実家で親の書類を片づけていたら、生命保険の証券が出てきた。受取人の欄を見ると、先に亡くなった母の名前のまま。父が亡くなった後の家族から、よく聞く場面です。
受取人が亡くなっていても、契約は続いています。ただ、そのままにすると、お金を受け取る人や手続きが思っていたのと変わることがあります。この記事では、変更の手続きと必要書類、認知症や非課税枠との関係を、2026年10月時点の法律と公的な案内で整理します。
受取人変更の必要書類は、会社所定の請求書と契約者の本人確認書類が基本です。あわせて被保険者の同意(署名)が要ります。離婚しても受取人は自動では変わらず、変更しないままだと元の配偶者に支払われます。
先に結論:受取人の変更は、契約者が元気なうちに会社へ届け出る
この記事の結論
- そのままだと:受取人が先に亡くなっていると、法律では「受取人の相続人の全員」が受取人になります。人数が増え、請求の手続きも重くなりがちです。
- 変えられる人:受取人を変えられるのは契約者です。死亡保険の受取人の変更には、被保険者の同意も要ります。子どもが代わりに変えることはできません。
- いつまでに:被保険者が亡くなるまでです。ただし、契約者に判断する力があるうちでないと手続きできません。受取人が相続人かどうかで、死亡保険金の非課税枠も変わります。
親の一人が亡くなった後に確かめておきたいことは、二次相続とは?親の一人が亡くなったら確かめる5つにまとめています。この記事は、そのうち「残った親の生命保険の受取人」に絞ります。
受取人が亡くなっている契約は、どう扱われるか
まず、法律の決まりです。法律では、保険法第46条が「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」と定めています。ここでいう保険事故とは、被保険者が亡くなることです。
たとえば、父が契約者・被保険者で、受取人が母の契約。母が先に亡くなり、変更しないまま父が亡くなると、母の相続人の全員が受取人になります。母の相続人には、子どもだけでなく父自身も含まれます。そのため、誰がどれだけ受け取るかの整理が複雑になりがちです。
生命保険文化センターは、受取人が亡くなったときは変更の手続きが必要と案内しています。あわせて、受取人の死亡時点の法定相続人を受取人とするのが一般的だが、被保険者の遺族とする会社もある、としています。つまり、細かな扱いは契約の約款で変わります。手元の契約がどうなるかは、契約先の保険会社に確認してください。
なお、保険法は2010年4月1日以降に結ばれた契約に適用されます(保険法附則第2条)。それより前の古い契約は、主に約款の定めで扱いが決まります。受取人が先に亡くなっていた場合に受け取る人の範囲や割合は、受取人が先に亡くなっていた保険金は誰のもので詳しく扱っています。
受取人の変更を考えたほうがよい人・急がなくてよい人
受取人を変えられる人と、同意が要る人
受取人の変更について、保険法は次のように決めています。誰が何をするのかを表にしました。
親世代の契約は、契約者と被保険者が同じ親であることが多いです。その場合、変更の手続きも被保険者としての同意も、同じ親がすることになります。契約者と被保険者が別の人なら、両方の署名が要ります。
変更の届けが会社に届くと、届けを出した時にさかのぼって効力が生じます。ただし、届く前に元の受取人へ支払われた分は、そのまま有効です(保険法第43条第3項)。
自分の場合は変えられる?状況別の判定表
証券の名前と、家族のいまの状態を見れば、変えられるかどうかはおおよそ分かります。当てはまる行を探してください。
| いまの状態 | 受取人を変えられるか | 次にすること |
|---|---|---|
| 契約者が元気で、内容を理解して署名できる | 変えられる | 契約者が契約先に連絡する |
| 契約者と被保険者が別の人で、被保険者が同意しない | 死亡保険金の受取人は変えられない(保険法第45条) | 同意してもらえるまで話し合う |
| 契約者が認知症などで、判断が難しい | 本人は手続きできない。家族も代われない | 契約先に相談する。成年後見を使った場合の扱いも会社に確かめる |
| 契約者が離婚した元配偶者 | 自分からは変えられない(変えられるのは契約者) | 元配偶者に頼むか、契約者を変える手続きを会社に確かめる |
| 遺言で変えたい | 2010年4月以降の契約なら変えられる(保険法第44条)。被保険者の同意も要る | 相続人が保険会社へ通知する段取りを決めておく |
| 被保険者がすでに亡くなった | 変えられない(保険法第43条第1項) | そのときの受取人の指定で請求する |
生命保険の受取人変更の手続きと必要書類の一覧
先に結論です。受取人変更の必要書類は、会社所定の請求書と、契約者の本人確認書類が基本です。死亡保険金の受取人を変えるときは、被保険者の同意の署名も要ります。書類の名前や細かい中身は会社ごとに違うため、最終的には契約先から届く案内に従います。
| 書類・もの | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 会社所定の請求書(名義変更の請求書・通知書など) | 契約者が新しい受取人の氏名・続柄などを書きます | 呼び名は会社で違います。郵送で届くか、窓口で記入します |
| 契約者の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど | ネットで手続きする場合は、顔写真付きの証明書が必要な会社があります |
| 被保険者の同意 | 請求書の同意欄への署名(記名押印) | 契約者と被保険者が別の人なら、被保険者本人の署名が要ります。同意がない変更は効力がありません(保険法第45条) |
| 印鑑 | 書類への押印 | 押印が要るかどうかは、会社の書式で決まります |
| 証券番号がわかるもの | 保険証券、会社からの通知など | 契約を特定するために使います |
| 新しい受取人との続柄がわかる書類 | 戸籍謄本など | 求められるかどうかは会社と続柄によります。配偶者や2親等以内の血族以外を受取人にしたいときは、まず会社に相談します |
契約者本人が窓口へ行けず、代わりの人に手続きを頼む場合は、契約者が書いた委任状や、契約者本人の意思確認の書類、代わりの人の本人確認書類を求める会社があります。これは契約者本人が内容を理解して頼む場合の話です。家族が本人の代わりに受取人を決めることはできません。
受取人変更の手続きの流れ
手続きの細部は会社ごとに違います。ここでは、生命保険文化センターの案内に沿った一般的な流れを示します。
- 証券で4つを確かめる。契約者・被保険者・受取人の名前と、証券番号です。引き落としの口座も見ておきます。
- 契約先に連絡する。コールセンター、担当の営業職員や代理店に「受取人を変えたい」と伝えます。会社のホームページや契約者のマイページでできる場合もあります。
- 新しい受取人を決める。2人以上にするときは、受取の割合も決めておきます。
- 届いた書類に記入して返す。契約者が書き、被保険者の同意欄にも署名します。求められた本人確認書類などを添えます。
- 変更の通知を保管する。手続きが終わると、会社から変更後の内容がわかる書類が届きます。証券と一緒にしまい、置き場所を家族に伝えておきます。
手続きの前にそろえておくものチェックリスト
- □ 生命保険の証券(証券番号がわかるもの)
- □ 契約者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- □ 新しい受取人の氏名・生年月日・続柄がわかるメモ
- □ 受取人を2人以上にするときは、それぞれの割合
- □ 被保険者が契約者と別の人なら、被保険者の署名をもらう段取り
- □ 会社から届いた変更の請求書類一式(会社が求める書類はここに書かれています)
- □ 受取人が亡くなっている場合は、亡くなった日(会社から書類を求められたときに備えて)
実際に必要な書類は、契約先の保険会社が送ってくる案内に書かれています。会社によって違うため、このリストは「話を早く進めるための準備」と考えてください。
遺言で受取人を変える場合の必要書類
遺言でも受取人は変えられます。ただし、契約者が亡くなった後に、相続人が保険会社へ通知して初めて会社に主張できます(保険法第44条)。生前の手続きとは、書類をそろえる人も時期も違います。
| 書類・条件 | 中身 |
|---|---|
| 法律上有効な遺言書 | 受取人を変える旨が書かれた遺言です。提出の形(原本の提示か写しか)は会社の案内に従います |
| 検認を済ませたことがわかるもの | 自筆の遺言は、家庭裁判所の検認が必要です。公正証書遺言と、法務局で保管した自筆の遺言は検認が要りません |
| 会社所定の通知書・請求書 | 相続人が、遺言で受取人が変わったことを会社に知らせる書類です |
| 通知する人の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
| 被保険者の同意 | 遺言による変更でも、被保険者の同意が要ります |
- 遺言で変えられるのは、2010年4月以降に結んだ契約です。
- 通知の前に元の受取人へ保険金が払われると、後から請求しても払われません。
- そのほかに要る書類は、会社が通知を受けてから案内します。
自筆の遺言の検認の申立て先や費用は、遺言書の検認の手続きにまとめています。行き違いを避けるには、遺言に頼るより生前に会社で手続きしておくほうが確実です。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、通帳や書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
離婚・再婚・死別のときの受取人の見直し表
先に結論です。離婚しても、生命保険の受取人は自動では変わりません。変更の手続きをしないまま被保険者が亡くなると、保険金は元の配偶者に支払われます。
最高裁判所は、受取人を「妻 ○○」と書いた契約について、離婚した後もその○○さんが受取人だと判断しています(最高裁判所第一小法廷 昭和58年9月8日判決)。「妻」は人を特定するための書き添えにすぎない、という考え方です。受取人から外すには、約款の手続きで保険会社に変更を届ける必要があるとも述べています。
離婚のほかにも、再婚や死別で家族の形が変わると、証券の受取人と「渡したい人」がずれます。場面ごとに整理しました。
| 家族の変化 | そのままだと | 税金の目安 | 誰が何をするか |
|---|---|---|---|
| 離婚した(受取人が元配偶者) | 元配偶者に支払われる | 元配偶者は相続人ではないため、非課税枠が使えず、相続税の2割加算の対象 | 契約者が受取人を子などに変える。被保険者の同意が要る |
| 離婚した(契約者が元配偶者で、自分が被保険者) | 受取人を決めるのは契約者である元配偶者のまま | 契約の形で、かかる税金の種類が変わる | 離婚の話し合いで、契約者を誰にするか決める。契約者の変更は会社所定の手続き |
| 再婚した | 受取人が前の配偶者や親のままになりやすい | 新しい配偶者は相続人なので、非課税枠の対象 | 契約者が受取人を見直す。前の配偶者との子がいれば、割合も考える |
| 再婚相手の連れ子に残したい(養子縁組なし) | 連れ子は相続人ではない | 非課税枠が使えず、2割加算の対象 | 受取人に指定できるかを契約先に確かめる |
| 配偶者と死別した(受取人が亡くなった配偶者) | 亡くなった配偶者の相続人の全員が受取人になる(保険法第46条) | 受け取る人によって変わる | 契約者が受取人を変える |
離婚の後で子を受取人にするときは、子の年齢も見ておきます。子が未成年のうちは、保険金の請求や管理は子の法定代理人(親権者など)がします。自分が亡くなった後に誰が子のお金を管理するかは、家族の状況で変わります。気になるときは、遺言で未成年後見人を指定できるか(民法第839条)も含めて、弁護士や司法書士に相談すると安心です。
本人の代わりに給付金を請求できる「指定代理請求人」が元配偶者のままになっていないかも、あわせて確かめます。受取人が元配偶者・亡くなった人・孫のままだと何が起きるかは、生命保険の受取人、そのままになっていませんかで例を挙げています。
前の配偶者との子と、いまの家族の両方がいる。そんなふうに受取人を誰にするか家族の中で決めきれないときは、30分の無料相談で証券を見ながら整理できます。いまから相続は保険代理店ではないため、保険の比較や手続きの相談は、提携の生命保険募集人(乗合代理店に所属)が担当します。
期限と、気づかずに損しやすい点
- 受取人が亡くなっても、自動では変わりません。契約者が届け出ない限り、証券の受取人欄は亡くなった人のままです。
- 遺言だけに頼ると、行き違いが起きやすいです。通知の前に元の受取人側へ支払われると、取り戻せないことがあります。生前に手続きしておくほうが確実です。
- 受取人を孫にすると、非課税枠が使えないことがあります。孫が相続人でない場合です。
- 指定代理請求人も、受取人と同じ人が亡くなっていないか。本人の代わりに給付金などを請求できる人の指定です。特約がある契約では、あわせて見直します。
- 契約が見つからない。証券が見当たらないときは、引き落とし口座の記録や会社からの郵便物が手がかりになります。
認知症になる前に確かめる理由
受取人の変更は、契約者が会社に「変えます」と意思を示して行います(保険法第43条第2項)。民法第3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなければ、その行為は無効と定めています。意思能力とは、自分のしていることの意味がわかる力のことです。
そのため、認知症が進んで判断できない状態になると、受取人を変えたくても変えられなくなります。子どもが代わりに書類を書くこともできません。成年後見制度を使った場合にどこまで手続きできるかは、契約先の保険会社に確認が必要です。
親の判断力が心配になってきたら、受取人の確認を後回しにしないことです。認知症の親の契約で家族にできることは、認知症の親の保険は解約できないでまとめています。
親の判断力が下がった後に契約の有無を調べたいときは、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」があります。親族の認知判断能力が低下した場合にも使え、医師の診断が必要です。照会できる人の条件は協会の案内で確かめてください。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
死亡保険金の非課税枠との関係
被保険者が亡くなり、その人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税の対象になります。このとき、相続人が受け取った分には非課税枠があります。計算は「500万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4114)。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月確認)。
受取人の変更と関係するのは、「誰が受け取るか」です。受取人を相続人である子にしておけば、非課税枠の対象になります。孫など相続人でない人にすると、その人が受け取る分には非課税枠が使えません。
非課税枠を超えた分は、ほかの財産と合わせて相続税の計算に入ります。相続税がかかるかどうか、いくらになるかは財産全体で決まります。個別の計算は税務署や税理士にご確認ください。証券を見ながら契約者・被保険者・受取人の欄を順に確かめるには、生命保険の契約者・受取人を見直すチェックリストが使えます。
今日できる一歩
- 親の生命保険の証券を1通出し、契約者・被保険者・受取人の名前を書き写す。
- 受取人が亡くなった人や元配偶者のままなら、証券番号と契約先の電話番号をメモする。
- 次に親と会うときに「受取人、このままでいい?」と一緒に証券を見る時間をつくる。
よくある質問
受取人を変えると、いまの受取人に知られますか
受取人の変更に、いまの受取人の同意は要りません(保険法第43条)。会社からいまの受取人へ通知が行くかどうかは、契約先の保険会社に確認してください。家族の間では、理由を伝えておくほうが後の話し合いが楽になります。
受取人の変更にお金はかかりますか
手数料の有無は会社ごとの扱いです。契約先の保険会社に確認してください。変更そのものが税金の対象になるかどうかも、契約の形で変わることがあるため、気になるときは税務署や税理士に確認します。
遺言に書いておけば、手続きは要りませんか
遺言でも受取人は変えられます(保険法第44条)。ただし、2010年4月以降の契約に限られ、被保険者の同意も要ります。相続人が会社に通知する前に元の受取人へ支払われると、後から請求しても支払われません。生前に会社で手続きしておくほうが確実です。
父が施設に入っています。子どもが代わりに手続きできますか
受取人の変更は契約者本人の意思で行う手続きで、子どもが代わりに決めることはできません。本人が内容を理解して署名できるなら、施設で書類を書いてもらえる場合があります。訪問などの対応は、契約先の保険会社に相談してください。
生命保険の受取人変更の手続きに必要な書類は何ですか
基本は、会社所定の請求書と契約者の本人確認書類です。死亡保険金の受取人を変えるときは、被保険者の同意の署名も要ります。押印や続柄がわかる書類を求められることもあるため、契約先から届く案内で確かめてください。
受取人を2人以上にできますか
できます。その場合は、受け取る割合の指定が必要です(生命保険文化センター)。割合を書いておかないと、後で手続きが滞る原因になります。
離婚したら、生命保険の受取人は自動で変わりますか
変わりません。受取人の欄が元の配偶者のままなら、元の配偶者に支払われます(最高裁判所 昭和58年9月8日判決)。契約者が保険会社で変更の手続きをします。元の配偶者の同意は要りませんが、死亡保険では被保険者の同意が要ります。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「保険法」(第43条〜第46条、第95条、附則第2条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000056 - e-Gov法令検索「民法」(第3条の2、第839条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 国税庁 タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4157「相続税額の2割加算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm - 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和58年9月8日判決(昭和56(オ)1196)」
https://www.courts.go.jp/hanrei/52154/detail2/index.html - 公益財団法人 生命保険文化センター「諸変更と届出」
https://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/continuance/95.html - 一般社団法人 生命保険協会「生命保険契約照会制度のご案内」
https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。受取人の変更の手続き、必要書類、受取人が亡くなっていた場合の扱いは、契約の時期や約款、保険会社によって異なります。ご自身の契約は契約先の保険会社でご確認ください。税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
