相続の見積もりを受け取ると「相続手続き一式 10万〜30万円」「遺言書作成サポート 8万〜15万円」といった金額が並びます。ただ、その金額のうちどこまでが「動かせないお金」で、どこからが「交渉できるお金」なのかは、見積書を眺めているだけではなかなかわかりません。
結論から言うと、相続手続きの費用は2種類に分かれます。ひとつは登録免許税・収入印紙・証明書の発行手数料・公証人手数料など、国や自治体に必ず支払う「実費」。もうひとつは、司法書士・行政書士・税理士・弁護士に手続きを依頼したときの「専門家報酬」です。実費は誰が手続きしても(自分でやっても)同じ金額ですが、報酬は依頼先ごとに設定が異なります。この記事では、愛知県内の相続手続きで発生する主な実費を、公的な料金表にもとづいて2026年時点の実額で一覧にしました。
見積書は「実費」と「報酬」を分けて確認するのが基本。本記事は実費側の実額のみを扱います(2026年9月時点)。
結論|相続の費用=「実費」+「専門家報酬」
実費(登録免許税・収入印紙・証明書手数料・公証人手数料など)は法律や条例で金額が決まっており、誰が手続きしても同じ金額です。一方、専門家報酬は依頼先によって異なり、交渉・比較の対象になる部分です。見積もりを受け取ったら、まず「実費」と「報酬」を分けて確認すると、金額の中身に納得しやすくなります。
見積書の見分け方はシンプルです。「登録免許税」「収入印紙代」「証明書取得費用」「公証人手数料」のように支払先が国や役所である項目は実費。「相続登記手続き代行」「遺産整理業務」「戸籍収集一式」のように作業名でまとめて書かれている項目は、多くの場合、報酬(または報酬+実費の合算)です。内訳がわからないときは、依頼前に「実費と報酬を分けて教えてください」と一言添えるだけで、比較の土台がそろいます。
相続登記(不動産の名義変更)の実費|登録免許税の計算
2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内の登記が必要になりました。相続登記でかかる実費の中心は登録免許税で、計算式は「固定資産税評価額 × 0.4%」です。評価額は毎年春に届く固定資産税の納税通知書(課税明細書)で確認できます。
2026年9月時点。評価額は1,000円未満切り捨て、税額は100円未満切り捨て。土地の免税措置は2027年3月31日までの申請分が対象(建物は対象外)。複数の不動産は評価額を合算して計算。
登録免許税のほかに、登記前後で取得する登記事項証明書の手数料がかかります。窓口とオンライン請求で金額が異なるため、通数が多いときはオンライン請求が少しだけ安く済みます。
※登録免許税は法務局の税率表、証明書手数料は法務局の手数料一覧にもとづく実費です(2026年9月時点)。司法書士に登記を依頼する場合、これに加えて別途「報酬」がかかります。
親名義の不動産が県外にもあるかもしれない、という場合は、2026年2月に始まった所有不動産記録証明制度(1通1,600円で全国の名義不動産を一覧化)を使うと、登記漏れを防げます。また、戸籍の原本を法務局から返してもらうための相続関係説明図のひな形と書き方も、自分で登記する方には役立つ資料です。
公正証書遺言の公証人手数料|財産の額で段階的に決まる
公正証書遺言を作成する際は、公証役場に公証人手数料を支払います。これは公証人手数料令にもとづき、遺言で誰にいくら財産を渡すかという「目的の価額」に応じて段階的に決まる実費です。相続人・受遺者が複数いる場合は、受け取る人ごとに手数料を計算して合算します。
受け取る人1人あたりの財産額 → 公証人手数料
公証人手数料令(2025年10月1日施行の改正後)にもとづく代表的な区分。50万円以下は3,000円、5,000万円超1億円以下は49,000円で、それ以上はさらに上位の区分があります。2026年9月時点、最新額は公証役場へ要確認。
上の段階表に加えて、遺言公正証書には「遺言加算」として、目的財産の合計額が1億円以下のときに13,000円が加算されます。たとえば妻に2,000万円・長男に1,000万円を渡す遺言なら、26,000円+20,000円+遺言加算13,000円=59,000円が手数料の目安です。公証人が病院や自宅へ出張する場合は、手数料が5割増しになるほか、日当と交通費がかかります。
公証役場は愛知県内に11か所あります。管轄の縛りはなく、どの公証役場でも作成できるため、通いやすい場所を選んで構いません。所在地と連絡先は愛知県の公証役場一覧(11役場の住所・電話・アクセス)、当日までに用意するものは公正証書遺言の必要書類と作成当日の流れにまとめています。
家庭裁判所の手続きにかかる実費|相続放棄・成年後見
相続放棄や成年後見の申立てなど、家庭裁判所で行う手続きにも、収入印紙や郵便切手などの実費が発生します。相続放棄は申述する人1人ごとに印紙800円が必要で、相続人3人が放棄するなら2,400円+切手代です。切手の金額と枚数の内訳は裁判所ごとに指定があるため、申立て前に管轄の家庭裁判所の案内を確認してください。
緑=1,000円未満、黄=数千円規模、赤=高額になりうる項目。切手の内訳は家庭裁判所により異なる。2026年9月時点。
相続放棄には「相続を知った日から3か月」という期限があり、期限を過ぎると原則として放棄できません。実費そのものは数千円で済む手続きですが、期限が迫っている、借金の全容がわからない、といった状況では、報酬を払ってでも専門家に急いでもらう価値がある場面です。
戸籍謄本・住民票・印鑑証明書の手数料
相続手続きでは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集める必要があり、本籍地を移していると複数の市区町村から取り寄せることになります。古い戸籍ほど1通あたりの手数料が高く、10通前後になる家庭も珍しくありません。
戸籍・除籍の手数料は全国一律(戸籍法の手数料令)。附票・住民票・印鑑証明書は自治体により金額が異なる。郵送請求は別途、定額小為替の手数料と返信用切手が必要。2026年9月時点。
実費そのものを減らせる制度が2つあります
戸籍謄本は、金融機関や法務局に提出するたびに原本が必要になり、通数がふくらみがちです。次の2つを使うと、集める通数と交通費・郵送費を抑えられます。
法定相続情報証明制度:集めた戸籍一式と相続関係の一覧図を法務局に提出すると、法務局が認証した「法定相続情報一覧図の写し」を無料で必要な通数交付してもらえます。以後は戸籍の束の代わりにこの1枚を各金融機関へ提出でき、同時並行で手続きを進められます。
戸籍の広域交付:2024年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも、まとめて戸籍謄本を請求できるようになりました。ただし請求できるのは本人・配偶者・直系の親族に限られ、窓口での請求のみ(郵送・代理人は不可)、コンピュータ化されていない古い戸籍は対象外です。
2026年9月時点。取扱いの詳細は法務局・市区町村の窓口でご確認ください。
自分でやれば実費だけで済む手続き/専門家に頼む価値が高い手続き
実費の全体像がつかめると、次の問いは「どの手続きを自分でやり、どれを報酬を払って任せるか」です。目安は、書類を集めて所定の様式に書けば終わる手続きは実費だけで完了しやすく、期限・対立・判断が絡む手続きは報酬を払う価値が高い、という切り分けです。
- 戸籍謄本の収集(広域交付で1か所にまとめる)
- 法定相続情報一覧図の作成・申出(無料)
- 相続人が1〜2人・不動産1件の相続登記
- 相続放棄の申述(期限に余裕があり、財産が単純)
- 相続人申告登記(登録免許税0円)
- 公正証書遺言の公証役場との打ち合わせ
- 相続放棄の期限(3か月)が迫っている
- 相続人が多い・連絡が取れない人がいる・意見が割れている
- 不動産が複数、または数世代前の名義のまま(数次相続)
- 相続税の申告が必要(基礎控除を超えそう)
- 認知症の相続人がいて後見の申立てが要る
- 代償金や不動産の分け方で条項の書き方に迷う
目安であり、家庭の状況により異なります。「自分でやる」場合も実費(登録免許税・証明書代など)は同額かかります。
右側に当てはまる項目があっても、すべてを任せる必要はありません。たとえば戸籍収集と法定相続情報一覧図は自分で済ませ、登記申請だけを依頼すれば、報酬の対象範囲が狭まります。不動産を1人が継いで他の相続人に現金を払う「代償分割」では、代償分割の遺産分割協議書の書き方(贈与税にならない条項例)のように、書き方ひとつで税負担が変わる場面があるため、協議書の条項だけ専門家に確認してもらう、という使い方も現実的です。
実務上のポイント
実費は「不動産の数」「戸籍の通数」「財産の価額」に応じて積み上がっていくため、同じ「相続登記」でも家庭によって実費の総額は変わります。専門家に見積もりを依頼するときは、「実費はいくらで、報酬はいくらか」を分けて提示してもらうと、他の事務所と比較しやすくなります。専門家報酬は事務所ごとに設定が異なるため、複数の見積もりを取って比較・交渉する余地がある部分です。
今日の一歩:見積書を前にした日に、この順で確かめる
①登録免許税だけは、自分で計算して答え合わせに使えます。固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書の「価格(評価額)」欄を、名義変更する不動産のぶんだけ合計します。合計額の1,000円未満を切り捨て、0.4%を掛け、出た税額の100円未満を切り捨てた金額が登録免許税です。見積書の実費欄がこれと大きく違うときは、物件の数え漏れか、逆に対象外の物件が混じっている可能性があります(私道など納税通知書に載らない土地があるとずれます。FAQで後述します)。
②見積もりを頼むときは、条件をそろえた一文を送ります。「実費と報酬を分けた内訳でお願いします。対象は不動産◯件、相続人◯名、戸籍は現在◯通が手元にあります」。この一文があるだけで、届いた見積書どうしを同じ土俵で並べられます。
③報酬側で確かめるのは3点です。戸籍収集は何通まで込みで、超過分は1通いくらか。不動産が1件増えるといくら加算されるか。登記以外(預貯金の解約、遺産分割協議書の作成)は含まれるのか別料金か。この3つが書面に書かれていれば、あとから金額が膨らむことはほとんどありません。
④金額に納得できないときは、同じ文面をもう1〜2か所に送ってください。条件をそろえてあるので、そのまま比較できます。無料相談の枠は「どこまで頼むか」を決めるために使い、依頼するかどうかは書面の見積もりを見てから決めて構いません。
期限の目安:相続放棄は3か月、相続税の申告・納税は10か月、相続登記は3年です。見積もりの比較にじっくり時間をかけられるのは登記だけで、放棄と申告は待ってくれません。期限が近い手続きから先に決めてください。
専門家に依頼しなくても進められることが多いケース
次のような場合は、実費だけで自分で手続きを終えられる方も少なくありません。
- 相続人が1〜2人で、話し合いによる対立がない
- 不動産の数が少なく、名義変更の対象が限られている
- 金融機関の口座数が少ない、または残高が少額
- 戸籍の収集範囲が本籍地の移動が少なく限定的
セルフチェック|自分で進められそうか、3段階で確認
当てはまるものを確認してください
よくある質問
実費と専門家報酬は、見積書のどこで見分けられますか?
見積書に「登録免許税」「収入印紙代」「証明書取得費用」「公証人手数料」などと個別に記載されていれば実費です。「相続登記手続き代行」「遺産整理業務」のようにまとめて書かれている項目は、多くの場合、報酬(または報酬+実費の合算)にあたります。内訳が不明な場合は、依頼前に「実費と報酬を分けて教えてください」と確認するとよいでしょう。
実費は誰に依頼しても同じ金額ですか?
はい。登録免許税や収入印紙、証明書の発行手数料、公証人手数料は法律・条例・手数料令で金額が決まっているため、司法書士・行政書士のどちらに依頼しても、あるいは自分で手続きしても同じ金額がかかります。差が出るのは、その手続きを代行する専門家報酬の部分です。
登録免許税は、自分で計算した額と法務局の額が違うことがありますか?
あります。複数の不動産を同時に登記する場合は評価額を合算してから0.4%を掛けるため、1件ずつ計算して足した額と端数処理の分だけずれることがあります。また、私道の持分など納税通知書に載っていない不動産(非課税地)は、市区町村の評価証明書や近傍地の価格をもとに課税標準を求めるため、事前に法務局へ確認するのが確実です。
複数の見積もりを取るとき、何を比較すればよいですか?
まず実費部分が同じ前提(不動産の数・戸籍の通数など)で計算されているかを確認したうえで、報酬部分の金額と、報酬に含まれる業務範囲(戸籍収集は含むか、遺産分割協議書の作成は含むかなど)を比べるのがポイントです。金額だけでなく、対応してくれる範囲もあわせて確認すると比較しやすくなります。
この記事の実費の金額は、今後変わりますか?
登録免許税の免税措置には適用期限があり、法改正により税率・手数料が改定されることもあります。公証人手数料も2025年10月に改定されたばかりです。本記事は2026年9月時点の公的な料金表にもとづいていますが、実際に手続きを行う際は、法務局・家庭裁判所・公証役場・市区町村の最新の案内でご確認ください。
まとめ|まずは実費を知ることが、費用比較の第一歩
相続の費用は「実費」と「専門家報酬」に分けて考えると、見積もりの中身が理解しやすくなります。実費はどこに依頼しても変わらない金額なので、まずこの記事の一覧で目安を把握し、そのうえで報酬部分を複数の専門家で比較・検討することをおすすめします。お住まいの市区町村ごとの相談先・管轄機関は、愛知県の相続相談先マップ(市区町村別ガイド)から探せます。
ご自身の状況で実費・報酬がどの程度になりそうか整理したい方は、無料の生前対策診断や、30分の無料相談もご利用いただけます。
まずはご自身の状況を整理したい方へ
当社は手続きそのものをお受けしていないため、「実費だけで自分で進められそうです」というご案内をしても困りません。ご相談は無料で行っています。実際の手続きをご依頼になる場合は、提携先の専門家が有償で承ります。お電話は 052-766-5650(相談中は折り返しになります)。
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※本記事は、法務局・裁判所・日本公証人連合会・各市区町村が公表する料金表等にもとづき、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載した実費の金額は作成時点(2026年9月)のものであり、法改正・条例改正・特例の適用期限(登録免許税の免税措置は2027年3月31日までの申請分が対象)により変わることがあります。個別の金額・適用条件は、手続き先の機関に直接ご確認ください。本記事の内容は法的助言ではありません。専門家報酬は事務所ごとに設定が異なるため、本記事では特定の事務所・専門家の報酬額の比較は行っていません。
