「遺言を書くべきか、家族信託を組むべきか、それとも保険か」。生前対策のご相談で、この3つはよく比べられます。ただ、実はこの3つは競合する商品ではありません。効く場面がそれぞれ違う、別の道具です。
この記事では、それぞれのメリット・デメリットを並べたうえで、「どれか1つ」ではなく「どう組み合わせるか」まで整理します。当社は保険を扱う相談窓口ですが、遺言や信託のほうが向くご事情なら、そのままそうお伝えする立場で書いています。
先に結論:3つの道具は「効く場面」が違う
何を解決する道具か
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遺言
亡くなった後の全財産の行き先を決める。不動産も現金もまとめて指定できる唯一の道具
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家族信託
生きている間の財産管理を家族に託す。認知症になっても自宅の売却や預金の管理を止めない
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一時払い終身保険
現金を、決めた人へ、すぐ確実に渡す。受取人固有の財産になり、非課税枠も使える
言い換えると、遺言は「死後の全体の設計図」、家族信託は「生前の管理の仕組み」、保険は「現金の宅配便」です。役割が違うので、比べて1つを選ぶのではなく、ご自身の財産と家族構成のどこに穴があるかで決まります。
それぞれのメリット・デメリット
遺言(公正証書遺言)
メリットは対象の広さです。不動産・預金・株式など全財産の行き先を1通で決められ、法定相続人以外(甥姪・内縁のパートナー・お世話になった人)への遺贈もできます。公正証書なら形式不備で無効になる心配がほぼなく、費用も財産額に応じた公証役場の手数料が中心で、他の2つより安く済むことが多いです。
デメリットは、効力が出るのが死後だという点です。生きている間の認知症対策には一切なりません。また、亡くなった後は遺言があっても、金融機関の手続きには戸籍一式などが必要で、現金が相続人の手元に届くまで数か月かかるのが普通です。遺留分(配偶者・子・親の最低限の取り分)を侵害する内容は、後から請求される可能性も残ります。
家族信託
メリットは、認知症で判断能力が下がった後も財産が動かせることです。自宅やアパートを信託しておけば、本人が施設に入った後の売却や大規模修繕を、受託者(多くは子)が本人のために実行できます。二次相続まで指定できる(妻の次は長男へ、など)のも信託だけの機能です。
デメリットは、設計の重さです。専門家報酬と公正証書費用で数十万円規模の初期費用がかかるのが一般的で、信頼して託せる家族がいることが前提になります。信託した財産に生命保険の非課税枠のような税制上の優遇はなく、遺留分の問題も消えません。農地や年金受給権など信託に向かない財産もあります。
一時払い終身保険
メリットは、現金に限れば最速・最確実なことです。死亡保険金は受取人固有の財産なので、遺産分割協議を待たずに受取人が単独で請求でき、書類が揃えば数営業日で支払われます。「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使え、保険金は原則として遺留分の対象にもなりません。手続きの費用はかからず、契約は書類1式で済みます。健康に不安があっても、告知なしで入れるタイプが実際にあります。
デメリットは、渡せるのが現金だけで、不動産には無力なことです。加入には年齢・健康状態の条件があり、告知なしタイプは契約から一定期間(会社により9か月〜数年)は死亡保障が抑えられます。また商品コストが保険料から差し引かれるため、早期に解約すると元本割れします。外貨建てなら為替次第で円換算の受取額が変わります。「増やす商品」として見ると弱点が多く、「渡す仕組み」として見るのが正しい道具です。
人生の時間軸で見る、3つの道具の守備範囲
加入・作成・設計はいずれも「元気なうち」にしかできません。認知症が進んでからでは3つとも使えなくなります。
併用パターン:実際はこう組み合わせる
パターン1:遺言×保険|不動産と現金で分ける(最も多い形)
自宅などの不動産は遺言で行き先を決め、現金は保険の受取人指定で渡す形です。実際のご相談例では、80代の男性が「同居して面倒を見てくれる息子に厚く残したい」というご希望で、自宅は遺言で息子へ、預金は姉弟で半分ずつ、そのうえで息子を受取人にした一時払い保険に加入されました。もう一人のお子さんから遺留分を請求された場合でも、すぐ現金になる保険金が支払いの原資になる、という設計です(実際のご相談をもとに再構成しています)。
パターン2:家族信託×保険|管理は信託、非課税枠は保険
アパートなど管理が必要な不動産がある方は、不動産と管理用の金銭を信託に入れ、それとは別に非課税枠の範囲の現金を一時払い終身保険にする形が考えられます。信託財産には保険の非課税枠のような優遇がないので、「枠の分は保険で渡す」と役割分担するとお金の面で無駄がありません。信託を組んでも、保険の請求まではカバーできないため、保険側には指定代理請求人を付けておきます。
パターン3:遺言×家族信託|信託から漏れた財産を遺言で拾う
家族信託は「信託した財産」しかカバーしません。信託に入れなかった預金や、後から増えた財産の行き先が決まっていないと、結局そこだけ遺産分割協議になります。信託を組む方は、漏れを拾う遺言をセットで作っておくのが定石です。
パターン4:保険だけで足りる場合もある
財産がほぼ預貯金だけで、渡したい相手が決まっているなら、受取人指定だけでほぼ完結します。逆に、渡したい相手が法定相続人でない場合(甥姪・内縁のパートナーなど)は、保険会社ごとに受取人にできる範囲が違うため、甥姪を受取人にする方法で詳しく解説しています。すでに保険をお持ちの方は、まず受取人が古いままになっていないかの確認からどうぞ。
相談員メモ
「遺言は作りました」という方ほど、現金の凍結対策が抜けていることが多いです。遺言があっても、亡くなった直後の口座は動きません。葬儀費用や当面の生活費をどう工面するかまで考えると、遺言と保険は競合ではなく分担だと分かります。逆に、全部を信託や保険で解決しようとして無理が出ているご相談もあります。道具ごとの限界を知っている人に、一度全体を見てもらうのが早道です。
どれから手を付けるか
迷ったら、この順番で考えてください。1つ目、「誰に・何を渡したいか」を書き出す。2つ目、その中に不動産があるなら遺言(または信託)が必須。3つ目、認知症になった後の管理に不安があるなら信託や任意後見を検討。4つ目、現金のうち「この人に確実に」の分だけ保険の受取人指定にする。預金に置いたままのリスクは定期預金と認知症の記事で書いたとおりです。
なお、遺言や家族信託の文案作成・登記は行政書士・司法書士など資格者の業務です。当社のご相談でこれらが必要になった場合は、提携の有資格者が対応します。相続税の試算は税理士にご確認ください。
まとめ
遺言は死後の設計図、信託は生前の管理、保険は現金の宅配便。1つで全部は解決できず、財産の中身によって組み合わせが変わります。そしてどの道具も、使えるのは元気なうちだけです。
うちの場合はどの組み合わせ?を30分で
ご家族の人数と財産のおおまかな中身が分かれば、遺言・信託・保険のどれが要るか、どれが要らないかを整理できます。保険が答えでない場合は、そのままお伝えします。
お電話でも:052-766-5650(相談中の場合は折り返しご連絡します)
※本記事は一般的な情報の整理です。保険商品の加入条件・費用・保障内容は会社・商品ごとに異なり、外貨建て商品には為替リスクがあります。契約前に必ず最新の契約締結前交付書面をご確認ください。家族信託・遺言の費用は依頼先・財産内容により異なります。個別の税務判断は税理士に、登記は司法書士にご確認ください。