父が在職中に亡くなり、勤め先から「死亡退職金をお支払いします」と連絡が来た。金額を見て、相続税がかかるのか、誰の口座で受け取ればいいのか迷う方は少なくありません。
この記事では、死亡退職金の非課税枠の計算、死亡保険金の非課税枠との併用、弔慰金との違い、申告と期限を、2026年10月時点の国税庁の公開情報をもとに整理します。
先に結論:死亡退職金は「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかからない
この記事の結論
- 非課税枠:相続人が受け取る死亡退職金は、合計で「500万円×法定相続人の数」まで相続税の対象から外れます。
- 保険金とは別枠:死亡保険金にも同じ計算の非課税枠があり、2つは別々に使えます。
- 3年が境目:亡くなってから3年以内に支給額が決まれば相続税、3年を過ぎて決まると受け取った人の所得税(一時所得)になります。
非課税枠を引いたあとの財産の合計が相続税の基礎控除以下なら、相続税の申告はいりません。基礎控除の目安は相続税がかかるかどうかの早見表で確かめられます。
死亡退職金を受け取る人と、非課税枠を使える人
死亡退職金とは、亡くなった人に払われるはずだった退職金や功労金を、遺族が受け取るものです。税金の上では「みなし相続財産」と呼ばれます。亡くなった人の預金とは違い、相続で受け取ったものと「みなされる」財産という意味です。
受け取る人は勤め先の規程で決まるのが基本
誰が受け取るかは、まず勤め先の退職金の規程(退職給与規程)を見ます。規程に受取人の順位があれば、その人が受け取ります。国家公務員は法律で遺族の順位が決まっていて、配偶者が最初です。配偶者には、届出をしていない事実上の夫婦も含まれます。
規程に定めがない場合、国税庁の通達では、申告までに実際に受け取った人などを受取人として扱います。それも決まらなければ、相続人全員が等しく受け取ったものとして扱います。まずは勤め先の担当者に、規程の写しと受取人の決め方を聞くのが近道です。
死亡退職金の非課税を使える人・使えない人の早見表
相続人でない人は、規程で受取人になっていれば受け取ること自体はできます。ただ、非課税枠は使えません。事実上の夫婦や、子がいて相続人にならない兄弟姉妹は、ここで差が出やすいところです。
死亡退職金の非課税枠の計算と計算例
非課税枠(非課税限度額)は「500万円×法定相続人の数」です。相続人全員が受け取った死亡退職金の合計がこの額以下なら、相続税はかかりません。超えたときは、受け取った額の割合で枠を分けます。
計算例1:妻と子2人、妻だけが受け取った
法定相続人は妻・長男・長女の3人です。非課税枠は500万円×3人で1,500万円です。妻が死亡退職金2,000万円を受け取ると、2,000万円−1,500万円で500万円が相続税の対象になります。
計算例2:妻と長男で分けて受け取った
同じ家族で、妻が1,200万円、長男が800万円を受け取ったとします。合計は2,000万円です。妻の非課税額は1,500万円×1,200/2,000で900万円です。長男は1,500万円×800/2,000で600万円です。対象になるのは妻300万円、長男200万円で、合計はやはり500万円です。
計算例3:長男が相続放棄をしていた
計算例2で長男が相続放棄をしていた場合です。法定相続人の数は放棄がなかったものとして3人のままで、枠は1,500万円です。ただし枠を使えるのは妻だけです。妻の1,200万円は枠内に収まり0円、長男の800万円は全額が相続税の対象になります。
相続税がかかるかどうかは、このあと他の財産と合わせて基礎控除と比べて決まります。対象額が出ても、すぐに税金がかかるとは限りません。
死亡退職金と生命保険金の非課税は併用できる
亡くなった人が保険料を払っていた死亡保険金にも、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。死亡退職金の枠とは別の枠です。一方を使い切っても、もう一方の枠は残ります。
たとえば法定相続人が3人なら、死亡退職金に1,500万円、死亡保険金にも1,500万円の枠があります。計算例1の妻が死亡保険金1,200万円も受け取った場合、保険金は枠内なので0円です。死亡退職金の500万円だけが対象として残ります。
注意したいのは、枠を融通し合えない点です。保険金の枠が300万円余っていても、死亡退職金の超えた500万円には回せません。相続放棄をした人や相続人でない人が使えない点も、両方の枠で同じです。
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弔慰金との違いと、3年を過ぎたときの扱い
勤め先からは、死亡退職金とは別に弔慰金(お悔やみのお金)や花輪代が出ることがあります。弔慰金は、原則として相続税の対象になりません。ただし一定額を超える部分は、死亡退職金として扱われます。
名前が「弔慰金」でも、規程上は退職金にあたるものは死亡退職金として扱われます。名目より中身で判断される、と覚えておくと迷いにくくなります。
3年の数え方は、支給額が決まった日が基準です。会社役員の場合、株主総会などで金額が決まった日が多いでしょう。3年を過ぎて決まると相続税の非課税枠は使えません。代わりに一時所得として、「受取額−特別控除(最高50万円)」の2分の1が他の所得と合算されます。
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受け取ったあとの手順と申告の期限
- 勤め先に受取人と金額を確認する。規程の写し、支給額が決まった日、弔慰金が別に出るかを聞きます。
- 法定相続人の数を確かめる。戸籍で相続人を確定し、養子がいれば数え方のルールに当てはめます。
- 非課税枠を引いて財産の合計を出す。死亡退職金と死亡保険金はそれぞれの枠を引いてから、預金や不動産と合計します。
- 基礎控除と比べる。合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下なら、相続税の申告はいりません。
- 超えるときは申告と納付をする。期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。提出先は亡くなった人の住所地の税務署です。
申告書では、死亡退職金は「第10表 退職手当金などの明細書」、死亡保険金は「第9表 生命保険金などの明細書」に書いて非課税額を計算します。また、受取人1人あたりの支払額が100万円を超えると、勤め先から税務署へ支払調書が出されます。受け取った事実は税務署にも伝わる前提で考えておきましょう。
必要書類チェックリスト
- □ 勤め先からの支給通知(金額と支給が決まった日が分かるもの)
- □ 退職金の規程の写し(受取人の順位が分かる部分)
- □ 弔慰金・花輪代の明細(退職金と分けて書かれているか)
- □ 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、または法定相続情報一覧図
- □ 受け取る人の本人確認書類と振込先口座
- □ 死亡保険金を受け取った場合は、その支払通知
- □ 相続放棄をした人がいれば、家庭裁判所の相続放棄申述受理通知書
勤め先に出す書類は会社ごとに違います。上は、税金の確認まで見据えて手元にそろえておきたいものです。
期限を過ぎたらどうなるか
相続税の申告が必要なのに10か月を過ぎると、無申告加算税や延滞税がかかることがあります。税務署から「相続についてのお尋ね」が届くこともあります。届いたときの考え方は税務署からお尋ねが届いたときの記事にまとめています。
今日できる一歩
- 勤め先からの書類で「死亡退職金」と「弔慰金」の金額を分けて書き出す
- 法定相続人の数を数え、「500万円×人数」の枠を2つ(退職金用・保険金用)メモする
- 支給額が決まった日を確認し、亡くなった日から3年以内かを見る
死亡退職金で損しやすい点
- 相続人でない人が受け取る。事実上の配偶者などが受取人だと、非課税枠を使えません。家族の中で誰が受け取るかを選べる規程なら、税金の面も確かめてから決めます。
- 相続放棄をした人が受け取る。放棄しても受け取れる場合はありますが、枠は使えず全額が対象になります。
- 弔慰金をすべて非課税と思い込む。普通給与の3年分または半年分を超えた部分は、死亡退職金に足して計算します。
- 保険金の枠で退職金を埋めようとする。2つの枠は別々で、余りを回すことはできません。
- 役員退職金の決定が遅れる。3年を過ぎて金額が決まると、相続税の枠ではなく所得税の扱いになります。
配偶者が受け取る場合は、配偶者の税額軽減も合わせて考えます。仕組みは配偶者の税額軽減の記事で確認できます。親がiDeCoに入っていた場合の死亡一時金の受け取り方と税金は、iDeCoの死亡一時金の記事で整理しています。
よくある質問
死亡退職金の非課税枠を使うのに申告は必要ですか
非課税枠そのものは、申告しなくても差し引けます。枠を引いたあとの財産の合計が基礎控除以下なら、申告はいりません。基礎控除を超えるときは、申告書の第10表で非課税額を計算します。
死亡退職金と生命保険金の非課税は両方使えますか
使えます。どちらも「500万円×法定相続人の数」で、別々の枠です。ただし、片方の余りをもう片方に回すことはできません。
相続放棄をしても死亡退職金はもらえますか
規程で受取人になっていれば、受け取れる場合があります。ただし相続放棄をした人は非課税枠を使えず、受け取った全額が相続税の対象です。放棄するかどうかの判断は、弁護士や司法書士などに確かめてください。
死亡退職金は遺産分割協議で分けるものですか
規程で受取人が決まっている場合は、その人が受け取るお金として扱われるのが一般的です。ただ、規程の内容や事情で扱いが変わることもあります。分け方でもめそうなときは、早めに専門家に相談してください。
退職後に亡くなり、退職金が未払いだった場合は?
生前に退職していても、亡くなった時点で金額が決まっておらず、死亡後3年以内に決まったものは死亡退職金と同じ扱いです。非課税枠も使えます。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4120.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4205 相続税の申告と納税
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm - 国税庁 相続税法基本通達〔退職手当金関係〕
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/03.htm - 国税庁 所得税基本通達 法第34条《一時所得》関係
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/08.htm
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開情報(令和8年4月1日現在の法令等)をもとにした一般的な整理です。死亡退職金の受取人や支給額の確定日、弔慰金の区分は勤め先の規程や個別の事情で変わります。実際の税額や申告の要否は、税務署や税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
