5月の終わり、実家のポストに市役所から封筒が届きます。中身は「介護保険負担限度額認定」の申請書と、通帳のコピーを添えてくださいという案内です。特養に入っている親の代わりに、これを書くのは、子どもの役目になることもあります。
この記事では、施設の食費と部屋代が下がるこの認定について、段階ごとの基準と金額の表、申請の手順と必要書類、毎年の更新の注意点を、2026年10月時点の公的な情報で整理します。預貯金の基準は、単身で500万〜1,000万円以下、夫婦で1,500万〜2,000万円以下で、段階によって違います。
先に結論:対象なら食費と部屋代に1日の上限がつく。申請は毎年
この記事の結論
- だれが:特養・老健・介護医療院とショートステイを使う人のうち、世帯全員(別世帯の配偶者も)が住民税非課税で、預貯金などが基準以下の人です。
- いくら:特養の相部屋・第2段階なら、国の基準額で1日2,460円の食費と部屋代が820円になります。30日で約4.9万円の差です。
- いつまで:申請した月の1日から使え、原則として前の月にはさかのぼれません。有効期間は7月31日までの1年で、毎年の更新が必要です。
負担限度額認定とは|施設の食費・居住費に上限がつく制度
介護保険の施設に入ると、介護サービス費の1〜3割のほかに、食費と居住費(部屋代)がかかります。所得と預貯金が少ない人は、市区町村で「負担限度額認定」を受けると、この2つに1日あたりの上限がつきます。
上限を超えた分は、介護保険から施設に支払われます。正式な名前は「特定入所者介護サービス費」で、「補足給付」とも呼ばれます。対象になる人・ならない人は、次の表で見当がつきます。
介護サービス費の自己負担そのものには、別の制度で月の上限があります。そちらは高額介護サービス費の申請方法にまとめています。入院などで病院の医療費が重なったときの上限は、高額療養費の申請方法で整理しています。
負担限度額認定の預貯金の基準:段階ごとの額(単身・夫婦)【2026年8月から】
先に答えを書くと、預貯金などの上限は、単身で500万〜1,000万円、夫婦で1,500万〜2,000万円です。所得が低い段階ほど、上限は高くなります。
対象の人は、所得に応じて第1段階から第3段階②の4つに分かれます。段階ごとに、預貯金などの上限も決まっています。
年金収入には、税金のかからない遺族年金と障害年金も入れて数えます。住民税が非課税になる年金額の目安は、年金暮らしの住民税非課税の目安で、単身・夫婦別に整理しています。
「預貯金など」に入るもの・入らないもの
預貯金の基準は、普通預金だけで判定するわけではありません。市区町村の案内では、次のように分けています。
- 入るもの:普通預金・定期預金、株式・国債・社債などの有価証券、投資信託、金・銀など(積立も含む)、手元の現金(自己申告)
- 差し引くもの:借入金や住宅ローンなどの負債(残高が分かる書類で確認)
- 入らないもの:生命保険、自動車、腕時計・宝石など値段がつけにくい物、絵画・骨董品・家財
ここは市区町村によって書き方が少し違います。迷うものがあれば、申請前に窓口で確かめておくと書き直しが減ります。
預貯金は通帳の写しで確かめられます
預貯金などの額は、申請書に自分で書きます。その裏づけとして、通帳の写しなどを添えます。市区町村は、同意書をもとに、必要に応じて銀行などへ残高を問い合わせます(厚生労働省の資料による)。
写しを取るページは、目黒区の案内では次のとおりです。
- 表紙を1枚めくった見開き(銀行名、支店名、名義、口座番号が分かるページ)
- 直近2か月の出し入れ(年金の入金を含む)と、最終残高が分かるページ
- 定期預金や積立があれば、その明細のページ
写しを取る前に、必ず記帳して最新の状態にします。本人と配偶者の口座は、使っていないものも含めて全部そろえます。書きもれがあると、あとで軽減された額を返すことになり、加算金がかかる場合もあります(下の「申告もれ・うその申告には加算金がある」で説明しています)。
食費・居住費の負担限度額(1日あたり)の表
段階が決まると、1日に払う食費と居住費の上限が決まります。次の表は、特養とショートステイ(短期入所生活介護)の額です。いちばん上の「基準費用額」は、国が示す平均的な費用の額で、第4段階の人の目安になります。
2026年8月1日から、食費の基準費用額が1日100円上がり、1,545円になりました。負担限度額は、第3段階①で食費が1日30円、第3段階②で食費が1日60円・居住費が多くの部屋で1日100円上がりました。第1・第2段階の額と、第3段階①の居住費は変わっていません(厚生労働省の周知資料、岐阜市の案内による)。
1か月でどのくらい違うか
特養の相部屋で比べてみます。軽減がなければ、国の基準額で食費1,545円と居住費915円、1日2,460円です。第2段階なら食費390円と居住費430円で、1日820円になります。30日で7万3,800円が2万4,600円になり、差は4万9,200円です。
ユニット型個室で第3段階②の場合は、1日3,611円が2,890円になります。30日で2万1,630円の差です。実際の請求には、介護サービス費の自己負担や日用品の費用が別に加わります。施設の費用全体の見方は、老人ホーム・介護施設の費用2026で計算例とあわせて紹介しています。ショートステイの1日の費用は、ショートステイの費用で老健と特養に分けて整理しています。
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申請の手順と必要書類チェックリスト
申請先は、親が住民票を置いている市区町村の介護保険の窓口です。名古屋市なら区役所福祉課か支所区民福祉課で、マイナンバーカードを使った電子申請もできます。流れは次の5つです。
- 親と配偶者の住民税が非課税かを確かめます。市区町村から届く住民税の通知や、課税(非課税)証明書で分かります。
- 市区町村のウェブサイトか窓口で、申請書と同意書を手に入れます。
- 申請書に、本人と配偶者の情報、預貯金などの額を書きます。同意書は、市区町村が銀行などに残高を問い合わせることへの同意です。
- 通帳のコピーなどを添えて、窓口・郵送・電子申請のいずれかで出します。家族が代わりに出す場合は、委任状などが要る市区町村もあります(例:横浜市)。
- 認定証が届いたら、施設に見せます。施設に入っている人の認定証を、施設あてに送る市もあります(例:秋田市)。
そろえる書類は、市区町村ごとに少しずつ違います。名古屋市・岡山市・横浜市などの案内に共通するものを、チェックリストにしました。
- □ 介護保険負担限度額認定申請書(本人・配偶者の欄、預貯金などの額)
- □ 同意書(銀行などへの残高の問い合わせへの同意。本人と配偶者)
- □ 預貯金額等の内訳書(名古屋市など、様式がある市区町村のみ)
- □ 本人と配偶者のすべての通帳のコピー(名義・口座番号のページと、最終残高のページ。申請日から2か月以内に記帳したもの)
- □ 定期預金のページのコピー
- □ 株式・投資信託などの残高が分かる書類(持っている場合)
- □ 借入金・住宅ローンの残高が分かる書類(ある場合)
- □ 介護保険の被保険者証(電子申請では表面の画像)
- □ 成年後見人が出す場合は、登記事項証明書など
- □ 出す人の本人確認書類とマイナンバーが分かるもの(郵送は写し)
生活保護を受けている人は、資産の書類が要らない市もあります(例:相模原市)。通帳が多い場合は、窓口での手続きを求める市もあります(名古屋市の電子申請は1人5冊まで)。
有効期間は1年|毎年の更新と、申請が遅れたとき
認定には期限があります。多くの市区町村で、有効期間は8月1日から翌年7月31日までの1年です。年の途中で申請した場合も、終わりは7月31日です。
軽減が使えるのは、申請書を受理した月の1日からです。前の月にはさかのぼれません(相模原市。生活保護の人を除く)。入所が決まったら、入所する月のうちに申請するのが基本です。
更新も、毎年の申請が必要です。案内の時期は市区町村で違います。
- 相模原市:毎年5月下旬に更新用の申請書を送付。期限は例年6月中旬
- 鹿児島市:2026年度分は6月1日から受付。結果は8月20日以降に一律郵送
- 練馬区:有効期間を2026年8月1日〜2027年7月31日と案内
更新の申請を出さないと、8月からは軽減のない額になります。あとから申請しても、適用は申請した月の1日からです。たとえば9月に出すと、8月分は基準額のまま戻りません。
逆に、預貯金が減って基準を下回ったときは、その時点で申請し直せます。横浜市の案内では、再申請した月の1日から使える認定証が出せるとしています。
損しやすい点と、申告で気をつけること
世帯に住民税がかかる人がいると対象外
親が子と同じ住民票の世帯にいて、子に住民税がかかっていると、親が非課税でも対象になりません。世帯を分けると判定が変わることがありますが、配偶者は別の世帯でも判定に入ります。国民健康保険料などへの影響もあるため、世帯分離のやり方と注意点を読んでから考えてください。
施設の種類で使えるかが決まる
有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームは対象外です。食費と部屋代を軽減込みで考えていた場合、施設を選ぶ段階で見通しが変わります。
預金が増えると、次の更新で外れることがある
実家を売ったお金や、相続で受け取ったお金が預金に入ると、基準を超えることがあります。家を売る・貸す前に、施設代の見通しを一度つくり直しておくと慌てずに済みます。
申告もれ・うその申告には加算金がある
介護保険法では、うそなどの不正な方法でこの軽減を受けた場合、市区町村は軽減された額を返してもらうことができます。さらに、その額の2倍以下の加算金を求めることもできます。返す額と合わせると、最大で3倍です。厚生労働省の資料でも、補足給付は不正受給が分かった場合、給付額の返還に加えて加算金を取る仕組みと説明されています。
定期預金や、別の銀行の口座、配偶者の口座を書き忘れることは、珍しくありません。申請書を出す前に、本人と配偶者の通帳を全部並べて確かめましょう。
ほかの軽減もある
社会福祉法人などが運営する施設では、利用者の負担を軽くする独自の制度がある場合があります(行っていない法人もあります)。また、住民税がかかる世帯でも、高齢の夫婦の一方が施設に入り、残った配偶者の暮らしが苦しくなる場合の特例があります(例:秋田市の「特例減額措置」)。条件は市区町村の窓口で確かめてください。
今日できる一歩
- 親の住民税の通知か課税(非課税)証明書で、親と配偶者、同じ世帯の家族が非課税かを確かめる。
- 親と配偶者の通帳を全部集めて記帳し、最終残高を1枚の紙に書き出す。
- 認定証を持っている場合は有効期限を見て、カレンダーの6月に「負担限度額の更新」と書いておく。
よくある質問
Q. 入所する前でも申請できますか?
A. できます。横浜市は、対象の施設やショートステイを利用している人に加えて、利用する予定の人も対象としています。適用は申請した月の1日からなので、入所の月が決まったら早めに出しておくと安心です。
Q. 預貯金が基準を少し超えています。下回ったらどうなりますか?
A. 基準を下回った時点で申請し直せば、その月の1日から認定を受けられる場合があります(横浜市の案内)。施設代の支払いで預金が減っていく場合は、残高を時々見ておきましょう。
Q. 親が認知症で、申請書を書けません。
A. 家族が代わりに出すこともできます。窓口や郵送で出す場合に、委任状などが要る市区町村もあります(例:横浜市)。成年後見人がいれば、後見人が登記事項証明書などを添えて申請します。
Q. 有料老人ホームに入っています。使えますか?
A. 使えません。対象は特養・老健・介護医療院と、ショートステイです。これから施設を選ぶ段階なら、軽減が使えるかどうかも比べる材料になります。
Q. 手元の現金(タンス預金)も書くのですか?
A. 書きます。目黒区の案内では、現金も自己申告で資産に含めるとしています。書き忘れが不正と判断されると加算金の対象になりえるので、分かる範囲で正直に書いておくのが確実です。
Q. 介護保険の負担限度額認定は、預貯金がいくらまでなら受けられますか?
A. 段階で違います。単身なら500万〜1,000万円以下、夫婦なら合計で1,500万〜2,000万円以下です。夫婦の額には、世帯を分けている配偶者の分も入ります。40〜64歳の人は、段階に関係なく1,000万円以下(夫婦2,000万円以下)です。
参考にした公的情報
- 厚生労働省「令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について」(介護保険最新情報Vol.1506、2026年5月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001706483.pdf - e-Gov法令検索「介護保険法」第22条(不正利得の徴収等)
https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123 - 厚生労働省「補足給付の現状について」(介護保険制度における預貯金等の把握等に係る検討の場 第1回 資料2、2026年5月27日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12303500/001704801.pdf - 目黒区「介護保険負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)のご案内」(2026年5月改訂版)
https://www.city.meguro.tokyo.jp/documents/3632/20260601.pdf - 名古屋市「居住費・食費の負担限度額」
https://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/view/kaigo/seido/hutan/gendo.html - 岐阜市「利用者負担段階と負担限度額(令和8年8月から)」
https://www.city.gifu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/827/11riyousyahutanndainnkai202608.pdf - 相模原市「介護保険負担限度額認定申請書」
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shinseisho_menu/kaigohoken/1011554.html - 大和市「負担限度額認定のご案内」(預貯金等の範囲)
https://www.city.yamato.lg.jp/material/files/group/37/R7futangendo_annai.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。対象になるか、どの段階になるかは、世帯や資産の状況で変わります。手続きは申請先の市区町村の最新の案内でご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
