親が守ってきたお墓を、自分の代で閉じることにした。調べ始めると「改葬許可」「埋蔵証明」「閉眼供養」と聞き慣れない言葉が並び、役所に何を出せばいいのか、業者にどこまで任せていいのかで手が止まる方は多いです。
この記事では、墓じまいの手続きを、法律(墓地埋葬法と施行規則)と名古屋市の申請書の実物をもとに、順番どおりに整理します。役所手続きの出し先と書類、手続きが止まりやすい場面、代行で頼める範囲と頼めない範囲、見積もりで確かめる点まで、2026年10月時点の情報で書きました。
先に結論:墓じまいの手続きは「今お墓がある市町村」に改葬許可を申請する
この記事の結論
- 役所手続きは1つ:遺骨を別のお墓や納骨堂に移すには、今お墓がある市町村の改葬許可が要ります(墓地埋葬法5条)。住まいの市町村ではありません。
- 書類の要は管理者の証明:今の墓地の管理者(お寺・霊園)に、遺骨が納められている事実を証明してもらいます。名古屋市の申請書には、その証明欄がついています。
- 代行は範囲を分けて考える:申請は墓地の使用者か委任を受けた人が行い、報酬を得て書類を作れるのは行政書士です。墓石の撤去は石材店、閉眼供養はお寺が担います。
法律では、遺骨を「他の墳墓又は納骨堂に移すこと」を改葬と呼びます(墓地埋葬法2条3項)。墓じまいは、この改葬に、墓石の撤去と区画の返還がついたものです。名古屋市は、同じ墓地の中で遺骨を移すことも改葬にあたると案内しています。
墓じまいの手順:6つの段階を表で確認
墓じまいの手順は、次の6段階で考えると迷いにくくなります。役所に出すのは3の改葬許可申請だけです。ほかは、お寺や霊園、石材店、新しい納骨先とのやり取りです。
4の閉眼供養と5の工事は、お寺と石材店の都合を合わせて同じ日に組むこともあります。工事の日は、改葬許可証を受け取ってから決めると、日程の組み直しを防げます。
新しい納骨先の選び方は、墓じまいの遺骨はどうする?(行き先7つの比較)で比べています。火葬のときに受け取った書類(埋葬許可証)と、墓じまいの改葬許可証は別のものです。違いは埋葬許可証とは(火葬許可証との関係・納骨で出す先)で説明しています。
墓じまいの役所手続き:改葬許可申請の出し先と書類
申請先は「住んでいる市町村」ではなく「今お墓がある市町村」
改葬の許可は、遺骨が今ある場所の市町村長が出します(墓地埋葬法5条2項)。名古屋市に住んでいても、お墓が岐阜県の実家近くにあれば、申請先はその町です。遠方のお墓では、郵送で申請できるかを最初に確かめます。
名古屋市の場合(2026年10月時点の公式案内と申請書)
名古屋市の申請書には、死亡者の本籍・住所・氏名・性別・死亡年月日、埋葬または火葬の場所と年月日、改葬の理由、改葬の場所、申請者と死亡者の続柄と墓地使用者との関係を書く欄があります。これは施行規則2条1項が定める記載事項と同じ並びです。ほかの市町村でも、聞かれる中身はほぼ変わりません。
受入証明(新しい納骨先が受け入れることの証明)は、名古屋市の案内では必要書類に挙がっていません。ただ、施行規則には「市町村長が特に必要と認める書類」を添えるという定めがあります。受入証明が要るかどうかは、申請先で確かめるのが確実です。
手数料と、許可が出るまでの期間
改葬許可の手数料は、市町村ごとに決まっています。名古屋市と横浜市は無料、静岡市は遺骨1体につき300円と案内しています(2026年10月時点)。遺骨の数が多いと、手数料のある市町村では合計が変わります。
許可が出るまでの日数を示していない市町村も多く、名古屋市も「時間がかかる場合がある」とだけ案内しています。墓じまい全体の期間を左右するのは、役所より、新しい納骨先選びとお寺・石材店との日程です。鎌倉新書の2026年の調査でも、墓じまいで大変だったことは「遺骨の引っ越し(改葬)先選び」が38.8%、「役所の手続き」が32.3%でした。納骨先を先に決めておくと、申請から工事までが流れやすくなります。
許可を受けずに遺骨を移すとどうなるか
改葬の許可を受けずに遺骨を移すことは、墓地埋葬法5条1項に反します。違反した人は、2万円以下の罰金または拘留もしくは科料の対象になります(同法21条)。業者に工事を頼む場合も、許可証が出てから取り出す段取りにしておきます。
手続きが止まりやすい5つの場面と、その手前でできること
墓じまいの手続きは、書類そのものより、書類をそろえる途中で止まりがちです。よくつまずく場面を、手前で打てる手と一緒に表にしました。
お寺との話し合いがうまく進まないと、管理者の証明が止まることがあります。改葬の許可に、お寺への支払いを条件とする規定は、墓地埋葬法にも施行規則にもありません。それでも、長くお世話になったお寺です。決めた後に知らせるのではなく、考え始めた段階で相談するほうが話は進みやすくなります。
親族の誰に、どこまで同意をとるかは、墓じまいで後悔しないために(親族の同意はどこまで)で詳しく書いています。
墓じまいの代行:頼める範囲と頼めない範囲
「墓じまい代行」とうたうサービスは、どこまでを引き受けるかがさまざまです。代行業者に頼む前に、手続きを「誰が担うものか」で分けておくと、見積もりの中身が読みやすくなります。
行政書士法は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に出す書類を作ることを行政書士の業務としています(1条の3)。行政書士や行政書士法人でない人は、いかなる名目でも報酬を得て、業としてこれを行えません(19条)。名古屋市の改葬のページにも、同じ趣旨の注意書きがあります。
代行業者の見積もりに「役所手続き込み」とあれば、書類を作るのは誰か、申請者の名前は誰になるかを聞いておきます。家族が自分で申請し、撤去工事だけを石材店に頼むこともできます。名古屋市のように郵送で申請できる市町村なら、遠方でも家族で進めやすくなります。
墓じまい業者に見積もりを頼むとき確かめる10の点
この記事では、特定の業者や石材店の名前は挙げません。どこに頼む場合でも、見積もりの段階で次の点を確かめておくと、後から金額や作業の範囲で食い違いにくくなります。金額の目安は、地域やお墓の大きさで大きく変わるため、ここでは扱いません。
- 工事できる石材店の決まり:見積もりの前に、今の墓地の管理者に指定の有無を聞いたか。
- 現地を見たうえの見積もりか:区画の広さ、重機が入るか、通路の幅を確かめたか。
- 「一式」ではなく内訳があるか:撤去、処分、運搬、整地、遺骨の取り出しが分かれているか。
- 含まれる範囲:外柵、基礎、灯籠、植木、カロート(納骨室)の扱いが書かれているか。
- 追加の費用が出る条件:地中から想定外の基礎や遺骨が出たときの扱いが書面にあるか。
- 遺骨の数:何体を取り出す前提か。申請書の通数と合っているか。
- 墓石の処分の方法:どう処分するかを説明してもらえるか。
- 役所手続きの中身:書類を作るのは誰か、申請者は誰になるか、郵送の手配まで含むか。
- 区画の返還まで含むか:管理者への返還の手続きを誰がするか。
- 支払いと取り消し:支払いの時期、日程変更や取り消しの条件。
閉眼供養のお礼など、お寺に直接お渡しするものは、業者の見積もりとは別に考えます。墓じまいにかかったお金を誰が負担するか、親の遺産から出せるかは、納骨費用は相続税から差し引ける?(誰が払うか)も参考になります。
お墓のことと一緒に、親の預金や実家の相続の段取りも整理しておきたいときは、30分の無料相談で、家族の状況を聞きながら順番を一緒に考えられます。
今日できる一歩
- お墓のある市町村のホームページで「改葬」のページを開き、申請先と様式を確かめる
- 今の墓地の管理者に、使用者の名義と、納められている人数を聞く
- 新しい納骨先の候補を、家族で2つほど挙げておく
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
墓じまいの手続きについてよくある質問
墓じまいの役所手続きは、どこの役所に行けばいいですか?
今お墓がある市町村です。改葬の許可は、遺骨が今ある場所の市町村長が出します(墓地埋葬法5条2項)。名古屋市なら、保健所環境薬務課か、お墓のある区の保健センターが窓口で、郵送でも申請できます。
墓じまいの手続きは、使用者本人でなくてもできますか?
できます。名古屋市では、使用者以外が申請するときは委任状が要ると案内しています。施行規則は、使用者でない人の申請には使用者の承諾書を添えるとしています。様式は申請先で確かめてください。
改葬許可の申請書は、遺骨が3人分なら何枚要りますか?
名古屋市の申請書は、遺骨1体につき1通です。3人分なら3通で、管理者の証明もそれぞれに要ります。ほかの市町村の様式は、申請先で確かめてください。
墓じまいの代行業者に、役所の申請まで任せられますか?
報酬を得て申請書類を作れるのは、行政書士か行政書士法人です(行政書士法19条)。代行業者に頼む場合は、書類を誰が作るのか、申請者は誰になるのかを確かめます。家族が自分で申請し、工事だけ石材店に頼む方法もあります。
お寺が埋蔵の証明を書いてくれないときは、どうすればいいですか?
施行規則は、証明によりがたい特別の事情があるときは、市町村長が認める準ずる書面でよいとしています。まず、申請先の市町村に事情を相談してください。お寺との話し合いがこじれた場合は、弁護士への相談も考えます。
墓じまいの手順で、閉眼供養は必ず要りますか?
法律上の手続きではありません。遺骨を取り出す前に読経をお願いするのが一般的ですが、呼び方や考え方は宗派とお寺で違います。菩提寺がある場合は、まず菩提寺に相談してください。
散骨や自宅で保管するために取り出すときも、改葬許可は要りますか?
扱いは市町村で違います。法律の「改葬」は、別のお墓や納骨堂に移すことを指します。静岡市は、自宅への引き取りや散骨は手続きが異なるとして、今の墓地の管理者に問い合わせるよう案内しています。お墓のある市町村と管理者に、取り出す前に確かめてください。いずれお墓や納骨堂に納めるときに、書類を求められることもあります。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「墓地、埋葬等に関する法律」(2条・5条・14条・21条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000048 - e-Gov法令検索「墓地、埋葬等に関する法律施行規則」(2条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100024 - e-Gov法令検索「行政書士法」(1条の3・19条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004 - 名古屋市「改葬」(最終更新2026年7月31日)
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/eisei/1011432/1011619.html - 名古屋市「改葬許可申請書記入例」(PDF)
https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/619/r0805sinseisyokinyuurei.pdf - 浄土宗「よくあるご質問(お墓のお引越しはできますか?)」
https://jodo.or.jp/faq/ - 横浜市「改葬許可申請(お墓の引越し)」(手数料)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/todokede-touroku/koseki/kaisou.html - 静岡市「改葬許可申請について」(PDF。手数料、自宅への引き取り・散骨の扱い)
https://www.city.shizuoka.lg.jp/documents/58175/kaisoukyokasinnseinituite.pdf - 鎌倉新書「【第4回】改葬・墓じまいに関する実態調査(2026年)」
https://guide.e-ohaka.com/research/survey_hakajimai_2026/
※本記事は2026年10月時点の法令と自治体の公開情報をもとにした一般的な整理です。改葬許可の様式・必要書類・手数料は市町村によって異なります。閉眼供養の作法や考え方は、宗派・地域・お寺によって異なります。実際の手続きは、お墓のある市町村と墓地の管理者にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
