相続手続きは、法的な手続きや財産の分配が関わる複雑なプロセスです。多くの方が直面するのが、司法書士と行政書士のどちらに依頼すべきかという選択です。両者は相続に関する業務を扱いますが、その役割や得意分野、そして費用には違いがあります。この記事では、司法書士と行政書士の役割の違い、実際の費用の相場、それぞれの選び方を解説します。
先に結論:どちらに頼むか・いくらかかるか
不動産があるなら司法書士です。行政書士は相続登記を代理できません。愛知県内の公開料金では、司法書士の相続登記が2万8,000円〜15万4,000円(中心は5万〜8万円)、行政書士の遺産分割協議書の作成が16万5,000円〜。預貯金の解約まで含めてまるごと頼むと、司法書士で7万8,000円〜27万5,000円(18万〜22万円台が中心)です。
愛知県内・岐阜県南部の士業事務所20件の公開料金をもとに当社が集計(2026年9月時点・税込/税別は事務所により異なる)。
1. 司法書士と行政書士の基本的な役割
1-1. 司法書士の役割
司法書士は、法務に関する専門家であり、主に不動産登記や商業登記、裁判所への書類提出を担当します。相続手続きでは、相続登記や遺産分割協議書の作成を行い、相続人が法的に正しい形で遺産を分配できるようにサポートします。ただし、相続人間で争いがある場合の交渉や代理は弁護士の領域です。司法書士が担うのは、話し合いがまとまった内容を法的に有効な書面に整え、登記まで通す部分です。
例えば、不動産が相続財産に含まれる場合、その不動産の名義変更や相続登記を行う必要があります。これらの手続きには、法務局への申請や書類の準備が必要となるため、専門知識が求められます。司法書士はこれらのプロセスをスムーズに進めるための専門家です。
1-2. 行政書士の役割
一方、行政書士は、主に官公庁に提出する書類の作成や、許認可申請などの業務を担当します。相続手続きにおいては、相続人調査や遺産分割協議書の作成支援、役所への書類提出を代行します。行政書士は、書類作成や役所への手続きが得意で、比較的シンプルな相続案件や、特に不動産が関わらない手続きで力を発揮します。
例えば、相続人が多数いる場合、その全員の同意を得るための遺産分割協議書の作成や、相続人の関係を示す戸籍謄本などの書類を整えることが必要です。行政書士はこれらの書類を適切に準備し、提出することにより、相続手続きを円滑に進めるサポートを行います。
2. 司法書士と行政書士の業務範囲の違い
2-1. 相続手続きでの対応範囲
司法書士と行政書士の最大の違いは、その業務範囲にあります。司法書士は、裁判所や法務局に関連する手続きを代行できるため、相続手続きでは相続登記や遺産分割協議書の法的な整備を行います。一方、行政書士は、行政機関への書類提出や、相続人調査、遺産分割協議書の作成支援を主に担当します。不動産が絡む相続手続きでは、司法書士に依頼することが一般的ですが、書類作成や申請に関する部分は行政書士に依頼することも可能です。
2-2. 不動産相続における違い
不動産が絡む相続手続きでは、司法書士が強みを発揮します。不動産の名義変更や登記手続きは法務局を通じて行われ、司法書士がその手続きを代行します。一方、行政書士は不動産の名義変更や登記手続きを行うことができないため、こうした場面では司法書士に依頼するのが適切です。逆に、相続財産に不動産が含まれていない場合や、書類の提出のみが必要な場合は、行政書士でも対応可能です。
たとえば、農地や賃貸不動産を相続した場合、その所有権の移転手続きを法務局に申請する必要があります。これには法務局への登記申請が必要で、司法書士が代行できます。相続税の申告が必要な場合は、登記とは別に税理士へ依頼します。一方、単純な預貯金や株式の名義変更であれば、行政書士のサポートでも十分に対応可能です。
⚠️ 行政書士は不動産の相続登記に対応できない
不動産の名義変更や登記手続きは法務局を通じて行われ、行政書士は代行できません。相続財産に不動産が含まれる場合は、司法書士への依頼が必要です。
3. 司法書士と行政書士の費用比較
3-1. 費用の相場(2026年9月・愛知県内の公開料金を集計)
司法書士も行政書士も報酬は自由設定で、統一基準はありません。そこで、愛知県内・岐阜県南部の事務所が公開している料金表を当社で集計し、同じ業務ごとに横に並べました。
愛知県内・岐阜県南部の司法書士事務所17件と、愛知県内で相続業務の料金を公開している行政書士事務所3件の公開料金をもとに当社が集計(2026年9月時点・税込/税別は事務所により異なる)。行政書士は単独事務所の料金非公開が多く、比較できた件数に差があります。事務所ごとに条件が違うため、必ず書面の見積もりで確認してください。
うちはどちらでいくらか、を当てはめるときは次の3つを数えてください。①不動産の件数(1件でもあれば司法書士が必要。件数が増えるごとに5万〜6万円)、②金融機関の口座数(1行ごとに加算する事務所があります)、③戸籍の通数(本籍を何度も移していると増えます)。
たとえば不動産1件・預貯金2行・相続人3人という一般的なケースなら、司法書士の相続登記5万〜8万円に登録免許税と戸籍の実費が乗って、10万円台に収まることが多い形です。不動産がなく預貯金だけなら、行政書士の遺産分割協議書16万5,000円という選択肢と、司法書士に1行3万3,000円で解約だけ頼む選択肢を比べることになります。
金額の下だけを見て決めないでください。同じ「20万円」でも、相続登記が入っているかどうかで中身がまったく違います。見積書は範囲(登記・戸籍・金融機関の数)をそろえて横に並べてください。
3-2. 費用を抑えるための選び方
相続手続きでのコストを抑えるためには、司法書士と行政書士を状況に応じて使い分けることが重要です。不動産登記などの専門的な法的手続きは司法書士に依頼し、それ以外の書類作成や役所への申請は行政書士に依頼することで、費用を抑えることができます。また、事前に見積もりを取得し、依頼内容ごとの費用を確認することで、無駄なコストを削減することができます。
また、相続手続きが予想以上に複雑になる場合には、初めから司法書士に一括して依頼する方が、結果的に費用を抑えることができる場合もあります。これに対し、シンプルな手続きであれば、行政書士に依頼することでコストパフォーマンスを最大化できます。
今日の一歩:3事務所から、横に並べられる見積もりを取る
「見積もりを取って比べる」で止まってしまうのは、事務所ごとに前提がそろっていないからです。先に数字を手元にそろえ、同じ一文を各事務所に送るだけで、返ってきた金額をそのまま並べられます。
1. 電話の前に、5つの数字を数える
- 不動産の件数と、所在する市区町村(毎年春に届く固定資産税の納税通知書に同封された課税明細書で数えられます)
- 固定資産税評価額の合計(同じ明細書に載っています。登録免許税は評価額×0.4%なので、この数字が分かれば実費も自分で計算できます)
- 金融機関の数と口座の数
- 相続人の人数と、そのうち何人が遠方か
- 故人が本籍を移した回数(分かる範囲で。戸籍の通数が変わります)
2. 各事務所に、同じ一文を送る
「相続人◯人、不動産◯件(◯◯市)、固定資産税評価額の合計は約◯◯万円、金融機関は◯行です。相続登記・預貯金の解約・戸籍の収集まで含めた金額を、書面のお見積もりでいただけますか。」——電話でもメールでも、この一文で足ります。
3. 届いた見積書は、この4か所だけ見る
- 相続登記が含まれているか(行政書士は登記を代理できないため、行政書士事務所の見積もりには入りません。ここを見落とすと同じ「20万円」の中身が別物になります)
- 不動産が2件以上あるときの加算額
- 金融機関1行あたりの加算額
- 登録免許税と戸籍の交付手数料が「実費」として別立てか、報酬に含まれているか
見積もりが取りにくい、返事が来ないときの次の一手
まず無料の窓口で当たりをつける方法があります。愛知県司法書士会・愛知県行政書士会の相談センター、お住まいの市区町村の無料法律相談(予約制。時間と回数は自治体により異なります)、法テラス(収入・資産の要件を満たす場合、同一の問題につき無料相談3回まで)。日本司法書士会連合会・日本行政書士会連合会のサイトでは会員を検索できます。
比べている間に来てしまう期限
相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月、相続登記は3年(2024年4月から義務化。施行前にすでに発生していた相続は2027年3月31日まで)。見積もりを取り直しているうちに3か月が過ぎるのが、この段階でいちばん起きやすい事故です。放棄を検討している可能性が少しでもあるなら、比較より先にその判断を済ませてください。
4. 相続手続きで司法書士と行政書士のどちらを選ぶべきか
4-1. ケーススタディ:簡単な相続手続き
シンプルな相続手続きの場合、たとえば、預貯金の相続や少額の財産のみを扱う場合は、行政書士に依頼することが適しています。行政書士は、書類作成や役所への申請手続きを代行できるため、費用を抑えつつ手続きをスムーズに進めることができます。また、相続税の申告が不要な場合も、行政書士が対応することで手続きがシンプルになります。
具体例として、相続財産が現金や預貯金だけの場合、その名義変更や相続手続きは比較的簡単であり、行政書士に依頼することで効率的に手続きを進めることが可能です。この場合、手続きの複雑さが少ないため、司法書士に依頼する必要はなく、行政書士で十分です。
4-2. ケーススタディ:複雑な相続手続き
一方、不動産が関わる相続手続きでは、司法書士に依頼することになります。登記申請を代行できるのは司法書士だけだからです。なお、相続人間で意見が対立している場合は、交渉や調停の代理ができる弁護士の領域で、司法書士・行政書士では対応できません。争いがなく手続きの量が多いケースでは、司法書士と行政書士を併用し、登記と書類収集を分担するのが効率的です。
たとえば相続財産に複数の不動産が含まれているなら、司法書士による相続登記が必要です。遺言書の内容をめぐって相続人が争っているなら弁護士、相続税の申告が必要なら税理士と、論点ごとに担当が分かれます。「不動産の名義変更は司法書士/争いは弁護士/申告は税理士」で切り分けると、依頼先を間違えずに済みます。
司法書士と行政書士、どちらに依頼する?
司法書士が向くケース
不動産の相続登記が必要な場合や、手続きの量が多く法務局・裁判所への提出が絡む場合(相続人間の争いは弁護士の領域)
行政書士が向くケース
相続財産が現金・預貯金のみなど不動産を含まないシンプルな相続や、書類作成・役所への申請が中心の場合
▶ 複雑な案件では両者を併用し、得意分野ごとに役割分担するのも効果的です。
5. 司法書士と行政書士の併用方法
5-1. 役割分担の考え方
司法書士と行政書士を併用する場合、両者の得意分野を活かした役割分担が重要です。たとえば、不動産登記や裁判所への書類提出は司法書士が担当し、その他の書類作成や行政機関への申請は行政書士が担当することで、効率的に手続きを進めることができます。このように、各専門家の強みを活かしながら相続手続きを進めることで、時間と費用の節約が可能です。
併用する場合の具体的な流れとしては、まず相続全体のスケジュールを把握し、それに基づいて各専門家に依頼する手続きを分担することが重要です。また、事前に司法書士と行政書士との間で役割分担を明確にしておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。
5-2. 併用時の手続きの流れ
司法書士と行政書士を併用する際の手続きの流れを整理しておくと、手続きがスムーズに進みます。まず、全体の手続きを司法書士に依頼し、特定の書類作成や申請業務のみを行政書士に任せることで、手続きが重複することなく効率化できます。また、事前に両者の連携を調整しておくことで、手続きがスムーズに進行し、トラブルを防ぐことができます。
たとえば、相続人全員の合意が得られている場合、司法書士が遺産分割協議書の作成を行い、その後の名義変更手続きを担当します。その間に、行政書士が役所への必要な申請を進めることで、手続きが並行して進むため、全体の手続きが早期に完了します。
6. まとめ:相続手続きでの最適な選択をするために
6-1. どちらに依頼すべきかの総合判断
相続手続きにおいて、司法書士と行政書士のどちらに依頼すべきかは、相続の内容や手続きの複雑さによって異なります。不動産登記や法的手続きが必要な場合は司法書士に依頼し、書類作成や役所への申請が中心であれば行政書士に依頼することが適しています。また、複雑な案件では、両者を併用することで最適な結果を得られることがあります。
最適な選択をするためには、まず相続手続きの全体像を把握し、それに基づいてどの専門家にどの部分を依頼するかを決定することが重要です。また、必要に応じて初回相談を受けることで、専門家との信頼関係を築き、スムーズな手続きを進めることができます。
6-2. 自分に合った専門家の見極め方
最適な専門家を選ぶためには、自分の相続手続きがどの程度の複雑さを持つかを判断し、それに応じた専門家を選ぶことが重要です。まずは、相続に関する初回相談を行い、司法書士と行政書士のどちらが自分のケースに適しているかを確認しましょう。また、専門家とのコミュニケーションがスムーズに取れるかどうかも重要なポイントです。
専門家を選ぶ際には、過去の実績や得意分野を確認し、自分の相続手続きに適したサポートが受けられるかを見極めることが大切です。信頼できる専門家と協力しながら相続手続きを進めることで、トラブルを避け、スムーズに手続きを完了させることができます。
30秒セルフチェック:そもそも専門家に頼むべき?どの専門家?
次のうち、当てはまるものはいくつありますか。数えてから、下の「結果の読み方」をご覧ください。
結果の読み方(当てはまった数)
争いや不動産・相続税がなければ、専門家に依頼しなくても手続きを完了できるケースが多くあります。無理にご相談いただく必要はありません。まずは記事内の手順やチェックリストで進めてみてください。そのうえで、判断に迷う点が1つでもあるようでしたら、30分の無料相談でご一緒に確認できます。
ご自身で進められる部分と、専門家に任せた方がよい部分が混在しています。下の「どの専門家に頼む?」で当てはまる領域を確認し、判断に迷う点だけ30分の無料相談で確認することもできます。
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どの専門家に頼む?(当てはまった項目から)
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