納骨の費用(納骨の作業料や、納骨のときの読経のお布施など)は、相続税の計算で葬式費用として遺産から差し引けます。墓石・墓地の購入費や、四十九日などの法要の費用は差し引けません。相続において、亡くなった方の納骨費用をどのように負担するかは、多くの人が直面する課題です。「納骨費用は相続財産から支払えるのか?」という疑問を持つ方も少なくないでしょう。実は、納骨費用は相続財産から支払うことができる場合がありますが、そのためにはいくつかの手続きや注意すべき点があります。 お墓の種類ごとの費用の違いは、墓じまい・樹木葬・散骨の違いと費用もあわせてご覧ください。
この記事では、納骨費用を相続財産から支払う際の具体的な手続きや法律上の注意事項について詳しく解説します。遺産分割や相続税との関係も含め、スムーズな手続きを進めるためのポイントを確認していきましょう。
先に結論:納骨費用は相続税から差し引ける
葬式費用として相続財産から差し引ける費用・差し引けない費用
差し引ける(葬式費用)
通夜・告別式にかかった費用
火葬・埋葬・納骨にかかった費用
遺体・遺骨の運搬にかかった費用
お寺へのお布施・読経料・戒名料
差し引けない
香典返しにかかった費用
初七日・四十九日などの法要費用
墓地・墓石の購入費用、墓地の借入料
医学上・裁判上の特別の処置にかかった費用
納骨は「差し引ける」/墓石の購入は「差し引けない」 → ここが分かれ目
※国税庁が示す葬式費用の一般的な取扱い(2026年8月時点)です。個別の費用が該当するかは領収書の内容や状況で判断が分かれるため、税務署または税理士にご確認ください。
納骨にかかった費用は、相続税を計算するときに「葬式費用」として遺産総額から差し引けます。一方、墓石や墓地の購入費用、香典返し、初七日などの法要費用は差し引けません。なお、これは税金の計算の話です。故人の預金から実際に支払うには、相続人全員の合意と、凍結された口座の手続きが別に必要になります。誰が払うかに法律の決まりはなく、決まらないときは「遺骨の埋葬などの費用はお墓を継ぐ人が負担する」とした裁判例があります(名古屋高裁平成24年3月29日判決)。
相続税で差し引ける納骨費用の範囲|お布施・納骨堂・墓石の判定表
国税庁が差し引けるとしているのは、火葬・埋葬・納骨の費用、遺骨の運搬費、お寺への読経料などのお礼です。差し引けないのは、墓石・墓地の購入費や墓地を借りる費用、初七日などの法事の費用、香典返しです(国税庁タックスアンサーNo.4129)。納骨のときに実際に出てくる支払いに当てはめると、次のようになります。
| 納骨のときの支払い | 相続税で差し引けるか | 理由・注意 |
|---|---|---|
| 納骨のときの読経のお布施 | 差し引ける | お寺への読経料などのお礼に当たる |
| 石材店や霊園に払う納骨の作業料 | 差し引ける | 納骨の費用に当たる |
| 遺骨をお墓まで運ぶ費用 | 差し引ける | 遺骨の運搬費に当たる |
| 四十九日法要と同じ日に納骨したときの、法要のお布施・会食代 | 差し引けない | 法事の費用。お布施が1つにまとまっているときは、納骨の分と法要の分を分けてもらう |
| 墓石・墓地の購入費、墓地の使用料 | 差し引けない | 墓地・墓石の費用に当たる |
| 納骨堂の使用料、永代供養料 | 差し引けないと考えておく | お墓の場所を借りる費用や、先々の供養の費用に近い。迷うときは税務署へ |
| 墓石への戒名の彫刻料、新しいお墓の開眼供養のお布施 | 扱いが分かれる | お墓に関わる費用でもあるため、税務署か税理士に確かめる |
領収書が出ないお布施は、メモで残す
お布施は領収書が出ないことがよくあります。その場で、お寺の名前と所在地、渡した日、金額、何のためのお布施か(納骨の読経など)を書き残してください。相続税の申告書(第13表)では、葬式費用ごとに支払先・支払日・金額を書きます。後から思い出して書くより、その日のメモのほうが確かです。
納骨の費用は誰が払うの?決まらないときの考え方
納骨の費用を誰が払うかは、法律で決まっていません。相続人どうしで話し合って決めます。お墓を引き継ぐ人が払う、遺産から払う、兄弟で分ける、のどれかが多い形です。
話し合いで決まらず裁判になった例として、名古屋高等裁判所の平成24年3月29日判決があります。この判決は、亡くなった方が葬儀の契約をしておらず、家族の合意もない場合について、次のように分けて考えました。
- 通夜・告別式など追悼の儀式の費用:儀式を取り仕切った人(喪主など)が負担する
- 遺骨の埋葬などの費用:お墓や仏壇を引き継ぐ人(祭祀承継者)が負担する
祭祀承継者は、亡くなった方の指定、地域の慣習、家庭裁判所の決定の順で決まります(民法897条)。この判決は個別の事件の判断で、どの家族にもそのまま当てはまるわけではありません。ただ、「納骨はお墓を継ぐ人の負担」という考え方があることは、話し合いの手がかりになります。
誰が払ったかで、相続税で差し引ける人が変わる
相続税で葬式費用を差し引けるのは、実際にその費用を負担した相続人と包括受遺者(遺言で遺産の割合を受け取る人)です。払った人によって扱いが違います。
| 納骨の費用を払った人 | 相続税での扱い |
|---|---|
| 相続人の1人(お墓を継ぐ長男など) | その人が受け取る遺産から差し引ける |
| 遺産の預金から払い、全員で負担した | 遺産分割協議で決めた負担の割合に応じて、それぞれが差し引く |
| 相続放棄をした子 | 原則は差し引けない。ただし遺贈で財産を受け取っていれば、その財産から差し引ける扱いがある(相続税法基本通達13-1) |
| 相続人ではない親族(故人の兄弟など) | 差し引けない |
立て替えた人と、最終的に負担する人が違うこともあります。その場合は、誰がいくら負担するかを遺産分割協議書に書いておくと、相続税の申告もその内容で進められます。
納骨費用の相場
納骨費用に含まれるもの
日常会話でいう「納骨費用」には、墓地や納骨堂の使用料、墓石の建立費用、永代供養料、納骨式のお布施や彫刻代などが幅広く含まれます。ただし相続税の計算では、この中身を分けて考えます。納骨そのものにかかった費用(納骨の作業料、納骨のときの読経のお布施など)は葬式費用として差し引けますが、墓地や墓石の購入費用は差し引けません。墓石への彫刻料や開眼供養のお布施は、お墓に関わる費用として扱いが分かれます。領収書は必ず分けて保管してください。これらの費用は、地域や宗教的慣習、施設の種類によって異なりますが、一般的な相場としては数十万円から数百万円がかかることが多いです。
たとえば、都内の納骨堂を利用する場合、使用料が100万円程度かかることがあります。また、墓石の建立にはさらに費用がかかることがあり、トータルで数百万円に達することもあります。このため、納骨費用は相続財産からの支出が望ましいと考える相続人が多いです。
納骨費用を相続財産から支払う手続き
遺産分割協議での扱い方
遺産分割協議は、相続人全員が集まり、故人の遺産をどのように分割するかを話し合う場です。この協議で納骨費用をどのように扱うかが決まります。納骨費用を相続財産から支出する場合、全ての相続人がその取り決めに同意する必要があります。
たとえば、相続財産に現金がある場合、その一部を納骨費用として使うことに相続人全員が同意すれば、その費用は相続財産から支払われます。しかし、相続人の中に納骨費用の支出に異議を唱える人がいる場合は、協議が難航する可能性があります。このような場合には、他の相続財産とのバランスを考慮しながら、納骨費用をどのように負担するかを決める必要があります。
支払いまでの実務の流れ
納骨費用を相続財産から支払う際の基本的な流れは以下の通りです。
納骨費用を相続財産から支払う流れ
相続人全員の同意を得る
遺産分割協議において、相続人全員が納骨費用を相続財産から支出することに同意する必要があります。この同意がなければ、相続財産からの支出は難しくなります。
必要な書類を準備する
相続人全員の同意が得られたら、納骨費用の見積書や請求書を準備します。これらの書類は、実際に支払いを行う際に必要となります。
お金をどこから出すかを決める
故人の口座は凍結されているため、そのままでは引き出せません。協議がまとまるまで待てないときは、預貯金の仮払い制度が使えます。1つの金融機関につき150万円を上限に、相続開始時の残高×1/3×その人の法定相続分の範囲で、単独で払い戻せます。それでも足りない分は、誰かが立て替えて後から精算します。
支払いと精算
お寺や霊園へ支払い、領収書を保管します。立て替えた人がいる場合は、遺産分割協議書に「納骨費用○○円は遺産から精算する」と書いておくと、後から言った言わないになりません。この領収書は相続税の申告でも使います。
相続税の計算での扱い
納骨に要した費用は、相続税を計算するときに「葬式費用」として遺産総額から差し引けます。通夜・告別式の費用、火葬・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の運搬費用、お寺へのお布施や読経料・戒名料が同じ枠に入ります。差し引いた分だけ課税対象額が下がります。
一方で、墓地や墓石の購入費用、香典返しの費用、初七日や四十九日といった法要の費用は差し引けません。納骨式と四十九日法要を同じ日に行うことが多く、費用が一つの請求書にまとまっていると線引きに困ります。お寺や石材店に頼んで、内訳を分けて書いてもらうと申告のときに楽になります。
⚠️ 同じ日の支払いでも、差し引ける分と差し引けない分が混ざります
納骨式そのものの費用は差し引けますが、同時に買った墓石や、あわせて営んだ四十九日法要の費用は差し引けません。一枚の請求書にまとめられていると分けられなくなります。支払う前に内訳を分けてもらい、領収書は用途がわかる形で残しておいてください。
口座が凍結されたときの対応
相続が発生したことが銀行に知られると、故人の口座が凍結されることがあります。この凍結は、相続人間のトラブルを防ぐための措置ですが、納骨費用を相続財産から支払う際に一時的な問題となることがあります。
銀行口座が凍結されると、口座からの引き落としや支払いが一時的にできなくなります。この場合、相続人全員の同意を得て、凍結解除の手続きを進める必要があります。具体的には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書(または金融機関所定の相続届に相続人全員が署名押印したもの)などが必要です。必要書類の範囲は金融機関により異なります。
この手続きには時間がかかることがあるため、納骨費用を早急に支払わなければならない場合には、相続人が一時的に立て替えるなどの対応が必要になることもあります。その後、凍結解除が完了した時点で、相続財産から返済する形を取ることが一般的です。
今日の一歩:凍結された口座から、納骨の分だけ先に出す
1. どこへ行くか
亡くなった方が口座を持っていた金融機関の取引店(相続手続きの窓口)です。支店では受け付けず相続センターへの取次ぎになる場合もあるため、行く前に電話で「遺産分割前の払戻しを使いたい」と伝え、必要書類を確認しておくと二度手間になりません。
2. 持って行くもの
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本(法務局で取得した法定相続情報一覧図の写しでも代えられます)/請求する相続人の戸籍謄本・印鑑証明書・実印・本人確認書類/通帳やキャッシュカード(あれば)/納骨の見積書か請求書。必要書類は金融機関により異なります。
3. 窓口で伝える3点
- 遺産分割協議はまだ終わっていないこと
- 民法の遺産分割前の預貯金の払戻し(仮払い)を使いたいこと
- 使いみちと必要額(納骨・法要の支払いで、いくら必要か)
断られた・上限に届かないときの次の一手
この仮払いで単独で出せるのは「相続開始時の残高×3分の1×その人の法定相続分」、かつ同一の金融機関につき150万円までです。足りない場合は、別の金融機関に口座があれば同じ手続きをそれぞれで行えます。それでも届かないときは、いったん相続人の誰かが立て替え、領収書と立替額のメモを残して後から遺産で精算します。金額が大きい、相続人どうしで話が進まないといった場合は、家庭裁判所の保全処分による払戻しという別のルートもあります。
期限
仮払いそのものに期限はありませんが、相続税の申告・納付は原則10か月です。納骨の領収書は葬式費用として差し引ける可能性があるため、申告が終わるまで必ず保管してください。
葬儀費用と納骨費用は分けて考える
納骨費用は、葬儀費用や墓石の建立費用と混同されることがありますが、これらは異なる費用として扱われるべきです。納骨費用は、故人を弔うための最終的な費用であり、他の費用とは区別して考える必要があります。
葬儀費用は亡くなった直後、納骨費用は四十九日のころに発生します。どちらも遺産分割協議がまとまる前に支払期日が来るのが普通です。しかも故人の口座はすでに凍結されていることが多いため、実際には誰か一人が立て替えることになります。誰がいくら立て替えたかを記録し、あとで遺産から精算すると決めておくと、後で揉めずに済みます。
相続財産から支払うメリットとデメリット
メリット
✓ 相続人の経済的な負担を軽減できる
✓ 相続人が個別に費用を負担する必要がなくなる
✓ 相続人間での金銭的なトラブルを避けられる
デメリット
✕ 財産分割が複雑化する可能性がある
✕ 相続財産が限られている場合、他の相続人の取り分に影響する
✕ 例:現金300万円のうち100万円を支出すると、残り200万円を相続人間で分割することになる
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
