兄弟で遺産の分け方がまとまらず、家庭裁判所の調停を考え始めた。でも、裁判所に頼むといくらかかるのか、弁護士は付けないといけないのか、その費用は誰が出すのか。ここが分からないと、申し立てるかどうかも決められません。
この記事では、遺産分割調停の費用を「裁判所に納めるお金」「書類をそろえる実費」「弁護士に頼む場合の費用」の3つに分けて整理します。名古屋家庭裁判所の郵便切手の額を使った計算例もつけました。金額は2026年10月時点で確認したものです。
先に結論:自分で申し立てれば1万円台から、大きいのは弁護士費用
この記事の結論
- 裁判所に納めるお金:収入印紙1,200円(亡くなった方1人につき)と、連絡用の郵便切手です。切手の額は裁判所ごとに違います。
- 書類の実費:戸籍・住民票・不動産の評価証明書などの手数料です。相続人3人の例では、印紙・切手・戸籍などを合わせて1万5千円前後です(下の計算例。評価証明書などの手数料は別)。
- 弁護士に頼む場合:着手金と報酬金がかかり、数十万円から百万円を超えることもあります。料金は事務所ごとに違います。
- 誰が払うか:法律の原則は「各自の負担」です。印紙と切手は申し立てる人、弁護士費用は頼んだ人が払います。
調停の申立書が届いた側(相手方)の方は、家庭裁判所から遺産分割調停の呼出状が届いたらで、当日の流れや答弁書の書き方を説明しています。この記事は「申し立てる側の費用」を中心にまとめます。
調停の前に、兄弟だけでもう一度話し合ってみる場合は、遺産相続で兄弟がもめるときで、割合の早見表と話し合いの順番、毎回残す議事メモの例を紹介しています。
裁判所に納める費用:収入印紙と郵便切手
裁判所の案内では、申立てに必要な費用は次の2つです。どちらも申立書と一緒に家庭裁判所へ出します。
調停がまとまらず審判に移ったときも、調停を申し立てた時点で審判の申立てがあったものとみなされます(家事事件手続法272条4項)。あらためて申し立て直す必要はありません。
名古屋家庭裁判所の郵便切手の額
名古屋家庭裁判所の案内では、遺産分割調停の郵便切手は「当事者の人数分」を組み合わせて出します。当事者は、申し立てる人と相手方の両方です。
- 500円×2枚、110円×10枚、100円×5枚、50円×5枚、10円×10枚
- これを当事者の人数分用意します。1人分を足すと2,950円です。
- 同じ弁護士が複数の当事者の代理人になっている場合は、1人と数えます。
岐阜家庭裁判所など他の裁判所では内訳が違います。申し立てる裁判所のホームページか窓口で、最新の額を確かめてから用意してください。
書類をそろえる実費:戸籍・住民票・評価証明書
申立書には、相続人が誰かを示す戸籍と、遺産の中身を示す資料をつけます。裁判所の案内に出てくる主な書類と、取る場所は次のとおりです。
戸籍の束は、法務局で作る「法定相続情報一覧図の写し」で代えられる場合があります(裁判所の案内)。銀行や登記でも使い回せるので、手続きが多い方は先に作っておくと楽です。作り方は法定相続情報一覧図の取り方にまとめています。評価証明書の取り方は固定資産評価証明書の取得方法をご覧ください。
計算例:父が亡くなり、子3人のうち1人が申し立てる場合
名古屋家庭裁判所に申し立てる、という前提で計算してみます。当事者は申し立てる人と、相手方の兄弟2人の合計3人です。戸籍の通数は家によって変わるので、あくまで一つの例です。
自分で申し立てるなら、裁判所に関わる費用はこの程度です。ここに不動産や預金の資料代と、裁判所へ通う交通費が加わります。
不動産の鑑定が必要になったときの費用
実家の値段で意見が分かれると、費用の話が一段上がります。福岡家庭裁判所の説明資料では、相続人全員が合意すれば固定資産評価額や路線価などを参考に評価でき、合意できないときは家庭裁判所が選ぶ不動産鑑定士に鑑定してもらう方法がある、としています。その場合は鑑定費用の負担が必要です。
鑑定費用は物件の数や内容で変わり、決まった金額はありません。鑑定に進む前に、裁判所から示される見込み額を確かめてください。鑑定に進まずに済むよう、査定書や評価証明書を持ち寄って「この金額で合意する」と決められれば、費用も時間も抑えられます。値段の決め方は遺産分割の不動産の評価方法で詳しく比べています。
弁護士に頼む場合の費用の考え方
弁護士費用は、2004年4月に日本弁護士連合会の報酬基準がなくなってから、事務所ごとに自由に決められています。いまも、旧基準の料率をもとに料金表を作っている事務所が少なくありません。旧基準の着手金・報酬金の料率は次のとおりです。
注意したいのは「経済的利益」の数え方です。自分が取得する遺産の全額で数える事務所もあれば、争いのない部分を低く数える事務所もあります。同じ遺産でも見積もりが大きく変わるのはこのためです。
実際の金額感の参考に、日本弁護士連合会が2002年に会員弁護士へ行ったアンケートがあります。遺産総額1億円・相続人は妻と子2人、妻の依頼で調停を申し立て、妻が5,000万円相当を取得した、という設例です。着手金は「50万円前後」の回答が44.1%、「30万円前後」が29.7%でした。報酬金は「100万円前後」が31.6%で最も多く、次いで「180万円前後」が14.9%です。古い調査なので、今の料金表とは差がある前提で見てください。
このほか、期日に出る日当や交通費などの実費を別に請求する事務所もあります。見積もりをもらうときは「着手金」「報酬金の計算方法」「日当」「実費」の4つがそろっているかを確かめてください。弁護士費用の全体像は相続手続きの弁護士費用でも説明しています。
遺産分割調停の費用は誰が払う?
家事事件手続法28条1項は、調停や審判の手続費用を「各自の負担」とするのを原則にしています。事情によっては、裁判所が別の負担のさせ方を決めることもあります(同条2項)。実際の分かれ方は次のとおりです。
相続人全員が納得すれば、申し立てた人が立て替えた費用を遺産から精算する、と調停の中で決めることもできます。精算したいときは、領収書をとっておき、調停の場で持ち出してください。
期間の目安と、期間で増える費用
調停は1回で終わることは少なく、期日ごとに次の日時を決めて続けていきます。金沢家庭裁判所の案内では、次の順に話し合いを進めます。
- 相続人と法定相続分の確定
- 遺産の範囲の確定
- 遺産の評価
- 特別受益や寄与分の確定
- 各相続人の具体的な相続分の算出
- 遺産の分割
どこで止まるかで、かかる時間は大きく変わります。遺産が預金だけで、争いが割合だけなら早く進みます。実家の値段、生前の援助、介護の負担で意見が分かれると、資料のやりとりで回数が増えます。回数が増えるほど、弁護士の日当や交通費、仕事を休む負担も増えていきます。
介護をした分を主張したい場合は、何をどれだけしたかの記録が要ります。考え方は親の介護で兄弟が不公平なときの話し合い方と寄与分にまとめています。
費用を抑えるためにできること
- 申立書は自分で書く:書式と記載例は各家庭裁判所のホームページにあります。書類作成だけを司法書士に頼む方法もあります。
- 弁護士は「相談だけ」から使う:初回の期日の前に一度相談し、出すべき資料と見通しを聞くだけでも進め方が変わります。
- 不動産の値段は早めに合意する:査定書や評価証明書を持ち寄って金額を決めれば、鑑定の費用と時間を省けます。
- 法テラスを確かめる:収入や資産が一定以下なら、法テラスの民事法律扶助で弁護士費用の立替えを受けられる場合があります。
今日できる一歩
- 申し立てる先の家庭裁判所(相手方の誰かの住所地)を決め、そのホームページで郵便切手の内訳を確かめる。
- 当事者の人数で、印紙と切手の合計を上の計算例にならって出してみる。
相続全体でほかに備えておくことがないか気になる方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相手方になった側も、裁判所に費用を払いますか
印紙と切手は申し立てた人が納めるので、相手方が裁判所に払うものは基本的にありません。自分で資料を取る手数料、交通費、弁護士に頼む場合の費用は自分の負担です。
父と母の遺産をまとめて調停できますか。印紙はいくらですか
収入印紙は亡くなった方1人につき1,200円なので、2人分なら2,400円です。まとめて進められるかどうかは事情によるため、申し立てる家庭裁判所に確かめてください。
弁護士費用を、遺産から払ってもらうことはできますか
原則として、弁護士費用は頼んだ人の負担です。相手に請求することはできません。相続人全員が合意すれば、遺産の分け方の中で精算することは可能です。
調停が不成立で審判になったら、追加の費用はかかりますか
審判は、調停の申立ての時に申し立てられたものとみなされます。あらためて申立て費用を納める必要はありません。ただし郵便切手の追加や、鑑定費用が必要になることはあります。弁護士に頼んでいる場合は、審判で追加の着手金がかかるかを契約で確かめてください。
弁護士を付けずに調停をしても大丈夫ですか
弁護士を付けず、本人だけで進めることもできます。遺産が預金中心で、争いが割合だけなら本人でも進めやすいです。実家を誰が継ぐか、生前の援助や使い込みが争いになっている場合は、一度は弁護士の意見を聞いてください。
切手が余ったら返ってきますか
扱いは裁判所によって違います。手続きが終わったときの扱いは、納めるときに担当の書記官に聞いておくと安心です。
参考にした公的情報
- 裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html - 名古屋家庭裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/isanbunkatu/index.html - 金沢家庭裁判所「遺産分割調停」案内資料
https://www.courts.go.jp/kanazawa/vc-files/kanazawa/2023/kasai/2023kasai-syosiki/009_2023/08_isan-2023.pdf - 福岡家庭裁判所 遺産分割調停の説明資料
https://www.courts.go.jp/fukuoka/vc-files/fukuoka/file/30603007.pdf - e-Gov法令検索「家事事件手続法」(第28条・第272条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052 - 日本弁護士連合会「アンケート結果に基づく市民のための弁護士報酬の目安(2002年アンケート結果版)」
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。郵便切手の額や手数料は裁判所・市区町村によって異なり、変わることがあります。弁護士費用は事務所ごとに異なります。個別の判断は弁護士・司法書士にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
