退職日から数日たった朝、通帳を記帳すると、見慣れない桁の数字が並んでいる。ほっとする気持ちと、「これをどうしたらいいのか」という戸惑いが、同時にやってきます。銀行や証券会社から連絡が来るのも、ちょうどこのころです。
この記事では、退職金をもらったらすることを、確認、税金、使い道、預け先、勧められる商品への向き合い方の順に整理します。一般的な仕組みの説明で、あなたの場合の税額や申告の要否は判断しません。数字は2026年10月8日時点の国税庁などの情報にもとづきます。
この記事の結論
- 最初にするのは、使い道の検討ではなく確認です。源泉徴収票を見て、税金がすでに精算されているか、受け取り方がどうなっているかを確かめます。あわせて、健康保険(任意継続は20日以内、国民健康保険は14日以内)と、60歳未満なら国民年金の切り替えを先に済ませます。
- 一時金の退職金には「退職所得控除」があり、(退職金の額 − 控除額) の2分の1に税金がかかります。「退職所得の受給に関する申告書」を出したかどうかで、天引きされる額が大きく変わります。
- 銀行や証券会社で商品を勧められても、その場では決めません。元本割れの可能性、手数料、現金にしやすいかを確かめ、資料を持ち帰って家族と見てから考えます。
退職金が入ったら、最初にする4つの確認
まず、お金を動かす前に手元の書類で次の4つを確かめます。どれも電話1本、書類1枚で分かることです。
- 源泉徴収票(退職所得の源泉徴収票):支給額と、すでに引かれた税額が書かれています。退職金の支払いを受けたときに交付されます。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出したか:出していれば、勤続年数に応じた控除を反映して源泉徴収されます。出していないと、支給額に一律20.42%が引かれます。
- 受け取り方:一時金か、年金形式か、両方か。選べる制度かどうかは、勤め先に聞きます。
- 入金された口座:すぐに全額を動かさず、しばらくそのまま置いておきます。
確認の相手は、勤め先の人事・総務の退職金担当です。すでに退職していても、元の担当部署で確認できます。企業年金や確定拠出年金(iDeCoや企業型)が別にある方は、その通知書も一緒に出しておくと話が早く進みます。
受け取り方で、税金の扱いが変わる
退職金は、制度によって「一括で受け取る(退職一時金)」「年金形式で分けて受け取る」「両方を組み合わせる」のどれかを選べる場合があります。受け取り方で、税金の扱いが変わります。
※ 税の扱いは制度・金額・ほかの所得によって異なり、有利・不利は一概に言えません。具体的な計算は提携の税理士が確認します。
どちらが有利かは、金額、ほかの収入、年齢で変わります。企業年金などを年金で受け取る場合が公的年金等の雑所得に含まれることは、国税庁の No.1600 にも書かれています。選べるときは、申し出の期限があることが多いので、期限を先に聞いておきます。
一時金の退職金にかかる税金のしくみ
一時金で受け取る退職金は、給与などとは別の「退職所得」として計算します。計算式は国税庁の No.1420 に載っています。
(退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得控除額は、勤続年数で決まります。勤続年数の1年未満の端数は、1年に切り上げます(10年2か月なら11年)。
※ 勤続20年以下は「40万円×勤続年数」(80万円に満たないときは80万円)、20年超は「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」です。障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、100万円が加算されます。
申告書を出したかどうかで、天引きの額が大きく変わる
国税庁の例(No.2732)では、支給額800万円、勤続10年2か月のとき、勤続年数は11年、控除額は440万円、課税の対象になる退職所得は180万円です。この例で、源泉徴収される額は次のように違います。
※ 所得税と復興特別所得税の合計です。住民税は別に扱われ、勤め先と市区町村で確認できます。
出し忘れていても、取り返しがつかないわけではありません。確定申告をすれば精算でき、払いすぎた分は戻ってきます。確定申告の期間は原則として翌年の2月16日から3月15日までです(No.2020)。還付を受けるための申告は、翌年の1月1日から5年間出せます(No.2030)。
あてはまると、扱いが変わる人
- 役員として勤めた期間が5年以下の人が受け取る、その期間に対応する退職金は、2分の1の計算が使えません。
- 役員以外で勤続5年以下の人は、控除後の額のうち300万円を超える部分に、2分の1の計算が使えません。
- 同じ年に2か所以上から退職金を受け取る、前の年までに退職金を受け取っている、という場合は、控除額の計算が変わります(No.2735)。
自分があてはまるかどうかは、勤め先か税務署、提携の税理士が確認します。
2026年に変わった点もあります。退職金とiDeCo(個人型確定拠出年金)などの一時金の両方を受け取るとき、控除の重なりを見る期間が、2026年1月1日以後に受け取る分について見直されました。組み合わせや受け取る順番で扱いが違うため、受け取る前に、勤め先か税務署、提携の税理士にご確認ください。
退職金とあわせてすること|期限の早い順の手続き表
退職金そのものの手続きは勤め先が進めますが、退職した本人がしなければならない手続きもあります。期限が短いものから並べると、次のとおりです。退職金の使い道を考えるのは、これを済ませてからで間に合います。
| 手続き | 期限の目安 | 窓口 | 退職金との関係 |
|---|---|---|---|
| 健康保険の任意継続を選ぶ | 退職日の翌日から20日以内 | 勤めていた会社の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合) | 保険料は全額自己負担になる。退職金から払う分を見込んでおく |
| 国民健康保険に入る | 退職日の翌日から14日以内 | 住所地の市区町村 | 保険料は前の年の所得で決まる。退職金(退職所得)は計算に含まれない |
| 国民年金の切り替え(60歳未満の人) | 退職日の翌日から14日以内 | 住所地の市区町村 | 扶養されていた配偶者が60歳未満なら、その人の切り替えも要る |
| 雇用保険(失業給付)の手続き | 受け取れる期間は原則、退職日の翌日から1年 | 住所地のハローワーク(離職票を持参) | 退職金をもらっていても、働く意思と能力があれば対象になる |
| 住民税の払い方の確認 | 退職の月で変わる | 勤め先・市区町村 | 1〜5月の退職は、最後の給与や退職金から残りがまとめて引かれることがある |
| 確定申告(必要な人だけ) | 翌年2月16日〜3月15日(還付だけなら5年以内) | 税務署 | 「退職所得の受給に関する申告書」を出していない人は、ここで精算する |
健康保険は、任意継続・国民健康保険・家族の扶養の3つから選びます。保険料の比べ方は「定年後の健康保険は任意継続・国保・扶養のどれ?」、翌年の住民税の払い方は「退職後の住民税の払い方」で整理しています。
使い道を決める前に、生活費の見通しを立てる
使い道を考えるときは、先に「毎月いくら足りないか」を出します。年金などの手取りと、毎月の支出を並べて、差を見ます。
※ 例の数字です。物価の変化や、医療・介護の費用は含んでいません。
大きな出費が見込まれるものは、別に分けて考えます。よく挙がる使い道を、考えるポイントごとにまとめました。
どれも、退職金が入った直後に決める必要はありません。老後資金全体の見直しは、退職金・老後資金、生前対策として何を見直すべきかでも整理しています。
預け先を決める:預金保険の範囲を知っておく
いくつかの銀行に分けるか、1つにまとめるか。迷ったときの目安になるのが、預金保険制度です。金融機関が破綻したときに、預金がどこまで守られるかを定めています。
※ 預金保険機構の案内(2026年10月確認)。1,000万円を超える部分は、破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われ、一部カットされることがあります。
口座を分けると、あとで家族が口座を探す手間も増えます。どこに何があるかは、メモに残しておくと安心です。1,000万円を超えたときの考え方は、ペイオフ1,000万円を超えたら分けるべき?にまとめています。定期預金の金利は、定期預金の金利2026で、大手と愛知・岐阜の銀行を並べています。
銀行で勧められる商品は、その場で決めない
退職金が入ると、金融機関の窓口で、期間限定の金利の預金や、投資信託などを案内されることがあります。案内そのものが悪いわけではありません。比べた結果、「今は何もしない」が答えになることもあります。
確かめることは、金融庁が案内している点(金融サービス利用者相談室のアドバイス)と重なります。
「必ず儲かる」と言われたときは、不審に思って、投資を見合わせることが勧められています。業者に金融商品取引業の登録があるかは、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で確認できます。
保険を勧められた場合も、同じ考え方です。変額保険を相続対策として勧められたときの確認点は、変額保険を相続対策として勧められたらに、一時払いの終身保険については銀行で勧められた一時払い終身保険は入るべき?にまとめています。保険の見直しを考えるときは、入らなくていい保険の見分け方も参考にしてください。
断るときの言い方を、4つ書いておきます。そのまま使えます。
- 短く:「今日は決めません。資料だけいただきます」
- 丁寧に:「ご提案ありがとうございます。退職したばかりなので、しばらくは預金のままにして、家族と相談してから考えます」
- 親しい担当者に:「いつも気にかけてもらってありがたいです。決めるときは、こちらから連絡しますね」
- 電話で急かされたら:「折り返しますので、お名前と部署を教えてください」
納得できないまま契約してしまったときや、不審に思うときは、消費者ホットライン「188」に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながります。
勧められた保険は、契約前に第三者に見てもらえます
提案書(設計書)の写しをお持ちいただければ、①相続全体の設計から見て本当に必要かを、特定の保険会社に偏らない立場で確認し、②比較したほうがよい場合は、複数の保険会社を横断して比較できる提携の乗合代理店をご紹介します。オンラインで全国どこからでも、30分・無料です。契約を勧めることも、急かすこともありません。「いまは加入しなくて大丈夫です」という結論も、そのままお伝えします。
お手元にあるとより具体的に確認できるもの:提案書(設計書)の写し/すでにご契約中の保険証券/ご家族構成のメモ。なくてもご相談いただけます。
保険の内容を見てもらう(無料・オンライン可)→フォームのご相談内容欄に「保険の内容確認」とご記入いただくと、担当がその前提でご準備します。ご希望に応じて提携の乗合代理店をご紹介した際に紹介料を受け取る場合がありますが、紹介料の有無でご説明の内容は変わりません。
今日できる一歩:退職金の明細を1枚用意して、3つメモする
源泉徴収票など、退職金の明細を手元に出します。そのうえで、次の3つを書き出します。使い道は、まだ決めなくてかまいません。
- 支給額
- 引かれた税額
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出したかどうか
出したか思い出せないときは、勤め先の退職金担当に1本電話して、提出状況を聞きます。勤め先で分からないと言われたら、源泉徴収票を持って、所轄の税務署(または確定申告の相談会場)で確認できます。
相談現場から
よく伺うのは、「窓口で勧められたものを、断りにくくてその場で決めてしまった」というお話です。退職金の入金は、金融機関にも分かりやすいため、案内が重なる時期でもあります。また、税金は「自動で全部済んでいる」と思われがちですが、申告書を出したかどうかで、天引きの額は大きく違います。まず書類を確認し、使い道はそのあとで、というお声が多いです。
よくある質問
退職金は、一括と年金形式のどちらで受け取るのが得ですか?
金額、ほかの収入、年齢で変わり、一概には言えません。一時金は退職所得、年金形式は公的年金等と合わせた雑所得として扱われ、税の仕組みが違います。個別の比較は、勤め先の制度を確かめたうえで、提携の税理士が確認します。
「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れたら、どうなりますか?
支給額に20.42%が源泉徴収されます。その場合は、本人が確定申告をして、申告書を出した場合と同じ計算で精算します(国税庁)。まずは、勤め先の担当に状況を伝えてください。
退職金は、すぐに運用したほうがいいですか?
急ぐ必要はありません。まず安全な場所に置き、資産全体と生活費の見通しを整理してから判断します。当社は、特定の運用商品をおすすめする立場ではありません。
全額を預金のままにしておいて、よいですか?
急いで動かさなくてかまいません。預金保険の範囲(1つの金融機関で、元本1,000万円まで+利息)を知ったうえで、置き場所を決めます。近いうちに使う予定の分は、出し入れしやすい預金にしておくと安心です。
勧められた商品を断りにくいのですが…
その場で決めず、「持ち帰って検討する」と伝えて問題ありません。内容を家族や第三者に見てもらい、本当に必要かを見極めましょう。
退職金の使い道は、家族に話しておいたほうがよいですか?
話しておくと、あとで助かります。どの口座にいくらあるかを一覧にして、家族が置き場所を分かるようにしておくと、急な入院や介護のときにも慌てずに済みます。
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参考にした公的情報
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
- 国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2735.htm
- 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」税制改正等の内容https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2026/pdf/01.pdf
- 国税庁「No.2020 確定申告」「No.2030 還付申告」「No.4402 贈与税がかかる場合」「No.1600 公的年金等の課税関係」(2020・2030・4402・1600)
- 預金保険機構「保護される預金等の範囲」https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000109.html
- 金融庁 金融サービス利用者相談室「アドバイス」https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice03.html
※ 本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な説明です。個別の税額の計算や、あなたの場合に当てはまるかどうかの判断は行いません。個別のご事情は、税務署または提携の税理士が確認します。制度の中身は勤め先、運用は各金融機関にもご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。税額の個別の計算は税務署または税理士にご確認ください。
