配偶者居住権とは【2026年】使える条件・登記の必要書類・二次相続での扱い

配偶者居住権とは

父が亡くなり、実家には母が一人で住み続けることになった。家は子が相続したいが、母の住まいと老後のお金も守りたい。そんなときの選択肢の一つが「配偶者居住権」です。

この記事では、配偶者居住権がどんな権利か、使える条件、登記の必要書類と手順、残った親が亡くなったとき(二次相続)の扱い、選ぶ前に確かめることを、2026年10月時点の民法・法務局・国税庁の公開情報をもとに整理します。

目次

先に結論:配偶者居住権は「家の持ち主」と「住む権利」を分ける仕組み

この記事の結論

  1. どんな権利か:家の持ち主が子になっても、残った親が原則として亡くなるまで無償で住み続けられる権利です。遺産分割か遺言で決めます。
  2. 登記:建物の相続登記を済ませたあと、建物の所在地を管轄する法務局で設定の登記をします。登記がないと、家を買った人などに権利を主張できません。
  3. 二次相続:残った親が亡くなると権利は消え、子に相続されません。ただし、売れない・途中でやめると贈与税の対象になりうる、などの点は選ぶ前に確かめます。

配偶者居住権とは:配偶者短期居住権との違い

配偶者居住権は、2020年4月1日に始まった制度です(民法1028条〜1036条)。亡くなった人の持ち家に住んでいた配偶者が、その家の全部を無償で使い続けられる権利です。家の「持ち主(所有権)」と「住む権利」を分けて相続できる、と考えると分かりやすくなります。

たとえば、家の所有権は長男が相続し、母は配偶者居住権を取得します。母は家に住み続けられます。家の所有権より住む権利の評価は低くなるので、母は預金など他の財産も受け取りやすくなります。

期間は原則として配偶者が亡くなるまで(終身)です。遺産分割の話し合いや遺言で「10年」などと決めることもできます(民法1030条)。決めた期間を後から延ばしたり更新したりはできないと解されています。

よく似た名前の「配偶者短期居住権」は、別の仕組みです。こちらは相続が始まると条件を満たせば自動的に生まれ、短い間だけ住み続けられる権利です。違いを表にまとめます。

項目配偶者居住権配偶者短期居住権
どう決まるか遺産分割(協議・調停・審判)か遺言(遺贈)で取得条件を満たせば、相続開始で自動的に生じる
住める期間原則、配偶者が亡くなるまで(期間を決めることも可)遺産分割で家の行き先が決まった日か、相続開始から6か月を過ぎる日の、遅いほうまで
範囲建物の全部無償で使っていた部分
登記できる(登記で第三者に主張できる)できない
相続税の評価財産として評価する(国税庁の計算方法あり)―
※出典:民法1028条〜1041条(e-Gov法令検索)、法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます」、国税庁「No.4666 配偶者居住権等の評価」をもとに整理(2026年10月時点)。遺言で家を他の人に渡した場合や相続放棄をした場合の短期居住権は、家の取得者から消滅の申入れを受けた日から6か月です。

配偶者居住権を使える人・使えない人の早見表

使える条件は大きく3つです。①亡くなった人が持っていた建物に、相続開始の時に住んでいた。②遺産分割か遺言(遺贈)で取得すると決まった。③亡くなった人が、その建物を配偶者以外の人と共有していなかった。

場面使えるかポイント
亡くなった人の単独名義の家に住んでいた妻・夫使える遺産分割か遺言で取得を決める
夫婦の共有名義の家使える配偶者との共有なら対象になる
亡くなった人と子などの共有名義の家使えない配偶者以外との共有は対象外(民法1028条)
内縁・事実婚のパートナー使えない法律上の配偶者が対象
借家・賃貸に住んでいた使えない亡くなった人の財産である建物が対象
2020年4月1日より前に書かれた遺言遺言では設定できない遺産分割の話し合いで取得することは考えられる
「〇〇に相続させる」型の遺言で決めようとしたその形では取得させられない遺言なら「遺贈する」形が必要(民法1028条1項)
※出典:民法1028条(e-Gov法令検索)、法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます」、国税庁「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」をもとに整理(2026年10月時点)。相続開始時に入院・施設入居中だった場合などは、個別に専門家へ確認してください。

話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の審判で決めることもあります。審判で認められるのは、相続人全員が合意しているときか、配偶者の生活を守るために特に必要と認められるときに限られます(民法1029条)。

配偶者居住権の登記:必要書類と手順

配偶者居住権は、登記をすることで、家を買った人や差し押さえた人などの第三者に主張できます。建物の持ち主には、配偶者に登記をさせる義務があります(民法1031条)。法務省は、登記の先後で優劣が決まるため、取得したら早めに登記するよう案内しています。ここでは法務局の記載例で確認できた一般的な流れをまとめます。

配偶者居住権の登記までの手順

  1. 条件を確かめる。相続開始の時に住んでいたか、建物の名義が亡くなった人の単独か夫婦の共有かを、登記事項証明書で確認します。
  2. 遺言の有無を確かめる。遺言で配偶者居住権が遺贈されていれば、それに従います。自筆の遺言は、法務局保管のものを除き家庭裁判所の検認が必要です。
  3. 遺産分割で決める。誰が建物の所有権を取得し、配偶者が配偶者居住権を取得するか、期間を終身にするかを話し合い、書面に残します。
  4. 建物の相続登記を先に済ませる。建物が亡くなった人の名義のままだと、配偶者居住権の登記はできません。先に所有権の移転登記をします。
  5. 配偶者居住権の設定登記を申請する。建物の所在地を管轄する法務局に、配偶者(権利者)と建物の持ち主(義務者)が申請します。代理人に頼むこともできます。
  6. 相続税の申告が必要か確かめる。必要なら、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告します。

配偶者居住権の登記の必要書類チェックリスト

  • □ 登記申請書(登記の目的は「配偶者居住権設定」。存続期間を書く)
  • □ 登記原因証明情報(遺産分割の内容を示す書面。遺贈なら遺言書と、亡くなった事実が分かる戸籍謄本など)
  • □ 自筆の遺言書なら家庭裁判所の検認済証明書(公正証書遺言と法務局で保管された遺言書は不要)
  • □ 建物の持ち主(義務者)の登記識別情報
  • □ 建物の持ち主の印鑑証明書(作成後3か月以内。遺言執行者が申請する場合はその人のもの)
  • □ 代理人に頼む場合は委任状
  • □ 登録免許税(建物の価額の1000分の2。計算した額が1,000円未満なら1,000円)
  • □ 亡くなった人の登記上の住所・氏名が最後の住所などと違う場合は、住民票の除票や戸籍の附票の写し

※法務局「配偶者居住権の設定の登記」の記載例(遺産分割の場合・遺贈の場合)で確認した一般的な内容です(2026年10月時点)。期間を定めた場合や第三者に貸す特約がある場合など、内容によって書類は変わります。実際の申請前に、管轄の法務局の案内で確かめてください。建物の登記事項証明書の取り方は登記事項証明書の取り方と手数料、遺言の検認は遺言書の検認の手続きで整理しています。

期限と、過ぎたらどうなるか

配偶者居住権まわりで関わる期限と金額を表にまとめます。配偶者居住権の設定登記そのものには、民法上の申請期限は書かれていません。ただし、登記をしないまま家が売られると、買った人に権利を主張できなくなるおそれがあります。

項目期限・金額過ぎたら・注意
配偶者居住権の設定登記民法上の期限の定めなし。法務省は早めの登記を案内登記前に家が第三者に渡ると、権利を主張できないおそれ
登録免許税建物の価額の1000分の2(最低1,000円)価額の出し方は法務局の「登録免許税の計算」で確認
建物の相続登記(前提)取得を知った日から3年以内(遺産分割で取得した場合は分割の日から3年以内)正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象
相続税の申告亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内期限後は加算税・延滞税がかかる場合がある
配偶者短期居住権遺産分割で家の行き先が決まった日か、相続開始から6か月の遅いほうまでその後も住むなら、配偶者居住権や所有権の取得を話し合う
※出典:民法1030条・1031条・1037条(e-Gov法令検索)、法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます」「相続登記の申請義務化に関するQ&A」、法務局「配偶者居住権の設定の登記」記載例、国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」をもとに整理(2026年10月時点)。

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残った親の住まいと二次相続での扱い

住んでいる間の決まりごと

配偶者居住権を持つ親は、これまでどおりの使い方で、ていねいに住む必要があります。固定資産税や通常の修繕費などの「通常の必要費」は、住む親が負担します(民法1034条)。増改築や人に貸すときは、家の持ち主の承諾が要ります。権利を人に売ったり譲ったりはできません(民法1032条)。

残った親が亡くなったとき(二次相続)

配偶者居住権は、持っている親が亡くなると消えます(民法1036条で準用する597条3項)。子に相続されることはありません。家の持ち主である子は、制限のない所有権として家を使えるようになります。

相続税の面では、国税庁の通達の説明で、配偶者の死亡や期間満了で消えた場合は、持ち主に移る経済的な価値はないとされています。このため、二次相続で配偶者居住権に相続税がかかる仕組みにはなっていません。一次相続で家の所有権を残った親が持つ場合と比べ、二次相続の財産が少なくなる場合があります。二次相続全体の考え方は二次相続とは?親の一人が亡くなったら確かめる5つにまとめています。

途中でやめると贈与税の対象になりうる

注意したいのは、親が生きているうちに権利を手放すときです。合意や放棄で途中で消し、持ち主の子が対価を払わなかった(または著しく低かった)場合、原則として子が親から贈与を受けたものとして扱われます(相続税法基本通達9-13の2)。施設に入ることになったときなどは、手放し方を税務署や税理士に確かめてから決めます。

ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。

選ぶ前に確かめること(損しやすい点)

  • 家を売ってお金にしにくい。権利は売れず、親が施設に入っても家の売却には持ち主の判断と親の権利の扱いの両方が関わります。
  • 評価額は計算で決まる。相続税では、建物の耐用年数・築年数・親の平均余命・法定利率から評価します(国税庁No.4666)。親が若いほど、権利の評価は高くなります。
  • 配偶者の税額軽減との組み合わせ。一次相続で親の税金が0円でも、二次相続の税金は別に考えます。配偶者の税額軽減の条件と二次相続の注意もあわせて見てください。
  • 遺言の書き方。2020年4月1日より前の遺言や「相続させる」型の遺言では設定できません。これから書くなら「遺贈する」形で、専門家に文案を確かめます。
  • 登記を後回しにしない。持ち主の子に借金があり家が差し押さえられた場合なども、登記がないと権利を主張できないおそれがあります。
  • 家族の関係。親と持ち主の子の間で、修繕や固定資産税の負担を誰がどうするか、事前に話しておくと揉めにくくなります。

今日できる一歩

  1. 実家の建物の登記事項証明書を取り、名義が誰か(単独か、共有か)を確かめる。
  2. 遺言があるか、あれば日付と「遺贈する」の書き方かを確かめる。
  3. 残った親が今後も住むか、施設や住み替えの可能性があるかを、家族で話しておく。

よくある質問

配偶者居住権の登記は必要ですか?しないとどうなりますか?

登記は権利が生まれるための条件ではありません。ただし、登記がないと、家を買った人など第三者に権利を主張できません。持ち主の子には登記に協力する義務があるので、取得したら早めに申請します。

登記をするのは建物だけですか?

配偶者居住権の設定登記は、建物について申請します。土地は建物を使うのに伴って使う形になり、相続税では「敷地利用権」として別に評価します(国税庁No.4666)。

配偶者短期居住権にも手続きが要りますか?

条件を満たせば相続開始で自動的に生じるので、申請の手続きはありません。登記もできません。遺産分割の話し合いが長引いても、その間の住まいは守られます。

親が施設に入ったら、家を人に貸せますか?

家の持ち主の承諾があれば、第三者に貸すことができます(民法1032条3項)。権利そのものを売ることはできません。権利を手放す場合は贈与税の扱いがあるので、事前に確かめます。

二次相続で、子に配偶者居住権の相続税はかかりますか?

親が亡くなって権利が消えた場合、国税庁の通達の説明では、移る経済的な価値はないとされ、配偶者居住権に相続税がかかる仕組みにはなっていません。家の所有権そのものは子がすでに持っているので、二次相続ではそれ以外の財産で税金を考えます。

参考にした公的情報

※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。配偶者居住権を設定するか、期間をどうするか、登記の書類や相続税の額は、ご家族の状況や財産で変わります。登記の申請は管轄の法務局の案内を、税金は税務署や税理士を、遺言や遺産分割の内容は弁護士・司法書士などの専門家へご確認ください。

本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。

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この記事を書いた人

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