夫の葬儀が済み、年金事務所から届いた封筒を前に「70歳を過ぎたわたしは、何をもらえるのだろう」と手が止まる。夫を亡くした70代・80代の方から、よく伺う場面です。
結論から言うと、70歳以上の妻は、自分の年金を受け取りながら、夫の遺族厚生年金の「差額」を受け取る形になります。この記事では、その仕組みと、生年月日で決まる上乗せ(経過的寡婦加算)、令和8年度の額での計算例、手続きと期限を、2026年10月時点の日本年金機構の案内で整理します。80歳以上の方が子どもに手続きを任せるときの委任状や、夫が施設に入っていて住所が別だった場合の書類もまとめました。
60代で夫を亡くした方や、遺族年金の全体像を先に知りたい方は、遺族年金で妻はいくら?夫が亡くなったときの年金の計算と手続きをご覧ください。この記事は、70歳以上の妻に絞って書いています。
先に結論:70歳以上の妻は「自分の年金+遺族厚生年金の差額」です
この記事の結論
- 何がもらえる:対象は主に遺族厚生年金です。自分の老齢厚生年金が先に全額支払われ、遺族厚生年金はそれを上回る差額だけが入ります。
- 上乗せ:中高齢寡婦加算は65歳までなので付きません。昭和31年4月1日以前生まれの妻には、条件を満たすと経過的寡婦加算(令和8年度は年21,147円〜633,700円)が付きます。
- 手続き:年金事務所に請求書を出して初めて支払いが決まります。受け取る権利は、夫が亡くなった日の翌日から5年で時効になります。
70歳以上の妻が受け取れるもの・受け取れないもの早見表
遺族年金は、遺された人の年齢よりも「亡くなった夫がどの年金に入っていたか」で決まります。夫に会社員や公務員として厚生年金に入った期間があれば、妻が80代でも遺族厚生年金の対象です。年齢の上限はありません。
遺族基礎年金が対象外になる理由
遺族基礎年金は、子どもを育てる家庭を支えるための年金です。受け取れるのは「子のある配偶者」か「子」に限られます。70代の妻の子どもは成人していることがほとんどなので、対象になりません。夫が国民年金だけに入っていた場合は、遺族厚生年金もありません。この場合、70歳以上の妻が受け取れるのは、主に未支給年金になります。国民年金だけの夫の場合の制度は寡婦年金と死亡一時金の違いで整理しています。
自分の老齢厚生年金が先、遺族厚生年金は差額になる仕組み
65歳以上の妻は、自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を一緒に受け取れます。自分にも老齢厚生年金があるときは、次の2段階で額が決まります。
- 遺族厚生年金の額を決める。「①夫の報酬比例部分の4分の3」と「②夫の報酬比例部分の2分の1+自分の老齢厚生年金の2分の1」を比べ、高いほうが遺族厚生年金の額です。報酬比例部分とは、働いていたときの給与と加入期間で決まる厚生年金の中心部分です。
- 自分の老齢厚生年金を先に払う。自分の老齢厚生年金は全額支払われます。遺族厚生年金は、自分の老齢厚生年金に当たる額が止まり、残りの差額だけが支払われます。
つまり「夫の年金の4分の3が、自分の年金にそのまま足される」わけではありません。自分の厚生年金が多い方ほど、遺族厚生年金として入る分は小さくなります。自分の厚生年金のほうが多ければ、遺族厚生年金はゼロになることもあります。
夫の老齢基礎年金(国民年金の部分)は妻に引き継がれないため、世帯の年金は夫婦2人の頃より減るのが普通です。
経過的寡婦加算:昭和31年4月1日以前生まれの妻への上乗せ
70歳以上の妻に付く可能性があるのは、中高齢寡婦加算ではなく「経過的寡婦加算」です。昭和31年4月1日以前生まれの妻が、65歳以上で遺族厚生年金を受け取る権利を得たときに付きます。65歳前から中高齢寡婦加算を受けていた方は、65歳でこの加算に切り替わっています。
額は生年月日で決まり、若い方ほど少なくなります。2026年10月時点で70歳の方でも、昭和31年4月2日以後生まれ(2026年4月2日以降に70歳になった方)は対象外です。
加算が付かない、または止まる場面もあります。年金を受け取っていた夫の厚生年金の加入期間が20年未満のとき(中高齢の期間短縮の特例に当たる方を除く)は付きません。妻が障害基礎年金を受け取っている間は止まります。
70歳以上の妻はいくら?令和8年度の額での計算例
仕組みを確かめるための仮の例です。前提は次のとおりです。
- 妻は昭和25年6月生まれ(2026年10月時点で76歳)。経過的寡婦加算は年126,760円(令和8年度)
- 夫は老齢厚生年金を受け取っていて、厚生年金の加入期間は20年以上。報酬比例部分は年120万円
- 妻自身の老齢基礎年金は年78万円(仮)。障害基礎年金は受け取っていない
- 端数処理や、ほかの加算・控除は考えない
出典:日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」「年金給付の経過措置一覧(令和8年度)」の計算方法と額に、仮の数字を当てはめた例(2026年10月時点)。実際の額は年金事務所でご確認ください。
上の2行は、自分の厚生年金が違っても合計が同じです。①が選ばれる範囲では、自分の厚生年金が増えた分だけ差額が減るためです。「共働きだったのに損をした」と感じやすい点ですが、自分の年金は全額受け取れています。
80代の方は、生年月日が早いほど経過的寡婦加算が大きくなります。たとえば昭和19年4月2日〜昭和20年4月1日生まれ(2026年10月時点で81〜82歳)は年253,495円です。上の表の「自分の老齢厚生年金が年20万円」の行に当てはめると、遺族厚生年金は90万円+253,495円=1,153,495円で、実際に入る差額は953,495円(月約7.9万円)になります。
なお、遺族年金には所得税・住民税がかかりません。
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手続きの流れと必要書類、期限は5年
遺族厚生年金は、待っていても自動では始まりません。窓口は、お近くの年金事務所か街角の年金相談センターです。対面の相談は予約制なので、先に電話かインターネットで予約します。
- 相談を予約する。予約相談の電話は0570-05-4890です。「夫が亡くなり、遺族年金を請求したい」と伝え、持ち物を聞いておきます。
- 書類をそろえる。下のチェックリストを使います。戸籍謄本と住民票は、夫が亡くなった日以降に交付され、提出日から6か月以内のものが必要です。
- 年金請求書を出す。使うのは「年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)」です。夫が年金を受け取っていたときは、未支給年金の請求書も一緒に出します。
- 年金証書が届く。提出から1か月程度、加入状況の確認が要る場合は2か月程度です。
- 振り込みが始まる。年金証書が届いてから1〜2か月後です。夫が亡くなった月の翌月分から計算され、偶数月に2か月分ずつ振り込まれます。
必要書類チェックリスト
- □ 年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)。窓口にもあります
- □ 戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し
- □ 世帯全員の住民票の写し(夫の除票が含まれていれば、除票は不要)
- □ 妻の収入が分かる書類(所得証明書、課税・非課税証明書、源泉徴収票など)
- □ 死亡診断書(死体検案書)のコピー、または死亡届の記載事項証明書
- □ 妻名義の通帳など(公金受取口座を使う場合は不要)
- □ 夫と妻の年金証書、基礎年金番号が分かるもの
- □ 夫が年金を受け取っていた場合は「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」
請求書にマイナンバーを書くと、戸籍謄本・住民票・収入の書類は省略できる場合があります。交通事故など第三者の行為で亡くなった場合は、別の書類が要ります。戸籍の束の代わりに使える一覧図は法定相続情報一覧図の取り方にまとめています。
期限は5年。過ぎたらどうなるか
遺族年金を受ける権利は、夫が亡くなった日の翌日から5年で時効になります(国民年金法・厚生年金保険法)。毎回の支払いを受ける権利も、支払日の翌月の初日から5年で時効にかかります。請求が遅れると、5年より前の分は原則として受け取れなくなります。
やむを得ない事情で5年以内に請求できなかったときは、理由を書面で申し立てる取り扱いがあります。未支給年金も5年で時効です。四十九日が落ち着いた頃を目安に、早めに予約を入れておくと安心です。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
80歳以上で夫が亡くなったときの手続き|子どもが代わりに動く段取り
80代で夫を亡くした方は、ご本人が年金事務所に出向くのが難しいことも少なくありません。遺族厚生年金を請求するのは妻本人ですが、窓口での相談や書類の提出は、子などが代わりにできます。日本年金機構の案内に沿うと、段取りは次のとおりです。
- 母に委任状を書いてもらう:委任状は本人が作成します。様式は日本年金機構のホームページにあり、任意の用紙でも、委任日、代理人の氏名・住所・本人との関係、本人の基礎年金番号・氏名・生年月日・住所・電話番号、委任する内容を書けば使えます。
- 持ち物をそろえる:委任状、来所する子の本人確認書類、母の基礎年金番号が分かるもの(年金証書など)です。基礎年金番号が分からないときは、母の本人確認書類の写しが要ります。
- 夫が施設や病院にいて住所が別だった場合は、生計が同じだった証明を用意する:「生計同一関係に関する申立書」に、入所・入院の証明や費用の領収書の写し、仕送りが分かる通帳の写しなどを添えます。これらを出せば、申立書への第三者の証明は要らないとされています。
- 未支給年金も同じ日に請求する:夫が受け取るはずだった、亡くなった月までの年金です。遺族厚生年金とは別の請求書で、受け取るのは母名義の口座です。
病気などで母が委任状を書けないときは、日本年金機構の「委任状を作成できない場合」の案内に沿って対応します。まず年金事務所に事情を伝えて相談してください。書類の全体と、マイナンバーで省ける書類は遺族年金の請求・必要書類にまとめています。
70代・80代の妻が損しやすい点
- 4分の3がそのまま足されると思い込む。自分の老齢厚生年金がある方は差額です。暮らしの見通しは、差額で立て直します。
- 自分の年金を繰り下げて待っている。66歳以降の繰下げ待機中に遺族年金の権利ができると、その時点で増額率が固定されます。待ち続けても増えないので、年金事務所で相談します。自分の老齢年金をまだ請求していない方は、あわせて請求します。
- 経過的寡婦加算が付くか確かめない。生年月日と夫の加入期間で決まります。年金証書や決定通知書に加算の記載があるか見ておきます。
- 未支給年金を請求し忘れる。夫のマイナンバーが日本年金機構に登録されていれば死亡届は原則省略できますが、未支給年金は請求しないと受け取れません。
- 夫名義の預金で当面をしのげると思う。夫の預金は、相続の手続きが済むまで動かせないことがあります。振り込みまで数か月かかる前提で、生活費の置き場所を決めます。
年金の手続きが落ち着いたら、残された親のお金と家のことを、子どもと一緒に見直す時期です。確かめておきたいことは二次相続とは?親の一人が亡くなったら確かめる5つで整理しています。
今日できる一歩
ご自身の年金証書か年金額改定通知書を出して、生年月日と「老齢厚生年金」の額にしるしをつけます。この記事の経過的寡婦加算の表と計算例に当てはめると、相談のときに話が早く進みます。
よくある質問
80歳を過ぎていても遺族年金は受け取れますか
受け取れます。遺族厚生年金に妻の年齢の上限はありません。夫に厚生年金の期間があり、夫に生計を維持されていたことが条件です。
80歳以上で夫が亡くなったときの手続きは、子どもが代わりにできますか
できます。母が作成した委任状、来所する子の本人確認書類、母の基礎年金番号が分かるものを持って年金事務所に行きます。夫が施設に入っていて住所が別だった場合は、生計が同じだったことを示す書類も用意します。母が委任状を書けないときは、年金事務所に事情を伝えて相談してください。
夫が年金を受け取る前に亡くなった場合はどうなりますか
夫に加入期間などの合計25年以上の資格があれば、受け取っていなくても対象になります。夫が会社で厚生年金に入って働いている間に亡くなった場合も対象です。
遺族年金の計算は自分でできますか
目安なら出せます。夫の報酬比例部分の額は、夫の年金額改定通知書や年金証書で見当をつけます。正確な額は、ねんきんダイヤル(0570-05-1165)や年金事務所で確かめてください。
再婚したら遺族年金はどうなりますか
婚姻(届出をしない事実上の婚姻を含む)をすると、遺族厚生年金を受ける権利はなくなります。10日以内に「遺族年金失権届」を出します。
2028年4月からの見直しで減りますか
70歳以上の妻の遺族厚生年金は変わりません。2028年(令和10年)4月施行の見直しは、主に60歳未満で死別した方が対象です。厚生労働省は、60歳以上で死別した方や、すでに受け取っている方は影響を受けないとしています。
参考にした公的情報
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html - 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」(PDF)
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-3.pdf - 日本年金機構「年金給付の経過措置一覧(令和8年度)」(PDF)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/nenkingaku/20150401-02.files/0804.pdf - 日本年金機構「遺族厚生年金を受けられるとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/izoku/seikyu/20140617-02.html - 日本年金機構「年金の時効」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/shikyu/20140421-01.html - 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html - 日本年金機構「年金相談や手続きを代理人に委任するとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/sonota/20140306.html - 日本年金機構「生計同一関係証明書類等について」(PDF)
https://www.nenkin.go.jp/shinsei/jukyu/kyotsu/20140425.files/leaf.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。受け取れる年金の種類や額は、夫と妻それぞれの加入記録、生年月日、家族の状況で変わります。計算例は仕組みを説明するための仮の数字です。実際の額や手続きは、年金事務所またはねんきんダイヤルでご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
