退職金の明細を見て、「税金はこれで合っているのか」「思ったより引かれていない気がする」と感じる方は少なくありません。勤め先から渡された書類には数字が並んでいますが、どう計算されたかまでは書かれていないことが多いものです。
この記事では、一時金で受け取る退職金にかかる税金のしくみを、勤続年数別の早見表と計算例で整理します。数字は国税庁の公開情報(令和8年4月1日現在の法令等)にもとづき、2026年10月24日に確認しました。あなたの場合の税額を判断するものではありません。
先に結論:退職金の税金は「勤続年数」でほぼ決まる
この記事の結論
- 控除が大きい:勤続30年なら1,500万円、38年なら2,060万円まで、退職金に所得税・住民税はかかりません。
- 超えた分も半分だけ:控除を超えた額の2分の1に税金がかかり、給与や年金とは別に計算します。
- 手続きは勤め先で完了:「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、税金は退職金から引かれて終わり、確定申告は原則いりません。
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退職金の税金は3つの段階で計算する
一時金の退職金は「退職所得」として、給与や年金とは分けて計算します。計算は次の3段階です。
- 勤続年数を出す。1年未満の端数は1年に切り上げます。29年2か月なら30年です。
- 退職所得控除額を出す。勤続20年までは1年につき40万円、20年を超えた分は1年につき70万円です。
- (退職金 − 退職所得控除額)× 2分の1が、税金の計算のもとになる「退職所得」です。ここに所得税の税率をかけ、住民税は10%をかけます。
退職所得控除の早見表(勤続年数別)
大学を出て60歳まで勤めると、勤続はおよそ38年です。この場合、退職金が2,060万円までなら税金はかかりません。
勤続年数別の税額早見表(退職金1,000万〜3,000万円)
上の計算で出した、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の目安です。上段が所得税、下段が住民税です。「0円」は控除の範囲内で、どちらもかからないことを表します。
計算例:勤続29年2か月で、退職金2,300万円の場合
国税庁が示している例を、順に追ってみます。
- 勤続年数:29年2か月は、端数を切り上げて30年です。
- 退職所得控除額:800万円+70万円×(30年−20年)=1,500万円です。
- 課税退職所得金額:(2,300万円−1,500万円)×2分の1=400万円です。
- 所得税:速算表で400万円×20%−427,500円=372,500円。復興特別所得税を含めると102.1%をかけて380,322円です。
- 住民税:400万円×10%で、40万円が目安です。
2,300万円のうち、引かれる税金は合わせて約78万円です。手取りはおよそ2,222万円になります。給与と同じ感覚で「2割近く引かれる」と思っていた方は、思ったより少ないと感じるかもしれません。
退職金から引かれるのは、所得税と住民税
退職時に一度に支払われる退職金には、厚生年金や健康保険の保険料はかかりません。日本年金機構の事例集では、退職手当は「報酬等」に当たらないものの例に挙げられています。ただし、在職中に給与や賞与へ上乗せして前払いされる退職金は「報酬等」に当たります。
住民税は、退職金を受け取る年の1月1日に住んでいた市区町村にかかり、勤め先が退職金から差し引いて納めます。申告書を出していれば、翌年に退職金の分の住民税をあらためて納めることは通常ありません。翌年の住民税が高く感じるのは、働いていた年の給与の分です。この点は退職後の住民税の払い方で整理しています。
控除の計算が変わる、気をつけたい場面
早見表は、ひとつの勤め先から一般的な退職金を受け取る場合の数字です。次にあてはまると、計算が変わります。
- 役員として5年以下だった期間の退職金:控除後の額に2分の1をかけません(特定役員退職手当等)。
- 役員以外で勤続5年以下:控除後の額のうち300万円を超える部分には、2分の1をかけません(短期退職手当等)。
- 同じ年に2か所以上から退職金を受け取る:先に受け取った分の源泉徴収票を、あとの勤め先に出す申告書に添えます。勤続期間の重なりは控除で調整します(No.2735)。
- 前の年までに退職金や、iDeCo・企業型DCの一時金を受け取っている:勤続期間が重なる分の控除が減ることがあります。2026年1月1日以後に受け取る確定拠出年金の一時金については、重なりを見る期間が延びました。詳しくは退職金とiDeCoの受け取り順で説明しています。
自分があてはまるかどうか迷うときは、勤め先の退職金担当か、税務署の電話相談で確認できます。
自分の退職金の税金を確かめる手順
計算を自分でやり直す必要はありません。手元の書類と早見表を見比べて、大きくずれていないかを確かめるだけで十分です。
- 「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を用意する。支払金額、源泉徴収税額、住民税の特別徴収税額、退職所得控除額、勤続年数が書かれています。
- 勤続年数と控除額を早見表と比べる。勤続年数は端数を切り上げた年数になっているかを見ます。
- 源泉徴収税額が支払金額の約20%なら、申告書が出ていない可能性がある。この場合は確定申告で精算します。手順は退職金の確定申告は必要かにまとめています。
- わからない点は、勤め先の退職金担当に聞く。退職したあとでも、元の担当部署で確認できます。
今日できる一歩
- 源泉徴収票の「支払金額」「源泉徴収税額」「勤続年数」の3つをメモする
- 早見表で、同じ勤続年数・近い退職金の欄を見る
- ずれが大きいときだけ、勤め先に申告書の提出状況を聞く
税金が確かめられたら、次は受け取ったお金の置き場所です。すぐ使う分、数年内に使う分、当面使わない分に分ける考え方は老後のお金の置き場所で整理しています。運用を始めるかどうかは、置き場所を分けてから考えても遅くありません。急いで決めないほうがよい理由は退職金をいきなり運用しないほうがいい理由にまとめています。置き場所を決める前に、手続きの順番とあわせて整理したい方は、30分の無料相談もご利用いただけます。税額の判断は行いませんが、何から手をつけるかを一緒に並べます。
よくある質問
退職金2,000万円で、勤続38年なら税金はかかりませんか
勤続38年の退職所得控除額は2,060万円なので、一般的な退職金であれば所得税も住民税もかかりません。ただし、同じ年にほかの退職金を受け取った場合や、前の年までにiDeCoなどの一時金を受け取っている場合は、控除が減ることがあります。
定年後に再雇用され、あとで退職金を受け取る場合はどうなりますか
勤続年数をどこからどこまで数えるか、定年時の退職金と通算されるかは、勤め先の退職金の規程と支払いの時期で変わります。源泉徴収票の勤続年数の欄を見たうえで、勤め先の担当か税務署で確認してください。
2027年から税率が変わると聞きました
令和8年度の税制改正で、2027年以後は復興特別所得税の税率が下がり、新しく防衛特別所得税が加わります。国税庁は、合わせた税率は変わらないため、退職金の源泉徴収税額の計算方法は変わらないと説明しています。
退職金を年金形式で受け取ると、税金はどうなりますか
年金形式で受け取る分は退職所得ではなく、公的年金と合わせた「雑所得」になります。控除の仕組みも、住民税や国民健康保険料への影響も変わります。違いは退職金のもらい方|一時金・年金・併用の違いで比べています。
夫が亡くなって、会社から退職金が出ると言われました
亡くなったあとに遺族が受け取る退職金は、この記事の所得税ではなく、相続税の対象です。非課税の枠の計算は死亡退職金の非課税枠をご覧ください。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.2732 退職手当等に対する源泉徴収
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2735.htm - 国税庁 退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和8年分)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/data/18.pdf - 堺市 退職金と税金
https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/zei/shizei/kurashi/taishokukin.html - 名古屋市 退職所得に係る市民税・県民税特別徴収税額の個人別内訳書
https://www.city.nagoya.jp/jigyou/zei/1037360/1011914/1011917/1011919.html - 日本年金機構 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf - 川崎市 国民健康保険料の所得割額の算定に用いる「賦課基準額」について
https://www.city.kawasaki.jp/templates/faq/350/0000029672.html
※本記事は2026年10月24日時点で確認した公的機関の公開情報(国税庁は令和8年4月1日現在の法令等)にもとづく一般的な説明です。早見表は一定の前提を置いた目安で、あなたの場合の税額や申告の要否を判断するものではありません。個別のご事情は、税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー) 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算は、税務署または税理士にご確認ください。