退職が近づくと、勤め先から「退職金を一時金で受け取るか、年金で受け取るか選んでください」という書類が届くことがあります。期限は意外と短く、ほかの手続きと重なる時期です。どちらが得なのかと調べても、記事によって言うことが違い、かえって迷ってしまう方も少なくありません。
この記事では、退職金を一時金・年金・併用で受け取るときの違いを、税金と、国民健康保険料・介護保険料への影響に分けて整理します。国税庁などの公開情報をもとに、2026年10月24日に確認しました。どちらが得かは人によって変わるため、断定はしません。比べるための材料のそろえ方をお伝えします。
先に結論:一時金は「退職所得」、年金は「雑所得」。比べるのは手取りと毎年の負担
この記事の結論
- 一時金:退職所得として、勤続年数に応じた大きな控除と2分の1の計算が使えます。給与や年金とは別に計算し、翌年の国民健康保険料の計算にも入りません。
- 年金:公的年金と合わせた雑所得になります。公的年金等控除はありますが、公的年金だけで控除を使い切っている人は、上乗せ分がほぼそのまま所得に加わり、住民税や保険料の計算に入ります。
- 得かどうかは人による:退職金の額、公的年金の額、年齢、年金で受け取るときの制度の利率で変わります。勤め先の条件と、ご自身の年金見込み額をそろえてから比べます。
一時金か年金か、置き場所まで含めて30分で整理
勤め先の条件と年金の見込み額をもとに、受け取ったあとのお金の置き場所まで、何から決めるかを一緒に並べます(税額の試算は行いません)。30分無料で、全国どこからでもオンラインで相談できます。その場で契約をお願いすることはありません。
30分の無料相談を申し込む一時金と年金の違いを1つの表で
国税庁は、確定給付企業年金や確定拠出年金から受け取る年金を、公的年金と同じ「公的年金等」として扱うと案内しています。iDeCoを年金で受け取る場合も同じです。
一時金で受け取るときのしくみ
一時金の税金は「(退職金−退職所得控除額)×2分の1」に税率をかけて計算します。控除は勤続20年までは1年40万円、20年を超えた分は1年70万円です。勤続30年なら1,500万円、38年なら2,060万円までは税金がかかりません。勤続年数と金額ごとの税額の目安は退職金の税金はいくら?退職所得控除の早見表にまとめています。
一時金は、受け取ったあとの置き場所を自分で決める必要があります。窓口で運用の商品を案内される時期でもあるため、使う時期で分けて考える方法を老後のお金の置き場所で整理しています。窓口で商品の説明を聞いても、その場で決める必要はありません。急がないほうがよい理由は退職金をいきなり運用しないほうがいい理由にまとめています。退職金の入金後に窓口で一時払いの保険を勧められたときの確かめ方は、銀行で勧められた一時払い終身保険は入るべき?にまとめています。
年金で受け取るときのしくみ
年金で受け取る分は、国民年金・厚生年金と合計して「公的年金等の収入」になり、そこから公的年金等控除を引いた額が所得です。控除は公的年金と企業年金で1つだけです。
公的年金等控除の早見表
例:厚生年金200万円の人が、企業年金を年100万円受け取ると
65歳以上で、公的年金が年200万円の人を考えます。公的年金だけなら、所得は200万円−110万円=90万円です。ここに企業年金を年100万円上乗せすると、収入は300万円、所得は300万円−110万円=190万円になります。控除は公的年金ですでに使い切っているため、企業年金の100万円がそのまま所得に加わる、ということです。
所得が増えると、次のようなところに影響します。
- 所得税・住民税:毎年、年金から天引きされる額が増えることがあります。住民税が非課税だった世帯が課税に変わる場合もあります。目安は退職後の住民税の払い方の「年金生活で住民税が非課税になる目安」で整理しています。
- 国民健康保険料・後期高齢者医療の保険料:所得に応じた部分が増えます。
- 65歳以上の介護保険料:所得の段階で決まるため、段階が上がることがあります。愛知県内の額は65歳以上の介護保険料で確かめられます。
- 確定申告:公的年金等の収入が400万円を超えると、年金の申告不要の制度が使えません。
一方で、受け取る間も残りの額に利率がつく制度では、年金で受け取ったほうが総額が多くなることがあります。毎年決まった収入が入るという面もあります。税金や保険料が増える分と、総額が増える分の両方を並べて比べるのが基本です。
併用という選び方もある
制度によっては、一部を一時金、残りを年金で受け取れます。一時金の部分は退職所得、年金の部分は雑所得として、それぞれの扱いになります。どの割合で分けられるか、あとから変えられるかは、勤め先の企業年金の規約やiDeCoの運営管理機関によって違います。
iDeCoや企業型DCの一時金と会社の退職金を両方受け取る人は、受け取る順番で控除の扱いが変わります。2026年からの見直しは退職金とiDeCoの受け取り順で説明しています。
比べる前にそろえる材料と順番
- 勤め先に条件を聞く。一時金の額、年金で受け取る場合の年額と期間、利率、保証期間(本人が亡くなった場合に遺族が受け取れる期間)の有無、選ぶ期限、あとから変えられるかを確認します。
- 公的年金の見込み額を確かめる。ねんきん定期便や「ねんきんネット」で、65歳からの年金額の見込みを見ます。
- 住んでいる市区町村の保険料の段階を見る。国民健康保険料や介護保険料が、所得でどう変わるかを確かめます。
- 手取りの総額と、毎年の負担を並べる。一時金の手取り、年金の受取総額、毎年増える税金と保険料を1枚の紙に書きます。
- 試算は勤め先・税務署・税理士に確認する。勤め先の担当が試算表を用意していることもあります。税額の比較を個別に頼むなら税理士です。
今日できる一歩
- 勤め先からの書類で、受け取り方を選ぶ期限に丸をつける
- ねんきん定期便の「65歳からの年金見込み額」を書き写す
- 「一時金の額」と「年金で受け取る年額×年数」を並べて書く
受け取り方を決めたあとは、健康保険や住民税の切り替えなど期限の短い手続きが続きます。全体の順番は退職金をもらったらすることで、退職金で老後の生活費が何年もつかの見通しは退職金・老後資金の見直し方で整理しています。資料を前に一緒に整理したい方は、30分の無料相談もご利用いただけます(税額の試算は行いません)。
よくある質問
結局、一時金と年金のどちらが得ですか
一概には言えません。退職金が退職所得控除の範囲に収まる人は一時金の税金がかからない一方、年金で受け取ると利率の分だけ総額が増えることがあります。公的年金の額や、住民税・保険料の段階によっても変わります。同じ材料で両方の手取りを並べてから判断します。
年金で受け取ると、毎年確定申告が必要ですか
公的年金と企業年金などの収入の合計が400万円以下で、そのすべてが源泉徴収の対象、ほかの所得が20万円以下なら、確定申告は不要です(国税庁)。くわしくは年金受給者の確定申告をご覧ください。
年金で受け取っている途中に本人が亡くなったら?
保証期間の残りを遺族が受け取れるか、一時金になるかは、企業年金の規約で決まっています。選ぶ前に、勤め先に「亡くなった場合はどうなるか」を聞いておくと、ご家族も安心です。
一時金で受け取ると、翌年の国民健康保険料は上がりますか
退職所得は、国民健康保険料の所得割の計算に含めないと案内している市区町村があります(川崎市など)。翌年の保険料が高く感じるのは、主に働いていた年の給与の分です。保険料の比べ方は定年後の健康保険は任意継続・国保・扶養のどれ?で整理しています。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.1600 公的年金等の課税関係
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm - 国税庁 高齢者と税(年金と税)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_1.htm - 川崎市 国民健康保険料の所得割額の算定に用いる「賦課基準額」について
https://www.city.kawasaki.jp/templates/faq/350/0000029672.html - 国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト「iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等」
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/structure.html
※本記事は2026年10月24日時点で確認した公的機関の公開情報(国税庁は令和8年4月1日現在の法令等)にもとづく一般的な説明です。一時金・年金のどちらが有利かや、あなたの場合の税額・保険料を判断するものではありません。制度の中身は勤め先、個別の税額は税務署または税理士、保険料はお住まいの市区町村にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー) 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。特定の受け取り方や金融商品を勧めるものではありません。最終的な判断はご自身で行い、個別の税額は税務署または税理士にご確認ください。