亡くなった方の保険証券を出してみたら、受取人の欄に、もう亡くなっている家族の名前が書いてあった。数年前に先立った奥さま、あるいは兄。変更しないまま、この日が来てしまった。
この保険金は消えません。受け取る人は法律と約款で決まっています。ただし「誰が」「いくらずつ」は、多くの方が想像するものと違います。ここを間違えると請求書類が揃わず、支払いが止まります。順番に整理します。
先に答えを書きます。生命保険の受取人が死亡している場合は、その受取人の相続人の全員が受取人になり、人数で等分します(保険法第46条、最高裁判所 平成5年9月7日判決)。受取人が親のままで、被保険者がまだ元気なら、契約者が受取人を変えておけます。
受け取る人が変わると、かかる税金や非課税枠の使い方も変わります。証券の契約者・被保険者・受取人の欄から、どの税金になるかを先に確かめたい方はこちら。
証券の3つの名前で分かる、保険金の税金早見表先に結論:受取人の法定相続人が、全員で「均等に」受け取ります
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証券の受取人欄=「兄」(すでに死亡)
保険金 1,200万円
↓ 保険法46条・約款
兄の法定相続人 全員が受取人になる
👩
兄の妻
400万円
3分の1
👦
兄の長男
400万円
3分の1
👧
兄の長女
400万円
3分の1
✖ 法定相続分(妻2分の1・子4分の1ずつ)ではありません
保険法46条・最高裁平成5年9月7日判決の考え方(2026年9月時点)。約款の定めは会社により異なるため、契約先の保険会社にご確認ください。
3人で均等に3分の1ずつ。ここが最初のつまずきどころです。相続の話だから法定相続分だろう、と考えると計算が合いません。
受取人が死亡したときの手続きは、被保険者が存命かどうかで2通り
受取人が亡くなったときにする手続きは、被保険者がまだ元気か、もう亡くなったかで変わります。まず自分がどちらに当たるかを確かめてください。
| 場面 | する手続き | 誰がするか | 主に要るもの |
|---|---|---|---|
| 受取人だけが亡くなり、被保険者は存命 | 受取人の変更 | 契約者。死亡保険では被保険者の同意も要る | 会社所定の請求書、契約者の本人確認書類など |
| 受取人が先に亡くなり、その後に被保険者も亡くなった | 死亡保険金の請求 | 亡くなった受取人の相続人の全員 | 被保険者の死亡がわかる書類、受取人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍と署名など(会社によって違う) |
どちらの場面でも、最初の一歩は契約先の保険会社への電話です。被保険者が存命のときの必要書類と流れは、生命保険の受取人変更の手続きにまとめています。この記事では主に、被保険者も亡くなった後の受け取り方と、受取人が親のままの人が今のうちに確かめることを説明します。
根拠は保険法46条と、約款の定め
保険法46条は「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」と定めています。受取人の変更をしないまま被保険者が亡くなった場合、この規定と、それを受けた各社の約款にしたがって支払先が決まります。
大事なのは「全員」という言葉です。1人が代表して受け取るのではなく、全員がそれぞれ受取人になります。だから請求手続きにも全員の関与が必要になり、1人でも連絡がつかないと支払いが進みません。
「均等割」であって「法定相続分」ではない
取り分の割合について、最高裁平成5年9月7日判決は、保険金請求権は受取人それぞれの固有の権利であることを理由に、民法427条により平等の割合で取得すると判断しました。つまり頭割りです。
| 受取人だった兄の相続人 | この保険金の取り分 | (参考)兄自身の遺産なら |
|---|---|---|
| 兄の妻 | 3分の1 | 2分の1 |
| 兄の長男 | 3分の1 | 4分の1 |
| 兄の長女 | 3分の1 | 4分の1 |
兄の妻からすれば「自分は半分もらえるはず」と思うところで、実際は3分の1。ここで話がこじれることがあります。約款の定めなので交渉の余地はなく、割合を動かしたいなら受け取った後の当事者間の話になります。
紛らわしいのが、証券にはじめから個人名ではなく「被保険者の相続人」と書かれている契約です。こちらは最高裁平成6年7月18日判決により、特段の事情がない限り法定相続分の割合になります。「受取人が先に死亡=均等」「受取人が相続人と指定=法定相続分」。同じ相続人でも根拠が別なので、混ぜないでください。どちらの場合も遺産分割の対象にはならない点は共通で、その理由は死亡保険金は遺産分割の対象になる?に整理しています。
受け取るのは誰か。順次の相続人という考え方
最高裁平成5年9月7日判決は「その相続人」の範囲についても示しています。受取人の法定相続人、さらにその相続人(順次の相続人)であって、被保険者が亡くなった時点で生きている人、という整理です。順番に確かめます。
- 受取人が亡くなった時点で、その人の相続人は誰だったかを戸籍で確定する
- その相続人のうち、被保険者の死亡時にすでに亡くなっている人がいれば、その人の相続人が代わりに入る
- 受取人の子が先に亡くなっていれば、その子(受取人から見れば孫)が入る
受取人欄がそのままだった実例を見る
「受取人欄が亡くなった人のまま」「家族が代わりに請求できる届け出が空欄」——似たケースを、実際の相談からいくつかご紹介します。ご自身の状況と近いものがないか確認してみませんか。
実例を見る(無料・オンライン可)→よくあるのが、父の保険で受取人が母のままというケースです。母の相続人は父と子ども。ところが父は被保険者本人で、すでに亡くなっています。この場合、父の分は父の相続人へ順に移り、結果として子どもたちが受け取ることになります。人数が増えるほど請求は重くなります。ここは取扱いが分かれうる場面なので、まず保険会社に「受取人が先に死亡している。誰に支払われるか」と確認してください。
受取人が親のままの人へ:自分が亡くなったら誰に行くかの早見表
若いころに入った保険で、受取人が父や母のまま。結婚して子が生まれても、変えていない。そんな証券はよく見かけます。自分が契約者と被保険者を兼ねる契約で、受取人が親のままだと何が起きるかを表にしました。
| あなたの家族 | 受取人の親 | あなたが亡くなったら | 税金の目安 |
|---|---|---|---|
| 配偶者も子もいない | 健在 | 親が受け取る | 親は相続人なので、非課税枠の対象 |
| 配偶者がいて、子はいない | 健在 | 親が受け取る。配偶者には行かない | 親も配偶者と並んで相続人なので、非課税枠の対象 |
| 子がいる | 健在 | 親が受け取る。配偶者にも子にも行かない | 親は相続人ではないため、非課税枠が使えない(親は一親等の血族なので、2割加算はない) |
| どの場合も | すでに死亡 | 受取人だった親の相続人(もう一方の親、きょうだいなど)が受取人になり、人数で等分 | 受け取る人で変わる。あなたに配偶者や子がいれば、きょうだいは相続人ではないため非課税枠が使えず、2割加算の対象 |
親がすでに亡くなっている場合、受取人だった親の相続人には、被保険者であるあなた自身も入ります。あなたの分は、あなたの相続人(配偶者や子)に移るとした最高裁判決があります(平成4年3月13日判決、約款の解釈)。それでも、もう一方の親やきょうだいと頭数で分けるため、配偶者や子に全額は届きません。
親が元気でも、配偶者や子に残したいなら、受取人を変えておくのが確実です。逆に、親に渡したい理由があるなら、そのままでもかまいません。大事なのは、証券の名前と「渡したい人」が合っているかどうかです。
受取人を親から配偶者や子に変えるか、家族の中で決めきれないときは、30分の無料相談で証券を見ながら整理できます。いまから相続は保険代理店ではないため、保険の比較や手続きの相談は、提携の生命保険募集人(乗合代理店に所属)が担当します。
手続きで一番重いのは戸籍集め
受取人が生きていれば、証券と本人確認書類と死亡診断書のコピーで足ります。先に亡くなっている場合は、その人の相続人を保険会社に証明する必要があるため、書類が一気に増えます。
- 被保険者(今回亡くなった方)の死亡が分かる戸籍または死亡診断書のコピー
- 先に亡くなった受取人の、出生から死亡までの連続した戸籍(相続人を確定するため)
- 受取人の相続人全員の現在の戸籍と、住所の分かるもの
- 全員の請求書への署名、印鑑証明書(会社により要否・通数が異なります)
支払いは、請求書類が到着した翌日から原則5営業日以内という会社が多く、現場の感覚では書類が揃っていれば3営業日程度で振り込まれることもあります(会社・商品により異なります)。時間がかかるのは審査ではなく、戸籍を集めて全員の署名をもらうまでの期間です。連続した戸籍の取り方は本籍の調べ方が参考になります。相続手続き全体の順番は相続でやることチェックリストにまとめてあります。
今日の一歩:保険会社に電話し、その足で戸籍を取りにいく
まず契約先の保険会社のコールセンターに電話します。証券番号を手元に置き、①被保険者の氏名と死亡日 ②証券の受取人がすでに亡くなっていること ③自分はその受取人の相続人であることの3点を伝えてください。この電話で「誰に支払われるか」と「請求書類一式の送り先」が決まります。人数が多くなりそうなら、そのときに書類を何通送ってもらうかも確認しておきます。
並行して戸籍を集めます。要るのは先に亡くなった受取人の、出生から死亡までの連続した戸籍です。2024年3月から戸籍謄本の広域交付が始まり、本籍地でない市区町村の窓口でも、本人が行けばまとめて請求できます。持ち物は顔写真付きの本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など)。窓口では「相続の手続きで使うので、出生から死亡までの連続した戸籍をすべて」と言えば通じます。
断られたときの次の一手。広域交付で取れるのは、自分・配偶者・父母などの直系尊属・子や孫などの直系卑属の戸籍に限られ、兄や姉、おじ・おばの戸籍は対象外です。郵送請求や代理人による請求も広域交付ではできません。その場合は本籍地の市区町村へ郵送で請求します(定額小為替が必要。往復で2〜3週間みておきます)。本籍が分からなければ、住民票の除票を「本籍の記載あり」で取れば確認できます。
期限の目安:保険金の請求権は支払事由が生じた日の翌日から3年(保険法95条)。相続税の申告・納税が要る場合は10か月です。戸籍集めに数か月かかることもあるので、集め終わってから電話するのではなく、電話を先にしてください。
連絡がつかない人がいるとき
全員が受取人になるということは、1人でも書類を出さないと支払いが止まるということです。疎遠な相手や、面識のない甥姪が含まれることもあります。
まず、住所が分からないだけなら戸籍の附票で追えます。次に、自分の持分だけ先に請求できる取扱いがあるかを保険会社に聞いてください。会社・商品によって対応が分かれる部分です。そのうえで、相手が受け取りを拒む、連絡そのものが取れないという状態が続くなら、弁護士や司法書士に入ってもらう段階になります。時効の点も押さえておいてください。保険金の請求権は、支払事由が生じた日の翌日から3年で時効にかかるとされています(保険法95条)。放置すると請求そのものができなくなります。
税金の扱いも変わります
受け取った人が被保険者の相続人でない場合、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えません。先ほどの例で言えば、兄の妻や子は被保険者の相続人ではないことが多く、その場合は非課税の適用がなく、さらに相続税額の2割加算の対象になることがあります(国税庁タックスアンサーNo.4114、2026年9月時点)。受取人欄を放置した代償が税金にも出る、ということです。個別の税額は税理士にご確認ください。
被保険者が存命なら、いまから直せます
ここまでは、すでに保険事故が起きてしまった場合の話です。もし手元の証券で受取人欄が亡くなった人のままなら、いまなら変更できます。手続きは契約者が保険会社に申し出るだけ。受取人本人の同意は不要で、被保険者の同意は必要です。電話をすれば、変更の書類が送られてくるのが一般的です。手数料の有無は契約先で確かめてください。受取人を2人以上にして割合を決められる契約もあります(会社・商品により異なります)。
変更できるのは契約者に判断能力があるうちだけです。認知症が進むと、直したくても直せなくなります。同じ理由で、本人の代わりに給付金を請求できる「指定代理請求人」も元気なうちにしか付けられません。証券の点検の仕方は生命保険の受取人、そのままになっていませんか、代理請求の仕組みは指定代理請求人を元気なうちに決めておくにまとめています。
今のうちに変更する手順(受取人が亡くなっている・親のまま)
- 証券で、契約者・被保険者・受取人の名前と証券番号を確かめる。
- 契約者が契約先に「受取人を変えたい」と電話する。受取人が亡くなっている場合は、そのことと亡くなった日も伝える。
- 新しい受取人を決める。配偶者や子など相続人にすれば、非課税枠の対象になる。2人以上なら割合も決める。
- 届いた書類に契約者が記入し、被保険者の同意欄にも署名して返送する。
- 変更後の通知を証券と一緒に保管し、置き場所を家族に伝える。
家族ができるのは、証券を探す、会社の連絡先を調べる、書類を書く場に付き添う、までです。受取人を決めて書くのは契約者本人です。親の判断力が心配になってきたら、この確認を後回しにしないでください。
新しい受取人を子どもにするときは、未成年の子の場合の受け取り方や、きょうだいで割合をどう分けるかも決めておきます。考え方は生命保険の受取人を子どもにするで整理しています。
相談現場から|相談員メモ(相談員について)
愛知県内で累計約500件の相続のご相談をお受けしてきました。証券を並べて受取人欄を読み上げると、「受取人が先に亡くなった人のまま」は珍しくありません。指定代理請求人の欄が空欄のままの証券も同じくらい見ます。どちらも、付けるのは多くの会社で無料・書類1枚です(会社・商品により異なります)。証券を1枚ずつ開いて受取人の名前を読む。この5分が、後の戸籍集めを丸ごと省きます。
よくある質問
生命保険の受取人が死亡した場合、どんな手続きが要りますか
被保険者が存命なら、契約者が受取人の変更をします。被保険者も亡くなっていれば、亡くなった受取人の相続人の全員で死亡保険金を請求します。どちらの場合も、まず契約先の保険会社に電話して、必要な書類を送ってもらいます。
受取人が親のままで、その親が亡くなりました。何をすればいいですか
あなたが契約者なら、元気なうちに受取人を変えておきます。そのままだと、亡くなった親の相続人(もう一方の親やきょうだいなど)が人数で等分して受け取ることになり、配偶者や子に全額は届きません。
受取人が親のままですが、親は元気です。変えたほうがいいですか
渡したい人が誰かで決まります。子がいる人の場合、親は相続人ではないため、親が受け取る死亡保険金には非課税枠が使えません(国税庁タックスアンサーNo.4114)。配偶者や子に残したいなら、変えておくのが確実です。
受取人の相続人が受け取る割合は、法定相続分ですか
いいえ。最高裁判所は、人数で等しく分けると判断しています(平成5年9月7日判決)。ただし、約款で別の定めをしている会社もあるため、契約先に確かめてください。
まとめ
受取人が先に亡くなっていたら、その人の法定相続人全員が受取人になり、取り分は均等。法定相続分ではありません。請求には、先に亡くなった受取人の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の関与が必要です。被保険者が存命なら、電話1本と書類1枚で直せます。まず保険会社に電話して、いまの契約で誰が受け取ることになるかを確認してください。
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参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「保険法」(第43条〜第46条、第95条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000056 - 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成5年9月7日判決(平成2(オ)1100)」
https://www.courts.go.jp/hanrei/52775/detail2/index.html - 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成4年3月13日判決(昭和63(オ)1748)」
https://www.courts.go.jp/hanrei/52755/detail2/index.html - 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成6年7月18日判決(平成3(オ)1993)」
https://www.courts.go.jp/hanrei/52492/detail2/index.html - 国税庁 タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4157「相続税額の2割加算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm - 公益財団法人 生命保険文化センター「諸変更と届出」
https://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/continuance/95.html
※本記事は2026年10月時点の法令・判例と、一般的な約款の取扱いをもとにした情報の整理です。支払先や必要書類の細部は保険会社・商品により異なります。相続人の範囲に迷いがある場合は司法書士・弁護士へ、税額の計算は税理士へご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
