親が亡くなった。けれど、何年も口をきいていない兄弟がいる。できれば連絡せずに手続きを済ませたい。そう考える方は少なくありません。
結論から言うと、絶縁していても兄弟は相続人のままです。遺言がなければ、遺産の分け方はその兄弟も含めた全員で決めます。この記事では、親の相続で絶縁した兄弟がいるときに、連絡先をどう調べるか、最初の手紙に何を書くか、返事がないときにどう進めるか、親が元気なうちにできる遺言を、2026年10月時点の民法と裁判所の案内をもとに順番に整理します。
先に結論:絶縁していても兄弟は相続人。連絡なしでは遺産分割が終わりません
この記事の結論
- 相続人のまま:絶縁しても相続権はなくなりません。遺産分割の話し合いには、その兄弟の合意が要ります。
- 連絡先の調べ方:親の戸籍から兄弟の本籍をたどり、本籍地で「戸籍の附票」を取ると住所が分かります。
- 最初の手紙:書くのは「亡くなった事実」「話し合いのお願い」「返事の目安の日」の3つ。過去の話は書きません。
- 返事がないとき:住所が分かれば家庭裁判所の遺産分割調停、行方が分からなければ不在者財産管理人の選任で進めます。
- 親が元気なうちなら:遺言執行者を決めた遺言があれば、兄弟の判子なしで進められる手続きが増えます。
絶縁しても相続人であることは変わらない
「縁を切る」「絶縁状を出す」といったことに、相続権をなくす効果はありません。相続人から外れるのは、民法が定める相続欠格(891条)や、家庭裁判所が認める廃除(892条)などに限られます。親の相続では、絶縁した兄弟もほかの兄弟と同じ「子」として相続人になり、相続分も同じです。
では、連絡しないまま何ができて、何ができないのか。手続きごとに分けると、次のようになります。
つまり、遺言がない限り「いつかは連絡する」ことは避けられません。相続税の申告が要る家では、話し合いがまとまらないときの申告の仕方も確かめておきます。期限の数え方は相続税の申告期限10か月の数え方にまとめています。
連絡先の調べ方:親の戸籍から「戸籍の附票」までたどる
電話番号やメールが分からなくても、住所は役所の書類で調べられることが多いです。手がかりは戸籍と「戸籍の附票」です。戸籍の附票は、その戸籍に入っている間の住所の移り変わりが記録された書類で、本籍地の市区町村が持っています。
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍を集める。相続手続きでどのみち必要になる書類です。子は親の戸籍を請求でき、広域交付を使えば最寄りの役所でまとめて取れます。
- 兄弟の今の本籍を確かめる。兄弟が結婚などで親の戸籍を出ていれば、親の戸籍に移った先の本籍が書かれています。
- 兄弟の本籍地に、兄弟の戸籍と戸籍の附票を請求する。兄弟は本人の配偶者や直系の親族に当たらないため、相続手続きに必要だという理由を示して請求します。
- 附票のいちばん新しい住所に手紙を送る。住民票を移さずに暮らしていると、そこに住んでいないこともあります。
附票の請求書の書き方や郵送での取り方は、戸籍の附票の取り方で詳しく説明しています。戸籍や附票に電話番号は載っていません。分かるのは住所までです。
最初の手紙の例文:伝えるのは「事実・お願い・返事の目安」の3つ
絶縁した相手への最初の連絡は、手紙が向いています。相手が落ち着いて読め、返事の仕方も選べるからです。書くときのポイントは次の4つです。
- 過去のいきさつには触れない。謝罪や非難を書くと、相続の話に入る前にこじれやすくなります。
- 分かっている財産を隠さずに示す。「何か隠しているのでは」という疑いが、話し合いを止める原因になりがちです。
- 返事の方法を複数用意する。手紙、メール、電話から選べるようにし、返信用封筒を同封します。
- 返事の目安の日は余裕をもって。2〜3週間ほど先にし、「目安」と書いて相手を急がせない書き方にします。
手紙の例文(父が亡くなり、母と子2人が相続人の場合)
〇〇 様
突然のお手紙で失礼します。〇〇(自分の名前)です。
父 〇〇が、令和〇年〇月〇日に亡くなりましたので、お知らせします。
父の相続人は、母と、あなたと私の3人です。父の預金や自宅の名義を変えるには、相続人全員で遺産の分け方を決める必要があります。
現時点で分かっている父の財産を、別紙にまとめました。
分け方について、あなたのお考えをお聞かせください。〇月〇日ごろを目安に、同封の封筒か、下記の連絡先のいずれかでお返事をいただけると助かります。直接のやり取りが難しければ、手紙だけでもかまいません。
連絡先 住所:〇〇 電話:〇〇 メール:〇〇
令和〇年〇月〇日 〇〇(自分の名前)
同封するのは、財産を一覧にした別紙(預金の銀行名と残高の目安、不動産の所在など)と、切手を貼った返信用封筒です。届いたことの記録を残したいときは、特定記録郵便や簡易書留など、記録が残る送り方を選びます。内容証明郵便は強い印象を与えやすいので、最初の手紙では使わない家族が多いようです。
相手が「関わりたくない」と考える場合に備えて、相続放棄という方法があることを一文添えてもかまいません。ただし、放棄するかどうかは相手が決めることです。兄弟の一人が放棄したときに残る兄弟の割合がどう変わるかは、兄弟の一人だけ相続放棄したらで確かめられます。お願いの書き方や、放棄と「協議で何も受け取らない」の違いは、「相続放棄してほしい」と言われたらで整理しています。
返事がないときの進め方:住所が分かるかどうかで道が分かれる
手紙を出しても返事がない、話し合いを拒まれた、そもそも住所が分からない。こうしたときは、家庭裁判所の手続きを使います。どの手続きになるかは、相手の住所が分かるかどうかで決まります。
遺産分割調停の流れ
- 申立書をそろえる。申立書と相手方の人数分の写し、事情説明書、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍と住民票または戸籍の附票、遺産に関する資料を用意します。
- 家庭裁判所に申し立てる。申し立てる人以外の相続人全員が相手方になります。絶縁した兄弟だけでなく、話がまとまっている母なども相手方に入ります。
- 期日に出席する。調停委員が双方の話を聞き、分け方の案を探ります。
- まとまらなければ審判へ。調停が不成立になると、自動的に審判の手続きが始まり、裁判官が遺産の内容などを考えて分け方を決めます。
呼出状が届いた側の動き方は遺産分割調停の呼出状が届いたら、印紙や切手、弁護士費用の目安は遺産分割調停の費用にまとめています。
行方が分からない兄弟がいるとき
附票の住所に手紙が届かず、行方の手がかりもない場合は、不在者財産管理人の選任を申し立てます。申し立てられるのは、相続人など利害関係のある人です。管理人は不在者の財産を守る立場で選ばれます。遺産分割に加わるには、管理人が家庭裁判所から権限を超える行為の許可を受ける必要があります(民法28条)。分け方を決める際は、不在者の取り分をどう扱うかも家庭裁判所の判断を経ると考えておきましょう。
返事を待つ間にできること・してはいけないこと
返事を待つ間も、葬儀費用の支払いや家の管理は続きます。待っている間に進めてよいことと、後でもめる原因になることを分けておきます。
親が元気なうちにできること:遺言で「全員の判子」を減らす
この記事を、親の立場で読んでいる方もいると思います。子どもの一人と絶縁しているなら、遺言を残しておくことで、残された家族の手続きが大きく変わります。
遺言で絶縁した子の取り分をゼロにしても、子には遺留分(最低限の取り分)があります。遺留分を下回る分け方にすると、その子から金銭の支払いを求められる可能性が残ります。遺留分の割合と、取り違えやすい点は兄弟に遺留分はある?で整理しています。遺言の種類の選び方は公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?、遺言執行者を誰にするかは遺言執行者は誰にする?をご覧ください。
生前に遺留分を放棄してもらう方法もありますが、放棄する本人が家庭裁判所に申し立て、許可を受ける必要があります(民法1049条)。絶縁している相手に頼むのは、現実には難しいことが多いでしょう。
今日できる一歩
親の戸籍を1通取り、絶縁した兄弟が戸籍を出たときの「新しい本籍」が書かれているかを確かめます。あわせて、分かっている預金と不動産を紙1枚に書き出しておくと、手紙の別紙がそのまま作れます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
絶縁した兄弟にも遺産を相続する権利はありますか
あります。親の相続では、絶縁した兄弟もほかの兄弟と同じ「子」として相続人になり、相続分も同じです。絶縁や絶縁状に、相続権をなくす効果はありません。
絶縁した兄弟を外して遺産分割協議書を作れますか
作れません。遺産分割は相続人全員の合意が必要で、一人でも欠けた協議書では、銀行の解約や不動産の名義変更が進みません。連絡がつかないときは、遺産分割調停や不在者財産管理人の手続きを使います。
葬儀に呼ばなかった兄弟にも、相続の連絡は必要ですか
葬儀に呼ぶかどうかは、家族で決めてかまいません。ただ、遺産分割にはその兄弟の合意が必要なため、相続の連絡は避けられません。連絡が遅れるほど、相手が「隠されていた」と受け取りやすくなります。
役所で兄弟の電話番号を調べられますか
調べられません。戸籍や戸籍の附票で分かるのは、本籍と住所までです。最初の連絡は、附票で分かった住所への手紙になります。
遺産分割調停に、絶縁した兄弟が来なかったらどうなりますか
話し合いがまとまらず調停が不成立になると、自動的に審判の手続きが始まります。審判では、裁判官が遺産の内容などを考えて分け方を決めます(裁判所の案内)。
返事を待つ間に、葬儀費用のために預金を引き出せますか
遺産分割前の払戻し制度を使えば、各相続人が単独で引き出せます。上限は「亡くなった時の残高×1/3×自分の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円までです。引き出した分は、後の遺産分割で自分が受け取ったものとして扱われます。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(第25条・第28条・第891条・第892条・第909条の2・第1014条・第1042条・第1046条・第1049条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - e-Gov法令検索「住民基本台帳法」(第20条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000081 - 裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html - 裁判所「不在者財産管理人選任」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html - 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 法務省「戸籍証明書等の広域交付について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html - 全国銀行協会「亡くなった親の預貯金、すぐに引き出すことは可能ですか?」
https://www.zenginkyo.or.jp/article/life/others/14668/
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。戸籍や附票の請求方法、手数料、裁判所の郵便切手の額は窓口ごとに異なり、変わることがあります。相手との交渉や調停の代理は弁護士の業務です。個別の判断は、家庭裁判所・市区町村の窓口や弁護士・司法書士にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
