父の遺言に「財産はすべて長男に」と書かれていた。調べると「兄弟には遺留分がない」と出てくる。では、弟の自分は何も言えないのか。兄弟と遺留分について調べる方の多くが、ここで迷います。
結論を先に言うと、「兄弟に遺留分がない」のは、亡くなったのが兄弟姉妹の場合の話です。親が亡くなった場合、兄弟は「子」として相続人になり、遺留分を持ちます。この記事では、取り違えやすい2つの場面を早見表で分け、親の相続での遺留分の割合と計算例、期限から逆算した確認の順番を、2026年10月時点の民法と裁判所の案内をもとに整理します。
先に結論:兄弟の遺留分は「誰が亡くなったか」で答えが逆になります
この記事の結論
- 親が亡くなった場合:兄弟は「子」として相続人です。子には遺留分があります。
- 兄弟姉妹が亡くなった場合:兄弟は「兄弟姉妹」として相続人です。兄弟姉妹には遺留分がありません(民法1042条)。甥・姪も同じです。
- 親の相続での割合:子の遺留分は、法定相続分の2分の1です。子2人だけなら1人1/4です。
- 請求できるのはお金:遺留分を下回った分を、多く受け取った人にお金で請求します。
- 期限:相続の開始と、遺留分を侵害する遺言や贈与を知った時から1年。相続開始から10年を過ぎても請求できなくなります。
取り違えやすい2つの場面を早見表で整理
民法1042条は、遺留分を持つ人を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。ここでいう「兄弟姉妹」は、兄弟姉妹の立場で相続人になる人のことです。同じ兄弟でも、親の相続では「子」の立場なので、この除外には当たりません。
迷ったら「亡くなったのは誰か」だけを確かめてください。父か母なら遺留分あり、子も親もいない兄弟姉妹なら遺留分なし、と覚えると取り違えません。
親の相続で兄弟(子)の遺留分を計算する
親の相続では、遺留分全体は遺産の2分の1です。これを法定相続分で分けたものが、一人ひとりの遺留分になります(民法1042条)。家族の形ごとの割合は次のとおりです。
計算例1:遺産4,000万円、遺言で「全部を兄に」
母はすでに他界し、相続人は兄と弟の2人です。父の遺言で、遺産4,000万円がすべて兄に渡ることになりました。弟の遺留分は、4,000万円×1/4=1,000万円です。弟は何も受け取っていないので、兄に対して1,000万円の支払いを求められます。不動産の持分をもらうのではなく、お金で求める仕組みです(民法1046条1項)。
計算例2:兄が生前に住宅資金をもらっていた場合
上の例で、兄が父の亡くなる5年前に、家を買う資金として1,000万円の贈与を受けていたとします。相続人への贈与のうち、亡くなる前10年以内の、婚姻・養子縁組や生計の資本としての贈与は、遺留分を計算する元の財産に加えます(民法1043条・1044条3項)。元の財産は4,000万円+1,000万円=5,000万円になり、弟の遺留分は5,000万円×1/4=1,250万円です。
実際の請求額は、遺留分から、弟自身が遺言や生前贈与で受け取った分と、遺産分割で取得すべき分を差し引き、弟が引き継ぐ借金があればその額を加えて計算します(民法1046条2項)。親に借金があれば、元の財産からも差し引きます(1043条)。不動産の値段の見方で金額が大きく変わるため、実際の金額は弁護士や税理士と確かめてください。
兄弟姉妹の相続で遺留分がないと、どうなるか
子も親もいない兄弟姉妹が亡くなり、遺言で配偶者や特定の人に全財産を渡すと書いていた場合、ほかの兄弟は遺留分を理由に請求することはできません。遺言が有効であれば、その内容どおりになります。兄弟姉妹が相続人になる条件と割合は兄弟が相続人になる場合で確かめられます。
この場面で兄弟ができるのは、遺言が有効かどうかを確かめることです。自筆の遺言なら家庭裁判所の検認を経ているか、日付や署名があるかを見ます。検認の流れは遺言書の検認の手続きにまとめています。逆に、子のいない夫婦が「全部を配偶者に」と遺言で決めておけるのは、兄弟姉妹に遺留分がないからです。その書き方は財産を全部妻(夫)に相続させたいで説明しています。
親の相続で遺留分を考える兄弟が、期限から逆算して確かめること
遺留分の請求には、相続の開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知った時から1年という期限があります(民法1048条)。1年は短いので、次の順で確かめていきます。
意思表示の書き方や、遺言の実物の確かめ方は「遺言があるからお前の取り分はない」と言われたらで順を追って説明しています。してはいけないのは、遺留分のことを考えないまま、兄弟に言われるままに協議書へ判子を押してしまうことです。押す前の確認点は「遺産分割協議書に判子を押して」と言われたらにまとめています。
親が元気なうちに:遺留分で兄弟がもめないための備え
親の立場で「家を継ぐ長男に多く残したい」と考える場合も、ほかの子の遺留分を知っておくと、もめにくい遺言になります。
- 遺留分を下回らない配分にする。上の早見表で、ほかの子の遺留分の額を先に計算しておきます。
- 理由を付言として書き添える。法的な効力はありませんが、なぜその分け方にしたのかが伝わると、受け取る側の納得につながることがあります。
- 生前の遺留分放棄は、本人の申立てと家庭裁判所の許可が必要。念書を書いてもらうだけでは効力がありません。違いは生前の相続放棄はできないで説明しています。
- 介護をした子への配慮。介護の負担と遺留分の関係は寄与分と遺留分の関係で整理しています。
子の一人と絶縁しているなど、連絡そのものが難しい家族の備え方は絶縁した兄弟と遺産相続にまとめています。
今日できる一歩
亡くなったのが「親」か「兄弟姉妹」かを確かめ、親なら上の表で自分の遺留分の割合を書き出します。遺言の内容を知った日もメモしておくと、1年の期限を数えられます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
兄弟に遺留分はありますか
亡くなった人によって答えが変わります。親が亡くなった場合、兄弟は子として遺留分を持ちます。子も親もいない兄弟姉妹が亡くなった場合、兄弟姉妹として相続するので遺留分はありません(民法1042条)。
親の遺言で兄にすべてと書かれていました。弟の遺留分はいくらですか
母がすでに他界し、子が兄と弟の2人なら、弟の遺留分は遺産の1/4です。遺産が4,000万円なら1,000万円を、兄にお金で請求できます。母が健在なら、弟の遺留分は1/8になります。
甥・姪に遺留分はありますか
兄弟姉妹の代わりに甥・姪が相続する場合、遺留分はありません。一方、親の相続で、先に亡くなった兄弟の子(亡くなった人から見て孫)が代わりに相続する場合は、遺留分があります。
兄弟の人数で遺留分の割合は変わりますか
変わります。子全体の遺留分を、子の人数で分けるためです。子2人なら各1/4、子3人なら各1/6です(母が他界している場合)。
遺留分を請求する期限はいつまでですか
相続の開始と、遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知った時から1年です。知らなくても、相続開始から10年を過ぎると請求できなくなります(民法1048条)。
親が生きているうちに、兄弟に遺留分を放棄してもらえますか
放棄する本人が家庭裁判所に申し立て、許可を受ければできます(民法1049条1項)。念書や口約束だけでは効力がありません。一人が放棄しても、ほかの兄弟の遺留分は増えません(同条2項)。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(第887条・第889条・第900条・第1042条・第1043条・第1044条・第1046条・第1048条・第1049条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 裁判所「遺言書の検認」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。遺留分の金額は、財産の評価や生前贈与の扱いで変わります。遺留分の請求や相手との交渉は弁護士の業務です。個別の判断は弁護士・税理士にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
