独身で、お子さんも親御さんもいない。そうなると、ご自身が亡くなったときの相続人は兄弟姉妹、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥や姪です。何十年も会っていない兄弟や、顔も覚えていない甥姪に全財産が渡る。一方で、通院に付き添い、入院の保証人になってくれた姪や、長年連れ添ったパートナー、親身になってくれた友人には、法律上は1円も届きません。
このとき、もっとも手早く、もっとも揉めにくい手当てが「生命保険の受取人指定」です。兄弟姉妹には遺留分がないため、受取人の指定が通りさえすれば、渡したい人にお金を渡す仕組みはほぼそれだけで完結します。本記事では、遺留分の有無といった基本はほかの記事に譲り、受取人指定を実際に使うときの実務の論点に絞って解説します。
相続人が兄弟姉妹・甥姪のとき、お金はどこへ行く?
何もしなかった場合
預金・自宅
疎遠な兄弟姉妹・甥姪
支えてくれた人へ
受取人を指定しておいた場合
受取人=渡したい人
兄弟姉妹は取り戻せない
協議なしで直接届く
親御さんが健在の場合は親が先順位の相続人で遺留分があります。この記事の前提とは異なるため、ご注意ください。
兄弟姉妹が相続人の人にとって、受取人指定が「最短ルート」になる理由
遺言でも「姪に全財産を渡す」と書くことはできます。ただ、遺言は亡くなった後に執行という手続きを経て、預金の解約や不動産の名義変更を進めなければなりません。相続人である兄弟姉妹に遺留分はないので取り戻されることはありませんが、金融機関の手続きには遺言書と戸籍一式が必要で、手元に届くまで数ヶ月かかるのが普通です。法定相続人の範囲や遺留分の考え方は、子供のいない夫婦の法定相続人と必要な対策と遺言書がないとどうなるかで詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。
これに対して死亡保険金は、受取人に指定された人の固有の財産です。遺産分割協議の対象にならず、兄弟姉妹や甥姪の署名も実印も要りません。受取人本人が保険会社に請求すれば、各社の公式案内では請求書類到着の翌日から原則5営業日以内に支払われます。相談現場の実感では、書類が揃っていれば3営業日程度で着金することも多く、葬儀費用や当面の生活費にそのまま充てられます。
つまり、相続人が兄弟姉妹・甥姪だけという方にとっては、「遺留分で争われない」という遺言の利点と、「すぐに・確実に・本人に届く」という保険の利点が重なります。だからこそ、この状況では遺言より先に、まず受取人指定を検討する価値があるのです。
誰を受取人にできるか|親等で変わる「通りやすさ」
ここが最初の実務上のつまずきどころです。生命保険の受取人は、誰でも自由に指定できるわけではありません。保険金目当ての契約を防ぐため、各社は受取人の範囲を「戸籍上の配偶者と二親等内の血族」を原則としています。兄弟姉妹は二親等なので、ほとんどの会社で問題なく指定できます。一方、甥姪は三親等、いとこは四親等にあたり、ここから先は「条件次第」の世界に入ります。
受取人に指定できる? 相手との関係で見る目安
兄弟姉妹
二親等
原則どの会社でも可
甥・姪
三親等
会社ごとに条件あり
いとこ
四親等
難しい会社が多い
内縁・友人
血縁なし
個別審査・非公開基準
◎=原則可、△=会社・商品により可否が分かれる。いずれも引受時の審査があり、最終判断は保険会社が行います。
甥姪やいとこを受取人にする場合、多くの会社が「なぜその人なのか」を確認します。生計を共にしている、介護や身の回りの世話をしてもらっている、ほかに近い親族がいない、といった事情が判断材料になります。必要な書類や認められる範囲は会社ごとに違い、しかもその基準は公式には公開されていません。同じご事情でもA社では断られ、B社では認められるということが実際に起こります。
内縁のパートナーを受取人にしたい方は、条件の考え方がさらに細かくなります。内縁の妻・夫を生命保険の受取人にできるかで詳しく解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。
相談現場から|相談員メモ
「姪を受取人にしたいと保険会社に言ったら断られた」というご相談は珍しくありません。ただ、それは「その会社の、その商品では」の話です。甥姪やいとこの取り扱いは会社によって幅があり、ご事情を書面で説明すれば認める会社、同居や扶養の実態があれば認める会社、原則として受け付けない会社と分かれます。当社の相談員はすべての保険会社の商品を扱えるため、1社で断られた段階であきらめず、通る可能性のある会社を順に当たっていきます。最初から「無理」と決めてしまう前に、一度ご事情を聞かせてください。
受取人指定を実際に使うときの6つの実務論点
受取人に指定できることが分かったら、次は「どう設計するか」です。相談現場で実際に問題になる順に、6つの論点を挙げます。
1. 複数の人に、割合で渡せる
受取人は一人に限りません。商品にもよりますが3人から5人程度まで指定でき、「面倒を見てくれている姪に7割、妹に3割」のように割合まで決められます。遺言を書かなくても、現金の行き先を割合で指定できるという点で、遺言の代わりに近い働きをしてくれます。ただし指定できる人数や割合の刻み方は会社によって違うため、契約前に確認が必要です。
2. 受取人が先に亡くなると、意図しない人に渡る
これが、兄弟姉妹を受取人にした方がもっとも見落としやすい点です。受取人に指定した兄が、ご自身より先に亡くなったとします。受取人の変更をしないまま亡くなると、保険金は兄の相続人、つまり兄の妻や子どもたちに、人数で均等に分けて支払われるのが一般的な約款の扱いです。「兄に渡したかった」はずが、ほとんど付き合いのない義姉や甥に渡ってしまうことになります。
同世代の兄弟姉妹を受取人にする場合、この順番の逆転は十分に起こり得ます。受取人が亡くなったら、できるだけ早く変更の手続きをしてください。年に一度、保険証券を見直す習慣をつけておくと安心です。
3. 受取人の変更は、本人の意思確認ができるうちに
受取人は、契約者本人の意思があればいつでも変更できます。裏を返せば、認知症などで判断能力が低下してからでは、変更手続きが難しくなります。「そのうち姪に変えよう」と思っているうちに手遅れになる例は少なくありません。変えたいと思った時点で動くのが原則です。なお、遺言で受取人を変更することも法律上は可能ですが、保険会社への通知が必要になるなど実務上の手間と不確実さが残るため、生前に保険会社の手続きで変えておくほうが確実です。
4. 受取人に「保険があること」を伝えておく
死亡保険金は、受取人が請求して初めて支払われます。保険会社は亡くなった事実を自動的には把握しません。受取人が契約の存在を知らなければ、請求されないまま時効を迎える可能性すらあります。受取人にした方には、どの会社にどんな契約があるか、証券をどこに保管しているかを伝えておいてください。ご本人が話しにくい場合は、エンディングノートや財産の一覧に書き残しておく方法もあります。
5. 健康状態が不安でも、入れる商品がある
「もう持病があるから保険は無理」と思い込んでいる方が多いのですが、一時払い終身保険には告知項目が少ない商品や、無告知で加入できる商品があります。入院中や余命の告知を受けている場合は難しいのが一般的ですが、通院や服薬があっても加入できるケースは珍しくありません。70代、80代から加入される方も実際にいらっしゃいます。商品の仕組みや注意点は一時払い終身保険の仕組み・メリット・注意点で詳しく解説しています。
6. 税金は「誰が受け取るか」で変わる
契約者と被保険者がご本人で、受取人が別の人という形にすると、死亡保険金は相続税の対象(みなし相続財産)になります。ここで差が出るのが、非課税枠と2割加算です。
同じ1,000万円でも、受け取る人で税の扱いが違う
兄弟姉妹(相続人)
500万円×法定相続人の数
ただし2割加算
甥姪(代襲相続人)
親に代わって相続人の場合
ただし2割加算
相続人でない甥姪・内縁・友人
全額が課税対象に
かつ2割加算
2割加算=配偶者・子・親以外が財産を取得したときに相続税額が2割増しになる制度。遺産総額が基礎控除以下なら相続税自体はかかりません。
兄弟姉妹や、親に代わって相続人になった甥姪が受け取る場合は、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使えます。一方、相続人ではない甥姪、内縁のパートナー、友人が受け取る場合はこの非課税枠が使えず、受け取った額がそのまま課税対象になります。さらに、配偶者・子・親以外の人が受け取る場合はいずれも相続税額の2割加算の対象です。
ただし、相続税がかかるのは遺産全体が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合だけです。多くの方は基礎控除の範囲に収まりますので、「渡せるかどうか」のほうをまず優先し、税額の試算は税理士にご確認ください。
保険だけで足りないもの|自宅がある人は遺言との併用を
受取人指定で渡せるのは、保険金という現金だけです。自宅や土地は保険では渡せません。持ち家がある方は、不動産の行き先を遺言で決め、当面の現金は保険で渡すという組み合わせが基本形になります。遺言がないと、自宅は兄弟姉妹や甥姪の共有になり、住み続けてほしい人が住めなくなるおそれがあります。
逆に、財産が預金だけという方は、預金を取り崩して一時払い終身保険に移すことで、遺言なしでも行き先を指定できる状態を作れます。どこまでを保険に寄せ、どこからを遺言に任せるかは、財産の中身と渡したい相手によって変わります。内縁のパートナーへ渡す方法全体の比較は内縁の妻・夫に相続権はない|財産を渡す4つの方法に、おひとりさまの備え全体はおひとりさま・子供のいない夫婦の老後の5つの備えにまとめています。
「この人を受取人にできる?」を確認したい方へ
甥姪・いとこ・内縁のパートナー・友人を受取人にできるかどうかは、保険会社ごとに基準が異なり、公式には公開されていません。相手との関係、同居や扶養の状況、ほかの親族の有無などをうかがえれば、どの保険会社なら認められる可能性があるかを含めて当社で確認できます。
当社の相談員はすべての保険会社の商品を扱えるため、1社の基準に当てはまらなかったからといって終わりにはしません。健康状態に不安がある方の加入可否も、あわせて確認します。
「この人を受取人にできる保険会社はあるか」を確認する
甥姪・いとこ・内縁のパートナー・友人を受取人にできるかは、保険会社ごとに基準が違い、公開されていません。渡したい相手との関係と、ご自身の健康状態をお話しいただければ、認めてくれる可能性のある保険会社を順に当たります。1社で断られた方も、通院中の方もご相談ください。お名前だけで、書類は不要です。
相談員は全社の保険を扱える募集人で、相続の相談を本業にしている行政書士法人に所属しています。保険より遺言が向く事情なら、そのままお伝えします。
30分の無料相談で聞いてみる(オンライン・全国対応)→お電話でも承ります:052-766-5650(相談中の場合は折り返しご連絡します)。受取人にしたい方とご一緒でも構いません。
よくある質問
兄弟姉妹を受取人にした保険金は、ほかの兄弟と分けなければいけませんか?
分ける必要はありません。死亡保険金は受取人の固有財産で、遺産分割の対象になりません。兄弟姉妹には遺留分もないため、ほかの兄弟から取り戻されることもありません。ただし、保険金以外の預金や不動産は通常どおり相続人全員の遺産分割の対象です。
甥や姪を受取人にできないと言われました。もう方法はありませんか?
断られたのは、その会社のその商品での話です。甥姪の取り扱いは会社によって違い、事情を書面で説明すれば認める会社もあります。複数の会社を横断して確認することをおすすめします。それでも難しい場合は、遺言で甥姪に遺贈する方法が残ります。兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言でも確実に渡せます。
受取人にした妹が先に亡くなりました。何もしないとどうなりますか?
一般的な約款では、受取人が先に亡くなったまま変更されていない場合、保険金はその受取人の相続人(妹の夫や子ども)に均等に支払われます。ご自身の意図と違う結果になりやすいので、受取人が亡くなったことが分かった時点で、保険会社に受取人変更の手続きをしてください。
遺言と保険の受取人指定、どちらが優先されますか?
保険金は遺産ではないため、遺言で「全財産を兄に」と書いてあっても、保険契約で受取人に指定された姪が保険金を受け取ります。法律上は遺言で受取人を変更することもできますが、保険会社への通知が必要で実務上の不確実さが残ります。渡したい人が決まっているなら、保険会社の手続きで受取人を変更しておくのが確実です。
本記事は制度の一般的な説明であり、特定の保険商品を推奨するものではありません。受取人に指定できる範囲や必要書類は保険会社・商品により異なり、最終的な可否は各社の審査によります。税額の試算や申告については税理士にご確認ください。制度・数値は執筆時点の情報です。