「介護は近くに住む私がずっとやってきたのに、相続の話になった途端『きょうだいなんだから平等に』と言われた」——そんな趣旨のご相談を伺うことがあります。実家の近くに住む姉が母の通院の付き添いや施設探し、預貯金の管理まで一手に引き受け、離れて暮らす妹とは連絡を取る頻度も少しずつ減っていく。母の生活が落ち着いた頃、ふと「この先の相続では、自分の苦労が少しでも報われてほしい」という本音がこぼれる——多くのご家庭で見られる、典型的な構図です。
では、この不公平は裁判で認められるのでしょうか。家庭裁判所に持ち込める手続きはありますが、「介護をした」というだけで認められるものではありません。使える手続きも、親が元気なうちか、亡くなった後かで変わります。この記事では、2026年10月時点の民法と裁判所の案内にもとづいて、裁判所で何が認められるのか、認められにくいのはどんなときかを整理します。
この記事の結論(30秒まとめ)
- 親の介護の不公平を家庭裁判所に持ち込む道は、場面で3つに分かれます。親が元気なうちは「扶養請求調停」、親が亡くなった後は、相続人なら「寄与分を定める処分調停」、相続人でない親族は「特別の寄与に関する処分調停」です。
- 寄与分が認められるのは、親子の通常の助け合いを超える「特別の寄与」があったときだけです。同居して世話をした、ときどき付き添った、という程度では認められにくく、認められても請求した額より小さくなることがあります。
- 申立ての費用は収入印紙1,200円分ほどと少額ですが、調停や審判には時間と証拠が要ります。介護の記録、遺言、家族会議のほうが確実です。話し合いと記録の残し方は、別の記事で詳しく説明しています。
「不公平」という気持ちの奥には、取り分を増やしたいというより、「自分の時間や気持ちを犠牲にしてきたことを認めてほしい」という思いがあることが少なくありません。ただ、その思いをそのまま主張しても、法律の裏付けがなければ話は平行線になりがちです。この記事は、話し合いで決まらなかったときの「法的な手段」を中心に整理します。兄弟での話し合いの進め方や、お金の記録の残し方は、親の介護で兄弟が不公平…どう話し合う?に分けてまとめています。
親の通院の付き添いや預貯金の管理を、きょうだいの中でひとりで引き受けている方は、親の判断力が落ちると定期預金が家族では下ろせなくなる点も先に知っておけます。
介護の費用を親の定期預金から出せなくなる前に裁判では何が認められる?家庭裁判所で扱える3つの手続き
「裁判」と聞くと、きょうだいを相手に訴える場面を思い浮かべるかもしれません。実際に最初に行くのは、家庭裁判所の「調停」です。調停委員を交えて話し合い、まとまらなければ「審判」という形で裁判官が決めます。介護の不公平に関わる手続きは、次の3つです。
寄与分には、もう一つ注意点があります。寄与分は遺産分割の中で決まるため、調停が不成立になって審判に進むとき、遺産分割の審判の申立てをしていないと却下されます(裁判所の案内による)。寄与分だけを単独で争う、という形にはなりにくい制度です。
調停から審判まで:裁判所はどう決めるのか
- まず、きょうだい同士で話し合います(協議)。
- まとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員が双方の事情を聞き、解決案を示して合意を目指します。
- 合意できれば調停成立です。
- 合意できなければ、原則として審判に進みます。裁判官が、あらゆる事情を考慮して決めます。
寄与分では、寄与の時期・方法・程度や、相続財産の額などの事情が考慮されます(民法904条の2)。扶養では、親が必要とする額と、きょうだいそれぞれの資力などの事情が考慮されます(民法879条)。どちらも「一律に平等」とは決まっておらず、一人ひとりの事情で結論が変わります。
寄与分で、介護はどこまで認められるのか
寄与分の条文が求めているのは「特別の寄与」です。親子の通常の助け合いを超えているかどうかが、分かれ目になります。裁判所が基準の一覧を公表しているわけではないため、次の表は、実務で一般に言われる見られ方の目安です。
金額は、同じ介護を専門職に頼んだ場合の費用を目安にして、家族であることを考えて調整する、という考え方が使われることがあるとされます。「頑張った分がそのまま金額になる」わけではありません。請求した額より小さく認められることも、認められないことも、十分あります。寄与分の額が決まった後に、兄弟それぞれの取り分がいくらになるかの計算例は寄与分と特別寄与料の違い・期限・金額の計算例にあります。
親が元気なうちに「扶養請求調停」を使うこともできる
裁判所の案内では、扶養請求調停は「親やきょうだいなどの世話を誰がするかについてや,その費用の負担について話し合う手続」とされています。きょうだいの誰かが費用を出さない、役割分担が決まらない、といったときに、親の存命中から申し立てられます。話し合いの手続きなので、調停で決まるのは、費用の分け方や役割の分け方が中心です。調停が不成立になると、原則として審判に進み、裁判官が決めます。
ただし、扶養は「親の暮らしに必要なこと」を、きょうだいの資力に応じて分けるものです。介護をしてきた苦労への見返りを求める手続きではありません。苦労への見返りは、亡くなった後の寄与分で考えることになります。
裁判の前に知っておきたい3つのこと
- 時間がかかります。調停は何回か期日が開かれます。審判まで進むと、数か月以上かかることがあります。
- 証拠が要ります。介護日誌、領収書、要介護認定の通知書、ケアプランの控えなどです。記録の残し方は、親の介護で兄弟が不公平…どう話し合う?にまとめています。
- きょうだいとの交渉や、申立書の作成・代理は、弁護士の仕事です。当社は、きょうだいの側に立って交渉することはできません。見通しを知りたい段階なら、30分の無料相談で、準備する資料の順番を整理できます。
なぜ「介護は私ばかり」になってしまうのか
複数のきょうだいがいても、実際に手を動かすのはいつも一人、というケースは珍しくありません。これは本人の優しさや几帳面さの問題というより、いくつかの構造的な理由が重なって起きています。
- 物理的な距離:実家の近くに住んでいるというだけで、通院の付き添いや急な呼び出しに対応できるのが一人に限られてしまう。
- 「長女だから」「女きょうだいだから」という無言の役割期待:本人も家族も明確に決めたわけではないのに、なんとなく世話役が固定されていく。
- 時間の融通が利く人に集中する:専業主婦・パート・在宅勤務など、比較的動きやすい立場の人に負担が寄っていく。
- 「一度引き受けると抜けられない」構造:最初に対応した人が窓口になり、他のきょうだいは「もう任せておけば大丈夫」と関与を減らしていく。
- 親自身が負担配分に無頓着:親は「きょうだい皆に迷惑をかけたくない」と思っていても、実際に誰にどれだけ負担がかかっているかまでは把握していないことが多い。
- きょうだいの人数が少ない、または疎遠:きょうだいが2人しかいない、あるいは仕事や結婚を機に関係が薄くなっている場合、選択肢がないまま一人に集中しやすい。
こうした要因が重なると、介護を担う側は「なぜ自分ばかり」という疲労と孤独を抱え、関与の薄いきょうだいは「特に何も言われていないから大丈夫」と状況を軽く見てしまう、というすれ違いが生まれます。この温度差が、後になって相続の話し合いの場で一気に噴き出すことが少なくありません。
冒頭のご相談も、まさにこの積み重ねの結果でした。最初は「近くに住んでいるから」という理由だけで通院の付き添いを引き受けた姉が、数年のうちに施設探しから預貯金の管理まで一人で担うようになり、気づけば「相談すること」自体をやめてしまっていた。一方の妹は、頼まれなかったことを「自分は必要とされていない」と受け取り、距離を置くようになっていった——。どちらか一方が悪いというよりも、負担と情報が偏っていく過程で、少しずつ関係がすれ違っていくケースは少なくありません。
裁判の前にできること:話し合い・記録・公的サービスの要点
不公平感を根本から解消することは難しくても、負担そのものを減らし、後々の誤解を防ぐための実務的な工夫はいくつもあります。
話し合いの切り出し方の文例や、お金の記録の残し方は、親の介護で兄弟が不公平…どう話し合う?で詳しく説明しています。この章では要点だけを紹介します。
話し合いの持ち方
相手を責めず、「今こういう状況で、こう困っている」という事実から話し始め、役割を分けて、見直す日を決めておくのが基本です。切り出しの文例と、担当・費用・見直し日の決め方は、親の介護をしない兄弟と相続の割合の「兄弟での話し合いの進め方と文例」で説明しています。
記録を「見える化」する
調停や審判では、介護をしたことを示す記録が欠かせません。介護日誌は特別な様式が要らず、「日付・行った対応・かかった時間や費用」を短く残すだけで足ります。介護日誌・ケアプラン・領収書など、残しておく記録の一覧は親の介護をしない兄弟と相続の割合の記録の表にまとめています。
地域包括支援センターなど公的サービスの活用
介護を家族だけで抱え込む必要はありません。お住まいの市区町村が設置する地域包括支援センターでは、介護保険サービスの利用相談から、ケアマネジャーの紹介、家族間の調整に関する相談まで、無料で対応してもらえます。デイサービスやショートステイ(短期入所)を組み合わせることで、特定の人に負担が偏る状況を制度的に分散させることも可能です。「まだそこまでではない」と感じる段階でも、早めに相談窓口とつながっておくことで、いざというときの動き方がスムーズになります。
役割分担は、必ずしも「時間」で均等にする必要はありません。例えば、近くに住むきょうだいが通院の付き添いや日々の見守りを担う一方で、遠方のきょうだいは施設費用の一部負担や、介護保険の手続き・医療費控除の申請といった事務作業を引き受ける、というように「時間」と「お金」で役割を分ける方法もあります。大切なのは、誰か一人がすべてを背負う形にしないことと、担っている役割をお互いが認識していることです。
なお、負担を「平等」に分けるという考え方そのものについては、相続の場面にも共通する注意点があります。相続を平等に進めるための基本的な考え方は、相続を平等にするための基本ルールと実践的な7つの方法で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
今日の一歩:きょうだいに切り出す前に、3つだけ決めておく
「手伝ってほしい」だけでは、相手は何をすればいいか分からず、話が「気持ちの問題」にすり替わります。連絡する前に、次の3つを決めてください。
①頼みたいことを行為ひとつに絞る(「月2回の通院の付き添いを、隔月で交代」など)②いつまでに返事がほしいか ③断られたときの代案(デイサービスやショートステイを増やす、費用は分担してもらう)。代案を先に持っておくと、断られても話が終わりません。
最初の一言は、主語を「あなた」ではなく「状況」にする
「なぜやってくれないの」ではなく、「お母さんの通院が月2回になって、そのたびに半日休んでいる。◯月から付き添いを交代でお願いできないかな」。事実(回数・時間・自分に起きている影響)と依頼を並べるだけにします。過去の不満を持ち出すと、相手は必ず反論に回ります。その場で決めておきたいのは、次に話す日、連絡の手段(家族のグループを1つ作る)、立て替えたお金の精算のしかたの3つです。
記録は「後で通用する形」で残す
日付・内容・時間や費用に加えて、介護保険の認定通知書やケアプランの控えを一緒に保管しておいてください。寄与分や特別寄与料で見られるのは「親の介護が実際に必要な状態だったか」「通常の親族の助け合いを超えていたか」「対価を受け取らずに続けていたか」という点で、要介護の程度が分かる書類はその土台になります。立て替えたお金は、親名義の請求書・領収書と、自分の生活費のレシートを分けて保管します。混ざったものは後から切り分けられません。
話が動かないときの次の一手
きょうだいに連絡がつかない、話しても変わらないという場合は、親が住む市区町村の地域包括支援センターに、家族の状況まで含めて伝えてください。担当のケアマネジャーは、家族が担えない前提でサービスの組み方を作り直すことができます。それでも扶養の分担が決まらない場合は、家庭裁判所に扶養の程度・方法を定める調停を申し立てる方法もあります(民法879条)。なお、相続人でない立場(長男の妻など)で介護を担ってきた方の特別寄与料には、相続の開始と相続人を知った時から6か月という期限があります。親が亡くなった後は、この期限が先に来ます。きょうだいが手伝ってくれないときの話し方や分担の決め方は、親の介護は私ばかりと感じるときの話し合い方と分担の決め方で整理しています。
調停・審判で一緒に問われること:寄与分・特別寄与料・特別受益と生前の備え
ここからは、前の章に出てきた寄与分や特別寄与料の中身を、もう少し詳しく見ていきます。冒頭のご相談のように、介護を一人が担ってきた場合、その苦労は相続の場面でどのように扱われるのでしょうか。介護メディアや相談窓口の多くは「施設をどう選ぶか」「サービスをどう使うか」までしか案内しません。しかし、実際にご家族が知りたいのは、その先にある「この苦労が、最終的にどう報われるのか」という部分です。ここでは、通院の付き添いや金銭管理といった見えにくい貢献が、相続の制度上どのように扱われうるのかを、5つの角度から順に見ていきます。
寄与分(民法904条の2)――相続分に上乗せされる可能性はあるが、ハードルは高い
民法には「寄与分」という制度があります。相続人が、被相続人(親)の療養看護などにより「特別の寄与」をしたと認められる場合、その分を相続財産から差し引いたうえで、寄与した相続人の取り分に上乗せするという考え方です。
認められるかどうかの分かれ目は、上の「寄与分で、介護はどこまで認められるのか」の表のとおりです。寄与分は「主張すれば必ず報われる制度」ではなく、「条件が整えば考慮されうる制度」と考えておきます。寄与分を足したときの取り分の計算式と計算例、10年の期限は寄与分と特別寄与料の違い・期限・金額の計算例で説明しています。
特別寄与料(民法1050条)――相続人でない親族にも報われる道がある
長男の妻など相続人でない親族が無償で介護をした場合は、相続人に金銭を請求できる「特別寄与料」があります。家庭裁判所での見通しは寄与分と同じく、一定額が約束された制度ではありません。注意したいのは期限で、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると請求できません。また、金銭を請求する権利であり、遺産分割の話し合いに加わる権利ではありません。条件と請求の流れは特別寄与料とはで説明しています。
特別受益との関係――「もらった側」にも公平の視点がある
不公平感は、介護をした側からだけでなく、逆の方向からも生じます。民法には「特別受益」という考え方があり、特定の相続人が生前に住宅購入資金の援助や、結婚・進学の際にまとまった贈与を受けていた場合、その分を相続財産に計算上持ち戻したうえで取り分を調整することがあります。つまり「介護は私がしたのに、昔は妹だけ家を建てる頭金をもらっていた」というような事情がある場合、寄与分だけでなく特別受益の観点からも話し合いの材料になり得ます。ただし、これも寄与分と同様、何が特別受益にあたるかの線引きは事情により異なり、当事者間の合意がなければ最終的には家庭裁判所の判断が必要になります。「介護をしてきたこと」と「過去に受けた援助」の両面から、家族全体の公平のバランスを見る視点を持っておくと、話し合いが感情論だけに偏りにくくなります。
遺言による指定――揉めてから主張するより確実な方法
寄与分も特別寄与料も、最終的には家庭裁判所の判断に委ねられる可能性がある、という不確実さを含んでいます。これに対して、親が元気なうちに「介護を担ってくれた子に多く相続させる」という意向を遺言に残しておく方法は、相続が発生してから寄与分を主張して話し合うよりも、はるかに確実な手段です。遺言があれば、少なくとも親自身の意思としてその配分が示されるため、感情的な対立になりにくいという利点があります。ただし、遺言によって特定の相続人の取り分を大きく減らす内容にした場合、他の相続人には最低限の取り分である「遺留分」を請求する権利が残る点には注意が必要です。遺言さえ書けばすべてが解決するわけではなく、遺留分への目配りも含めて準備することが望まれます。
生命保険の受取人指定――遺産分割の対象外という特性を活かす
死亡保険金は、受取人が指定されている場合、原則として遺産分割の対象にはならず、受取人固有の財産として扱われます。つまり、親が介護を担ってくれた子を受取人に指定しておけば、他のきょうだいとの話し合いを経ることなく、その子に確実に財産を渡すことができます。遺言の作成にはハードルを感じる方でも、生命保険の受取人を変更する手続きは比較的取り組みやすく、生前対策の第一歩として選ばれることが多い方法です。なお、他の相続人との差があまりに大きい場合には、例外的に「特別受益」に準じるものとして扱われる可能性が裁判例上ゼロではない、という指摘もあります。保険金の額と遺産全体のバランス、そして遺留分との関係については、生命保険と遺留分の関係で詳しく解説していますので、受取人の指定を検討する際にはあわせてご確認ください。
立替費用の記録――「言った言わない」を防ぐ証拠になる
裁判所や他の相続人を納得させる決め手になるのは、感情的な訴えではなく客観的な記録です。介護のために自分の財布から出したお金は、レシートとともに「日付・内容・金額」で残しておきます。どの記録が何の証明になるかは、親の介護をしない兄弟と相続の割合の記録の表を参考にしてください。
冒頭のご相談に戻ると、姉が本当に報われる形を望むなら、相続が始まってから寄与分を主張して家庭裁判所で争うよりも、母が元気なうちに、これまでの負担を家族で共有し、遺言や生命保険で意向を形にしておいてもらう方が、はるかに現実的で、姉妹の関係にとっても負担の少ない道筋だったと言えます。次の章では、その「元気なうちにできること」を具体的に整理します。
親が元気なうちにできる生前対策3つ
ここまでの制度を踏まえると、「相続が発生してから寄与分を主張する」よりも「親が元気なうちに手を打っておく」ほうが、はるかに確実で、家族関係への負担も少ないことがわかります。今日から始められる3つの対策をご紹介します。
- ①介護日誌・立替費用の記録をつける:ノートやスマホのメモで構いません。「日付・対応内容・かかった時間や費用」を残す習慣を、今日から始めてください。
- ②家族会議で情報を共有する:介護の状況、かかっている費用、今後想定される負担について、きょうだい全員が集まる機会に共有します。特定の誰かを責める場ではなく、「今どうなっているか」を全員が知っている状態を作ることが目的です。
- ③親に遺言や財産の意向を確認しておく:切り出しにくい話題ですが、「もしものときに困らないように、財産のことを少し整理しておきたい」というきっかけから始めると、財産目当てと誤解されにくくなります。遺言の作成や生命保険の受取人指定は、親自身の意思がなければ進められません。
③の切り出し方に悩む方は多いのですが、「相続税の制度が変わったってニュースで見たから、うちも一度整理しておかない?」「友人の家で揉めたって聞いて、うちは大丈夫かなと思って」のように、自分や第三者の話として持ち出すと、身構えられにくくなります。財産の全額を聞き出そうとせず、まずは「遺言を書くつもりがあるかどうか」「誰に何を託したいと思っているか」という意向の部分から確認するだけでも、大きな一歩になります。
3つとも、特別な準備や大きな決断は必要ありません。①は今日のメモから、②は次に家族が集まる機会から、③は「最近こんな記事を読んだんだけど」と話を切り出すだけからでも始められます。重要なのは、親が元気で判断能力がしっかりしているうちに動き出すことです。認知症などで判断能力が低下してからでは、遺言の作成も生命保険の契約変更も難しくなります。
誰に何をどう相談すればよいか分からない、という段階でも大丈夫です。相続の相談先の選び方については、相続の相談はどこに?でも整理していますので、あわせてご参照ください。
実務でよく見落とされていること
介護のために立て替えた交通費や日用品費は、家族間の「善意」として処理され、記録が残っていないことがほとんどです。数年分をまとめて計算しようとしても、レシートは処分され、記憶も曖昧になりがちです。月に一度でよいので、ノートやスマホのメモに「日付・内容・金額」を3行で残しておくだけで、後になって状況を示せる資料になります。(当社に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)
こんな方には、無理なご相談は不要です
例えば、きょうだい全員が状況を共有できていて、財産の内容もシンプルで、話し合いにも前向きなご家庭であれば、専門家に依頼しなくても、ご家族だけで十分に納得のいく形にたどり着けることがあります。無理にご相談いただく必要はありません。
そのうえで、判断に迷う点が1つでもあるようでしたら、30分の無料相談でご一緒に確認できます。
セルフチェック:あなたの介護負担、偏っていませんか
以下の項目のうち、当てはまるものはいくつあるか数えてみてください。
- □ きょうだいの中で、通院の付き添いや金銭管理を主に担っているのは自分だけだ
- □ 介護のために使った時間や費用を、誰にも記録していない
- □ きょうだいに相談せずに、施設入居や大きな支出を決めたことがある
- □ 「そのうち相続で多めにもらえるはず」と漠然と思っている
- □ 親自身が、遺言や財産の分け方について何も話していない
0〜1個:現時点では、負担の偏りはまだ大きくない状況です。この記事で紹介した記録の習慣だけ、今日から始めておくと安心です。
2〜3個:偏りが少しずつ積み重なっている状況です。記録を始めるとともに、家族会議のタイミングを近いうちに検討してみてください。
4〜5個:負担の偏りが大きく、今後の話し合いが難航しやすい状況です。早めに記録を整理したうえで、もめる相続リスク診断でご家族の状況を確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
Q. 介護をしたら、相続で必ず多くもらえるのですか?
A. 必ず多くもらえると約束されているわけではありません。寄与分として考慮される可能性はありますが、「特別の寄与」と認められるかどうかは個別の事情や家庭裁判所の判断によります。「これだけ大変だったのだから、当然多くもらえるはず」という感覚と、実際に法的に認められる範囲との間には差があることを、あらかじめ知っておくだけでも心構えが変わります。確実性を求めるのであれば、親が元気なうちに遺言や生命保険の受取人指定で意向を形にしておくほうが現実的です。
Q. 兄弟に介護を手伝ってもらうには、どうすればいいですか?
A. 「手伝って」と漠然と頼むより、通院の付き添い・お金の管理・情報収集など、役割を具体的に分けて依頼するほうが動いてもらいやすくなります。定期的に状況を共有する場を設け、負担を「見える化」しておくことも効果的です。地域包括支援センターに相談し、デイサービスなどの公的サービスを組み合わせることで、家族の負担そのものを減らす方法もあわせて検討してみてください。
Q. 介護をしていないきょうだいには、相続を少なくしてもよいのでは?
A. お気持ちとしては理解できますが、法律上、介護をしていないことを理由に相続分を一方的に減らすことはできません。相続分を変えるには、寄与分の主張や、きょうだい全員の合意による遺産分割協議、あるいは親が生前に遺言で意向を示しておくといった手続きが必要です。感情だけで押し切ろうとすると、話し合いがかえってこじれやすくなります。
Q. 相続人ではない長男の妻が介護をした場合はどうなりますか?
A. 2018年(平成30年)の民法改正で新設された「特別寄与料」の制度により、相続人に対して金銭の支払いを請求できる可能性があります。ただし、相続の開始および相続人を知った時から6か月以内、相続開始から1年以内という期限があるため、対象になりうる場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
Q. 寄与分について家族の話し合いがまとまらない場合、どうすればいいですか?
A. 当事者同士で合意できない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、第三者を交えて話し合う手続きがあります。調停でもまとまらない場合は審判に移行し、裁判所が事情を踏まえて判断します。ただし、調停や審判には時間と労力がかかるため、そこに至る前に、記録の共有や遺言による備えで揉める要素そのものを減らしておくことが望まれます。
Q. 介護の不公平を理由に、きょうだいを訴えることはできますか?
A. 「訴える」という形ではなく、家庭裁判所の調停を使うのが一般的です。親が元気なうちは扶養請求調停、亡くなった後は寄与分を定める処分調停があります。相続人でない親族は、特別の寄与に関する処分調停です。いずれも、介護をしたというだけで認められるものではありません。
Q. 調停や審判で、介護の苦労は全額認められますか?
A. 全額が認められるとは限りません。寄与分は「特別の寄与」があった場合に、事情を総合して決まります。請求した額より小さくなることも、認められないこともあります。
Q. 親の存命中に、介護で立て替えたお金をきょうだいに請求できますか?
A. 親が元気なうちは、扶養請求調停で、今後の費用の分担を話し合う方法があります。すでに立て替えた分をさかのぼって求められるかどうかは、事情によって変わります。弁護士に確認してください。
まとめ|もめる前に、今日からできること
「介護は私ばかり」という不公平感は、決してわがままな感情ではなく、近居・役割期待・時間の融通といった構造的な要因が積み重なって生まれるものです。その苦労は、寄与分や特別寄与料という形で相続の場に反映される可能性がありますが、実務上のハードルは高く、確実な方法とは言えません。もっとも確実なのは、親が元気なうちに、遺言・生命保険の受取人指定・立替費用の記録という形で、あらかじめ手を打っておくことです。まずは今のご家族の状況を、家族間で共有することから始めてみてください。
参考にした公的情報
- 裁判所「扶養請求調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_11/index.html
- 裁判所「寄与分を定める処分調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_23/index.html
- 裁判所「特別の寄与に関する処分調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_25/index.html
- e-Gov法令検索「民法」(第877条、第879条、第904条の2、第904条の3、第1050条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「親族関係に関する調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_03_3/index.html
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
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お電話でも:052-766-5650(相談中は折り返しになります)
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
