JAの「建物更生共済」、通称「建更(たてこう)」。実家の火災保険のつもりで掛けているご家庭が多いのですが、相続の場面では扱いがまったく違います。建更は掛け捨てではなく積立部分があるため、契約者が亡くなるとその契約自体が相続財産になり、相続税の申告対象です。
そして建更は、相続税の税務調査で申告漏れを指摘されやすい定番の財産でもあります。この記事では、なぜ漏れやすいのか、いくらで評価されるのか、生命保険の非課税枠が使えるのか、名義変更をしないと何が困るのか、JAの窓口で何を出すのかを、相続人の立場で順に説明します。
先に結論:建更は「解約返戻金の額」で相続財産に数える
同じ「火災の備え」でも、相続での扱いはここまで違う
🏠
掛け捨ての火災保険
ほぼ0円
相続財産としての価値はない
契約の引き継ぎ手続きだけ
🏠💰
建更(積立部分あり)
数十万〜数百万円
亡くなった日の解約返戻金相当額が財産
相続税の申告対象・JAで名義変更
※金額は契約年数・共済金額・掛金の払込方法で大きく変わります。証明書でご確認ください。
一般的な火災保険は掛け捨てで、解約してもお金はほとんど戻りません。建更は「共済」で、保障に加えて積立の性格があり、満期になれば満期共済金が、途中でやめれば解約返戻金が支払われます。つまり建更の契約は、預金や株と同じように「お金に換えられる財産」です。相続税の計算では、亡くなった日にもし解約したら戻ってくる金額(解約返戻金相当額)で評価します。
相続税の評価額はどう決まるか
評価の基本は「相続開始日(亡くなった日)にその契約を解約したと仮定した場合の解約返戻金の額」です。これに、まだ精算されていない前納掛金や割戻金(剰余金の分配)があれば加え、源泉徴収されるべき所得税相当額があれば差し引きます。実務では、この計算を自分でする必要はありません。JAに「解約返戻金相当額等証明書」を発行してもらえば、評価に必要な金額が一枚にまとまって出てきます。
相続税の評価額はこの一枚で決まる
🏦
契約先のJAへ
共済証書と戸籍を持参
📄
「解約返戻金相当額等証明書」
亡くなった日時点で発行
🧮
その金額が評価額
財産目録と申告書に転記
前納掛金・割戻金がある場合はその分を加算。証明書に内訳が記載されます。
この証明書は相続税の申告書の添付資料にもなるので、申告が必要なご家庭では取得が実務の第一歩です。申告が不要そうなご家庭でも、基礎控除を超えるかどうかの判定には建更の評価額を含める必要があるため、金額だけは早めに把握しておいてください。
生命保険の非課税枠は使えない
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますが、建更には使えません。建更で相続するのは死亡保険金ではなく「契約の権利」だからです。生命保険契約の権利を相続するときと同じ扱いで、解約返戻金相当額がそのまま課税対象の財産になります。非課税枠そのものの仕組みは生命保険の非課税枠の記事で説明しています。
なお、同じJA共済でも「終身共済」「養老生命共済」などの生命共済で支払われる死亡共済金は、生命保険と同じく非課税枠の対象です。建更と生命共済を混同しやすいので、証書の商品名を確認してください。生命共済の死亡共済金の扱いはJA共済・県民共済・こくみん共済の死亡共済金と相続にまとめています。
満期が近い・満期を過ぎていた場合
亡くなる前にすでに満期を迎えていて、満期共済金をまだ受け取っていなかった場合は、「契約の権利」ではなく「未収の満期共済金」として、その金額がそのまま相続財産になります。逆に、亡くなった後に満期が来る契約は、亡くなった日時点の解約返戻金相当額で評価し、満期共済金は名義変更後の新しい契約者が受け取ります。
満期共済金の受取人が契約者本人ではなく別の家族に指定されている契約もあります。この場合、満期共済金を受け取った人には贈与税や一時所得の問題が出ることがあるため、証書の「満期共済金受取人」欄も確認しておいてください。
なぜ申告漏れが起きやすいのか
理由は単純で、家族が契約の存在を知らないからです。建更は建物に掛けるものなので「親の保険」として意識されにくく、証書も実家の棚の奥にしまわれたままになりがちです。掛金が年払いだと、通帳を見ても年に1回しか引き落としの記録がありません。
建更が見つかる4つの手がかり
📒
通帳の
「JA共済」引落し
✉️
実家に届く
共済の郵便物
📃
確定申告書の
地震保険料控除
💳
JAの組合員証・
出資証券
どれか1つでも当たれば、契約先のJAに契約の有無を照会してください。
一方、税務署は共済金や解約返戻金が支払われたときの支払調書や、過去の所得税申告に添付された控除証明の記録などから共済契約を把握できます。家族が知らなくても税務署は知っている——この非対称が、申告漏れの指摘につながります。申告漏れが後から見つかると、本来の相続税に加えて過少申告加算税や延滞税が上乗せされます。
契約者と建物の持ち主が違う場合
「建物は父名義、建更の契約者は同居の長男」のように、契約者と建物の所有者が別人のケースがあります。相続財産になるのは亡くなった人が契約者になっている契約です。父が亡くなっても、長男が契約者で掛金も長男が払っていた建更は、父の相続財産にはなりません。
ただし、契約者は長男でも掛金を実際に払っていたのが父だった場合は、父が払った掛金に相当する部分が相続財産や贈与とみなされることがあります。誰の口座から掛金が引き落とされていたかは、通帳で必ず確認してください。この整理は税理士に相談する価値のある部分です。
名義変更(承継)の進め方
建更の契約は、相続人のうち建物を引き継ぐ人へ名義変更するのが基本です。窓口は契約先のJAで、遺産分割協議で建物と建更を誰が引き継ぐか決めたうえで手続きします。建物と建更の名義を別々の人にすると、火災のときに共済金の受取りで揉める原因になるので、原則はセットで考えてください。
JAに電話して契約を照会し、証明書を依頼する
契約者の死亡を伝え、「解約返戻金相当額等証明書」と名義変更の必要書類を確認。この時点で掛金の引落し口座が凍結されていないかも聞く。
遺産分割協議で「建物+建更」の引き継ぎ手を決める
協議書に建更の契約(証書番号)を財産として明記しておくと、JAでの手続きが一度で通る。
必要書類をそろえてJAの窓口へ
共済証書、亡くなった方の戸籍(出生から死亡まで)、相続人全員の戸籍と印鑑証明、遺産分割協議書または遺言書、新契約者の本人確認書類が標準。JAごとに細かい違いがあるので事前に電話で確認。
名義変更完了。掛金口座と満期共済金受取人も新契約者へ
新しい証書が届いたら、掛金の引落し口座と満期共済金受取人が新契約者になっているかを確認して終了。
名義変更をしないまま放置すると何が困るか
いちばん現実的なリスクは、掛金の引落し口座が凍結されて掛金が止まり、契約が失効することです。亡くなった方の口座は死亡を金融機関が知った時点で凍結されるため、そこから掛金を引き落としていた建更は、そのままだと未払いになります。失効すれば火災の保障が切れ、積立部分も本来より不利な条件で精算されることがあります。
もうひとつは、火災や風水害が起きたときに共済金の請求ができないことです。契約者が亡くなったままでは請求権者が確定しておらず、そこから相続手続きを始めることになります。実家が空き家になっている場合ほど、この二つのリスクは現実味を帯びます。
建物を引き継がない・解約する選択
実家を売却する、取り壊すといった場合は、名義変更ではなく解約して解約返戻金を相続人で分ける選択もあります。この場合も一度は相続人の代表者への名義変更(または相続人全員の同意による解約手続き)が必要で、JAごとに手順が異なります。解約返戻金は相続財産として分けるお金なので、遺産分割協議書に「建更の解約返戻金を誰が受け取るか」を書いておくと、後の精算が楽になります。
組合員資格と出資金もあわせて確認
親がJAの組合員だった場合、出資金も相続財産です。建更の名義変更と同時に、出資金の払い戻しか組合員資格の承継かを選ぶことになります。JAの相続手続き全般はJAあいち豊田の記事やJAあいち知多の記事など、各JA別にまとめています。
相談現場から|相談員メモ
財産の一覧を作るご相談で、建更はよく「最後に出てくる」財産です。ご本人も家族も火災保険だと思っているので、財産の話をしているときに出てこない。実家が持ち家なら「建物の共済はどこで掛けてる?」と親御さんに一度聞いておくだけで、後の手間がだいぶ変わります。相続後のご相談では、掛金の口座が凍結されて掛金が止まっていたことに、JAからの督促で初めて気づいたというケースもありました。
まとめ
建更は火災の備えであると同時に、亡くなった日の解約返戻金相当額で評価される相続財産。生命保険の非課税枠は使えず、申告漏れの定番なので、通帳と郵便物で存在確認をしたうえで、JAで「解約返戻金相当額等証明書」を取るところから始めてください。手続きは建物を引き継ぐ人への名義変更が基本で、放置すると掛金口座の凍結から失効につながります。窓口は契約先のJAです。
JAの共済も含めて、財産の全体を一度整理しませんか
建更があるかどうかは、通帳の引き落としでだいたい見当がつきます。何が相続財産になり、どこで手続きするのか。わが家の場合の一覧を30分で一緒に作れます。
お電話でも:052-766-5650(相談中の場合は折り返しご連絡します)
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※本記事は一般的な情報の整理です。共済の商品内容・手続きは各JAの最新の案内でご確認ください。相続税の申告要否や評価額の計算など個別の税務判断は税理士にご確認ください。