尊厳死宣言公正証書とは|書く内容・作り方・リビングウィルとの違い

「もしものとき、望まない延命治療は受けたくない」「でも、その意思を誰に伝えておけばいいのか」——終末期医療についての希望は、判断能力があるうちに示しておかないと、いざというときに周囲が迷ってしまいます。特に、代わりに判断してくれる家族がいないおひとりさまにとっては、あらかじめ意思を書面に残しておく意義が大きくなります。その方法のひとつが尊厳死宣言公正証書です。

この記事では、愛知県内で生前対策のご相談を受けている当窓口の視点から、尊厳死宣言公正証書という法的書面の制度について、中立の立場で整理します。なお、どのような医療を受けるべきかといった医療上の判断は医師の領域であり、本記事はあくまで書面(制度)の説明に限定します。

目次

尊厳死宣言公正証書とは

尊厳死宣言公正証書とは、回復の見込みがない終末期を迎えたときに、自分がどのような医療を望むか(あるいは望まないか)という意思を、公証人が作成する公正証書という形で残しておく書面です。いわゆる「リビングウィル(生前の意思表示)」を公正証書化したものと理解するとわかりやすいでしょう。

本人に判断能力があるうちに作成しておくもので、公証役場で公証人が関与するため、内容と作成の事実が公的に明確になります。自分の意思を、後から「本当に本人の意思だったのか」と疑われにくい形で残せる点が特徴です。

法的効力の位置づけ(ここが重要)

誤解されやすいのですが、尊厳死宣言公正証書は、医師や医療機関の対応を法的に強制するものではありません。日本には尊厳死を直接定めた法律が現状ないため、この書面は「本人の意思を明確に示す証拠」として機能します。実際の医療方針は、本人の意思を尊重しつつ、医師の判断や家族・関係者との話し合いのなかで決まっていきます。

📌 この書面の位置づけ(3つのポイント)

1.医師や医療機関の対応を法的に強制する力はありません(日本に尊厳死を直接定めた法律が現状ないため)。

2.一方で「本人の意思を明確に示す証拠」として機能し、判断の拠り所になります。

3.実際の医療方針は、本人の意思を尊重しつつ医師の判断や家族・関係者との話し合いのなかで決まります。

それでも、意思を明確な書面に残しておくことで、医療現場や周囲が本人の希望を把握しやすくなり、判断の拠り所になります。「書けば必ずそのとおりになる」ものではないという前提を理解したうえで活用することが大切です。

おひとりさまにとっての意義

子供や配偶者がいれば、終末期の医療方針について家族が本人の意思を推し量り、代わりに医療機関と話し合うことができます。しかし、おひとりさまにはその代弁者がいません。だからこそ、自分の意思をあらかじめ書面で明確にしておくことが、周囲の迷いを減らし、自分の希望を伝える手段になります。任意後見や死後事務委任とあわせて準備しておくと、生前から終末期、死後までを見据えた備えになります。全体像はおひとりさま・子供のいない夫婦の老後、何を準備すべきかで解説しています。

作成の流れと注意点

一般的には、①どのような意思を残したいか整理する、②公証役場に相談し文案を準備する、③公証人が公正証書として作成する、という流れです。作成後は、その存在を信頼できる人や、任意後見人・死後事務委任の受任者などに知らせておくことが重要です。書面を作っても、いざというときに医療現場に伝わらなければ意味が薄れてしまうためです。

尊厳死宣言公正証書の作り方(一般的な流れ)

1

意思を整理する

終末期にどのような医療を望む・望まないか、自分の意思を整理します。

2

公証役場に相談し文案を準備

公証役場に相談し、公正証書にする文案を準備します。

3

公正証書として作成

公証人が内容を確認し、公正証書として作成します。

✓

存在を知らせておく(完了)

信頼できる人や任意後見人・死後事務委任の受任者などに、書面の存在を知らせておきます。いざというとき医療現場に伝わらなければ意味が薄れるためです。

また、近年は「人生会議(ACP)」といって、終末期の医療・ケアについて本人・家族・医療者が繰り返し話し合っておく取り組みも広がっています。書面の作成と並行して、かかりつけ医や信頼できる人と希望を共有しておくと、より意思が反映されやすくなります。医療的な内容については、必ず医師にご相談ください。

⚠️ 作成前に知っておきたいこと

この書面は「書けば必ずそのとおりになる」ものではなく、医療上の判断は医師の領域です。どのような医療を受けるべきかといった医療的な内容については、必ず医師にご相談ください。書面はあくまで、本人の意思を明確に伝えるための備えと位置づけましょう。

尊厳死宣言公正証書に書く内容の例

文面は人によって異なりますが、一般には次のような項目を盛り込みます。実際の文案は、公証役場で公証人と相談しながら整えます。

項目 一般的な書き方の例
前提病気やけがで、医師が回復の見込みがないと判断した終末期にあたるとき
望まない医療死期を延ばすだけの延命措置は、差し控え、または中止してほしい
望む医療苦痛をやわらげる緩和ケアは、十分に行ってほしい
家族などへの依頼この宣言の趣旨を理解し、尊重してほしい(あわせて、医師に対する責任を問わないでほしい旨を書くこともある)
効力と撤回意思が変わったら、いつでも撤回できる旨

※ 一般的な記載例です。具体的な文案は公証役場でご確認ください。

なお、どの治療を望む・望まないかは、病状によっても変わります。書面に書く内容に迷うときは、かかりつけの医師に先に聞いておくと、実際の場面とのずれを減らせます。

意思を残す方法の比べ方|公正証書・自分で書く書面・人生会議

方法 特徴 向いている人
尊厳死宣言公正証書 公証人が作成するため、本人の意思で作ったことが明確。費用がかかり、公証役場での手続きが必要 家族に疑われない形で残したい人、頼れる家族がいない人
自分で書く書面(リビングウィル) 費用がかからず、書き直しも自由。第三者の確認がないので、作成の経緯を疑われる余地がある まず気持ちを形にしたい人
人生会議(ACP) 本人・家族・医療や介護の関係者が、望む医療やケアについて繰り返し話し合い、共有する取り組み 書面とあわせて、周りに伝わる状態にしたい全ての人

※ 厚生労働省「人生会議(ACP)」の案内をもとに作成(2026年10月確認)。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)も、本人による意思決定を基本とし、本人と医療・ケアチームが十分に話し合って方針を決めることを求めています。書面は、その話し合いのきっかけと証拠になる、と考えると使いやすくなります。

作ったあとにやっておくこと

作成後のチェックリスト

  • 書面の写しを、信頼できる人(親族、友人、任意後見人になる人など)に渡す
  • かかりつけの医師や、入居している施設にも存在を伝えておく
  • 書面をどこに保管してあるか、緊急連絡先と一緒にわかる場所に書いておく
  • 健康状態や気持ちが変わったときは、見直して書き直す(撤回もできる)

なお、任意後見人は、本人の代わりに手術などの医療行為に同意する権限を持ちません。医療に関する希望は、尊厳死宣言のような書面や、周りとの話し合いで残しておく必要があります。任意後見人を選ぶときのポイントは任意後見の受任者の選び方で解説しています。

よくある質問(FAQ)

尊厳死宣言公正証書があれば、必ず希望どおりになりますか?

いいえ。この書面は医師を法的に拘束するものではなく、本人の意思を明確に示す証拠として機能します。実際の医療方針は、本人の意思を尊重しつつ医師の判断や関係者の話し合いのなかで決まります。それでも意思を明確にしておく意義は大きいといえます。

家族がいなくても作成できますか?

はい。本人の意思表示の書面ですので、家族の有無にかかわらず作成できます。むしろ代弁者のいないおひとりさまにこそ、意思を書面に残す意義があります。作成後は、信頼できる人や受任者に存在を知らせておきましょう。

遺言書や死後事務委任契約とは何が違いますか?

尊厳死宣言は「生前・終末期の医療の意思」、遺言書は「死後の財産承継」、死後事務委任は「死後の事務手続き」と、それぞれ対象が異なります。目的が違うため、必要に応じて併用します。

作成にはいくらかかりますか?どこで頼めますか?

公正証書は、お近くの公証役場で作成します。手数料は法令で決められていますが、書面の内容や枚数で変わるため、事前に公証役場へ「尊厳死宣言を公正証書にしたい」と伝えて、必要書類と費用の見積もりを確認してください。愛知県内の公証役場は愛知県の公証役場一覧にまとめています。

一度作ったあとに気持ちが変わったら、どうなりますか?

意思が変わったときは、撤回や書き直しができます。家族や医師にも、変更したことを伝えておいてください。古い書面が残っていると、現場で混乱するおそれがあります。

認知症になってからでも作れますか?

公正証書は、本人が自分の意思を正しく伝えられる状態でないと作成できません。元気なうち、判断能力がしっかりしているうちに準備することが大切です。

参考にした公的情報

  • 厚生労働省「人生会議(ACP)してみませんか」
  • 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)
  • 日本公証人連合会「公証事務」の案内(公正証書の作成手続き)

※ 手続きや費用は変わることがあります。作成前に、公証役場でご確認ください(確認日:2026年10月9日)。

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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。制度・書面に関する説明であり、医療上の判断・助言を行うものではありません。医療に関することは医師にご相談ください。なお終末期に関する内容を含みます。ご自身やご家族のことでお悩みの場合は、かかりつけ医や信頼できる方にもご相談ください。

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この記事を書いた人

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