「孫を養子にすると相続税が減ると聞いた」「再婚相手の子を養子にしたら、相続はどう変わるのか」。親の相続を考え始めると、養子縁組の話が出てくることがあります。
この記事では、養子が相続人になる範囲、相続税で数に入る養子の上限、孫養子の2割加算、家族の間で行き違いが起きやすい点、届出の流れを、2026年10月時点の法令と国税庁などの公的情報をもとに整理します。
先に結論:養子は実子と同じ相続人。税の数え方だけ上限がある
この記事の結論
- 相続では実子と同じ:養子は縁組の日から養親の子になり、取り分も実子と同じです。人数の上限はありません。
- 相続税では上限あり:基礎控除などの計算に入る養子は、実子がいれば1人、いなければ2人までです。
- 孫養子は2割加算:孫を養子にした場合、代襲相続人でなければ相続税が2割増しになります。
「民法の相続」と「相続税の計算」で、養子の数え方が違う。ここを分けて考えると、話がぐっと整理しやすくなります。
養子縁組で相続人になる範囲と、普通養子・特別養子の違い
民法では、養子は縁組の日から養親の嫡出子(結婚した夫婦の子)の身分を取ります(民法809条)。養親の親や兄弟とも、血のつながった親族と同じ関係になります(民法727条)。
養子縁組には2種類あります。ふだん「養子」と言うときは、ほとんどが普通養子です。
養子縁組と相続人の範囲:だれの相続人になるかの早見表
普通養子は、養親と実親の両方の相続人になります。一方で、養子の配偶者や、養子縁組をしていない連れ子は、養親の相続人にはなりません。
養子縁組と相続の順位・取り分
養子は「子」なので、相続の順位は第1順位です(民法887条)。子がいれば、親(直系尊属)や兄弟姉妹は相続人になりません(民法889条)。
取り分も実子と同じです。子が数人いれば均等に分けます(民法900条4号)。たとえば配偶者と、実子2人・養子1人なら、配偶者が2分の1、子3人が各6分の1です。民法には養子の人数の上限はありません。
子のいない夫婦が養子を迎えると、親や兄弟姉妹は相続人から外れます。誰が相続人になるかの全体像は子どものいない夫婦の相続人と取り分でも整理しています。
連れ子・婿養子のとき
連れ子は、再婚しただけでは相続人になりません。養子縁組をすれば、実子と同じ相続人になります。配偶者の子を養子にする場合は、未成年でも家庭裁判所の許可は要りません(民法798条ただし書)。前の結婚の子との関係は再婚した人の相続と前妻の子も参考になります。
婿養子は、娘の夫が妻の親と養子縁組をする形です。結婚して名字を変えただけでは養子になりません。縁組届を出して初めて、妻の親の相続人になります。普通養子なので、実の親の相続人でもあり続けます。
相続税で養子縁組をしたときに数に入る養子の上限
相続税では、法定相続人の数に入れられる養子の数に上限があります。国税庁の案内では、実子がいれば1人、実子がいなければ2人までです。
この「法定相続人の数」は、次の4つの計算に使われます。
- 相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
- 生命保険金の非課税限度額
- 死亡退職金の非課税限度額
- 相続税の総額の計算
次の人は「実子」として扱われ、上限の人数に含めずに数えます。
- 特別養子縁組をした子
- 配偶者の実子で、養子になった人(連れ子養子)
- 結婚前に配偶者の特別養子だった人で、結婚後に養子になった人
- 子が先に亡くなるなどして、代わりに相続人になった孫など
また、養子を数に入れることが相続税を不当に減らす結果になると認められる場合は、その養子を数に入れられないとされています。基礎控除の考え方は相続税はいくらからかかるかの早見表で詳しく見られます。
孫を養子にしたときの相続税2割加算
相続税には、配偶者と一親等の血族(子や親)以外の人が財産を取得すると、税額が2割増しになる仕組みがあります。これを「2割加算」といいます。
養子は一親等なので、原則として2割加算はありません。ただし、孫を養子にした場合は、その孫養子に2割加算がかかります。例外は、孫の親(亡くなった方の子)が先に亡くなっていて、孫が代わりに相続人になっているときです。
基礎控除が600万円増えても、孫養子の税額が2割増えるため、差し引きでどうなるかは財産の額や分け方しだいです。孫に財産を渡す方法は、遺言や生前の贈与などほかにもあります。縁組だけで決めず、比べてから選ぶと安心です。
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相続で養子縁組をするデメリットと、家族の行き違いが起きやすい点
養子縁組は、身分そのものを変える手続きです。税の面だけで決めると、あとで家族の受け止め方がずれることがあります。よく出てくる点を挙げます。
- ほかの子の取り分が減る。子が1人増えると、実子1人あたりの法定相続分と遺留分(最低限の取り分)が小さくなります。
- 説明がないと気持ちのずれが残る。「なぜ孫だけ」「なぜ今」と受け取られることがあります。目的を家族で共有しておくと、話し合いが進めやすくなります。
- 孫養子は2割加算がかかる。基礎控除が増える分と相殺され、思ったほど税が減らない場合があります。
- 名字が変わる。養子は原則として養親の氏を名乗ります(民法810条)。結婚で名字を変えた人は、その名字のままです。
- 元に戻すには離縁が必要。娘夫婦が離婚しても、婿養子の縁組は自動的には終わりません。養親か養子が亡くなった後の離縁は、家庭裁判所の許可が要ります(民法811条6項)。
- 本人の意思がはっきりしないと争いになりやすい。縁組をする意思がなければ縁組は無効です(民法802条)。親の判断力が落ちてからの縁組は、後で有効かどうかが問題になることがあります。
読者が損をしやすいのは、「養子を何人も入れれば税が減る」と考えてしまうことです。税の計算に入る養子には上限があり、民法上の相続人は増えるので、実子の取り分だけが減る形になりかねません。
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養子縁組の手続きと必要書類(普通養子の一般的な流れ)
普通養子は、市区町村に養子縁組届を出し、受理されると成立します。養親は20歳以上で、養子は養親より年上や目上の親族(尊属)でないことが条件です(民法792条・793条)。
- 家族で目的を話し合う。誰を養子にするか、相続や名字がどう変わるかを共有します。
- 配偶者の同意を確認する。養親か養子に配偶者がいる場合、原則として配偶者の同意が要ります(民法796条)。
- 未成年を養子にするなら家庭裁判所の許可を得る。自分や配偶者の孫・子を養子にする場合は不要です(民法798条)。
- 届書を用意し、署名を集める。養親・養子(15歳未満なら法定代理人)と、成人の証人2人が署名します。
- 市区町村の窓口に提出する。養親か養子の本籍地、または届出人の所在地の役所に出します。
必要書類のチェックリストです。
- □ 養子縁組届(1通。役所の窓口などで入手)
- □ 養親・養子(または法定代理人)の署名
- □ 成人の証人2人の署名
- □ 窓口に行く人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- □ 未成年を養子にするときは家庭裁判所の許可書の謄本
- □ 配偶者の同意(同意書の添付か、届書への記載)
特別養子縁組は届出だけでは成立せず、養親となる夫婦が家庭裁判所に申し立てます。詳しくは家庭裁判所の案内を確認してください。
期限と、過ぎたらどうなるか
養子縁組届そのものに期限はありません。届け出た日から効力が生じます。縁組には本人どうしの意思が必要なので、相続に関わる縁組は、親が元気で意思をはっきり示せるうちに考えることになります。
相続が始まった後は、次の期限が関わります。
- 相続放棄:相続人になったと知った時から3か月以内(民法915条)。過ぎると、原則として借金も含めて相続したことになります。
- 相続税の申告と納税:亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。遅れると延滞税や加算税がかかることがあります。
申告期限の数え方は相続税の申告期限10か月の数え方で例を挙げて説明しています。
今日できる一歩
- 親の戸籍に、すでに養子がいるかを確かめる(本人や家族が忘れていることもあります)。
- 相続人になる人と、税で数える人数を紙に書き分けてみる。
- 縁組を考えているなら、目的を一文で書き、家族に共有する。
よくある質問
養子は何人まで相続人になれますか?
民法では人数の上限はなく、全員が相続人です。上限があるのは相続税の計算だけで、実子がいれば1人、いなければ2人までを数えます。
普通養子は実の親の相続も受けられますか?
受けられます。普通養子は実親との親族関係が続くので、養親と実親の両方の相続人になります。特別養子は実親との関係が終わるため、実親の相続人にはなりません。
相続税を減らす目的の養子縁組は無効になりますか?
2017年1月31日の最高裁判決は、節税の目的があるだけで直ちに縁組の意思がないとはいえない、と判断しています。ただし、本人に縁組の意思がなければ無効です。また、税の上で不当な減少と認められると、その養子は数に入れられません。
再婚相手の連れ子を養子にすると、相続税の上限に数えられますか?
配偶者の実子を養子にした場合は、相続税では実子として扱われます。そのため養子の上限の人数には含めずに数えます。
離縁すると相続はどうなりますか?
離縁すると、養親側との親族関係は終わります(民法729条)。そのため、離縁後に養親が亡くなっても相続人にはなりません。離縁にも届出が必要です。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4170「相続人の中に養子がいるとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4170.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4157「相続税額の2割加算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm - e-Gov法令検索「民法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 法務省「養子縁組の届出に関する取扱い等について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00016.html - 名古屋市「養子縁組・離縁届」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/todokede/1007825/1007828.html
※本記事は2026年10月時点の法令(e-Gov法令検索)と、国税庁・法務省・自治体の公開情報をもとにした一般的な整理です。養子縁組をするかどうかの判断や、個別の相続税額の計算、届出の細かな取り扱いは、家族の状況によって変わります。税額は税務署や税理士に、届出は本籍地などの市区町村の戸籍窓口に確認してください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
