親の土地を、元気なうちに自分の名義にしておきたい。司法書士に頼むと費用がかかりそうなので、名義変更の登記を自分でできないか調べている。そんな方に向けて、生前贈与で不動産の名義を変える手順を順番に書きます。
先に知っておきたいのは、登記の手間よりも「税金の額」です。贈与で名義を移すと、登記の税金は相続のときの5倍になり、不動産取得税と贈与税も加わります。この記事では、手順と必要書類に加えて、費用の計算のしかたと、相続で取得する場合との違いを、2026年10月時点の法務局・国税庁・愛知県の案内をもとに整理しました。
生前贈与で不動産の名義変更をする費用
名義変更にかかるお金は、大きく分けて「税金」と「書類の取得費」です。自分で申請すれば、司法書士の報酬はかかりません。ただし税金は、誰が申請しても同じ額がかかります。
| 費用 | 計算のしかた | 払う時期・払う先 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額×2% | 登記を申請するとき。法務局(収入印紙または現金納付) |
| 不動産取得税 | 評価額×3%(愛知県、土地と住宅)。宅地は評価額の2分の1に税率をかける。住宅や住宅用土地には軽減がある | 取得から60日以内に県税事務所へ申告し、後日届く納税通知書で納める |
| 贈与税 | 相続税の評価額(土地は路線価など)−110万円に税率をかける | 翌年2月1日〜3月15日に、受け取った人が税務署へ申告・納税 |
| 書類の取得費 | 印鑑証明書・住民票・評価証明書・登記事項証明書の手数料 | 市区町村・法務局。1通数百円の手数料が、取る通数だけかかる |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.7191・No.4402、愛知県「不動産取得税」。愛知県の3%と宅地の2分の1は2027年3月31日までの取得が対象)
計算例:土地1,200万円・建物300万円の実家を子へ贈与した場合
固定資産税の評価額が、宅地1,200万円、木造の住宅300万円の実家を、親から30歳の子へ贈与したとします。軽減を使わない場合の目安は次のとおりです。
| 税金 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | (1,200万円+300万円)×2% | 30万円 |
| 不動産取得税(土地) | 1,200万円×1/2×3% | 18万円 |
| 不動産取得税(建物) | 300万円×3% | 9万円 |
| 贈与税(特例税率) | 相続税の評価額が合計1,500万円だった場合 (1,500万円−110万円)×40%−190万円 | 366万円 |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.7191・No.4408、愛知県「不動産取得税」をもとにした仮の計算。贈与税は土地を路線価などで評価し直すため、固定資産税評価額とは別の金額になります)
不動産取得税は、受け取った人が自分で住む住宅や、その敷地なら、建てた年や床面積などの要件に応じて控除や減額があります。要件にあてはまれば、上の金額より大きく下がることがあります。適用できるかは、不動産がある地域の県税事務所で確かめてください。
この例でいちばん大きいのは贈与税です。相続時精算課税を選べば、累計2,500万円までは贈与税がかかりません。ただし登録免許税2%と不動産取得税はそのままかかり、贈与した不動産は相続のときに相続財産へ足し戻されます。精算課税の仕組みは生前贈与の方法と手続きで比べています。
相続で名義を移す場合(0.4%)との比較
同じ不動産を、親が亡くなった後に相続で受け継ぐ場合と比べると、違いがはっきりします。
| 項目 | 生前贈与で移す | 相続で移す |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 評価額の2% | 評価額の0.4%(一定の土地は免税措置あり) |
| 上の例の登録免許税 | 30万円 | 6万円 |
| 不動産取得税 | かかる | かからない |
| かかる税 | 贈与税(110万円を超えた分) | 相続税(基礎控除を超えた場合だけ) |
| 相続税の小規模宅地等の特例 | 使えない | 要件を満たせば使える |
| 手続きに必要な人 | 親(渡す人)と受け取る人の2人 | 遺言がなければ、相続人全員の遺産分割協議 |
| 登記の期限 | 申請の義務はない(ただし登記しないと、名義は親のまま) | 相続で取得したと知った日から3年以内に申請する義務 |
| 名義を移す時期 | 親が元気なうちに選べる | 亡くなった後 |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.7191、愛知県「不動産取得税」、法務省「相続登記の申請義務化について」をもとに整理)
税金だけを見れば、相続を待つほうが軽く済むことが多いです。それでも生前に移すのは、「この家はこの子に」と親の意思で確実に決めておきたい場合や、親が元気なうちに名義を整理しておきたい場合です。実家を売る予定があるなら、名義を移すと売却時の控除が使えなくなることもあります。実家を親が生きているうちに名義変更・売却するとどうなるで、売る場合も含めて比べてから決めてください。
生前贈与の名義変更を自分でする手順(7ステップ)
- 登記事項証明書で、今の名義と地番を確かめる。名義人が本当に親か、住所が今の住所と同じか、住宅ローンなどの抵当権が残っていないかを見ます。取り方は登記事項証明書の取得方法にまとめています。
- 固定資産評価証明書を取る。登録免許税の計算に使います。登記を申請する時期によって必要な年度が変わるので、固定資産評価証明書の取得方法で確かめてから取ります。
- 贈与契約書(登記原因証明情報)を作る。不動産の表示は、登記事項証明書のとおりに書き写します。記入例は次の章にあります。
- 必要書類を集める。親の印鑑証明書は、作成から3か月以内のものが必要です。早く取りすぎないよう、申請日から逆算します。
- 登記申請書を作る。法務局のサイトにある「所有権移転登記申請書(贈与)」の様式と記載例を使います。2026年10月5日以降に申請する場合は、その日以降用の様式を選びます。
- 不動産がある地域を受け持つ法務局に申請する。窓口に持っていくほか、郵送やオンラインでも申請できます。登録免許税は収入印紙を申請書に貼るか、現金で納めた領収書を貼ります。
- 完了後に、登記識別情報を受け取り、税の申告をする。登記事項証明書で名義が変わったことを確かめます。不動産取得税は県税事務所へ申告し(愛知県は取得から60日以内)、贈与税は翌年2月1日〜3月15日に税務署へ申告します。
登記が終わるまでの日数の目安は、各法務局のサイトに「登記完了予定日」として載っています。書類に不備があると、法務局から電話で補正(直し)を求められます。申請書には、平日の昼間につながる電話番号を書いておきます。
必要書類の一覧:誰が、どこで用意するか
| 書類 | 誰のもの | どこで用意する | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 登記申請書 | ― | 法務局の様式で自分で作る | 2026年10月5日以降は新しい様式。受け取る人のふりがな・生年月日・メールアドレス・国籍等も書く |
| 贈与契約書(登記原因証明情報) | 親と受け取る人 | 自分で作る | 法務局の記載例にある「登記原因証明情報」の形でもよい |
| 登記識別情報または登記済証(権利証) | 親(渡す人) | 手元にあるものを使う | なくした場合は、申請書でその理由を選ぶ。別の手続きが必要になる |
| 印鑑証明書 | 親(渡す人) | 市区町村 | 作成から3か月以内。申請書・委任状には同じ実印を押す |
| 住民票の写し | 受け取る人 | 市区町村 | マイナンバーの記載がないもの。本籍の記載があるものなら、国籍等を証する情報も兼ねられる |
| 固定資産評価証明書 | 不動産 | 市区町村(東京23区は都税事務所) | 登録免許税の計算に使う。年度に注意 |
| 委任状 | 代理で申請するとき | 自分で作る | 受け取る人が親の代理で申請するときなど。親は実印を押す |
(2026年10月時点/法務局「所有権移転登記申請書(贈与)」令和8年10月5日以降用の記載例をもとに整理)
親の住所や氏名が、登記されたときから変わっている場合は、贈与の登記の前に住所・氏名の変更登記が必要です。2026年4月からは、住所や氏名の変更登記も申請が義務になっています。
贈与契約書と登記申請書の書き方(記入例)
贈与契約書は、そのまま登記原因証明情報として法務局に出せます。法務局の記載例と同じく、当事者・不動産・贈与の事実が分かるように書きます。
不動産の贈与契約書は印紙税がかかる文書にあたるため、収入印紙を貼ります(法務局の記載例にも、印紙を貼る旨の説明があります)。金額は国税庁の印紙税の案内で確かめてください。
登記申請書に書く主な項目
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 所有権移転 |
| 原因 | 令和8年11月1日贈与(申請日ではなく、贈与契約の日) |
| 権利者(受け取る人) | 住民票どおりの住所・氏名、ふりがな、生年月日、国籍等、メールアドレス |
| 義務者(渡す人) | 登記記録どおりの住所・氏名。自分で申請するなら実印を押す |
| 添付情報 | 登記識別情報(または登記済証)、登記原因証明情報、印鑑証明書、住所証明情報、国籍等を証する情報、(代理なら)代理権限証明情報 |
| 申請先・申請日 | ○○法務局○○支局(出張所)、申請する日 |
| 課税価格・登録免許税 | 評価証明書の価格の合計と、その2%の税額 |
| 不動産の表示 | 登記事項証明書どおり。不動産番号を書けば所在・地番などは省略できる |
(2026年10月時点/法務局「所有権移転登記申請書(贈与)」令和8年10月5日以降用の記載例より)
登録免許税は、課税価格の1,000円未満を切り捨て、税額の100円未満を切り捨てて計算します。申請書が2枚以上になるときは、つづり目に契印をします。様式どおりに作っても迷う所があれば、多くの法務局で予約制の登記手続案内を受けられます。
司法書士に頼む場合の費用の考え方
司法書士の報酬は、事務所ごとに決められています。決まった公定の料金表はないため、この記事では金額の目安は書きません。依頼するときは、見積もりで次の3つを分けて出してもらうと比べやすくなります。
- 報酬:贈与契約書の作成、登記申請書の作成と申請、書類の確認など、司法書士の仕事に対する費用
- 実費:登録免許税、証明書の手数料、郵送代など。登録免許税は自分で申請しても同じ額
- 含まれないもの:不動産取得税と贈与税。贈与税の申告は税理士の仕事なので、別に頼むかどうかを決める
自分でやるか頼むかの分かれ目は、書類の数と状況の複雑さです。土地と建物が1つずつで、名義人の住所も変わっていないなら、自分で申請しやすい手続きです。権利証が見つからない、抵当権が残っている、共有になっている、といった場合は、先に司法書士に相談しておくと手戻りが防げます。司法書士を探すときは、各地の司法書士会の相談窓口も使えます。
自分で名義変更するときに気をつけたい点
- 住宅ローンが残っている:抵当権が付いたままでも登記はできますが、借入先との契約で名義変更に承諾が要ることがあります。先に借入先の銀行に相談します。
- 親の判断力に不安がある:贈与は契約なので、親に判断する力が必要です。認知症が進むと、贈与も登記もできなくなります。
- きょうだいがいる:特定の子への不動産の贈与は、相続のときに遺産分割や遺留分の計算に入ることがあります(民法903条・1044条)。理由をきょうだいに伝えておくと、後でもめにくくなります。
- 亡くなる前の一定期間の贈与は足し戻される:暦年課税で贈与した不動産も、相続財産に加算されることがあります。期間は生前贈与の加算7年の早見表で確認できます。
- 不動産取得税の申告を忘れる:愛知県では、取得から60日以内に県税事務所へ申告することになっています。軽減を受けたいときも、この申告で手続きします。
今日できる一歩
1. 固定資産税の納税通知書を探す。課税明細書の「価格(評価額)」の欄で、登録免許税(×2%)と不動産取得税のおおよその額が分かります。
2. 権利証(登記済証)か登記識別情報があるか確かめる。見つからなければ、手続きが増えるので早めに分かったほうが安心です。
3. 相続で移した場合と並べて比べる。上の比較表に自分の家の評価額を当てはめるだけで、差額の大きさがつかめます。
よくある質問
生前贈与の不動産の名義変更は、本当に自分でできますか。
できます。法務局が贈与用の申請書の様式と記載例を公開しており、本人が申請することも認められています。土地と建物が1つずつで、親の住所が登記と同じなら、書類をそろえて様式どおりに作れば申請できます。不安があれば、法務局の登記手続案内(予約制)で確認してから出すと安心です。
生前贈与の手続きを司法書士に頼むと、費用はいくらかかりますか。
報酬は事務所ごとに違い、公的な定価はありません。見積もりを取り、報酬と実費(登録免許税など)を分けて出してもらってください。登録免許税は、自分で申請しても司法書士に頼んでも同じ額です。
名義変更の費用や税金は、誰が払いますか。
不動産取得税と贈与税は、不動産を受け取った人にかかります。登録免許税や書類の費用を誰が負担するかは、贈与契約書で決めておきます。親が税金分まで現金で渡すと、その現金も贈与になる点に気をつけます。
土地の一部(持分)だけを、毎年少しずつ贈与できますか。
持分の贈与もできます。申請書の登記の目的は「愛知太郎持分一部移転」のように書きます。ただし贈与のたびに登記の申請と登録免許税がかかり、共有の状態が長く続きます。手間と費用に見合うかは、先に比べてから決めてください。
相続時精算課税を使えば、税金はかかりませんか。
贈与税は、累計2,500万円までかからなくなります(年110万円の控除も別にあります)。ただし登録免許税2%と不動産取得税は、ふつうの贈与と同じようにかかります。贈与した不動産は相続のときに相続財産へ足し戻され、小規模宅地等の特例も使えません。選ぶ前に税理士に試算してもらってください。
贈与契約だけ結んで、登記はしなくても大丈夫ですか。
契約自体は有効ですが、登記をしないと、名義は親のままです。親が別の人に売ったり担保に入れたりしたとき、受け取った人は自分の権利を主張しにくくなります。贈与で取得したら、早めに登記まで済ませます。
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参考にした公的情報
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」(2-3 所有権移転登記申請書(贈与)、令和8年10月5日以降用の様式・記載例)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html - 国税庁 タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm - 愛知県「不動産取得税」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/zeimu/0000019347.html - 愛知県「住宅などの不動産取得税の軽減」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/zeimu/0000029875.html - 国税庁 タックスアンサーNo.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4402「贈与税がかかる場合」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm - 法務省「相続登記の申請義務化について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html - e-Gov法令検索「民法」(第903条・第1044条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
※本記事は2026年10月時点の法務局・国税庁・愛知県の公開情報にもとづく一般的な説明です。不動産取得税は都道府県の税のため、愛知県以外の不動産は所在地の都道府県の案内をご確認ください。登記は法務局・司法書士、贈与税は税務署・税理士、不動産取得税は県税事務所に個別にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
