入院の手続きを終えて家に戻り、母の保険証券を探し出しました。給付金の請求書に目を通すと、署名欄には「被保険者ご本人の自署」とある。ベッドの母は、名前を書くどころか、自分が保険に入っていたことも思い出せません。銀行の口座が凍結される話は調べて知っていたのに、保険の手続きまで止まるとは考えていませんでした。
✅ この記事の結論(30秒まとめ)
- 止まるのは銀行口座だけではありません。本人の意思表示を前提にした保険の手続きも進めにくくなります。
- 指定代理請求特約は、本人が請求の意思表示ができない状態のときに、指定された家族が入院給付金などを「請求」するための仕組みです。
- 一方、解約や払戻しの請求は「契約者の権利」にあたるため、この特約では代理できないのが原則とされています。ここを任せるには契約者代理人特約など別の仕組みが必要になる場合があります。
- 取扱いの有無・範囲・指定できる人の要件は保険会社ごとに異なります。答えはご自身の契約の約款の中にしかありません。
- 確認は保険証券 → コールセンター → 指定手続き → 家族への共有の4段階。電話での聞き方まで載せました。
- 指定も変更も、判断能力があるうちにしかできません。
調べていて分かりにくいのは、「認知症になると保険はどうなるのか」という問いに、ひとつの答えがないことです。入院給付金は家族が請求できたという話も、解約はできなかったという話も出てきます。どちらも本当で、違うのは保険会社と、付いている特約です。
本当に困るのは、知識が足りないことではありません。自分の契約がどちらなのかを確かめる方法が分からないことです。だから、この記事では、認知症で止まるものの一覧と、指定代理請求特約でできることの範囲、そして自分の契約について保険会社に何と聞けばよいのかという言い方まで、分かるようにしました。
認知症で「止まるもの」を一覧で確認する ─ 保険だけ扱いが違う理由
判断能力が低下した後に何が止まるのかを、先に一覧で押さえます。保険の欄だけが2行に分かれているところが要点です。
保険だけ扱いが違うのは、保険が「契約」だからです。本人が請求できない状態になったときに代わって手続きする人を、あらかじめ登録しておく仕組みが商品側に用意されていることがあります。ただしその仕組みは「請求」と「契約者の権利」の2つに分かれており、混ぜて理解すると想定が外れます。
なお、認知症で銀行口座が凍結される仕組みと、凍結までに起きることの全体像は、認知症による口座凍結とは? で詳しく解説しています。
指定代理請求特約でできること・できないこと
指定代理請求特約は、被保険者本人が病気やけがで請求の意思表示ができない状態のときに、あらかじめ指定した「代理請求人」が本人に代わって請求できるようにする特約です。認知症だけの仕組みではなく、本人が手続きできない状態全般を想定しています。
代理請求の対象になりやすいもの(例)
✓ 入院給付金・手術給付金
✓ 高度障害保険金
✓ リビングニーズ特約の保険金
✓ 特定疾病保険金など、被保険者本人が受け取るお金
「請求の代理」には含まれないのが原則とされるもの
✕ 解約・払戻しの請求
✕ 契約者貸付の申込み
✕ 受取人の変更
✕ 払込方法や引落口座の変更など、契約内容の変更
線引きは「それが誰の権利か」
給付金の請求は、被保険者が受け取るお金を請求する手続きです。解約・貸付・受取人の変更は、契約者としての権利を行使する手続きにあたります。指定代理請求特約は前者のための仕組みで、後者まで含むかは別の話です。上の分類も一般的な傾向であり、対象は保険会社ごとに定められています。
つまずきやすいのは、この順番です。入院給付金は代理請求人が請求できて助かった。ところが施設入居の費用が足りず、保険を解約して充てようとしたところで止まる。「請求はできたのに、解約は別の手続きが必要だと言われた」という状態は、権利の持ち主が違うために起こります。
同じことは定期預金でも起きます。満期のお金を当てにしていたのに動かせないという事態については、定期預金は認知症になると解約できない? で具体的に整理しています。
解約や払戻しまで頼みたい場合 ─ 契約者代理人特約という別の仕組み
契約者としての手続きを家族に任せる仕組みとして、契約者代理人特約と呼ばれるものがあります。ただし名称は会社ごとに異なり、そもそも取扱いがない場合もあります。電話では特約名で聞くより、「契約者としての手続きを家族が代わってできる仕組みはありますか」とやりたいことで聞く方が通じます。
確認すべき項目は5つです。
この記事で「できます」と書かない理由
本記事では、特定の特約で解約まで代理できるとも、できないとも書きません。取扱いの有無・範囲・条件が会社ごとに異なり、正確な答えはご自身の契約の約款と保険会社の窓口にしかないからです。ネット上の「できた」「できなかった」はどちらも事実で、そのまま自分の契約には当てはめられません。
保険の仕組みで足りない部分を、契約で先に組み立てておく方法もあります。実家の売却まで含めて託しておく形については、家族信託で親の資産凍結を防ぐ で解説しています。
いま自分の契約を確認する4ステップ
ここからは手を動かす部分です。1つ目はその日のうちに終わります。
保険証券を出し、「特約」の欄を見る
保険証券か、毎年届く「契約内容のお知らせ」に特約の一覧が載っています。「指定代理請求」「代理請求人」の語があるか、代理請求人の氏名があるかを確認します。証券がないときは、通帳の引き落とし履歴と郵便物の差出人から会社を特定します。
コールセンターに3つ聞く
証券番号を手元に置いて電話します。そのまま読める形にすると、次のとおりです。
「①いま付いている特約のうち、家族が代わって請求できるものはありますか ②解約や払戻しの請求まで代わってできる仕組みはありますか ③その手続きは、いま申し込めますか」
本人以外からの照会では答えてもらえる範囲が限られることがあります。本人に電話してもらい、横で一緒に聞くのが確実です。
指定できる人を確認して、手続きを出す
指定したい人が範囲に入るかを確認し、書類を取り寄せて提出します。受付は契約者本人の意思表示が前提ですから、この電話の流れで書類まで頼んでしまうのが現実的です。
家族に共有して、はじめて機能する
いざというときに動く人が知らなければ、指定は使われません。「保険会社名/証券番号/代理請求人/証券の保管場所」の4項目をメモ1枚にまとめ、家族が見つけられる場所に置きます。
この「元気なうちに登録しておく」という考え方は、保険だけのものではありません。銀行にも同じ性質の手続きがあります。詳しくは 銀行の代理人カード・代理人指名手続きとは? をご覧ください。
保険だけでは埋まらない部分 ─ 6つの選択肢を並べて見る
保険の代理請求は、対象が保険に限られます。財産全体の管理を保険で代替することはできません。止まると困る場面から順に埋めるために、選択肢を並べます。
下の3行は準備のコストが高い代わりに射程が広く、上の3行は費用がほとんどかからず今日から手が付く代わりに、動かせる範囲が限られます。当面の支払いは上の3行、実家や資産の管理は下の行、と役割を分けるのが実際的です。保険の代理請求を用意しても、後見や信託が不要になるわけではありません。
成年後見は原則として本人が亡くなるまで続き、後見人の報酬も継続します。仮に月2万円なら10年で約240万円です。それでも、判断能力が低下した後に残る選択肢はこれだけになる場合があります。制度の使いにくさと費用の内訳は 成年後見制度の費用・デメリットと「使いにくさ」 に、判断能力があるうちに選べる側の手続きは 任意後見契約を公証役場で作る完全ガイド にまとめています。
【当窓口の相談から】保険証券が見つからないとき
「保険に入っていたはずだが、どの会社かも分からない」というご相談は実際にあります。この場合、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」が手がかりになることがあります。亡くなったときだけでなく、認知判断能力の低下で契約内容が分からなくなった場合も対象として案内されている制度です。ただし利用できる人の範囲や所定の利用料があり、分かるのは契約の有無までです。(当窓口の相談をもとに再構成した典型例です)
こういう方は、いま保険の特約を確認しなくても大丈夫です
次のいずれかに当てはまる方は、この記事の手続きに時間を使う必要はありません。①保険が掛け捨てで、給付金の請求も当面見込まれない方 ②すでに任意後見契約や家族信託を結び、保険の扱いもその中で整理できている方 ③生活費と医療費が年金の範囲で収まっている方。優先度が高いのは、保険よりも日常の入出金を止めないための銀行の代理人届です。判断に迷う場合は、30分の整理面談(無料)で確認できます。
30秒セルフチェック ─ いま動くべきかを確かめる
当てはまる項目の数を数えてください
1. 保険会社名と保険証券の保管場所を、家族の誰も把握していない
2. 代理請求人を指定しているかどうか分からない
3. 入院や施設入居の費用を、いずれ保険から出すことを見込んでいる
4. 契約者本人に、物忘れや同じ話の繰り返しが増えてきている
5. 保険以外に、預貯金や実家を動かす必要が出てきそう
0〜1個:ご自身で進められる可能性が高い状況です。証券の確認と電話1本で足ります。
2〜3個:確認の順番を決めた方が早い状況です。下の診断か、そのまま相談へ。
4個以上:保険だけでは足りず、任意後見や家族信託を含めて全体で考えた方が早い状況です。
上のチェックで該当が0〜1個だった方は、ご自身で進められる可能性が高い状況です。無理にご相談いただく必要はありません。そのうえで、判断に迷う点が1つでもあるようでしたら、30分の整理面談(無料)でご一緒に確認できます。
よくある質問
もう親の判断能力が落ちています。いまからでも指定できますか?
指定は契約者本人の意思表示が前提になるため、判断能力が低下した後は難しくなるのが一般的です。ただし程度は一律ではなく、確認の方法も会社ごとに異なります。まずは現状を伝えて、いま使える手続きがあるかを聞いてください。「もう遅い」と決める前に、契約の内容だけは確認する価値があります。
親はまだ元気です。いま話すのは早すぎませんか?
早すぎるのではなく、「認知症になったら」という切り出し方が難しいだけかもしれません。この手続きは、入院したときに代わりに請求できる人を決めておく話として説明できます。対象は認知症に限らず、本人が請求できない状態全般です。判断能力があるうちにしかできないので、早く済ませる不利益は実質的にありません。
親に言い出しにくいのですが、どう伝えればいいですか?
財産の話から入らず、「入院したときに保険の請求で困らないようにしたい」の一点に絞ると通りやすくなります。保険証券を一緒に探すところから始め、「代わりに請求できる人を決めておける仕組みがあるらしい」と提案する形です。電話を親自身にかけてもらえば、契約内容も正確に確認できます。
代理請求人を指定すると、保険金の受取人が変わるのですか?
代理請求人は「請求する人」であり、お金を受け取る権利のある人(受取人)とは別の考え方です。なお、指定できるのは配偶者や一定範囲の親族に限られるのが一般的ですが、同居や生計の条件を含め、範囲は会社ごとに定められています。請求した給付金の支払先も会社ごとに異なるため、あわせて確認しておくと安心です。
30分の整理面談でわかるのは、いま止まると困る手続きの洗い出しと、保険で埋められる範囲・埋められない範囲、そして確認の順番です。わからないのは、ご契約中の保険で解約まで代理できるかの最終判断(約款の領域)と個別の税額(税理士の領域)です。お手元にあるとスムーズなものは①保険証券または契約内容のお知らせ ②通帳 ③ご家族の関係が分かるメモ ですが、なくても大丈夫です。
本記事は提携行政書士の監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しており、特定の保険商品の評価や勧誘を目的とするものではありません。特約の名称・取扱いの範囲は保険会社ごとに異なるため、必ずご自身の保険証券と約款、または保険会社の窓口でご確認ください。保険のご相談は、全社を比較できる提携乗合代理店をご紹介します。ご紹介にあたり、当社が紹介料を受け取る場合があります。
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勧められた保険は、契約前に第三者に見てもらえます
提案書(設計書)の写しをお持ちいただければ、①相続全体の設計から見て本当に必要かを、特定の保険会社に偏らない立場で確認し、②比較したほうがよい場合は、複数の保険会社を横断して比較できる提携の乗合代理店をご紹介します。オンラインで全国どこからでも、30分・無料です。契約を勧めることも、急かすこともありません。「いまは加入しなくて大丈夫です」という結論も、そのままお伝えします。
お手元にあるとより具体的に確認できるもの:提案書(設計書)の写し/すでにご契約中の保険証券/ご家族構成のメモ。なくてもご相談いただけます。
保険の内容を見てもらう(無料・オンライン可)→フォームのご相談内容欄に「保険の内容確認」とご記入いただくと、担当がその前提でご準備します。ご希望に応じて提携の乗合代理店をご紹介した際に紹介料を受け取る場合がありますが、紹介料の有無でご説明の内容は変わりません。