住宅ローンが残っている家を相続することになった。返済はどうなるのか、自分が代わりに払っていくのか、家を手放さないといけないのか。金融機関から届いた通知を前に、手が止まってしまう方は少なくありません。
結論から言うと、団体信用生命保険(団信)が付いていれば、亡くなった方の残債は保険金で完済されます。家は相続財産として残り、ローンは相続する債務にはなりません。ただし、団信が付いていないローン、ペアローンの配偶者の分、連帯債務の相手方の分は残ります。この記事では、団信が付いている場合とそうでない場合を分けて、手続きと税の扱いを整理します。
先に結論:団信の有無で3つに分かれる
亡くなった方の住宅ローンはどうなるか
✅
団信あり
残債は完済
家は相続財産。ローンは
債務控除の対象にならない
👥
ペアローン・連帯債務
相手方の分は残る
団信は加入した本人の
債務の分だけを消す
⚠️
団信なし
残債は相続
相続人が引き継ぐ債務。
債務控除の対象になる
(団信の有無・保障範囲は金融機関および商品により異なります。相続税の債務控除の可否は国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例」の考え方にもとづく整理です。2026年9月時点。個別の判断は税理士へ)
まず確認するのは、返済中のローンに団信が付いていたかどうかです。多くの住宅ローンは団信への加入が条件になっていますが、加入が任意の商品や、健康上の理由で加入していないケースもあります。金融機関に「団信の加入があるか」を最初に聞けば、その後の進み方が決まります。
団信の請求は金融機関を通して進む
団信は、住宅ローンを借りた人が被保険者になり、保険金の受取人は金融機関になっている保険です。そのため、相続人が保険会社へ直接請求するのではなく、金融機関へ死亡の連絡をするところから始まります。ここが一般の生命保険と大きく違う点です。
団信で完済されるまでの流れ
借入先の金融機関へ連絡する
団信の加入の有無、残債、必要書類を確認します。連絡までの間も返済日は来るため、引き落とし口座の扱いもあわせて聞きます。
所定の書類を提出する
死亡診断書の写し、死亡の記載がある戸籍、金融機関所定の請求書などが一般的です。範囲は金融機関により異なります。
保険会社の確認を経て、金融機関へ保険金が支払われる
残債に充てられ、ローンが完済されます。書類提出から完済までは数か月かかることもあります。
抵当権抹消の書類が届く
完済後、金融機関から抹消登記に必要な書類が渡されます。登記の申請は自動では行われません。
⚠️ 完済までの間も返済日は来る
団信の手続きが終わるまでの数か月間、返済をどう扱うかは金融機関により異なります。いったん引き落としを続け、完済後に精算するという案内をされることもあります。引き落とし口座が亡くなった方の名義で凍結されている場合は、遅れる前にその旨を伝えてください。
相続税の扱い|ローンは債務控除できない
相続税の計算では、亡くなった方の借金は「債務控除」として財産から差し引けます。ところが、団信が付いた住宅ローンは差し引けません。国税庁が公表している相続税の申告書作成時の誤りやすい事例では、団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローンは、被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であり、相続人が支払う必要のない債務であるため、課税価格の計算上差し引くことはできないと整理されています。
一方で、団信の保険金は金融機関がローンの返済に充てるもので、相続人が受け取るお金ではありません。そのため、相続人の側で死亡保険金として相続税の課税対象になるものではない、と整理されています。「保険金は課税されず、ローンも差し引けない」という組み合わせは直感に反しますが、家そのものは相続財産として評価されるため、実質的にはローンのない家を相続したのと同じ形になります。
団信が付いていないローンは、通常どおり相続人が引き継ぐ債務となり、債務控除の対象になります。どちらに当たるかで申告の中身が変わるため、申告が必要なご家庭では早い段階で団信の有無を確認し、税理士に伝えてください。
ペアローン・連帯債務・連帯保証|残る分と消える分
夫婦で組んだローンは、形によって残り方が変わります。共通しているのは、団信は加入した人の債務しか消さないという点です。
ペアローンで見落とされやすいのは、残された側の返済がそのまま続くことです。世帯の収入が減った状態で、これまでどおりの返済が必要になります。返済が苦しくなりそうな場合は、放置せず早い段階で金融機関に相談してください。返済期間の見直しなど、対応できる余地があるかどうかは金融機関により異なります。
相続登記と抵当権抹消は、別々の手続き
ローンが完済されても、登記簿に付いている抵当権は自動では消えません。抹消登記は自分で申請する必要があります。あわせて、家を誰が相続するかを登記する相続登記も必要です。相続登記は2024年4月1日から義務化され、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならないとされています。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(法務省)。
抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地と建物の2個であれば2,000円になります。相続登記の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、金額の目安や自分で申請する手順は名古屋の相続登記を法務局へ自分で申請するといくら?にまとめています。所有者の住所が登記簿と違う場合の住所変更登記については住所等変更登記の義務化を参照してください。
⚠️ 抹消書類には期限があることが多い
完済後に金融機関から渡される抹消用の書類は、そのままでは使える期間が限られている場合があります。何年も引き出しにしまったままにすると、再発行を依頼することになります。売却の予定がなくても、書類を受け取ったら早めに申請してください。
住宅ローン控除は相続人に引き継げない
亡くなった方が住宅ローン控除を受けていた場合、その年の分は準確定申告で精算します。準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行うこととされています(国税庁)。
一方、相続人がその控除を引き継ぐことはできません。国税庁の質疑応答事例では、相続により住宅を取得した場合は住宅借入金等特別控除の適用要件を満たさないため、適用できないと示されています。団信で完済されれば借入金自体がなくなりますし、団信のないローンを引き継いだ場合も、相続人の側で控除を使うことはできない、という整理です。個別の判断は税理士に確認してください。
団信が使えない場合もある
団信に加入していても、必ず支払われるとは限りません。代表的なのは、加入時の告知内容と実際の病歴に食い違いがある場合(告知義務違反)と、約款で定められた免責に当たる場合です。この2つは一般の生命保険と同じ考え方で、保険会社の確認に時間がかかることもあります。
また、加入が任意の商品で加入していなかった、健康上の理由で加入できないまま借りていた、というケースもあります。この場合、残債はそのまま相続人が引き継ぐ債務です。他の財産と合わせてもプラスにならない見込みであれば、相続放棄という選択肢も含めて検討することになります。放棄には期限があるため、判断が難しいと感じたら早めに専門家へ相談してください。
相続放棄をしたら、団信はどうなるか
団信の保険金は、金融機関に対して支払われるものです。相続人が相続放棄をしても、団信による完済そのものが取り消されるわけではありません。ただし、放棄をすればその家を相続することもできなくなります。「ローンが消えて家だけ残るなら相続したい」のか、「他に大きな債務があるので放棄したい」のか、家の価値と債務全体を並べて考える必要があります。取扱いは金融機関により異なるため、放棄を検討している段階で金融機関にも事情を伝えておくと、手続きの行き違いが減ります。
不動産が主な財産で現金が少ない場合の分け方については、不動産しかない相続の分け方で代償分割の現金の用意の仕方まで整理しています。売却を選ぶ場合の手順は相続した家の売却の手順が参考になります。
生前に確認しておけること
ローンを返済中のご家庭であれば、団信の有無と種類、ペアローンなら誰の分がいくら残るのかを、契約書と返済予定表で一度確認しておくと、いざというときの見通しが立ちます。確認は返済予定表と契約書、それに金融機関への電話1本で足ります。
すでに保険の見直しを検討している方に向けて、情報として1点だけ。ペアローンや連帯債務のように「一方が亡くなっても相手方の返済が残る」形の場合、その残る分をどう埋めるかを保険で考える方がいます。金額の目安は残債と収入の減り方によって変わるため、まずは残債の内訳を把握するところが出発点です。何もしないという結論も含めて、数字を並べてから決めれば十分です。
相談現場から|相談員メモ
配偶者を亡くされた後のご相談では、残された方ご自身の生命保険の受取人が、亡くなった配偶者のままという状態がしばしば見つかります。ローンや家の名義の話に気を取られて、手元の保険まで手が回らないためです。受取人の変更は多くの会社で書類1枚、無料で済みます(取扱いは会社・商品により異なります)。証券があれば、その場でどこを直せばよいかの見当がつきます。
まとめ
団信が付いていれば、亡くなった方の住宅ローンは保険金で完済され、家は相続財産として残ります。このローンは相続税の債務控除にはできません。ペアローンや連帯債務では相手方の分が残り、団信のないローンは相続人が引き継ぎます。完済後は抵当権抹消登記と相続登記が必要で、相続登記は3年以内の申請義務があります。住宅ローン控除は相続人には引き継げません。まずは借入先の金融機関に連絡して団信の有無と残債を確認し、そこから登記と申告の段取りを組み立ててください。税務の判断は税理士に確認してください。相続全体の流れは相続でやることチェックリストにまとめています。
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※本記事は2026年9月時点の国税庁・法務省の公開情報にもとづく一般的な整理です。団信の有無・保障範囲・必要書類・所要期間は金融機関および商品により異なり、変更されることもあります。実際の手続きは借入先の金融機関に、登記の判断は司法書士に、債務控除や申告の要否など税務上の判断は税理士にご確認ください。