自分で書いた遺言書を、タンスの引き出しにしまったまま。見つけてもらえるのか、書き換えられないか、少し心配になる方は多いようです。
法務局には、自筆の遺言書を預かってくれる制度があります。この記事では、申請の流れ、手数料、予約、預けたあとにできること、亡くなった後の通知を、2026年10月時点の法務省の案内で整理します。5枚組の保管申請書の書き方も、欄ごとにまとめました。いちばん迷う「受遺者等・遺言執行者等欄」は、相続人に「相続させる」と書いただけの相手なら書かなくてよい、が答えです。
先に結論:預けるのは本人だけ、予約と来庁が必要です
この記事の結論
- いくら:保管の申請は遺言書1通につき3,900円です。収入印紙で納めます。預ける年数で増えることはありません。
- どう預ける:遺言を書いた本人が、予約をして保管所へ出向きます。代理人や郵送では申請できません。
- 預けると:原本が法務局で守られ、亡くなった後の家庭裁判所の検認が要りません。ただし、遺言の内容が有効かどうかを法務局が保証するものではありません。
書き方そのものは、遺言書の書き方(手書き)で例文つきで説明しています。この記事は「書いたあと、どう預けるか」に絞ります。
この制度を使える人・使えない人
対象は、自筆証書遺言(自分で書く遺言書)だけです。公証役場で作る公正証書遺言は、別の仕組みで公証役場が保管します。違いは公正証書遺言と自筆証書遺言の比較にまとめています。
手数料は手続きごとに決まっています
手数料はすべて収入印紙で納めます。印紙は保管所や近くの郵便局で買えます。一番大きいのは、預けるときの3,900円です。
預けるまでの流れと予約のとり方
まず遺言書を書き、次に保管所を選び、申請書を書いて、予約をとります。当日は本人が出向きます。
- 遺言書を様式どおりに書く。用紙はA4です。余白は上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上あけ、そこには何も書きません。片面だけに書き、複数枚のときは各ページの余白に「1/2」「2/2」のように入れます。
- 保管所を選ぶ。申請できるのは、住所地、本籍地、持っている不動産の所在地のいずれかを担当する保管所です。愛知なら名古屋法務局の本局や一宮支局、岐阜なら岐阜地方法務局の本局や大垣支局などがあります。全国で312か所です。
- 申請書を書いておく。様式は法務省のサイトから出力できます。窓口で書くのではなく、事前に記入して持参します。欄ごとの書き方は、後の「保管の申請書の書き方」の章にまとめています。
- 予約をとる。預ける手続きには予約が必要です。次の表のとおりです。
- 予約の日に出向く。必要書類と収入印紙を持ち、本人が申請します。
- 保管証を受け取る。氏名、生年月日、保管所名、保管番号が書かれています。再発行はされないので、大切にしまいます。
当日の持ち物チェックリスト
- □ 遺言書(ホチキスで留めず、封筒に入れない)
- □ 記入済みの申請書
- □ 住民票の写し(本籍と筆頭者が載り、マイナンバーと住民票コードが載っていないもの。原本)
- □ 顔写真つきの身分証(運転免許証やマイナンバーカードなど。期限切れは不可)
- □ 手数料3,900円分の収入印紙
- □ 日本語以外の遺言書なら、日本語の訳文
東京法務局本局など一部の保管所では、申請書類を電子メールで事前に確認してもらえます。2026年2月には、対応する保管所が39都道府県の68か所に広がりました。お住まいの保管所が対応しているかは、法務省のサイトで確かめます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
保管の申請書の書き方:5枚の欄ごとの記入のしかた
申請書は「遺言書の保管申請書」という名前で、法務省のサイトの「申請書/届書/請求書等」のページから出力できます。パソコンで入力して印刷しても、手書きでもかまいません。全部で5枚組です。欄ごとに、何を見て書けばよいかをまとめました。
| ページ | 主な欄 | 何を見て、どう書くか |
|---|---|---|
| 1枚目 遺言者欄 | 申請年月日、保管所の名称、遺言書の作成年月日、氏名・生年月日・住所・本籍と筆頭者、電話番号 | 作成年月日は遺言書に書いた日付を写す。氏名・住所・本籍は住民票どおり。本人が筆頭者なら「遺言者と同じ」にチェック。電話番号は平日につながる番号をハイフンなしで |
| 2枚目 確認・記入等欄 | 不動産の所在地、民法968条の確認、ほかに預けている遺言書、遺言書の総ページ数 | 不動産の所在地で保管所を選んだときだけ、チェックして所在地を書く。自分で書いたことの確認欄にチェック。総ページ数は財産目録も含めて数える |
| 3枚目 受遺者等・遺言執行者等欄 | 番号、区分、氏名と住所、生年月日 | 遺言で「遺贈する」相手や遺言執行者などがいるときに書く(下の表)。1人でも番号は「1」 |
| 4枚目 死亡後の通知の対象者欄 | 同意の確認、通知を受ける人 | 亡くなったときに知らせてほしい人を決める欄。使うなら同意欄にチェックし、3枚目の番号で選ぶか、別の人の氏名と住所を書く |
| 5枚目 手数料納付用紙 | 保管所の名称、申請人、納付金額、印紙を貼る欄 | 納付金額は「3900円」。3,900円分の収入印紙を貼り、印紙に印は押さない |
(出典:法務省「遺言書保管申請書 記載例・注意事項」、2026年10月時点で確認)
3枚目に書く人・書かなくてよい人
いちばん迷うのが3枚目です。法務省の記載例では、遺言に受遺者(遺贈を受ける人)や遺言執行者などが出てくるときに書く欄とされています。相続人に「相続させる」と書いただけの相手は、書かなくてよいとされています。遺言書の文言で分けると、次のようになります。
| 遺言書の書き方の例 | 3枚目に書くか |
|---|---|
| 「長男〇〇に自宅を相続させる」 | 書かなくてよい(相続人に相続させる記載) |
| 「長男の妻〇〇に預金を遺贈する」 | 書く。区分は「受遺者等」 |
| 「遺言執行者として長女〇〇を指定する」 | 書く。区分は「遺言執行者等」 |
| 同じ人に遺贈し、遺言執行者にも指定した | 1人分として書き、区分は両方にチェック |
| 会社や団体に遺贈する | 書く。氏名欄に名称、住所欄に本店の所在地。番号は12けたの会社法人等番号 |
(出典:法務省「遺言書保管申請書 記載例・注意事項」「受遺者等・遺言執行者等欄に記入すべき方について」、2026年10月時点で確認)
書き間違えやすい4つの点
- 作成年月日が遺言書と違う:申請書の作成年月日は、遺言書に書いた日付と同じにします。申請する日ではありません。
- 住所や本籍を略して書く:住民票の写しどおりに書きます。持参する住民票は、本籍と筆頭者が載ったものです。
- 総ページ数に財産目録を入れ忘れる:2枚目の総ページ数は、パソコンで作った財産目録や通帳のコピーも含めた枚数です。
- 用紙を拡大・縮小して印刷する:申請書は機械で読み取るため、大きさを変えずに印刷します。手書きのときは、読み間違えられないよう、はっきり書きます。
ほかの遺言書をすでに預けている人は、2枚目にその保管番号を書き、前と同じ保管所に申請します。住所などが前回から変わっていれば、この申請書で変更もあわせて届け出られます。
預けたあとにできること
預けたあとも、本人は見る、住所の変更を届ける、預けるのをやめる、の3つができます。遺言の内容を変えたいときは、後ほど説明するとおり書き直しになります。
住所や氏名が変わったら、早めに変更を届けます。遺言で財産を受け取る人や遺言執行者(遺言の内容を実現する人)、あとで説明する通知を受ける人の情報が変わったときも同じです。届けないと、亡くなった後の連絡がうまく届かないおそれがあります。
内容を変えたいとき
法務省は、いったん撤回して原本を受け取り、新しく書き直して預け直す方法をすすめています。預け直すたびに、3,900円がかかります。撤回しても、遺言そのものが無効になるわけではありません。
預ける期間は、原本が亡くなってから50年、画像データが150年です。保管所では、民法で決まった形式に合っているかを外から確認してくれます。一方で、内容の相談には応じず、有効かどうかの保証もしません。内容の不安は、司法書士や弁護士などに先に相談します。
亡くなった後の通知と、家族の手続き
この制度には、家族が遺言書に気づけるように、2つの通知があります。名前が似ていますが、しくみは別です。
注意したいのは、関係遺言書保管通知です。誰も閲覧や証明書の請求をしなければ、通知は送られません。「預けてあるから、家族に自動で知らせが届く」とは限らないのです。伝えておきたいなら、指定者通知を使うか、保管証のコピーを家族に渡しておきます。
相続人ができる3つの手続き
- 遺言書保管事実証明書(800円):自分に関係する遺言書が預けられているかを確かめます。
- 遺言書情報証明書(1,400円):遺言書の画像が全部印刷された書類です。原本の代わりに、不動産の名義変更や預金の手続きで使います。
- 閲覧(モニター1,400円、原本1,700円):遺言書の内容を見ます。
請求できるのは、亡くなった後の相続人、遺言で財産を受け取る人、遺言執行者と、その法定代理人です。証明書は全国のどの保管所でも、郵送で請求できます。窓口に出向くときは予約が必要です。
請求のときの書類チェックリスト
- □ 交付請求書(事実証明書と情報証明書で様式が分かれます)
- □ 亡くなったことが分かる書類(戸籍や除籍の謄本、関係遺言書保管通知など)
- □ 請求する人の住民票の写し
- □ 相続人であることが分かる戸籍の謄本など
- □ 顔写真つきの身分証(窓口に出向くとき)
- □ 手数料の収入印紙、郵送なら返信用の封筒と切手
戸籍の束の代わりになる法定相続情報一覧図の写しを付けると、審査の時間が短くなる、と法務省は案内しています。必要な書類は、遺言者や相続人の関係で変わります。申請の前に、保管所か法務省のサイトで確認します。
検認は要りません
検認とは、遺言書の状態を家庭裁判所で確かめる手続きです。自宅で保管していた自筆の遺言書は、この手続きが必要です。法務局に預けた遺言書は、検認が不要です。法務省は、遺言書情報証明書をもらえば、家庭裁判所の検認は要らないと案内しています。検認そのものの流れは、遺言書の検認の手続きにまとめています。
期限と、損しやすい点
預けること自体に期限はありません。ただ、元気で、保管所に出向ける間でないと使えません。体力が落ちてから慌てないよう、書いた時点で予約をとっておくのが無理のない進め方です。
- 保管証は再発行されません。なくすと、保管番号を家族に伝えられなくなります。写しを家族に渡しておきます。
- 封筒に入れたまま持っていくと、受け付けてもらえません。ホチキス留めも不可です。やり直しになるので、予約の日を無駄にしないよう、前もって形式を確かめます。
- 様式の不備で書き直しになることがあります。余白をはみ出す、両面に書く、日付を「令和○年○月吉日」とする、などです。消せるインクも使えません。ボールペンの扱いは自筆の遺言書はボールペンでいい?に詳しく書いています。
- 内容の有効性は保証されません。形式のチェックは受けられますが、内容に問題がないという意味ではありません。
- 住所の変更を届け忘れると、通知に支障が出ます。引っ越しや改姓のあとは、変更の届出をします。
- 預け直すたびに3,900円かかります。書き直す前に、本当に変えたい部分を整理します。
今日できる一歩
- 法務省の「自筆証書遺言書保管制度」のページで、住所地、本籍地、不動産の所在地のどこを担当する保管所か調べ、電話番号をメモする。
よくある質問
保管の申請書はどこで手に入りますか。書き方で迷いやすいのはどこですか
法務省のサイトの「申請書/届書/請求書等」のページから出力でき、保管所の窓口にも置いてあります。5枚組で、迷いやすいのは3枚目の受遺者等・遺言執行者等欄です。「遺贈する」相手や遺言執行者は書き、相続人に「相続させる」と書いただけの相手は書かなくてよいとされています。法務省の記載例もあわせて確認してください。
入院中で行けないときは、家族が代わりに申請できますか
できません。保管の申請は本人が出向く決まりで、代理人や郵送は認められていません。付き添いの人が手を貸すことはできます。本人が行けないときは、公証人が出向く公正証書遺言という方法があります。
遺言書を封筒に入れて封をしたまま持っていってもいいですか
封をしたものは受け付けてもらえません。封筒は不要で、ホチキスも使わずバラバラの状態で出します。
預けたあとで内容を書き直したくなったら
撤回して原本を受け取り、新しく書いて預け直す方法が、法務省のすすめる形です。別の方法として、新しい遺言書を別に預けることもできますが、遺言書が複数になります。どの方法でも、新たに手数料がかかります。
預けていることは、家族に伝えておくべきですか
伝えておくと、亡くなった後の手続きが早く進みます。法務省も、家族に伝えておくこと、保管証のコピーを渡すことをすすめています。伝えにくいときは、指定者通知で知らせる人を選ぶ方法があります。
親が遺言書を預けているか、わからないときは
亡くなった後なら、相続人は遺言書保管事実証明書(800円)で、預けられているかを確かめられます。全国どの保管所でも請求でき、郵送がすすめられています。親が元気なうちは、本人以外が確かめることはできません。
手数料は、預けている間ずっとかかりますか
預けるときの3,900円だけです。預けている年数で増えることはありません。
参考にした公的情報
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度 02 遺言者の手続」(2026年10月時点で確認)
https://www.moj.go.jp/MINJI/02.html - 法務省「同 03 遺言書の様式等」
https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html - 法務省「同 04 相続人等の手続」
https://www.moj.go.jp/MINJI/04.html - 法務省「遺言書保管申請書 記載例・注意事項」
https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/01_kisairei.pdf - 法務省「申請書/届書/請求書等」(保管申請書の様式)
https://www.moj.go.jp/MINJI/06.html - 法務省「自筆証書遺言書保管制度 08 予約」
https://www.moj.go.jp/MINJI/08.html - 法務省「同 09 手数料」
https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html - 法務省「同 10 通知」
https://www.moj.go.jp/MINJI/10.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。手数料や手続きの詳細は変わることがあります。申請の前に、法務省のサイトか管轄の遺言書保管所でご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
