病院の会計で、思っていたより高い額を払った。数か月たって、役所から「高額療養費」のはがきが届いた。70歳を過ぎると、こうした場面が増えてきます。
高額療養費は、1か月の医療費の自己負担に上限を設けるしくみです。ただし、最初の1回は自分で申請しないと振り込まれません。この記事では、70歳以上の方の上限額と、申請の手順・必要なもの・期限を、2026年10月時点の公式な案内で整理します。
先に結論:70歳以上は「初回だけ申請」が基本です
この記事の結論
- いくら:1か月の上限は、年収約370万円までの「一般」の方で外来22,000円、入院も含めた世帯で61,500円です(2026年8月診療分から)。超えた分が戻ります。
- どこへ:75歳以上は市区町村の後期高齢者医療の窓口、70〜74歳は加入している国民健康保険や会社の健康保険へ。診療月の3〜5か月後に届く案内に沿って申請します。
- いつまで:診療月の翌月1日から2年です。後期高齢者医療などでは、一度申請すれば次からは自動で振り込まれます。
2026年8月に上限額そのものが見直されました。変わった点と、まだ検討中の点は高額療養費2026年8月見直し|70歳以上の上限額で詳しく扱っています。この記事は「どう申請して、どう受け取るか」に絞ります。
高額療養費の対象になるもの・ならないもの
計算は、月の1日から末日までの1か月ごとです。月をまたいで入院すると、月ごとに分けて計算します。70歳以上の方は、通院だけの上限(個人ごと)と、入院も含めた上限(世帯ごと)の2本立てです。
月の途中で75歳になった方は、誕生月の上限額が半分になります。1日生まれの方は除きます(愛知県後期高齢者医療広域連合の案内)。
70歳以上の1か月の上限額(2026年8月〜2027年7月)
区分は、住民税の課税所得などで決まります。区分の名前は加入先で少しずつ違いますが、金額は共通です。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」、愛知県後期高齢者医療広域連合「自己負担限度額」、東京都「高額療養費(後期高齢者医療)」、協会けんぽ「高額な医療費を支払ったとき」。
2026年7月診療分までは、一般区分の外来が18,000円(年間144,000円)、世帯が57,600円でした。住民税非課税IIは外来8,000円・世帯24,600円、住民税非課税Iは外来8,000円・世帯15,000円です。上限は診療を受けた月で決まるので、7月までの分は以前の額で計算されます。
計算の例
- 通院だけの月:75歳・1割・一般区分の方が、3つの病院と薬局で合計3万円払った。外来の上限は22,000円なので、8,000円が戻ります。
- 入院した月:同じ方が入院し、その月の医療費の総額が100万円だった。1割なら10万円ですが、世帯の上限は61,500円です。差の38,500円は払わずに済むか、あとで戻ります。食事代と差額ベッド代は別です。
年間上限と、今後の見直し
2026年8月から、外来と入院を合わせた世帯の年間上限ができました。最初の集計期間は2026年8月〜2027年7月です。払い戻しは期間が終わってからで、協会けんぽは年間上限の申請を2027年8月から受け付ける予定としています。年収約200万円未満と確認できた方の41万円の上限も、払い戻しは2027年8月以降です。
2027年8月からは、所得の区分がさらに細かく分かれることが決まっています(厚生労働省)。一方、70歳以上の窓口負担の割合(1割・2割・3割)や、外来の上限のしくみの見直しは、2026年10月時点で議論の段階です。決まった内容はありません。
申請から振り込みまでの流れ
- 病院・薬局で、いつもどおり支払う。領収書は月ごとにまとめて取っておきます。
- 3〜5か月後に、案内と申請書が届く。病院からの請求をもとに、加入先が上限を超えた月を見つけて送ってきます。名古屋市は「診療月の概ね4か月後」、横浜市は「3〜5か月後」と案内しています。
- 申請書に書いて出す。振込先の口座を書き、同封の返信用封筒で郵送するか、窓口に持参します。名古屋市の後期高齢者医療は電子申請もできます。
- 振り込まれる。申請してから1〜2か月ほど(板橋区)、2〜4か月ほど(横浜市)が目安です。支給決定のはがきで金額が知らされます。
- 2回目からは自動。後期高齢者医療では、一度申請すると、次からは登録した口座に自動で振り込まれます(名古屋市、横浜市、板橋区)。
自動になるかどうかは、加入先で違います。
申請に必要なものチェックリスト
- □ 届いた支給申請書(案内に同封)
- □ 資格確認書、またはマイナ保険証
- □ マイナンバーカード(ない場合は通知カードや運転免許証など。郵送のときは写し)
- □ 振込先がわかるもの(本人名義の通帳やキャッシュカード)
- □ 病院・薬局の領収書(求められたときのために保管)
- □ 家族が窓口で手続きするときは、案内に書かれた代理の書類
必要なものは市区町村や加入先で少しずつ違います。届いた案内に書かれているものが正解です(板橋区、横浜市の例)。
窓口の支払いを、最初から上限までにする方法
あとで戻るとはいえ、入院費をいったん全額立て替えるのは負担です。窓口で上限額までの支払いにする方法があります。
- マイナ保険証で受付をする:事前の手続きなしで、窓口の支払いが上限額までになります。使い方はマイナ保険証の使い方にまとめています。
- 75歳以上でマイナ保険証を使わない方:一般・現役並みIIIの方は、資格確認書を出せば上限までになります。現役並みII・I、住民税非課税II・Iの方は、市区町村に申請して資格確認書に区分を書き添えてもらいます(限度区分の併記)。住民税非課税の方は、入院中の食事代の減額もこの手続きで受けられます。
- 70〜74歳で会社の健康保険の方:現役並みII・Iの方は「限度額適用認定証」、住民税非課税の方は「限度額適用・標準負担額減額認定証」を加入先に申請します。一般・現役並みIIIの方は認定証がなく、資格確認書と高齢受給者証を出します(協会けんぽ)。
協会けんぽの認定証は、申請を受け付けた月の1日から有効で、前の月にさかのぼって出してもらうことはできません。入院が決まったら早めに申請します。国民健康保険の方は、市区町村の国保の窓口で必要な手続きを確かめてください。
なお、窓口で上限までになるのは、その病院の分だけです。同じ月に別の病院や薬局にもかかったときは、合算した分があとで払い戻されます。
期限は2年:過ぎたら戻らない。亡くなった後も請求できます
高額療養費を請求できるのは、診療を受けた月の翌月1日から2年です。2年を過ぎると時効になり、申請できなくなります(堺市、板橋区)。たとえば2024年10月に受診した分は、2026年10月末ごろが期限です。届いたはがきを引き出しに入れたままにしないことが大事です。
本人が亡くなった後でも、まだ受け取っていない高額療養費は、相続人が請求できます。払い戻しは診療の3〜5か月後なので、最後の数か月分は、亡くなった後に案内が届くことがあります。
- 申請する人:相続人の代表者です(板橋区、横浜市)。
- 必要になるもの:相続人であることがわかる書類(戸籍謄本の写し、法定相続情報一覧図など)、相続人代表者の届出書、申請する人の本人確認書類、振込先がわかるもの。亡くなった方と同じ世帯の配偶者や子は、一部の書類を省略できる場合があります(板橋区)。
- 口座が止まっているとき:本人の口座がすでに登録されていても、相続の手続きで止まっていると振り込めません。その場合は、市区町村から改めて書類が届きます(板橋区)。
- はがきの宛先:案内は亡くなった方の住所に届きます。実家が空き家なら、郵便物をこまめに確かめるか、転送の手続きを考えておきます。
死亡届を出した後に役所でできる手続きは、死亡届の出し方と提出後の手続きにまとめています。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で整理できます。
「自動では振り込まれない」場面:受け取り損ねやすい点
- 初回は申請しないと振り込まれません。はがきを広告と間違えて捨ててしまうと、そのまま期限が過ぎてしまいます。
- 75歳で加入先が変わります。国保で自動振込にしていても、後期高齢者医療に移ると、改めて初回の申請が必要になることがあります。
- 口座を解約・変更したら届け出が要ります。登録口座が使えないと、自動振込は止まります。
- 保険料の滞納があると、自動にならないことがあります(国保の簡素化の対象外になる例)。
- 年間上限は、期間が終わってから。8月〜翌年7月の合計で見るため、すぐには戻りません。
- 食事代・差額ベッド代は戻りません。入院の費用の見積もりでは別に考えます。
今日できる一歩
- 家にある「高額療養費」「支給申請」と書かれたはがきや封筒を探し、出していないものがないか見る。
- 資格確認書か資格情報のお知らせで、自分(親)の負担割合と区分を確かめる。
- 病院と薬局の領収書を、診療月ごとに1つの封筒にまとめる。
よくある質問
案内のはがきが届きません
上限を超えていない月は、案内は届きません。届くまでに3〜5か月かかることもあります。半年たっても届かず、上限を超えたはずだと思うときは、領収書を手元に置いて加入先の窓口に問い合わせます。
親の分を子どもが申請できますか
郵送で申請できる市区町村もあり(板橋区など)、家族が書類をそろえて送ることができます。窓口で代わりに手続きするときに必要な書類は、届いた案内か市区町村のホームページで確かめてください。振込先は、本人(国保は世帯主)名義の口座が基本です。
振込先の口座を変えたいときは
後期高齢者医療では、口座を変えるときは改めて申請が必要です(横浜市)。古い口座を解約する前に手続きをすませておくと、振り込みが止まりません。
医療費控除とどちらかを選ぶのですか
選ぶものではなく、両方使えます。医療費控除の計算では、高額療養費で戻った分を払った医療費から差し引きます。くわしくは医療費控除のやり方をご覧ください。個別の税額の判断は、税務署や税理士にご確認ください。
高額療養費の上限は、介護サービスの費用と合算されますか
月ごとの高額療養費とは別です。介護保険のサービス費には高額介護サービス費という別の上限があります。医療と介護の両方の負担が重い世帯には、1年分を合わせて見る「高額介護合算療養費」というしくみもあります。
参考にした公的情報
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001726232.pdf - 愛知県後期高齢者医療広域連合「自己負担限度額」(2026年7月15日更新)
https://www.aichi-kouiki.jp/iryou/1001922.html - 全国健康保険協会(協会けんぽ)「高額な医療費を支払ったとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/ - 名古屋市「高額療養費(後期高齢者医療)」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/hoken/1016449/1034710/1016466.html - 板橋区「高額療養費(相続)の支給」
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kenko/kourei/kouki/shikyu/1036513.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。上限額の区分、申請の方法や必要なものは、加入している医療保険や市区町村によって異なります。ご自身の区分や手続きは、加入先の窓口でご確認ください。病気や治療についての判断は医師にご相談ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
