算になります。銀行を使わず自分たちで窓口手続きを進める場合の必要書類や流れは、各金融機関ごとに個別の解説記事を用意しています(例:三井住友銀行の相続手続き完全ガイド、りそな銀行の相続手続き完全ガイド)。また、専門家に個別依頼する際の事務所選びのポイントはおすすめの相続手続き代行先は?経験者が危険な事務所と優良な事務所の特徴を徹底解説で詳しく解説しています。
銀行の遺産整理業務の「財産調査」は、その銀行や提携先が把握できる範囲の情報をもとに行われるのが基本です。実際の相談では、相続登記は済ませたつもりでも、私道や共有地など固定資産税が非課税になっている土地が登記から漏れていたケースがありました。こうした非課税地は、名寄帳を取得すると一覧で確認できます。パックを利用する場合でも、名寄帳だけは念のためご自身で取り寄せておくと、財産の把握漏れを防げます。(当社に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)
💡 こういう場合は、パックを使わなくても済むかもしれません
相続人が少人数でまとまっており、不動産の名義変更や相続税申告が発生しない(預貯金が中心で、遺産総額が基礎控除内におさまる)相続では、銀行の窓口での通常の解約手続きだけで完結できることがあります。この場合、遺産整理業務の手数料をかける必要はありません。無理に依頼を決める前に、次のセルフチェックでご自身の状況を確認してみてください。
セルフチェック:パックが必要か、自分で確認する
- 相続人が3人以上いる、または連絡が取りづらい相続人がいる
- 不動産・株式など、預貯金以外の財産が複数の種類にわたる
- 相続税の申告が必要になりそう(遺産総額が基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える可能性がある)
- 平日に窓口へ出向いたり、書類を集めたりする時間の余裕がない
0〜1個に当てはまった方は、銀行の通常の窓口手続き、またはご自身での手続きだけで完結できる可能性が高い状況です。専門家に依頼しなくてもご自身で手続きを完了できる可能性が高いため、無理にパックを契約する必要はありません。
2〜3個に当てはまった方は、費用をかけるべきか判断が分かれる状況です。どこまで自分で進められるかを切り分けてから、契約するかどうかを決めてください。
4個すべてに当てはまった方は、専門家と一緒に整理したほうが早く進む状況です。銀行のパックだけでなく、司法書士・税理士への個別依頼も含めて比較検討することをおすすめします。
今日の一歩:契約する前に、銀行の窓口へ戻って3つ聞く
パンフレットだけでは判断できません。行き先はパンフレットを渡された銀行の相続手続きの担当者(支店に相続センターの直通窓口を置いている銀行もあります)。電話でも構いません。
持っていくもの
- 受け取ったパンフレット・見積書
- 亡くなった方の口座が分かるもの(通帳、キャッシュカード)
- ご自身の本人確認書類と印鑑
- 分かる範囲でよいので、不動産の件数と金融機関の数を書いたメモ
窓口で伝える3点
- 「この見積りに、不動産の名義変更と相続税の申告は入っていますか。入っていない場合、誰にいくら別途かかりますか」
- 「途中で解約した場合、どの段階でいくら発生しますか」
- 「このサービスを使わずに、通常の相続手続きで解約する場合の必要書類を一式ください」
その場で決めなくて構いません。口頭の説明だけで判断せず、見積りは書面でもらってください。3つ目の質問に対して案内が出てくれば、その紙がそのまま「自分で進める場合の手順書」になります。あわせて、市区町村の資産税課(東京23区は都税事務所)で名寄帳を取っておくと、固定資産税が非課税で通知書に載らない私道・共有地の見落としを防げます。取得できる人の範囲や必要書類は自治体により異なります。
期限。相続放棄は原則3か月、相続税の申告・納付は10か月、不動産の相続登記の申請は3年以内が期限です。契約を急ぐ理由があるとすればこの期限で、パンフレットを渡された日ではありません。
よくある質問
Q1. 銀行に任せれば安心なのでは?高くても仕方ないですよね?
銀行の遺産整理業務は、複数の相続手続きの窓口を一本化し、進捗管理までまとめて任せられる点で大きな安心感があります。手数料はその「窓口を一本化する対価」であり、銀行が不当に高い金額を設定しているわけではありません。ただし、その安心感に見合うかどうかは、相続人の人数や財産の内容によって変わります。まずはパックに含まれる範囲を確認し、ご自身の状況で本当に必要な部分にだけ費用をかけられないか検討してみましょう。
Q2. 遺産整理業務を頼まなかったら、口座の凍結は解除できない?
いいえ。遺産整理業務はあくまで任意のオプションサービスです。依頼しなくても、通常の相続手続き(必要書類をそろえて窓口で解約・名義変更を申請する方法)で口座の凍結は解除できます。
Q3. パックを頼めば、相続税の申告もまとめて終わりますか?
終わりません。相続税の申告は税理士の業務であり、遺産整理業務の手数料には含まれていません。申告が必要な場合は、別途、税理士へ依頼するか、ご自身で申告する必要があります。
Q4. 契約した後に、途中で解約することはできますか?
銀行によって規定は異なりますが、進行段階に応じて手数料の一部が発生する仕組みを設けているところがあります。例えばオンライン完結型のサービスでは、相続人代表との契約段階・全相続人の契約後・財産目録の承認後、といった段階ごとに解約時の手数料が定められている例があります。契約前に、途中解約時の条件を必ず確認しましょう。
Q5. 遺産が少額でも、最低手数料はかかりますか?
かかります。多くの銀行・信託銀行では、遺産総額にかかわらず適用される最低手数料(110万円前後)が設定されています。遺産が少額の場合、この最低手数料の負担感が相対的に大きくなりやすい点は、依頼前に理解しておく必要があります。
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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載している手数料・料率は、各金融機関の公式サイト(2026年7月確認)に基づく目安であり、実際の手数料は財産の内容・相続人の状況により異なります。最新の手数料体系・サービス内容は、各金融機関に直接ご確認ください。
