銀行に「父が亡くなった」と伝えたら、数日後に分厚い封筒が届いた。開けると「相続届」「相続手続依頼書」「必要書類のご案内」「返信用封筒」。案内には「相続人全員の署名と実印」「印鑑証明書は発行後6か月以内」と書いてあり、どこから手を付けてよいか分からない——この記事は、その封筒を目の前にしている人向けです。
届いた紙の見方、相続届の書き方の2つの型、印鑑証明書の期限で失敗しない順番、戸籍の束を法定相続情報一覧図に置き換える方法、書類不備で戻ってくる典型例、入金までの日数を、この順に整理します。
先に結論:封筒が届いた日にやること・やらないこと
- 「必要書類のご案内」を最初に読み、相続届が「全員署名型」か「代表者型」かを確認する
- 印鑑証明書はまだ取らない。相続届に押印する直前に、全員分をまとめて取る
- 亡くなった方の口座がほかの銀行にもあるなら、戸籍の束ではなく法定相続情報一覧図を先に法務局で取る
- 相続税の申告や遺産分割協議が控えているなら、相続届より先に残高証明書を請求する
- 相続届に鉛筆で下書きしたり、間違えて修正テープを使う(訂正は実印での訂正印か書き直し)
- 相続人のうち1人でも連絡がつかないまま、代表者だけで送り返す
封筒に入っている書類の見方
銀行によって呼び方は違いますが、入っているものはおおむね4種類です。りそな銀行なら「相続手続依頼書」、ゆうちょ銀行なら「相続確認表」を出したあとに「必要書類のご案内」が届く2段構え、信用金庫やJAは「相続届」「相続手続請求書」と呼ぶことが多いです。
| 紙の名前(例) | 何のための紙か | 誰が書くか |
|---|---|---|
| 相続届/相続手続依頼書 | 口座を解約して誰の口座に振り込むか、または誰の名義に変えるかを銀行に指示する | 相続人(全員か代表者かは型による) |
| 必要書類のご案内 | 遺言の有無・協議書の有無ごとに、何を添付するかのチェックリスト | 読むだけ(提出不要) |
| 相続関係届出書/相続人確認書 | 亡くなった方と相続人の関係を書く欄。家系図のような様式のことも | 代表者 |
| 残高証明書発行依頼書 | 死亡日時点の残高の証明を出してもらう申込書。同封されていないことも多い | 相続人の1人でよい |
最初に読むべきは「必要書類のご案内」です。遺言書がある・遺産分割協議書がある・どちらもない、の3パターンで添付書類が変わり、自分がどのパターンかで相続届の書き方も決まります。
相続届の書き方:全員署名型と代表者型
相続届には大きく2つの型があります。案内文に「相続人全員が各自直筆で署名し、実印を押印してください」とあれば全員署名型、「遺産分割協議書を添付する場合は代表相続人のみ」とあれば代表者型です。全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」(2026年9月時点)でも、協議書がない場合は相続人全員の印鑑証明書が必要とされています。
すでに遺産分割協議書を作っているなら代表者型で出せるのが普通です。協議書と相続届の役割の違い、原本が返ってくるかどうかは遺産分割協議書を銀行に提出するときに分けて書きました。協議書をこれから作る人は、銀行の相続届と同じタイミングで実印を集めると、印鑑を2度集めずに済みます。
印鑑証明書の有効期限は「銀行ごと」に違う
案内文の「発行後○か月以内」は、法律で決まっているものではなく金融機関ごとの取り決めです。りそな銀行の「相続手続のご案内」では「発行後6ヶ月以内のもの」(2026年9月時点)と明記されていますが、3か月以内とする金融機関もあります。複数の銀行を回るなら、いちばん短い期限に合わせて動く必要があります。
- 取る順番:戸籍集め(数週間かかる)→協議書と相続届に押印する日を決める→その直前に印鑑証明書を全員分取る。先に取ると、戸籍集めの間に期限が切れます。
- 枚数:原則「相続人の人数×提出する金融機関の数」。原本を返してくれる銀行もありますが、返却されない前提で用意したほうが途中で止まりません。
- 取り方:印鑑登録している市区町村の窓口かコンビニ交付。名古屋市の場合、区役所・支所の窓口とコンビニ交付のどちらでも取れます(手数料は自治体ごとに異なります)。
- 海外在住の相続人:印鑑登録がないため、在外公館のサイン証明で代える扱いになります。銀行に事前に確認してください。
戸籍の束は「法定相続情報一覧図」に置き換えられる
案内には「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本」とあります。これを銀行ごとに用意するのは現実的でないので、法務局の「法定相続情報一覧図の写し」で代替します。法務局「法定相続情報証明制度」(2026年9月時点)によれば、戸籍の束と一覧図を一度法務局に出せば、認証文付きの写しを無料で必要枚数交付してもらえ、多くの金融機関で戸籍一式の代わりとして使えます。
申出先は、亡くなった方の本籍地・最後の住所地、申出人の住所地、亡くなった方名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局です。名古屋市内なら名古屋法務局(本局は中区三の丸)か各支局・出張所が候補になります。作り方の手順は法定相続情報一覧図の作り方に、戸籍のさかのぼり方は除籍謄本・改製原戸籍の取り方にまとめています。
ただし一覧図で代替できるのは戸籍だけです。遺産分割協議書、印鑑証明書、相続届本体、相続放棄の申述受理証明書は別に必要で、一覧図には放棄が反映されません。
残高証明書・取引履歴を「先に」取る意味
届いた封筒に残高証明書の依頼書が入っていなくても、相続届を出す前に取っておいたほうがよい場面が2つあります。
- 相続税の申告がありそうなとき:申告書には死亡日時点の残高が要ります。定期預金は既経過利息の計算書も一緒に頼みます。口座を解約したあとに「あの日の残高」を証明してもらうのは手間が増えます。
- 遺産分割協議がこれからのとき:協議書に「○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○」と書くには残高証明書が確実です。生前の大きな出金(引き出しや贈与)が争点になりそうなら、過去数年分の取引履歴(入出金明細)も同時に請求します。
残高証明書は相続人の1人が単独で請求できます。手数料は1通数百円〜1,100円程度が多く、発行まで1〜2週間かかることがあります(複数行の公開情報を調べた2026年9月時点の目安)。必要なのは、亡くなった事実と自分が相続人であることが分かる戸籍(または一覧図)、本人確認書類、実印と印鑑証明書です。
書類不備で戻ってくる典型例
相続専門の事務センターで審査するため、窓口では気づかれず、郵送で「補正のお願い」として戻ってくるのが普通です。1往復で2〜3週間遅れます。戻ってくる理由は毎回だいたい同じです。
| 戻ってくる理由 | 送る前の確認 |
|---|---|
| 印鑑証明書の期限切れ | 発行日が案内の期限内か。相続人ごとに確認 |
| 印影が印鑑証明書と違う | 認印や銀行印で押していないか。かすれ・欠けがないか |
| 住所の表記が印鑑証明書と不一致 | 「1-2-3」と「一丁目2番3号」の違いで戻ることがある。証明書を見ながら書く |
| 戸籍が途中で切れている | 出生までさかのぼれているか。転籍前の除籍・改製原戸籍の抜け |
| 相続人が1人足りない | 前婚の子、亡くなった兄弟の子(代襲相続人)が抜けていないか |
| 協議書と相続届の内容が食い違う | 協議書で長男取得なのに、相続届の振込先が長女名義など |
| 訂正の仕方が違う | 修正液・修正テープは不可。二重線+実印の訂正印、または書き直し |
ポストに入れる前に、相続届・協議書・印鑑証明書の3つを机に並べ、氏名・住所・印影を1人ずつ突き合わせる。これだけで戻ってくる確率はかなり下がります。
提出してから入金までの日数
| 段階 | 目安 |
|---|---|
| 死亡の連絡から書類一式が届くまで | 数日〜2週間(ゆうちょ銀行は相続確認表の提出後、約1〜2週間で案内が届く) |
| 戸籍・印鑑証明書・協議書をそろえる | ここが最長。転籍が多いと1か月以上 |
| 提出から入金まで | おおむね1〜3週間(ゆうちょ銀行は他行口座への振込で約3〜4週間) |
| 不備で戻ったとき | 1往復ごとに2〜3週間追加 |
葬儀費用など先に現金が要るなら、協議がまとまる前でも「預貯金の払戻し制度」が使えます。法務省の案内(2026年9月時点)では、相続開始時の預貯金額×3分の1×自分の法定相続分まで、1つの金融機関につき150万円を上限に単独で払戻しを受けられます(民法909条の2)。相続届とは別の用紙になるので、必要なら最初の電話で申し出てください。
複数の銀行がある場合の段取り
口座が3つ4つ出てくると、銀行ごとに用紙も期限も違うため、順番を決めてから動いたほうが早く終わります。
- すべての金融機関に死亡の連絡を入れ、用紙を取り寄せる(この時点で口座は止まります。引き落としの切り替えを先に)
- 戸籍を集めて法定相続情報一覧図を金融機関の数だけ取る
- 残高証明書を各行に請求し、財産の一覧を作る
- 遺産分割協議書を作り、全員の実印を押す日を1日決める。同じ日に各行の相続届(代表者型なら代表者のみ)も仕上げる
- 印鑑証明書はその日の直前に、人数×金融機関数を取る
- 印鑑証明書の期限がいちばん短い銀行から順に提出する
愛知県内で口座が多い金融機関については、それぞれの必要書類と窓口を個別の記事にまとめています。
専門家に一度聞いたほうがよい場合・不要な場合
相続人が配偶者と子だけで全員が近くに住み、口座が1〜2行なら、この記事の順番どおりに自分で出せます。司法書士や行政書士に頼む必要はありません。
一方、次のどれかに当たるなら、相続届を書く前に一度相談したほうが結果的に早く終わります。
- 相続人に認知症の方がいる(そのままでは協議も相続届の署名もできず、成年後見人の選任が要ります。認知症の親がいる相続はどう進める?)
- 相続人に連絡がつかない人、署名を拒んでいる人がいる
- 亡くなった方に前婚の子がいる、または兄弟姉妹が相続人になるケース(戸籍の枚数が跳ね上がります)
- 預金以外に不動産や株があり、相続税の申告が要りそう(残高証明書の取り方から税理士に合わせたほうが二度手間になりません)
よくある質問
相続届を出す前に口座からお金を引き出してはいけませんか
死亡の連絡後は口座が止まるので、そもそも引き出せません。連絡前にキャッシュカードで引き出す行為は、他の相続人との間で問題になりやすく、相続放棄を考えている場合は放棄できなくなるおそれがあります。当面の資金は払戻し制度を使ってください。
通帳やキャッシュカードが見つかりません
手続きは進められます。相続届に「紛失」の旨を書く欄があるか、別に紛失届が要るかは銀行によります。口座番号が分からなくても、亡くなった方の氏名・生年月日・住所で調べてもらえます。
遠方の相続人にはどうやって署名してもらいますか
相続届と協議書を郵送し、署名・押印して印鑑証明書を添えて返送してもらうのが一般的です。全員が1枚の用紙に書く型では、相続人の間で用紙を順番に回すことになるため、返送期限を決めて送ります。
相続届の提出は郵送でよいですか
郵送だけで完結する銀行と、1回は来店が必要な銀行があります。来店は予約制のことが多いので、案内文の連絡先に確認してください。郵送の場合、原本を送る書類は簡易書留など追跡できる方法で送ります。
一覧図を出せば戸籍の原本は不要ですか
戸籍の代わりになるのが一覧図なので、多くの金融機関では戸籍原本は不要です。ただし一部の金融機関や、相続放棄・代襲相続が絡む案件では追加で戸籍を求められることがあります。案内文に「法定相続情報一覧図の写しでも可」と書いてあるか確認してください。
まとめ
- 封筒を開けたら「必要書類のご案内」を最初に読み、相続届が全員署名型か代表者型かを見る
- 印鑑証明書の期限は銀行ごと。押印日の直前に、人数×金融機関数を取る
- 戸籍の束は法定相続情報一覧図で置き換える。無料で必要枚数もらえる
- 相続税や協議が控えているなら、相続届より先に残高証明書
- 送る前に相続届・協議書・印鑑証明書を並べて、氏名・住所・印影を突き合わせる
あわせて読みたい
本記事の制度・日数は2026年9月時点の一般的な取り扱いです。相続届の様式名、署名が必要な相続人の範囲、印鑑登録証明書の有効期限、処理にかかる日数は金融機関ごとに異なります。実際に手続きを始める前に、届いた案内文の連絡先に直接ご確認ください。税額や法的な効果については税理士・弁護士にご相談ください。