財産の合計は1億円ほど。ただし内訳は自宅と貸家と、農地。預金は500万円しかない。相続税がかかることは分かっているけれど、その税金を何で払うのか。——不動産の比重が大きい家では、相続税の心配は「いくらかかるか」ではなく「どうやって払うか」の問題になります。
この記事では、納付期限と支払方法の実際を確認したうえで、生命保険の非課税枠がいくらになるのかを計算例で示します。そのうえで「枠を超えてまで保険にする意味があるのか」「そもそも保険が要らないのはどういう家か」まで書きます。売り込みの前に、要らない場合を先に知っておいたほうが判断が早くなります。
先に結論:期限は10か月、非課税枠は人数で決まる
この2つが押さえられれば、あとは「うちはいくら足りないのか」を計算するだけです。順に見ていきます。
納税は10か月以内、原則は現金一括
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています(国税庁タックスアンサーNo.4205)。納付方法は電子納税、クレジットカード納付、金融機関または税務署の窓口での現金納付です。分割で納める延納、財産そのもので納める物納という制度もありますが、どちらも簡単ではありません。
| 方法 | 主な要件 | 実際のところ |
|---|---|---|
| 現金で一括 | 期限までに納付 | これが原則。手元に現金があるなら迷う余地はありません |
| 延納 | 相続税額が10万円超/金銭納付が困難な事由がある/原則として担保の提供/申請期限までに申請書を提出 | 利子税がかかります。担保が要り、審査もあります |
| 物納 | 延納によっても金銭で納付することが困難/課税価格の基礎となった国内の相続財産/管理処分不適格財産でないこと | 延納でも無理な場合の最後の手段。境界未確定の土地などは受け付けられません |
もうひとつ、相続の現場で効いてくる事情があります。金融機関が死亡を把握すると口座は動かせなくなります。遺産分割前でも一定額までは払戻しを受けられる制度(民法909条の2)はありますが、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に法定相続分を掛けた額まで、かつ同一の金融機関につき150万円が上限です。葬儀費用や当面の生活費を賄うための制度であって、相続税を払う規模ではありません。
これに対し、死亡保険金は受取人固有の財産なので、遺産分割の話し合いを待たずに請求できます。主要各社の約款では請求書類の到着日の翌日から原則5営業日以内の支払いで、書類がそろっていれば3営業日程度で入金されることも多くあります(会社・商品により異なります)。「10か月以内に現金で」という条件に、いちばん素直に応える手段になります。
非課税枠はいくらか、計算してみる
相続人が受け取った死亡保険金には、500万円に法定相続人の数を掛けた額まで非課税枠があります(国税庁タックスアンサーNo.4114)。相続人が3人なら1,500万円です。
枠は受取人ごとに500万円ずつ配られるのではなく、全体の枠を受け取った金額の割合で按分します。計算例で見ます。
子Aが1,200万円、子Bが800万円を受け取った場合
・子Aの非課税額 = 1,500万円 ×(1,200万円 ÷ 2,000万円)= 900万円 → 課税されるのは300万円
・子Bの非課税額 = 1,500万円 ×(800万円 ÷ 2,000万円)= 600万円 → 課税されるのは200万円
課税対象の合計500万円は、2,000万円から非課税枠1,500万円を引いた額と一致します。
注意点が2つあります。ひとつは、相続人以外の人が受け取った死亡保険金には非課税の適用がないこと。孫や内縁のパートナーを受取人にすると、この枠は使えません。もうひとつは、相続放棄をした人が受け取った保険金にも非課税は適用されないことです。枠の詳しい使い方は生命保険の死亡保険金にかかる相続税の非課税枠はいくら?にまとめています。
いくら足りないのかを、先に出す
保険金額を決める前に必要なのは、相続税がいくらになりそうかの概算です。順番はこうです。
② 課税遺産総額 = 1億円 − 4,800万円 = 5,200万円
③ 法定相続分で分ける = 配偶者2,600万円/子1,300万円ずつ
④ 速算表をあてる = 配偶者340万円(2,600万円×15%−50万円)/子145万円ずつ(1,300万円×15%−50万円)
⑤ 相続税の総額 = 630万円
配偶者は、取得した正味の遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからないため(配偶者の税額軽減)、実際に納めるのは主に子の分になります。法定相続分どおりに取得した場合、子2人の負担は合計315万円です。
この家なら、必要な現金は300万円台。非課税枠1,500万円をいっぱいまで使う必要はありません。逆に、財産が3億円を超えるような家では、納税額が数千万円になり、非課税枠だけでは到底足りません。
見落とされがちなのが、二次相続です。上の例で配偶者が全部を相続すると、そのときは税額軽減でほぼゼロになりますが、次に配偶者が亡くなったときは相続人が子2人だけになります。基礎控除は4,200万円に下がり、配偶者の税額軽減もありません。非課税枠も1,000万円に減ります。一次相続だけを見て「うちは大丈夫」と判断すると、次で詰まります。
※上記は速算表(国税庁タックスアンサーNo.4152・No.4155)にあてはめた概算です。小規模宅地等の特例や不動産の評価によって実際の税額は変わります。数字を確定させるには税理士の試算が必要です。
枠を超えた分に、意味はあるのか
よく聞かれる質問です。答えは「税金の面では枠までだが、現金の面では枠を超えても意味が残る」です。
判断の軸はこうなります。相続税を減らしたいだけなら、枠までで十分です。納税と当面の生活費を確実に確保したいなら、枠を超える設計にも理由があります。どちらが自分の家に必要かは、上で出した「足りない額」を見れば決まります。そもそも相続税がかかるかどうかから確認したい場合は、相続に関わる保険の30分無料相談もあります。
預金を保険に移して枠を使う——一時払い終身の役割
すでに預金があり、そのうち一部を非課税枠に載せたい場合に使われるのが一時払い終身保険です。保険料を一度にまとめて払い込み、以後の払い込みはありません。1,500万円の預金を一時払い終身に移せば、その部分が非課税枠の対象になります。預金のままなら1,500万円全額が課税価格に入っていたところが、枠の範囲で外れる、という動きです。
ただし、預金と保険では性質が変わります。保険にした分は、途中で解約すると払込額を下回ることがあります。介護や施設入居で急にお金が必要になっても、預金ほど自由には使えません。「使う予定のない資金かどうか」が、移していい額の上限になります。商品の仕組みは一時払い終身保険とは?仕組み・メリット・注意点で確認してください。
相談現場から|相談員メモ
一時払い終身保険の予定利率は各社独自で、月によって最も条件の良い会社が入れ替わります。半年前の資料をそのまま使う、という進め方が通じにくい商品です。健康状態で通常の告知型が難しい場合は告知なしで入れるタイプもありますが、待機期間が会社により9か月・2年・3年と差があり、待機中に亡くなった場合の返還額が払込時のレートか死亡時のレートかも会社によって違います(2026年9月時点)。納税資金という目的なら、「いつまでに、いくらの現金が要るか」を先に決めてから商品を並べる順番になります。当社は愛知県内で累計約500件の相続相談をお受けしてきましたが、保険の話に入る前にこの順番でつまずいている方がいちばん多い、というのが実感です。
保険で用意しなくていい家
- 財産が基礎控除以下:3,000万円+600万円×法定相続人の数を下回るなら、相続税はかかりません。納税資金という目的での保険は要りません。まずは財産の棚卸しからです。
- すぐ動かせる現金が納税額を大きく上回る:預金で足りるなら、わざわざ保険に移す必要はありません。ただし枠が余っているなら、余剰資金の一部だけを移す選択はあります。
- 手元資金に余裕がない:親の生活費や介護費用に使う可能性がある資金を保険にすると、必要なときに引き出せません。優先順位は、いま生きている人の生活が先です。
- 財産のほとんどが不動産で、売る前提が固まっている:売却して納税するなら、売却時期と譲渡所得税を含めた計画のほうが効きます。相続財産を相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すれば、払った相続税の一部を取得費に加算できる特例(国税庁タックスアンサーNo.3267)もあります。
財産の中身が現金中心なのか不動産中心なのかで、対策の中身は変わります。現金だけの相続で注意すべき点は相続財産が現金のみの場合の注意点に整理してあります。
やる順番
- 財産の一覧を作る:不動産(固定資産税の通知書)、預貯金、有価証券、保険証券、借入金。ここが出ないと何も計算できません。
- 基礎控除と概算税額を出す:基礎控除以下ならここで終わりです。
- 手元の現金で払えるかを見る:足りない額が「用意すべき額」です。二次相続の分も並べて考えます。
- いまの保険で非課税枠をどれだけ使っているか確認する:すでに入っている契約で枠を使い切っていることもあります。証券を全部出してから考えます。
- 足りない分だけを埋める:受取人は、納税額が大きくなる人にします。受取人が古いままになっていないかも、このタイミングで直します。
1から3までは自分でできます。まず全体像を掴みたい方は生前対策の診断で、いまの状況に対して何が要るのかを確認してみてください。贈与と保険のどちらを使うかで迷っている場合は一時払い終身保険と生前贈与、どっちが得?が判断材料になります。
あわせて読みたい
- 生命保険の死亡保険金にかかる相続税の非課税枠はいくら?
- 一時払い終身保険とは?仕組み・メリット・注意点を相続の現場から解説
- 一時払い終身保険と生前贈与どっちが得?相続対策の使い分け
- 相続財産が現金のみの場合の注意点とメリット・デメリット
本記事の制度・数値は2026年9月時点の情報にもとづいています。相続税の税額は、財産の評価方法、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減の適用状況によって大きく変わります。この記事の計算例は速算表にあてはめた概算であり、実際の申告額を示すものではありません。具体的な税額と、保険を使った設計の可否については、税理士および契約する保険会社にご確認ください。保険の支払いや引受条件は、会社・商品により異なります。