実家を親が生きているうちに名義変更・売却するとどうなる|贈与税・相続税・3,000万円控除の比較

親が施設に入った、実家に誰も住まなくなった、親の物忘れが増えてきた。こうしたときに出てくるのが「今のうちに実家の名義を自分に変えておいたほうがいいのでは」「いっそ売ってしまったほうがいいのでは」という考えです。

結論から言うと、名義を移すのは相続まで待つほうが税金は安く、売るのは親が生きているうちのほうが有利になることが多い——という、少しねじれた答えになります。この記事では、実家の処分を考えている子世代の方に向けて、名義変更と売却を分けて、かかる税金と使える特例の期限を並べます。数字は2026年9月時点で確認したものです。

目次

先に結論:名義を「生前に移す」と、登記の税金は5倍になる

実家の名義を移すときの登記の税金
固定資産税評価額 2,000万円の場合
🎁
生前に贈与で移す
2.0%
40万円
+ 不動産取得税(土地・住宅は3%) + 贈与税
🏠
相続で移す
0.4%
8万円
+ 不動産取得税は非課税 + 相続税(かかる場合)
登記だけで 5倍 の差。さらに贈与では不動産取得税と贈与税が上乗せされます。
※2026年9月時点。登録免許税は国税庁タックスアンサーNo.7191、不動産取得税は愛知県の案内(税率3%は令和9年3月31日までの取得、宅地は課税標準が価格の2分の1)。

ただし「では相続まで待とう」で終わりではありません。親の判断能力が落ちると、名義を移すことも売ることもできなくなります。そして売却については、親が生きているうちのほうが使える控除が大きいことがあります。名義変更と売却は別の話として考えてください。

生前の名義変更は「贈与」——かかる税が3つに増える

親が元気なうちに実家の名義を子に変えることは、お金のやり取りがなければ贈与です(対価を払えば売買になり、また別の話になります)。贈与として名義を移すと、相続で受け継ぐ場合にはかからない税が加わります。

  生前に贈与で移す 相続で移す
登録免許税 評価額の2.0% 評価額の0.4%
不動産取得税 かかる(土地・住宅3%) 非課税
贈与税・相続税 贈与税(暦年課税なら110万円を超えた分に10〜55%) 相続税(基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えた場合)
小規模宅地等の特例 使えない 要件を満たせば使える
親が売る自由 なくなる(所有者は子) 残る
※2026年9月時点。国税庁タックスアンサーNo.7191・No.4408・No.4152、愛知県の不動産取得税の案内より。税率・軽減の期限は改正されることがあります。

見落とされがちなのが表の4行目、小規模宅地等の特例です。これは、亡くなった方が住んでいた宅地を相続する場合に、一定面積まで評価額を大きく下げられる制度で、相続税の額に強く効きます。ところが生前に贈与してしまうと、その土地は「相続で取得した宅地」ではなくなるため、この特例の対象から外れます。相続税がかかる規模のご家庭では、生前に名義を移したことで、かえって全体の税負担が増えることがあります。

つまり、「相続で家族がもめないように、今のうちに名義を移しておく」という理由だけで贈与するのは割に合いません。誰に承継させるかを決めたいだけなら、遺言書のほうが費用も税も軽くて済みます。

相続時精算課税の使いどころ

それでも生前に名義を移したい事情があるとき、贈与税を抑える手として使われるのが相続時精算課税です。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円までは贈与税がかからず(超えた分は一律20%)、2024年からは年110万円の基礎控除も加わりました。

評価額2,500万円以内の実家であれば、贈与税を出さずに名義を移せます。ただし次の3点は変わりません。

  • 登録免許税2.0%と不動産取得税は、通常どおりかかります。
  • 贈与した不動産は、相続のときに贈与時の価額で相続財産に加算されます。相続税そのものが消えるわけではありません。
  • 小規模宅地等の特例は使えません。

向いているのは、これから値上がりが見込める不動産(贈与時の低い価額で固定できる)や、収益を生む物件(家賃収入を早く子に移せる)です。何も生まない実家をただ移すだけであれば、税の面での利点は限られます。一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないので、選ぶ前に税理士の試算を取ってください。制度の中身は生前贈与のやり方|110万円の非課税を正しく使う手順で整理しています。

売るなら、親が生きているうちか、相続後か

売却は、名義変更とは逆の結論になることがあります。判断を分けるのは、売った利益(譲渡所得)から3,000万円を引ける特例を、誰が使えるかです。

親が生きているうちに売る場合

マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は、その家に住んでいた本人が売ることが条件です。実家に住んでいるのは親なので、要件を満たすのは親本人です。親名義のまま親が売れば、利益から3,000万円を引けます。

ここで先に名義を子へ移してしまうと、売主は子になります。子はその家に住んでいないので、3,000万円控除は使えません。名義変更と売却の順番を間違えると、3,000万円の控除がまるごと消えるということです。

もうひとつ。親から子へ売る(親子間売買)形にしても、この控除は使えません。配偶者や直系血族など特別の関係がある人への売却は、控除の対象外とされているためです。

なお、親がすでに施設に入っていて実家が空いている場合でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、この控除は使えます。施設入所から時間が経っているご家庭は、この期限が先に来ることがあります。

相続後に売る場合

相続してから売る場合にも、使える特例が2つあります。ただしどちらも期限が短く、要件も細かいので、あてにするなら先に確認が必要です。

🏚️ 空き家の3,000万円特別控除
相続した実家(被相続人の居住用家屋)を売ったときに、利益から3,000万円(相続人が3人以上のときは1人あたり2,000万円)を引ける制度。主な要件は次のとおりです。
昭和56年5月31日以前に建てられた家(区分所有建物を除く)
・相続開始の直前に、被相続人がひとりで住んでいたこと
・相続後、貸したり住んだり事業に使ったりしていないこと
売却代金が1億円以下
・耐震基準を満たすように改修するか、家を取り壊すこと(売った年の翌年2月15日まででも可)
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
・適用期限は2027年(令和9年)12月31日までの譲渡
🧾 取得費加算の特例
相続税を払った人が相続財産を売るとき、払った相続税のうちその財産に対応する分を、取得費に足して利益を圧縮できる制度。期限は相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始からおよそ3年10か月)。空き家の3,000万円控除とは併用できません。
※2026年9月時点。国税庁タックスアンサーNo.3302・No.3306・No.3267より。要件は細かく、判定を誤ると使えません。適用の可否は税務署または税理士にご確認ください。

空き家の特例は、要件が多いぶん外れやすい制度です。とくに「昭和56年5月31日以前の建築」「相続後に人を住まわせていないこと」の2つで落ちるケースが目立ちます。相続後に子が一時的に住んだ、荷物置き場として貸した、というだけで使えなくなります。相続後の売却の流れは相続した家の売却手順にまとめています。

親の判断能力が落ちると、売ることも名義を移すこともできなくなる

ここまでの話には、大きな前提があります。名義変更も売却も、親本人の意思がなければできないということです。

不動産の売買契約も贈与契約も、契約である以上、親に判断能力(意思能力)が必要です。認知症が進んで意思の確認が取れなくなると、司法書士が登記を受けられず、不動産会社も契約を進められません。預金が引き出せなくなる口座凍結と、まったく同じ構図です(認知症による口座凍結)。

⚠️ 判断能力が落ちたあとに残る道
成年後見を申し立てて後見人を選び、後見人が売る。ただし住んでいた家(居住用不動産)の売却には家庭裁判所の許可が必要で、親の生活のために必要と認められないと許可されません。
後見が始まると、生前贈与や相続対策としての名義変更は、原則としてできなくなります。後見人は本人の財産を守る立場だからです。
手続きには時間がかかります。「今すぐ売りたい」には間に合いません。

実家の処分でいちばん多い後悔は、税金の選び間違いではなく、この「決められる時期を過ぎてしまった」というものです。親が元気なうちに、売るのか・貸すのか・誰が引き継ぐのかを話しておくだけで、選べる幅が変わります。実家を売る・貸す・住み続ける、どう選ぶ?判断基準を徹底比較もあわせてご覧ください。

家族信託という選択肢

「名義は移したくないが、親が動けなくなったときに実家を売れる状態にしておきたい」。この要望に応えるのが家族信託(民事信託)です。親を委託者、子を受託者として実家を信託しておくと、登記上の名義は子に移りますが、利益を受ける権利(受益権)は親に残ります。

  • 受益権が親のままなので、信託した時点では贈与税はかかりません(受益者を子にすると贈与になります)。
  • 親の判断能力が落ちたあとも、受託者である子が売却できます。家庭裁判所の許可は要りません。
  • 信託の登記には登録免許税がかかり、契約書の作成や公正証書化にも費用がかかります。相続時に受益権が相続財産になる点も変わりません。

万能ではなく、設計を誤ると使えない信託になります。費用と手間に見合うかは家庭によります。判断材料は家族信託のデメリットで整理しています。

実家と資産の状況から、贈与・遺言・信託のどれが合うかの目安は、相続税・生前対策かんたん診断(無料・登録不要・1分)で確認できます。

よくある質問

親から相場より安く買えば、贈与税はかかりませんか。

かかることがあります。著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額が贈与とみなされます。親子間で「固定資産税評価額で売買した」という形にしても、時価と大きく離れていれば差額に贈与税がかかります。売買にするなら、価格の根拠(不動産会社の査定など)を残してください。

共有名義にしておけば、あとで楽になりますか。

逆に難しくなることが多い形です。売却には共有者全員の同意が必要なので、そのうちの1人が認知症になったり、亡くなってその持分がさらに分かれたりすると、身動きが取れなくなります。持分を贈与した時点で贈与税と登録免許税もかかります。分けるなら、売って現金にしてから分けるほうが確実です。

相続登記をしていない古い名義のままです。売れますか。

そのままでは売れません。祖父母など前の世代の名義のままであれば、まず相続登記を済ませる必要があります。世代をまたぐほど相続人が増えて手続きが重くなります。相続登記は2024年から義務化されており、放置すると過料の対象になる場合があります。まず実家の名義、誰のものか確認する方法で現状を確かめてください。

実家をどうするか、順番を決めかねている方へ
名義を移すべきか、先に売るべきか、遺言で足りるのか。この判断は、実家の評価額・親の年齢と体調・相続人の人数で変わります。30分の無料相談では、固定資産税の納税通知書と家族構成をうかがったうえで、どの順で手を付けるか(今やること・相続まで待つこと)を整理してお渡しします。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
お電話 052-766-5650(相談中は折り返しになります)

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本記事の制度・数値は2026年9月時点のもので、国税庁タックスアンサー(No.3267/No.3302/No.3306/No.4103/No.4152/No.4408/No.7191)および愛知県の不動産取得税の案内を確認して作成しています。不動産取得税は都道府県税のため、税率や軽減の取り扱いは自治体の案内でご確認ください。税制は改正されることがあり、特例の適用可否は個別の事情で変わります。実際の判断にあたっては、税理士・司法書士など専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

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