「夫の遺族年金をもらうと、自分の年金はどうなるのか」「国民年金と遺族年金は両方もらえるのか」。遺族年金の相談でいちばん誤解が多いのが、この組み合わせの話です。
答えは65歳を境に変わります。65歳になる前は「1人1年金」が原則で、どちらかを選びます。65歳からは、自分の国民年金(老齢基礎年金)と遺族厚生年金を両方受け取れます。ただ、自分の厚生年金もある人は、自分の分が先に払われ、遺族厚生年金はその差額になります。この記事では、組み合わせごとの早見表、4つの家庭の手計算、手取りで比べる見方、65歳の前後でする手続きを、2026年10月時点の日本年金機構の案内で整理します。
この記事の結論
- 65歳以降は、自分の老齢基礎年金(国民年金)と遺族厚生年金を、両方とも全額受け取れます。
- 自分の老齢厚生年金もある人は、自分の分が全額先に払われ、遺族厚生年金はそれを上回る差額だけになります。「自分の年金+夫の年金の4分の3」の足し算にはなりません。
- 65歳前は、自分の特別支給の老齢厚生年金や繰り上げた老齢年金と、遺族年金のどちらかを「年金受給選択申出書」で選びます。遺族年金は非課税なので、額面だけでなく手取りで比べます。
遺族年金と国民年金(老齢基礎年金)は両方もらえる?
「国民年金」という言葉は、遺族年金の話では3つの意味で使われます。どの意味かで答えが変わるので、先に分けておきます。
| ここでいう「国民年金」 | 遺族年金と両方もらえるか |
|---|---|
| 自分の老齢基礎年金(原則65歳から受け取る国民年金) | 65歳以降は、遺族厚生年金と両方全額もらえる。65歳前に繰り上げて受け取る場合は、遺族厚生年金とどちらかを選ぶ |
| 亡くなった人の国民年金から出る遺族基礎年金 | 遺族厚生年金と両方もらえる。同じ「遺族」の年金なので、1つの年金とみなされる。ただし対象は18歳年度末までの子がいる配偶者と子 |
| 夫が国民年金だけだった場合の寡婦年金 | 60〜64歳でほかの年金を受け取れるときは、どちらかを選ぶ。自分の老齢基礎年金を繰り上げると寡婦年金は出ない |
(日本年金機構「年金の併給または選択」「寡婦年金」「遺族年金ガイド 令和8年度版」をもとに作成。2026年10月時点)
日本年金機構は、年金は「1人1年金」が原則としたうえで、65歳以降は老齢基礎年金と遺族厚生年金をあわせて受けられるとしています(「年金の併給または選択」)。専業主婦の期間が長く、自分の年金が老齢基礎年金だけの妻なら、65歳からは「自分の国民年金+遺族厚生年金の全額」になります。
組み合わせ早見表|65歳前と65歳以降でどう変わるか
自分が受け取れる年金と、遺族年金の組み合わせごとに整理しました。「どちらかを選ぶ」とある組み合わせは、選ばなかったほうは支払われません。
| 組み合わせ | 65歳になる前 | 65歳以降 |
|---|---|---|
| 遺族基礎年金+遺族厚生年金 | 両方もらえる | 両方もらえる |
| 遺族厚生年金+自分の老齢基礎年金 | 繰り上げて受け取る場合は、どちらかを選ぶ | 両方もらえる(どちらも全額) |
| 遺族厚生年金+自分の老齢厚生年金(特別支給を含む) | どちらかを選ぶ | 自分の老齢厚生年金が全額。遺族厚生年金は差額だけ |
| 遺族厚生年金+自分の障害基礎年金 | どちらかを選ぶ | 両方もらえる(選択の届出が要る) |
| 遺族厚生年金+自分の障害厚生年金 | どちらかを選ぶ | 「障害基礎+障害厚生」か「障害基礎+遺族厚生」などの組み合わせから選ぶ |
| 寡婦年金+自分の老齢年金 | どちらかを選ぶ。老齢基礎年金を繰り上げると寡婦年金は出ない | 寡婦年金は65歳で終わる |
| 寡婦年金と死亡一時金 | どちらか一方 | ― |
| 遺族年金と未支給年金 | 別のお金なので両方 | 別のお金なので両方 |
(日本年金機構「年金の併給または選択」「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」「遺族年金ガイド 令和8年度版」をもとに作成。2026年10月時点)
未支給年金は、亡くなった人が受け取るはずだった年金の払い残しで、遺族年金とは別に一度だけ請求します(未支給年金の請求方法)。寡婦年金と死亡一時金の選び方は寡婦年金と死亡一時金の違いで整理しています。
年齢を追って見ると|40代で夫を亡くした妻の受け取り方の移り変わり
同じ人でも、年齢によって「両方もらえる」組み合わせが変わります。会社員の夫を40代で亡くし、中学生の子がいる妻を例に、時期ごとに並べます。
- 子が18歳になった年度の3月末まで:遺族基礎年金と遺族厚生年金を両方受け取ります。遺族基礎年金には子の加算がつきます。
- 子の年度末のあと、65歳になるまで:遺族基礎年金は終わり、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算(2026年度は年635,500円)がつきます。この間に自分の老齢年金を繰り上げて受け取ると、遺族厚生年金とはどちらかを選ぶことになります。
- 65歳から:中高齢寡婦加算は終わり、自分の老齢基礎年金が始まります。自分の老齢厚生年金があれば全額受け取り、遺族厚生年金は差額になります。
2のあいだに働いて収入が増えても、遺族年金は減りません。働き方と年金の関係は遺族年金とパート収入はいくらまで?で整理しています。
65歳以降に自分の厚生年金がある人|4つの家庭で手計算
65歳以降、自分の老齢厚生年金もある人の遺族厚生年金は、2段階で決まります。
- 遺族厚生年金の額を決める:「①夫の報酬比例部分×4分の3」と「②夫の報酬比例部分×2分の1+自分の老齢厚生年金×2分の1」を比べ、高いほうです。
- 自分の分を先に払う:自分の老齢厚生年金は全額支払われ、遺族厚生年金はそれに当たる額が止まります。残りの差額が入ります。
夫の報酬比例部分を年120万円、妻の老齢基礎年金を年80万円とした仮の数字で、妻の働き方ごとに並べると次のとおりです。
| 妻の家庭 | 自分の老齢厚生年金 | 遺族厚生年金の額(①と②の高いほう) | 実際に入る遺族厚生年金 | 年金の合計(老齢基礎年金を含む) | うち課税される年金 |
|---|---|---|---|---|---|
| A:専業主婦の期間が長い | 0円 | 90万円 | 90万円 | 170万円 | 80万円 |
| B:結婚前に数年会社員 | 20万円 | 90万円 | 70万円 | 170万円 | 100万円 |
| C:長く共働き | 100万円 | 110万円 | 10万円 | 190万円 | 180万円 |
| D:妻の厚生年金のほうが多い | 140万円 | 130万円 | 0円 | 220万円 | 220万円 |
(日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」「年金の併給または選択」の計算方法に仮の数字を当てはめた例。加算・端数・社会保険料は考えていません。遺族年金が非課税であることは国税庁「No.1605 遺族の方に支給される公的年金等」によります)
AとBは合計が同じです。Bは自分の厚生年金が増えた分だけ、遺族厚生年金が減っています。Cは②の計算のほうが高くなるため、合計が少し増えます。Dは自分の厚生年金のほうが多いので、遺族厚生年金は全額止まります。
見落とされやすいのが、いちばん右の列です。遺族年金には所得税も住民税もかかりませんが、自分の老齢年金は課税の対象です。AとBは合計が同じでも、課税される年金はAが80万円、Bが100万円です。住民税がかかるか、かからないかの判定も、この課税される年金で見ます。住民税が非課税になる目安は住んでいる市区町村で違い、名古屋市などの目安は年金暮らしの住民税非課税の目安で整理しています。
計算の手順をもう少しくわしく知りたい方は、遺族年金で妻はいくら?計算シミュレーションをご覧ください。70歳以上で経過的寡婦加算がつく方の計算例は、遺族年金 夫 死亡 70歳以上の妻にあります。
65歳前は「1人1年金」|どちらを選ぶかの考え方
65歳になる前に、遺族年金と自分の老齢年金の両方を受け取る権利がある場合は、どちらか一方を選びます。日本年金機構は、遺族厚生年金を受けていた人が63歳で特別支給の老齢厚生年金を受けられるようになった例で、両方をあわせて受けることはできないとしています。選ぶときは、次の4つを確かめます。
- 加算込みで比べる:40歳以上65歳未満で夫を亡くした妻などは、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算(2026年度は年635,500円)がつきます。遺族厚生年金は、加算を含めた額で比べます。
- 手取りで比べる:遺族年金は非課税、老齢年金は課税です。額面が少し高くても、税金や保険料を引くと遺族年金のほうが手元に残ることがあります。
- 繰り上げは慎重に:老齢基礎年金を65歳前に繰り上げても、遺族厚生年金と同時には受け取れません。繰り上げで減った額は一生続き、寡婦年金を受けられる人は寡婦年金も出なくなります。
- 届出を出す:選んだ結果は「年金受給選択申出書」で、年金事務所か街角の年金相談センターに出します。どちらかの額が変わって有利なほうが入れ替わったときなどは、選び直しを相談できます(日本年金機構「2つ以上の年金を受ける権利ができたとき」)。
迷ったら、年金事務所で「遺族厚生年金と自分の年金、両方の見込み額を出してください」と頼むのが確実です。両方の額が並ぶと、どちらを選ぶかの話がしやすくなります。
65歳の誕生日の前後でやること
65歳になると、受け取り方が「どちらかを選ぶ」から「組み合わせて受け取る」に切り替わります。切り替えは、自分の老齢年金を請求して初めて動きます。
- 自分の老齢年金を請求する:遺族年金を受け取っていても、65歳で受け取る老齢年金の請求は別に要ります。日本年金機構は、遺族厚生年金の額を決めるために、自分の老齢厚生年金の請求が必要としています。65歳前に届く年金請求書の扱いは年金請求書の書き方にまとめています。
- 届く通知で内訳を見る:65歳からの額が決まると、支給額変更通知書などが届きます。遺族厚生年金の一部が止まっている場合は、理由の欄で自分の老齢厚生年金との調整かどうかを確かめます。
- 中高齢寡婦加算の終わりを家計に反映する:中高齢寡婦加算は65歳で終わり、代わりに自分の老齢基礎年金が始まります。合計が増えるか減るかは、自分の加入期間しだいです。
自分の年金を繰り下げて増やしたい人の注意
繰下げは、老齢年金の受け取りを66歳以降に遅らせて、額を増やす仕組みです。ただ、66歳になる前に遺族厚生年金を受け取る権利がある人は、原則として老齢年金を繰り下げられません(日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」)。2025年の法改正で、昭和38年4月2日以降生まれの方など一定の方は取り扱いが変わるとされています。繰下げを考えている方は、請求の前に年金事務所で確かめてください。
繰下げで受け取りを待っている間に配偶者が亡くなった場合の扱いは、年金の繰下げは得かで整理しています。
今日できる一歩
1. 自分の年金額改定通知書か、ねんきん定期便を出す。老齢基礎年金と老齢厚生年金の額を分けて書き出します。
2. 遺族年金の年金証書か振込通知書を並べる。この記事の表のA〜Dのどれに近いかを見ます。
3. 65歳前の方は、年金事務所で両方の見込み額を出してもらう。手取りで比べるため、税金がかかるかどうかもあわせて聞きます。
よくある質問
遺族年金と自分の年金は、両方もらえますか
65歳以降は両方受け取れます。自分の老齢基礎年金は全額です。自分の老齢厚生年金もある場合は、それが全額先に払われ、遺族厚生年金は差額になります。65歳前は、原則どちらか一方を選びます。
遺族年金と国民年金は、両方もらえますか
自分の国民年金(老齢基礎年金)なら、65歳以降は遺族厚生年金と両方全額もらえます。65歳前に繰り上げて受け取る場合は、どちらかを選びます。亡くなった人の国民年金から出る遺族基礎年金も、遺族厚生年金とあわせて受け取れます。
遺族年金をもらうと、自分の年金は減りますか
自分の年金は減りません。65歳以降に止まるのは、遺族厚生年金のうち自分の老齢厚生年金に当たる部分です。自分の年金が先に全額払われ、足りない分を遺族厚生年金が補う形です。
65歳前は、遺族年金と自分の年金のどちらを選べばいいですか
中高齢寡婦加算を含めた遺族厚生年金と、自分の老齢年金を手取りで比べます。遺族年金は非課税なので、額面が近ければ遺族年金のほうが手元に残りやすくなります。年金事務所で両方の見込み額を出してもらうのが確実です。
遺族年金と障害年金は、両方もらえますか
65歳前はどちらか一方です。65歳以降は、障害基礎年金と遺族厚生年金の組み合わせを選べます。選ぶには年金受給選択申出書の提出が要るので、年金事務所で額を比べてから決めてください。
妻を亡くした夫も、同じ考え方ですか
65歳以降に自分の老齢年金が先、遺族厚生年金が差額になる点は同じです。ただ、夫が遺族厚生年金を受け取れるのは、妻が亡くなったときに55歳以上だった場合で、受け取りは原則60歳からです。中高齢寡婦加算のような加算は、夫にはつきません(遺族年金で夫はいくら?)。
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参考にした公的情報
- 日本年金機構「年金の併給または選択」
- 日本年金機構「2つ以上の年金を受ける権利ができたとき」
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「寡婦年金」
- 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」(PDF)
- 国税庁「No.1605 遺族の方に支給される公的年金等」
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。受け取れる年金の組み合わせや額は、ご自身と亡くなった方の加入記録、生年月日、家族の状況で変わります。表の計算例は仕組みを説明するための仮の数字です。実際の額や選び方は、年金事務所またはねんきんダイヤルでご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
