親が亡くなったあと、通帳や郵便物からiDeCo(個人型確定拠出年金)に入っていたと分かることがあります。積み立てたお金は、遺族が請求すると「死亡一時金」として受け取れます。ただし受け取る人の順番は、相続の順番とは別のルールで決まります。
この記事では、2026年10月時点の法律と公式の案内をもとに、誰が受け取れるか、どこへ何を出すか、期限と税金の扱いを順に整理します。
先に結論:受取人は法律の順番で決まり、5年を過ぎると扱いが変わる
この記事の結論
- 受け取る人:本人が指定した人が最優先。指定がなければ配偶者、次に生計を頼っていた子・父母などの順です。
- 請求の窓口:まず本人が加入していた金融機関(運営管理機関)へ連絡します。自動では振り込まれません。
- 期限と税金:死亡後3年以内に支給額が決まれば相続税の非課税枠の対象。5年請求がないと相続財産の扱いになります。
死亡一時金を受け取れる人・受け取れない人の早見表
iDeCoの死亡一時金は、加入中の人だけでなく、掛金を止めて運用だけしていた人や、老齢給付金を受け取っている途中の人が亡くなったときも対象です。受け取る途中で亡くなった場合は、残っている分を遺族が受け取れます。
受け取る人の順番は、確定拠出年金法第41条(iDeCoには第73条で準用)と、国民年金基金連合会の「個人型年金規約」第130条で決まっています。民法の相続の順番とは違う点に注意してください。
上の順番の人がいれば、下の順番の人は受け取れません。同じ順番の人が2人以上いるときは、人数で等分します。請求は、受け取りの権限をもつ代表者1人を決めて行います。
金額・受け取り方・期限・税金の早見表
死亡一時金の金額は、亡くなった人のiDeCoの残高です。決まった額が出るわけではありません。投資信託などで運用していた場合、売却してお金に換えた日の値段で決まります。
運用していた商品は、現金化するまで値動きがあります。株式や外国の資産を含む商品なら、相場や為替で亡くなった日より増えることも、減って元本を割り込むこともあります。いつ請求すれば得かは予想できないため、値動きを理由に請求を先延ばしにしないほうが落ち着いて進められます。
請求の手順と必要書類チェックリスト
iDeCoには、窓口になる金融機関(運営管理機関)と、記録を管理して請求を審査する会社(記録関連運営管理機関)があります。遺族はまず金融機関へ連絡し、案内に沿って書類を出します。公式サイトのよくある質問では、死亡一時金の請求先は記録関連運営管理機関とされています。
- 加入していた金融機関を探す。掛金の引き落とし記録がある通帳、金融機関や記録関連運営管理機関からの郵便、年末調整や確定申告の書類(小規模企業共済等掛金の払込証明書)が手がかりになります。
- 金融機関に亡くなったことを伝える。加入中だった場合は掛金を止めるため、「加入者等死亡届」の提出を求められます。
- 受取人の指定があったか確認する。指定の有無で、請求できる人と必要書類が変わります。分からなければ窓口で確認します。
- 「死亡一時金裁定請求書」を取り寄せて書く。裁定とは、受け取る権利があるかを審査して決めることです。様式と添付書類は記録関連運営管理機関によって違うので、届いた案内を優先します。
- 添付書類をそろえて提出する。同じ順番の遺族が複数いるときは、代表者1人を決め、その権限を示す書類も出します。
- 入金と通知を確認する。資産が現金化されたあと、指定の口座に振り込まれます。届いた書類は相続税の申告に使うことがあるので保管します。
個人型年金規約第127条では、請求書に添える書類として次のものが定められています。金融機関ごとに追加で求められるものもあります。
- □ 死亡一時金裁定請求書(請求者と亡くなった人の情報、振込先の口座を書く)
- □ 死亡診断書など、亡くなったことを証明する書類
- □ 請求者と亡くなった人の関係が分かる書類(戸籍謄本・抄本、住民票の写し、法定相続情報一覧図の写しのいずれか)
- □ 事実婚の配偶者が請求する場合は、事実上の夫婦だったことが分かる書類
- □ 第2・第3順位で請求する場合は、主に本人の収入で暮らしていたことが分かる書類
- □ 配偶者以外が請求する場合は、自分より先の順番の遺族がいないことが分かる書類
- □ 同じ順番の遺族が複数いる場合は、代表者の権限を示す書類
戸籍の束を何度も出すのが大変なときは、法定相続情報一覧図の取り方も参考にしてください。規約上、関係を示す書類として使えると定められています。
なお、会社の企業型確定拠出年金を辞めたあと手続きをせず、資産が国民年金基金連合会に「自動移換」されていた場合は、請求先が連合会になります(規約第128条)。iDeCo公式サイトの「転職・退職された方へ」に案内があります。
証券会社などにNISA口座もあった場合は、iDeCoとは別に「非課税口座開設者死亡届出書」を出します。流れはNISA口座の相続手続きで整理しています。
期限は「3年」と「5年」の2段階。過ぎたらどうなるか
死亡一時金の請求で目安になる期間は2つあります。税金の区切りの3年と、受け取る権利の区切りの5年です。
3年以内に支給額が確定した場合は、相続税の上では「退職手当金等」と同じ扱いになります。相続税法施行令第1条の3で、iDeCoの規約に基づく一時金が退職手当金等に含まれると定められているためです。相続人が受け取った分は、500万円×法定相続人の数までは相続税がかかりません。会社から死亡退職金が出た場合は、それと合わせてこの枠を使います。
支給額は、資産を現金化した日に決まります。請求から現金化までに時間がかかることもあるため、3年の直前ではなく、余裕をもって請求しておくと安心です。
3年を過ぎて確定した場合は、相続税の対象から外れ、受け取った遺族の一時所得になります。所得税の確定申告が必要になる場合があります。
5年間請求がなかった場合は、受け取れる遺族がいないものとされ、残高は亡くなった人の相続財産とみなされます(確定拠出年金法第41条第5項)。こうなると、法律の順番の遺族が受け取る仕組みから外れ、相続人どうしで分け方を決める財産として扱われます。手続きにも相続人の関わりが必要になり、かえって手間が増えます。
相続税の申告が必要かどうかは、ほかの財産も含めた合計で決まります。申告の期限は相続税の申告期限10か月で整理しています。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
読者が損しやすい点
- 相続人が受け取ると思い込む。受取人は確定拠出年金法の順番で決まります。遺産分割の話し合いで分ける財産ではありません。
- 相続人以外が受け取ると非課税枠が使えない。国税庁の案内では、相続人以外が受け取った退職手当金等には非課税の適用がありません。相続を放棄した人も同様です。
- 国民年金の「死亡一時金」と混同する。名前は同じでも別の制度です。国民年金の死亡一時金は年金事務所や市区町村が窓口です。違いは寡婦年金と死亡一時金の違いで整理しています。
- 受取人の指定を変えないままにする。指定した人が先に亡くなった場合、指定し直さないと法律の順番に戻ります。親が元気なうちに指定の有無を確認しておくと、家族が迷いません。
- 加入先が分からず放置する。5年を過ぎると相続財産の扱いになり、手続きが重くなります。通帳と郵便物を早めに確認しましょう。
今日できる一歩
- 亡くなった親の通帳で、iDeCoの掛金らしい毎月の引き落としがないかを見て、引き落とし先の金融機関名をメモしておきましょう。
よくある質問
Q. 遺言で「iDeCoは長男に」と書けば、長男が受け取れますか?
A. 確定拠出年金法では、受取人の指定は運営管理機関に申し出て行う仕組みです。遺言の書き方だけで受取人が変わるかは、記録関連運営管理機関に確認してください。生前に指定しておくのが確実です。
Q. 年金として受け取っている途中で亡くなりました。残りはどうなりますか?
A. iDeCo公式サイトのよくある質問では、年金を受給中に亡くなった場合も、遺族が残額を受け取れるとされています。死亡一時金として請求します。
Q. 子が3人いて、全員が独立しています。誰が請求しますか?
A. 配偶者や生計を頼っていた親族がいなければ、3人とも同じ順番で、等分して受け取ります。請求は代表者1人を決めて行い、代表の権限を示す書類を出します。
Q. 相続放棄をしても受け取れますか?
A. 死亡一時金の受取人は相続とは別の順番で決まります。受け取れるかは、記録関連運営管理機関に確認してください。受け取った場合でも、相続を放棄した人には退職手当金等の非課税枠は使えません。
Q. 未支給年金の請求と同じ窓口ですか?
A. 違います。国の年金の未支給分は年金事務所などが窓口です。iDeCoは加入していた金融機関が窓口です。国の年金の手続きは未支給年金の請求方法をご覧ください。
Q. 死亡一時金の受取人は、どうやって指定しますか?
A. 加入している金融機関(運営管理機関)に連絡し、所定の届書を出して指定します(iDeCo公式サイト)。指定できるのは、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の中からです。指定した人が先に亡くなったときは、指定し直さないと法律の順番に戻ります。相続人でない人を指定すると、受け取った分には相続税の非課税の枠が使えない点も知っておくと安心です。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088 - 国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト「規約・届書様式」(個人型年金規約、加入者等死亡届)
https://www.ideco-koushiki.jp/library/style/ - 国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト「よくあるご質問」
https://www.ideco-koushiki.jp/faq/ - 厚生労働省「iDeCoの概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html - 国税庁 タックスアンサーNo.4117「相続税の課税対象になる死亡退職金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm - 国税庁 所得税基本通達34-2(遺族が受ける給与等、公的年金等及び退職手当等)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/08.htm
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理です。必要書類や手続きの流れは、加入していた金融機関や記録関連運営管理機関によって異なることがあります。実際の手続きは各機関の案内に従ってください。税額の計算や申告の要否は、税務署や税理士にご確認ください。特定の金融機関や商品を勧めるものではありません。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
