「父の証券口座に株と投資信託が残っている。最近、物忘れが増えてきた」。そんなとき、家族が代わりに売れるのか、NISAはどうなるのかが気になります。この記事では、2026年10月時点の公的な案内と証券会社の公式ページをもとに、止まる場面と元気なうちの備えを整理します。
先に結論:家族が売れるかは「備えがあるか」で決まる
この記事の結論
- 家族というだけでは売れない:証券口座の取引は原則として名義人本人だけです。判断する力が落ちた後に売るには、原則として成年後見制度を使います。
- 備えは元気なうちにしか結べない:証券会社の代理人制度、任意後見、家族信託は、本人がしっかりしているうちの契約が前提です。
- NISAを含めて「売る・出す」と「買う」は別:備えの種類によって、売却だけか買付まで続けられるかが変わります。
証券口座が止まる場面と、家族ができること・できないこと
証券口座が「止まる」とは、本人の意思が確かめられず、売買や出金を受け付けてもらえない状態です。日本証券業協会の資料でも、判断する力が下がった後に売却や引出しをするには、原則として成年後見制度を使うと整理されています。
一方で同じ資料には、代理権がなくても、ごく限られた緊急時に各社の判断で売却や引出しだけを認める場合もあると書かれています。ただ、これは例外で、あてにできるものではありません。
親の預金がどう扱われるかは、親が認知症なのに家族が預金を引き出すとで整理しています。証券も預金も「本人の財産は本人のもの」という考え方は同じです。
元気なうちの備え4つを比べる
備えには大きく4つあります。どれが合うかは、家族の状況と「売るだけでよいか、運用も続けたいか」で変わります。
家族信託は、家族に財産の管理を任せる契約です。信託した証券は、受託者(任された家族)の名義の「信託口口座」で管理するのが一般的です。ただ、信託口口座を扱うかどうか、扱う商品の範囲は金融機関で違います。契約の内容は、信託を考える段階で金融機関と専門家に確かめておくと安心です。
証券会社の代理人制度と「家族サポート証券口座」
証券会社の多くは、取引を原則として本人だけに限っています。そのうえで、家族を代理人として登録できる制度を用意している会社があります。ここでは仕組みを知るための例として、公式ページで確かめた内容を挙げます。特定の会社を勧めるものではありません。
- 例1:野村證券。取引は原則として本人のみ。店舗に口座がある場合、本人からの書面など一定の手続きを経て代理人登録を受け付ける場合がある、と案内しています。オンライン専用の支店では代理人を選べないとされています。
- 例2:大和証券「予約型代理人」。判断する力が落ちた時に備え、代理人をあらかじめ指定する仕組みです。代理人は原則として配偶者、2親等以内の親族、同性パートナー。所定の診断書などを出した後、売却・出金などができ、買付はできないと案内されています。申込み時点で判断する力の低下が心配される場合は使えないとされています。
日本証券業協会は、各社共通の枠組みとして「家族サポート証券口座」の制度要綱を公表しています。本人と家族代理人が公証役場で公正証書の契約を結び、証券会社に届け出る仕組みです。協会のページでは、2026年10月8日までに11社が開始したと掲載されています。
- 家族代理人は1名。国内に住む配偶者か成人の子や孫が基本で、いない場合は兄弟姉妹か成人の甥・姪
- 任せる範囲は「売却・解約して出金」だけか、「口座にある資産の範囲での売買」までかを選ぶ
- 出金先は本人名義の金融機関口座に限られる。代理取引が始まった後の追加入金はできない
- 信用取引やレバレッジ型の投資信託などは、保有分の売却などを除き対象外
- 本人に成年後見が始まったときや、本人が亡くなったときは終わる
NISA口座を代理人がどこまで扱えるか(特に新しい買付)は、2026年10月時点で協会の要綱や各社のページに明記を確認できませんでした。NISAを使っている場合は、申込み前に証券会社へ具体的に聞いておくと安心です。
なお、証券口座から本人の銀行口座へお金を移せても、銀行から引き出すには銀行側の代理人制度などが別に必要です。銀行の備えは認知症になる前の銀行手続きチェックリストで確認できます。
すでに認知症が進んでいたら:成年後見でできること・できないこと
備えがないまま判断する力が落ちた場合、家族が家庭裁判所に「後見開始」を申し立てます。申し立てられるのは本人、配偶者、四親等内の親族などで、申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。
後見人が付くと、証券口座の管理は後見人が行います。ただし、後見人の役目は本人の財産を守ることです。横浜家庭裁判所のQ&Aは、株式や投資信託の購入などの投機的な運用は避けるよう求めています。すでに持っている株などは、損をさせないよう注意して管理するという扱いです。
このため、後見人がNISAで新しく積み立てたり買い足したりすることは、一般に期待しにくいと考えておきましょう。NISAでの新規買付について、全国共通のルールとして示した公的な案内は2026年10月時点で確認できませんでした。扱いは家庭裁判所と証券会社に確認してください。申立ての流れは成年後見の申立ての手順にまとめています。
成年後見制度は、2026年6月に見直しの改正法が成立し、6月24日に公布されました。後見と保佐をやめて補助に一本化する内容です。施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日で、2026年10月時点では今の制度で手続きします。
備えの手順と必要書類チェックリスト
証券会社の代理人制度や家族サポート証券口座を使う場合の、一般的な流れです。細かな書類は会社ごとに違います。
- 親の口座を書き出す。証券会社名、支店(店舗かネット専用か)、NISAの有無を本人と一緒に確認します。
- 証券会社に制度の有無を聞く。代理人になれる人、できる取引(買付の可否)、NISAの扱い、開始に必要な書類を確かめます。
- 家族で方針を決める。「売って生活費や介護費にあてる」か「運用も続ける」かを、本人の意向を中心に話し合います。
- 必要なら公証役場で契約する。家族サポート証券口座や任意後見は公正証書の契約です。
- 証券会社に申し込む。家族サポート証券口座は、契約後すみやかに利用申込書兼家族代理人届を出します。
- 銀行側の備えもそろえる。売ったお金が入る本人の銀行口座についても、代理人の手続きを確認します。
- □ 本人の本人確認書類と届出印(実印を求められる場合あり)
- □ 代理人になる家族の本人確認書類と印鑑(実印を求められる場合あり)
- □ 本人との続柄が分かる書類(戸籍謄本など。会社の指定による)
- □ 証券口座の口座番号・取引店が分かるもの(取引残高報告書など)
- □ 家族サポート証券口座・任意後見の場合:公正証書(作成日・番号)
- □ 代理取引を始める時:会社所定の届出書、診断書など(会社の指定による)
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
期限と、過ぎたらどうなるか・損しやすい点
法律で「何日以内」と決まった期限はありません。期限にあたるのは、本人の判断する力です。代理人制度、家族サポート証券口座、任意後見、家族信託は、どれも本人が内容を理解して契約できるうちが前提です。
この時期を過ぎると、選べる道は原則として成年後見だけになります。後見人が付くまでの間、売りたい時期に売れないことがあります。本人が亡くなると口座は相続の手続きに移り、代理人の契約も終わります。
- ネット専用口座は代理人を付けられないことがある。例として野村證券のオンライン専用支店は代理人を選べないと案内しています。
- 「売れる」と「買える」は違う。売却・出金だけの制度では、積立や買い替えは続けられません。
- 止まっている間も値動きは続く。株や投資信託は元本が保証されません。値下がりや外国の資産なら為替の変動で、取り出す時に元本を下回ることがあります。
- 銀行側の手続きを忘れる。証券で売れても、銀行から引き出せなければ介護費などに使えません。
- 家族の中で話していない。代理人が1人の制度では、他のきょうだいとの行き違いが起きやすくなります。
実家などの不動産も同じ考え方で止まります。家のことは認知症の親の家を売るにはをご覧ください。
今日できる一歩
- 親と一緒に、証券会社から届く取引残高報告書を見て「会社名・取引店・NISAの有無」を1枚のメモに書き出す。
よくある質問
親のログインIDとパスワードを知っていれば、家族が売ってもいい?
証券口座の取引は原則として名義人本人だけです。家族が本人になりすまして操作することは、各社の決まりに反するおそれがあります。代理人制度などの正式な手続きを使いましょう。
NISA口座はどうなりますか?
NISAも本人名義の口座なので、判断する力が落ちると他の口座と同じく取引が難しくなります。代理人や後見人が新しく買えるかは、2026年10月時点で全国共通のルールを確認できませんでした。証券会社と家庭裁判所に確認してください。
軽い物忘れの段階でも、代理人制度は申し込めますか?
本人が内容を理解して手続きできるかが基準になり、判断は証券会社や公証人が行います。例として大和証券の予約型代理人は、申込み時点で判断する力の低下が心配される場合は使えないとしています。気になり始めた段階で早めに相談しましょう。
任意後見と家族サポート証券口座は両方使えますか?
協会の要綱では、本人に任意後見監督人が選ばれた時は家族サポート証券口座は終わる、と定めています。ただし、権限が重ならない場合に続けることも考えられるとしています。両方を考えるときは、証券会社に順番と扱いを確認しましょう。
家族信託にすればNISAもそのまま運用を続けられますか?
NISA口座の資産をそのまま信託に移せるかは、2026年10月時点で公的な案内を確認できませんでした。信託口口座の扱いは金融機関で違うため、信託を考える段階で金融機関と専門家に確認してください。
参考にした公的情報
- 日本証券業協会「家族サポート証券口座」
https://market.jsda.or.jp/shijyo/kazokusupport/index.html - 日本証券業協会「家族サポート証券口座制度要綱」(2026年1月22日)
https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/houkokusyo/files/kazokusupport_seidoyoukou_honbun_202601.pdf - 裁判所「後見開始」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_01/index.html - 横浜家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人Q&A」(令和7年1月)
https://www.courts.go.jp/yokohama/vc-files/yokohama/2024/YFC/kouken/koukentop/01QAR701.pdf - 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A(任意後見)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/a03.html - 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
証券会社の制度の例:野村證券「よくあるご質問(代理人)」https://faq.nomura.co.jp/faq_detail.html?id=457、大和証券「予約型代理人」https://www.daiwa.jp/service/dairinin/(いずれも2026年10月時点で確認)。
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理です。証券会社の制度や必要書類は会社ごとに違い、変わることがあります。特定の金融機関・金融商品を勧めるものではありません。投資信託や株式は元本が保証されず、値下がりや為替の変動で損失が出ることがあります。個別の手続きは各証券会社・家庭裁判所・公証役場にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
