相続によって家を取得した場合、その売却には多くの手続きと判断が求められます。初めての経験であれば、何から手を付けるべきか、どのように進めるべきか迷うことも多いでしょう。
この記事では、売る前に決めておく4つのこと、家の値段を自分で調べる方法、売却手続きの6ステップ、そして売ってからでは選べなくなる税金の特例の順で整理します。
相続した空き家にかかる税金は、相続するとき(相続税・登録免許税)、持っている間(固定資産税)、売るとき(譲渡所得の所得税・住民税)の3つの場面で出てきます。誰がいつ払うかの早見表と、期限から逆算したカレンダー、特例を使ったときと使わないときの計算例もまとめました(2026年10月時点)。
先に結論:売る前に決める4つのこと
この4つが決まらないと売却は前に進みません
家は売れない
現金化が基本
売る前に合意する
要件は事前に確認
決まったら → 査定 → 媒介契約 → 売買契約 → 引渡し → 譲渡所得の申告
※2026年8月時点の一般的な取扱いです。特別控除などの適用要件は物件の状況や売却時期により異なるため、税務署または税理士にご確認ください。
相続した家の売却でつまずくのは、値段の交渉より前の「決めていないこと」です。名義(相続登記)・売るか使うか・分け方・使える控除の4点を先に固めれば、あとは通常の不動産売却と同じ流れで進みます。とくに相続登記が終わっていない家は、買主が決まっても引渡しができません。
相続した空き家にかかる税金|相続・持つ・売るの3つの場面の早見表
相続した空き家の税金は、場面ごとに「誰が」「いつ」「どこへ」払うかが違います。まず全体を表で確かめてください。
登録免許税の計算例と、売るときに効いてくる領収書
相続登記の登録免許税は、固定資産税の課税明細書にある評価額に0.4%を掛けて計算します。仮に土地の評価額が1,200万円、建物が300万円なら、合計1,500万円×0.4%で6万円です。
価額が100万円以下の土地は、2027年(令和9年)3月31日までの登記なら免税です。ただし、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と書かないと、免税になりません。
見落としやすいのが、登記にかかった費用のその後です。仕事に使っていない家と土地なら、相続人が払った登記費用は、売るときの「取得費」に含められます。ただし、売った金額の5%を取得費にする方法を選んだ場合は含められません(国税庁No.3270)。登記の領収書は、売るまでとっておきます。
持っている間の固定資産税は「1月1日」と「勧告」で決まる
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者にかかります。家が建っている土地には住宅用地の特例があり、200㎡以下の部分は課税標準が6分の1、200㎡を超える部分(家の床面積の10倍まで)は3分の1になります(総務省)。
空き家の管理が行き届かず、市町村から「管理不全空家」や「特定空家」として勧告を受けると、この特例から外れます(国土交通省)。勧告までの流れと税額の上がり方は、空き家を放置すると固定資産税は6倍?で説明しています。家を取り壊した場合も、1月1日に住宅が建っていなければ、原則としてその年度は住宅用地の特例を受けられません。解体の時期は、売る予定と1月1日の位置を見て決めます。
相続税がかかるのは、遺産全体が基礎控除を超えるとき
空き家があるだけで相続税がかかるわけではありません。預金なども合わせた遺産全体が、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで決まります。相続人が子2人なら、基礎控除は4,200万円です。空き家の土地の評価や、使える特例があるかは、税理士か税務署に確かめてください。
期限から逆算する、空き家の税金カレンダー
空き家の税金の期限は、別々の制度に散らばっています。亡くなった日を起点に並べると、次のとおりです。
税金が重くなる「やってはいけない順番」
- 相続した後に貸したり、家族が住んだりしてから売る。空き家の3,000万円特別控除は、相続の時から売る時まで、事業・貸付け・居住に使っていないことが条件です。
- 取得費加算の特例と空き家の特別控除を、両方使うつもりで計画する。同じ家と土地では、どちらか一方しか使えません。相続税を払っていなければ、取得費加算は使う場面がありません。
- 3人以上で共有にしてから、控除額を確かめる。2024年1月1日以後の売却で、家と土地を取得した相続人が3人以上だと、1人あたりの上限は2,000万円です。
- 税額が0円になるから申告しない。特例は確定申告をして初めて使えます。市町村が出す「被相続人居住用家屋等確認書」は、売る前に取り方を確かめておきます。
税金とは別に、片付けや解体にかかる費用の目安は、実家の片付けと実家じまいの費用の目安で表にしています。
売却前に確認する相続手続き
売却の前に、相続手続きがどこまで終わっているかを確認します。順番は「遺産分割協議 → 相続登記 → 売却」で、ここは飛ばせません。名義が亡くなった方のままの家は、買主が決まっても引渡しができないためです。相続人が複数いるなら協議書に全員の署名と実印が要るので、遠方に相続人がいる場合はここに一番時間がかかると見ておいてください。
⚠️ 相続登記が終わるまで家は売却できません
遺産分割協議が整わなければ相続登記ができず、家の売却も進められません。また、相続税が発生する場合は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税が必要です。売却代金を納税に充てるつもりなら、この10か月から逆算して動いてください。
売るか、持ち続けるかの判断基準
相続した家をどうするかは、家族の状況や資産運用の方針によって異なります。以下のポイントを参考に、売却するか保有するかを判断しましょう。
- 相続財産の大半が不動産であり、相続税の支払いが必要な場合
- 相続した不動産を利用する予定がない場合
- 公平に遺産を分割することが難しい場合
結論からお伝えすると、次の3つの要件が当てはまれば相続不動産を売却したほうが良いケースが多いです。1.相続人が複数いる。2.相続財産のうち7割以上が不動産である。3.相続不動産に住む予定の人がいない。
不動産を持つということで固定資産税の支払いや管理義務が発生するため、使う予定がない場合は現金化してしまう方が良いというケースは多いと思います。
もちろん、「今後もその不動産価格が上がると思っている」「相続した土地にアパートを建てて賃料収入を得る算段がある」など例外は存在しますので、立地や土地の特性、ご自身の経験を踏まえて適切なタイミングで判断する必要があります。
- 相続財産の中に現金が十分にあり、相続税の支払いも特に問題がなさそうなケース
- 相続した不動産に誰かが住むことが想定できる場合
- 不動産とその他の財産を公平に分割できる場合
逆に言えば、空き家になる可能性がなく、遺産分割と相続税の支払いも問題なくできる場合は今すぐに不動産を売却する必要性は低いと思われます。
売る前の準備:家の値段を把握する
相場を知らないまま業者に任せると、買い叩かれるか、いつまでも売れないかのどちらかになります。査定を頼む前に、自分で数字を持っておいてください。
不動産の価格にはまず4つの価格設定が存在します。原則的には下に行くほど高いですが、実勢価額については売り手と買い手の合意で決まることから、状況によっては路線価より低くなることもあり得ます。
固定資産税路線価
相続税路線価
公示価額
実勢価額
この中から少なくとも公示価額と実勢価額だけは調査しておくようにしましょう。近隣の不動産がどれくらいの値段で売られているかウェブで検索したり国土交通省のホームページより公示価額を調べてみましょう。
不動産査定の方法とポイント
自身で調べた上でさらに不動産の価値を詳細に把握するためには、不動産業者に査定を依頼します。査定には、「机上査定」と「訪問査定」がありますが、正確な価格を知るためには訪問査定を受けるのが良いでしょう。
査定は1社では判断できません。複数社から見積もりを取り、価格だけでなく売却戦略と担当者の説明の具体性を比べてください。
今日の一歩:査定を頼む前に、自分で確かめる3つ
1. いま誰の名義かを確かめる(法務局)
登記事項証明書は最寄りの法務局で誰でも取得でき、全国どこの不動産のものでも取れます。所有者本人の委任状は要りません。必要なのは地番と家屋番号(郵便の住所とは別の番号で、固定資産税の納税通知書に同封された課税明細書に載っています)。手元になければ、住所を窓口で伝えれば調べてもらえます。交付手数料は書面請求で1通600円(オンライン請求のほうが安くなります。2026年9月時点)。見るのは「権利部(甲区)」の所有者欄だけです。ここが故人の名前のままなら、買主が決まっても引渡しはできません。
2. 値段の当たりを、無料で3つつける
- 国土交通省の「不動産情報ライブラリ」——実際に売買された価格と、地価公示・都道府県地価調査を地図上で確認できます
- レインズ・マーケット・インフォメーション——直近の成約価格を地域・沿線別に見られます
- 国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」——相続税路線価を確認できます
3つとも無料です。ここで自分の数字を持ってから査定に出すと、提示額が高すぎる(媒介契約を取るための金額)か低すぎるかを、その場で判断できます。
3. 査定は、同じ一文で3社に頼む
「相続した家で、まだ相続登記は(済み/未了)です。訪問査定をお願いします。査定額の根拠になった近隣の成約事例と、売却までの想定期間を書面でいただけますか。」——同じ文面で頼めば、金額だけでなく担当者の説明の具体性まで横に並べられます。
今日、カレンダーに2つの日付を書く
取得費加算の特例は亡くなった日からおよそ3年10か月(相続税の申告期限の翌日から3年)、空き家の3,000万円特別控除は相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限です。売却は買主が現れるまでの期間が読めません。期限の半年前を「動き出す締切」として先に書いておいてください。
進まないときの次の一手
相続人の一人と連絡が取れない、話し合いがまとまらないという理由で登記ができない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停という道があります。また、空き家のまま長く置くと、管理の状態によっては固定資産税の住宅用地の特例が外れ、税額が上がる場合があります。「決まらないから置いておく」がいちばん費用のかかる選択になりやすい点だけ、先に知っておいてください。
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申込先は株式会社不動産SHOPナカジツです。当サイト(いまから相続)が査定や売却の仲介をするものではありません。
売却手続きの流れ(6ステップ)
相続した家を売却する流れ(6ステップ)
相続手続きを済ませる
遺産分割協議をまとめ、法務局で相続登記を行って家の名義を相続人に変更します。協議が整わなければ売却は進められません。
家の価値を正確に把握する
公示価額や近隣の売却相場を自分で調べたうえで、複数の不動産業者に査定(机上査定・訪問査定)を依頼して比較します。
不動産業者を選び媒介契約を結ぶ
実績や口コミ、担当者の対応力を確認して業者を選びます。媒介契約には専属専任・専任・一般の3種類があります。
売買契約を締結する
重要事項説明書の内容をしっかり確認し、理解しにくい箇所は不動産業者に確認します。
引渡し
物件の状態確認や残代金の受領を行います。設備や備品の引渡し条件は事前に取り決めておきましょう。
売却後の税務申告
譲渡所得税の申告や住民税の支払いなど、税務上の手続きを忘れずに行います。
媒介契約は3種類。専属専任は慎重に
売却を依頼するときに結ぶ媒介契約には、専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の3種類があります。専属専任媒介契約は他の業者に重ねて依頼できないため、実績や担当者の対応を確かめたうえで判断してください。地方の相続物件では、地域に密着した業者のほうが売却事例の情報が具体的なことが多いです。
売却でかかる税金と使える特例
売却でかかる税金
売却して利益(譲渡所得)が出た場合に、譲渡所得税と住民税がかかります。課税されるのは売却額そのものではなく、売却額から取得費と譲渡費用を差し引いた額です。
税金を抑えられる可能性のある特例
居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除は、要件を満たせば売却益から3,000万円を差し引ける制度です。相続した家では、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例が使える場合もあります。ほかに譲渡損失の繰越控除、特定居住用財産の買換え特例などがあります。
いずれも適用要件が細かく、建築時期・売却時期・同居の有無・売却価格などで結論が変わります。売る前に、どの特例が使えそうかを税務署または税理士に確認してください。売った後では選べなくなる特例もあります。
空き家の3,000万円特別控除が使える家の条件
国税庁の案内(タックスアンサーNo.3306)では、主な条件は次のとおりです。ひとつでも外れると使えませんので、売る前に表で確かめてください。
申告の際は、市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」などの書類が必要です。親子や夫婦など特別な関係のある人への売却は対象外です。適用できるかどうかの判断は、税務署か提携の税理士にご確認ください。
計算例:空き家の特別控除を使うと税金はどう変わるか
仮の数字で比べます。親が昭和50年に建てた家で、買った時の金額は分かりません。家を取り壊してから、土地を1,500万円で売ったとします。仲介手数料や取壊し費用などの譲渡費用は、仮に200万円とします。
同じ売却でも、特例を使えるかどうかで200万円を超える差が出ます。使えるかどうかは、売る前の使い方と売る時期で決まります。売買契約を結ぶ前に、税務署か税理士に要件を確かめてください。
特例には「売却の期限」がある
相続した家の特例は、多くが期限付きです。代表的な2つの目安は次のとおりです。
- 取得費加算の特例(払った相続税の一部を取得費に加算できる):相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに売却
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。つまり取得費加算の特例は、亡くなってからおよそ3年10か月が目安になります。どちらも家の建築時期や利用状況などの要件があり、制度の内容は改正されることがあります。期限が近い場合は、売却を決める前に確認してください。
よくある質問
相続した空き家にかかる税金には、何がありますか
相続するときの相続税(遺産全体が基礎控除を超える場合)と登録免許税、持っている間の固定資産税(地域により都市計画税も)、売るときの譲渡所得の所得税・復興特別所得税・住民税です。売るときは、空き家の3,000万円特別控除などで軽くなる場合があります。
空き家の特別控除で税金が0円になっても、確定申告は必要ですか
必要です。特例は確定申告をして初めて使えます。譲渡所得の内訳書、売買契約書の写し、市町村が出す「被相続人居住用家屋等確認書」などを添えて、税務署に出します(国税庁No.3306)。
相続登記の登録免許税は、売るときの経費になりますか
仕事に使っていない家と土地なら、相続人が払った登記費用は取得費に含められます。ただし、売った金額の5%を取得費にする方法を選んだ場合は含められません(国税庁No.3270)。
空き家が管理不全空家になると、税金はどうなりますか
市町村から勧告を受けると、土地の固定資産税の住宅用地の特例から外れ、税額が上がります。指導を受けた段階では、まだ外れません。通知が届いたら、期限までに市町村の担当に相談します。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.3258「取得費が分からないとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm - 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html - 総務省「固定資産税の概要」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html - 国土交通省住宅局「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律の施行について」(近畿地方整備局掲載資料)
https://www.kkr.mlit.go.jp/kensei/jutaku/ol9a8v0000035gqj-att/2.pdf
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な説明です。税額や特例が使えるかの判断は、個別の事情で変わります。税務署か税理士にご確認ください。
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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
