11月、勤め先から年末調整の書類が配られる。実家の母は年金暮らしで、収入はそれほど多くない。「親も扶養に入れられるのでは」と思いながら、何を書けばよいのか、そもそも条件に合うのかが分からない。この時期によくある場面です。
この記事では、会社員の子が年末調整で親を扶養控除の対象にするときの条件、令和8年分(2026年分)で変わった基準、申告書の書き方の例、間違えやすいところを整理します。内容は2026年10月30日時点で確認した国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」などに基づいています。
「親を扶養に入れる」とは何をすることか
税金でいう「扶養に入れる」は、子の所得から「扶養控除」を差し引いてもらうことです。子の所得税と翌年度の住民税が軽くなります。親の年金が減ったり、親の税金が増えたりすることはありません。
会社員なら、勤め先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を出し、年末調整で反映してもらいます。自営業や年金暮らしの子なら、確定申告で同じ控除を受けます。年末調整の内容は勤め先から市区町村にも伝わるので、住民税のために別の届け出をする必要は通常ありません。
令和8年分から基準が上がった:所得62万円以下
令和8年度の税制改正で、扶養親族の所得の基準が「58万円以下」から「62万円以下」に上がりました。2026年12月1日に施行され、令和8年分(2026年1月〜12月)の年末調整から使われます。去年は条件から外れていた親が、今年は対象になることがあります。
| 親の収入の種類 | 令和7年分まで | 令和8年分(今回の年末調整) |
|---|---|---|
| 所得(基準そのもの) | 58万円以下 | 62万円以下 |
| 年金だけ(65歳以上) | 年金168万円以下 | 年金172万円以下 |
| 年金だけ(65歳未満) | 年金118万円以下 | 年金122万円以下 |
| パートなどの給与だけ | 給与123万円以下 | 給与136万円以下 |
ここでいう「年金」は、老齢年金など税金がかかる年金です。遺族年金と障害年金は税金がかからないため、所得に数えません。父を亡くして遺族年金だけで暮らしている母なら、所得は0円として判断します。
国税庁は勤め先に向けて、改正で新しく扶養の対象になる家族がいないか確かめ、出し忘れがあれば「異動申告書」を出してもらうよう案内しています。年初に出した申告書に親を書いていなくても、年末調整までに書き足せば反映されます。
親が対象になるかの早見表
判断するのは、2026年12月31日の時点の状況です。親の年齢、一緒に住んでいるか、親の収入の3つで決まります。
| 親の状況(所得62万円以下の場合) | 区分 | 所得税の控除額 |
|---|---|---|
| 70歳以上で、子(またはその配偶者)と同居している | 老人扶養親族(同居老親等) | 58万円 |
| 70歳以上で、別に住んでいて仕送りをしている | 老人扶養親族(同居老親等以外) | 48万円 |
| 70歳以上で、老人ホームに入っている | 老人扶養親族(同居老親等以外) | 48万円 |
| 70歳以上で、病気の治療で入院している(もとは同居) | 老人扶養親族(同居老親等) | 58万円 |
| 70歳未満(昭和32年1月2日以後生まれ) | 一般の控除対象扶養親族 | 38万円 |
別居の場合に必要なのは「生計を一にしている」ことです。国税庁の解説では、いつも生活費や療養費を送金している場合は、別に住んでいても生計を一にしていると扱われます。振込の記録が残る方法で仕送りしておくと、あとで説明しやすくなります。
控除で軽くなる所得税は、おおよそ「控除額×その人の税率」です。税率が5%の人が老人扶養親族48万円を受けると、所得税はおよそ2万4千円軽くなる計算です(復興特別所得税を除く)。住民税も翌年度に軽くなります。住民税の控除額は、名古屋市の案内では老人扶養親族が38万円、同居老親等が45万円です。
親の「所得」の出し方:年金額から差し引く
申告書には、親の2026年の「所得の見積額」を書きます。収入(受け取った年金の額)ではない点に注意してください。年金だけの親なら、次のように計算します。
| 親(65歳以上)の2026年の年金 | 所得の見積額 | 扶養控除 |
|---|---|---|
| 年150万円 | 150万円−110万円=40万円 | 対象 |
| 年172万円 | 172万円−110万円=62万円 | 対象(ちょうど上限) |
| 年190万円 | 190万円−110万円=80万円 | 対象外 |
| 遺族年金だけ年140万円 | 0円(遺族年金は非課税) | 対象 |
年金に加えてパートの給与や家賃収入がある場合は、それぞれの所得を合計して62万円以下かを見ます。計算が込み入るときは、勤め先の担当者か税務署の電話相談で確かめると確実です。年金額の確かめ方は「年金の源泉徴収票の見方」で整理しています。
申告書の書き方の例
年末調整では、2026年分の「扶養控除等(異動)申告書」に親を書き足すか、すでに書いてあれば内容を確かめます。紙でもアプリ入力でも、書く項目は同じです。
| 欄 | 書く内容(例:同居の母・75歳・年金150万円) |
|---|---|
| 控除対象扶養親族の氏名・個人番号 | 母の氏名とマイナンバー |
| あなたとの続柄 | 母 |
| 生年月日 | 昭和26年○月○日 |
| 老人扶養親族の欄 | 「同居老親等」に丸(別居なら「その他」に丸) |
| 令和8年中の所得の見積額 | 40万円 |
| 住所又は居所 | 同居なら空けてよい。別居なら親の住所を書く |
年末調整のときは、翌年の「令和9年分」の扶養控除等申告書も一緒に配られることが多いです。2027年も親を扶養する見込みなら、そちらにも同じように書いておきます。
親が要介護の状態で、市区町村から「障害者控除対象者認定書」を受けている場合は、扶養控除に加えて障害者控除も受けられることがあります。認定の取り方は「障害者控除対象者認定の申請」にまとめています。
健康保険の「扶養」は別の制度
「扶養に入れる」には、税金の話と健康保険の話の2つがあります。基準も手続きの窓口も違うため、片方に当てはまっても、もう片方に当てはまるとは限りません。
| 税金の扶養(扶養控除) | 健康保険の扶養 | |
|---|---|---|
| 何が変わる | 子の所得税・住民税が軽くなる | 親が子の健康保険に入り、親の保険料がかからなくなる |
| 収入の基準 | 所得62万円以下(年金だけなら65歳以上で172万円以下) | 60歳以上は年収180万円未満。同居なら子の年収の半分未満、別居なら仕送り額より少ないこと |
| 年齢 | 上限なし | 75歳以上は後期高齢者医療に入るため対象外 |
| 手続き先 | 勤め先の年末調整、または確定申告 | 勤め先を通じて健康保険(協会けんぽ・健康保険組合) |
75歳以上の親は、税金の扶養控除の対象にはなっても、健康保険の扶養には入れません。親の後期高齢者医療の保険料を子の口座から払うと、子の社会保険料控除になる場合があります。払い方の切り替えと控除の受け方は「親の後期高齢者医療・国保の保険料を子が払うと控除になる?」にまとめています。
よくある間違い
- 兄弟で同じ親を扶養に入れる:一人の親を扶養控除の対象にできるのは、子のうち一人だけです。兄弟それぞれの勤め先で出してしまうと、あとで税務署から修正を求められます。誰が入れるか、先に話しておきます。
- 年金の「収入」をそのまま書く:申告書に書くのは所得の見積額です。年金150万円の親なら「40万円」です。
- 老人ホームにいる親を「同居老親等」にする:老人ホームに入っている場合は、ホームが住まいになるため同居には当たりません。「その他」の老人扶養親族(48万円)になります。
- 遺族年金も収入に入れて、対象外と思い込む:税金の判断では、遺族年金は所得に数えません。
- 親が年の途中で亡くなったので外す:亡くなった年は、亡くなった時点の状況で判断します。その時点で条件に合っていれば、その年は扶養控除を受けられます。
年末調整に間に合わなかった場合や、過去の年に入れ忘れていた場合は、確定申告(還付申告)で取り戻せます。還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間出せます。
親を扶養に入れる手続きをすると、親の年金額や預金の様子を子が知る機会になります。親が判断できなくなると、本人の定期預金でも家族は解約できないことがあります。元気なうちにできる備えを確かめておくと、あとの手続きが楽になります。
認知症になる前に、親の定期預金でしておくことよくある質問
親が自分の年金から所得税を引かれていても、扶養に入れられますか
入れられるかどうかは、親の所得が62万円以下かで決まります。親の年金から所得税が引かれているかどうかは関係しません。ただし、親が年金から所得税を引かれるほどの年金額なら、所得が62万円を超えていることが多いので、年金額から計算して確かめてください。
親が日本年金機構に出す「扶養親族等申告書」とは関係がありますか
別の書類です。親本人が配偶者などを控除の対象にするために、年金の支払元へ出すものです。子が親を扶養に入れるかどうかとは関係しません。親宛てに届いた書類の扱いは「年金の扶養親族等申告書2027」で整理しています。
義理の親(配偶者の親)も扶養に入れられますか
扶養控除の対象になる親族には、配偶者の父母も含まれます。生計を一にしていて所得の条件に合えば対象です。同居していれば「同居老親等」にも当たります。
親の医療費を子が払った場合は、子の医療費控除になりますか
生計を一にする親の医療費を子が払った場合は、子の医療費控除に含められます。年末調整ではなく確定申告で受けます。介護費用も含めた考え方は「介護費用・おむつ代は医療費控除の対象?」にまとめています。
参考にした公的情報
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた(手順などの説明)」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/shikata.htm - 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」扶養控除等(PDF)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/105.pdf - 国税庁「令和8年度税制改正により、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ等が行われました」(2026年5月)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/pdf/0026005-024.pdf - 国税庁 タックスアンサー「No.1180 扶養控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm - 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき」(2026年9月30日更新)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.html - 名古屋市「所得控除」(住民税の控除額、2026年5月28日更新)
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/zeikin/1037356/1011880/1011883/1011892.html
本記事は2026年10月30日時点の国税庁・日本年金機構の公開情報にもとづく一般的な内容です。扶養控除の対象になるか、税額がいくら変わるかは、家族の収入や暮らし方によって変わります。個別の判断は、勤め先の担当者、税務署の電話相談、または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー) 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
