「子どもたちで平等に分けたい」と考えていても、自宅が1つしかない、介護をした子がいる、といった事情で話が止まります。分け方には法律側の前提があり、そこを外したまま決めると、後から金銭を請求されることがあります。
この記事では、平等に分けるための前提と、実際に使われている7つの方法を、財産の形ごとに整理します。まず結論から見てください。
先に結論:分け方は「財産の形」で決まる
財産の中身 → 向いている分け方
自宅・土地が中心
↓
代償分割
1人が家を引き継ぎ、他の人に現金を渡す
預金・株が中心
↓
割合を決めて等分
口座ごとではなく合計額で割る
事業・自社株がある
↓
遺言+生前贈与
継ぐ人と継がない人の取り分を先に決める
3つに共通する条件
遺言書がなければ、相続人全員の合意(遺産分割協議)が必要です。遺言書で取り分を偏らせる場合も、遺留分=法定相続分の1/2 を下回ると、その分の金銭を請求されることがあります。
相続人が直系尊属だけの場合の遺留分は1/3、兄弟姉妹に遺留分はありません(2026年8月時点)。
平等にしたいのに決まらない原因は、たいてい「分けられない財産が1つある」ことです。自宅がその代表で、売って現金にして分ける(換価分割)か、1人が引き継いで他の人に現金を渡す(代償分割)か、どちらかに寄せると話が前に進みます。以下、7つの方法を一覧で比べ、最後に遺留分の線引きを確認してください。
平等に分けるための基本ルール
分け方を決める前に、法律側の前提を3つだけ押さえます。ここを外すと、決めたあとで話が戻ります。
相続を平等にするための基本ルール(全体像)
法定相続分の理解
民法で定められた各相続人の相続割合。配偶者が1/2、子どもが残りの1/2を等分するのが基本。
遺言書の活用
故人の意思を明確に伝え、法定相続分にとらわれず望む形での遺産分割を可能にする。
遺産分割協議
相続人全員の合意が得られれば、相続人の納得のいく形で遺産を分割できる。
平等に分ける7つの方法(一覧で比較)
相続を平等にするためには、基本ルールを理解した上で、実践的な方法を活用することが大切です。ここでは、相続を平等にするための7つの方法を具体的に紹介します。
⚠️ 遺留分の侵害に注意
遺留分を侵害する遺言や生前贈与があった場合、遺留分侵害額請求が行われることがあります。遺留分に相当する金銭の支払いを求められるリスクがあるため、遺言書を作成する際は遺留分を侵害しないように財産を分配することが求められます。反対に、すでに遺言を見せられて「取り分はない」と言われた側の方は、遺留分の請求に「知ってから1年」の期限があります。確認の順番は「遺言があるからお前の取り分はない」と言われたらにまとめています。
「介護をした子」と「代償金が払えない」で止まったとき
7つの方法を眺めても話が進まない場合、原因はたいてい次の2つのどちらかです。
介護をした子の分をどう見るか
相続人が親の介護や事業を支えて財産の維持に寄与した場合、その分を上乗せする寄与分(民法904条の2)があります。相続人ではない親族(例:長男の妻)が介護を担った場合は特別寄与料(民法1050条)を請求できますが、相続開始と相続人を知ってから6か月、または相続開始から1年という短い期限があります。いずれも認められるには、いつ・何を・いくら負担したかの記録が要ります。「感謝はしている」だけでは金額になりません。
代償金を払う現金がないとき
代償分割は「家を継ぐ人が他の人に現金を渡す」方法なので、渡す側に現金が要ります。用意できない場合は、家を売って分ける換価分割に切り替えるか、生前のうちに家を継ぐ人を受取人にした生命保険で代償金の原資をつくっておく方法が使われます。保険金は受取人固有の財産で遺産分割協議を経ずに受け取れるため、この用途では動かしやすいお金になります。
今日の一歩:家の「値段」を1つに決めるところから
代償分割も換価分割も、自宅にいくらの値段をつけるかが決まらないと1円も計算できません。もめている家庭の多くは、分け方でぶつかっているのではなく、家の値段について全員が違う数字を頭に置いたまま話しています。まずここを1つにそろえます。
家の値段には物差しが3つあります
- 固定資産税評価額/毎年届く固定資産税の納税通知書に載っています。手元にすぐある数字ですが、実際に売れる金額より低くなるのが通常です。
- 相続税評価額/土地は路線価などから計算します。相続税の申告で使う数字です。
- 実勢価格/不動産会社に査定してもらう、実際に売るならいくらかの数字。代償金の計算では、この実勢価格をもとに相続人が合意した額を使うのが一般的です。合意した金額を協議書に書くときは、「遺産を取得した代償として」支払うと明記しないと、贈与税の対象になることがあります。条項例は代償分割の遺産分割協議書の書き方を参考にしてください。
行き先と、そこで受け取るもの
市区町村の資産税を扱う課(東京23区は都税事務所)で固定資産評価証明書/法務局で登記事項証明書(誰の名義で、抵当権が残っていないかを確認します)/各金融機関で残高証明書(死亡日時点のもの)。持ち物は、亡くなった方の死亡が分かる戸籍と自分との関係が分かる戸籍、自分の本人確認書類、印鑑。窓口によって必要書類が異なるため、行く前に電話で確認すると二度手間になりません。実勢価格は、不動産会社2社ほどに無料査定を頼み、幅で押さえておきます。
きょうだいへの切り出し方(そのまま使える一言)
「誰が何をもらうかの前に、家がいくらなのかだけ先に調べておきたい。査定を2社に出してみるけど、いい?」。取り分の話を持ち出さずに数字だけを共有する順番にすると、身構えられにくくなります。介護の負担を主張したい場合は、この段階からいつ・何を・どれくらいやったか、かかった費用の領収書を書き出しておいてください。寄与分も特別寄与料も、記録がないと金額になりません。
話が止まったときの次の一手
当事者だけで平行線になったら、家庭裁判所の遺産分割調停があります。相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または相続人全員が合意した家庭裁判所に申し立てます。調停委員が間に入り、直接顔を合わせずに進められます。連絡が取れない相続人がいる、行方が分からない、という場合も家庭裁判所を通す手続きになります。
効いてくる3つの期限
遺産分割の話し合いそのものに期限はありませんが、相続税の申告は10か月で、その時点で分け方が決まっていないと配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をいったん使えません(申告期限後3年以内の分割見込書を出しておけば、後から分割したときにやり直せます)。相続登記は取得を知った日から3年以内。そして相続開始から10年を過ぎると、寄与分や特別受益を主張できなくなります。介護の貢献を分け方に反映させたい家庭ほど、この10年が効きます。
決めた分け方を、遺言書で形にする
7つのうちどれを選んでも、書面に残さなければ相続開始後にもう一度ゼロから話し合うことになります。自筆証書遺言は法務局の保管制度(申請1件3,900円・2026年8月時点)を使うと家庭裁判所の検認が不要になります。公正証書遺言は公証役場で作成し、財産額と相続人の人数で公証人の手数料が決まります。どちらも、原案を先に作ってから窓口に行くほうが早く終わります。
遺言書の具体的な書き方や封筒での保管方法については、遺言書は封筒がないとだめ?正しい書き方と保管方法で詳しく解説しています。
あわせて読みたい
ご自身の非課税枠の目安や納税資金の備えを確認したい方は、無料で使える相続 生前対策診断をお試しください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
